初出勤
与えられたのは食堂2階の小さな一室だった。木目調でゆったりとした雰囲気の部屋で居心地が良く、ぐっすり眠ることができた。
小さな洗面台とシャワーもついており、身支度をして一階に降りると、ヨーゼフが調理、マリナが注文取りと給仕をしていた。朝の8時過ぎから賑わっている。
1時間以上早く部屋を出て余裕を持ったつもりだったが、遅かっただろうか。
「おはようございます!ヨーゼフさん、何からすればよいですか?」
調理中のヨーゼフが振り返り、
「おはよう!早いね。まだ、朝ごはんも食べてないだろう。そこに座ってまず朝ごはんを食べて、それからそこで時間までマリナの動きを見ておいて。ああ、そんな凝視しなくていいから。流れを掴めればそれでいいんだよ。初日なんだから、焦らないでこれからゆっくり覚えていけばいいんだ。」
穏やかな声でそう言った。
「朝定のA、B1ずつ追加。リン、おはよう!
早いわね。よく眠れた?今日は16時に切り上げて足りないもの買いに行きましょう!17時から、また混んでくるからそれまでに町の案内もしたいんだけど、大丈夫かしら?」
マリナが注文を飛ばしながら、カウンターに戻って来る。
「はい!もちろんです!お願いします。」
「よかった!うちの店、お酒は出さない店だから夕時が終わったら閉めるの。だから、夜間学校が始まったら早めに切り上げていいからね。」
「ありがとうございます。」
お礼を言い、カウンターに座るとヨーゼフが朝食を出してくれる。雇用条件に三食食事付きとあったが、こんなによくしてくれると思っていなかった。
朝食のサラダを食べながらマリナを見ていると、朝昼夕それぞれのA定食B定食があるのみで、後はお酒を抜きにしたドリンクのオーダーだけのようだ。
マリナは注文、給仕、後片付けをテンポよくこなしている。お皿も仕切られたプレートを使ってワンプレートで提供しており、洗い物の面でも効率化が図られている。
会計もマリナの担当だが、店に入って来る客が「A一つ」といいながら、マリナにお金を先払し、帰りの際は下げ膳して帰って行く。
そのため、店の客回りが早い。
とても二人で仕切っている小さな食堂とは思えない客入りだが、混んでいるように見えないゆとりがあった。
マリナのようにテンポよく軽やかに働きたいと思い、ヨーゼフには凝視することはないと言われたがやめることはできなかった。