港への馬車(改編)
マリウスを振り切り、馬車の停留所に着いた。行先は祖国のスーモアからラージリア国へと決めてある。
3年前からラージリア国の求人を取り寄せ情報を収集していた。高等部卒業の16歳という成人の証と共に住み込みで働く契約も取り終えている。スーモア国の求人には女性が住み込みで労働できる求人などほとんどなく、逆に1番多かったのがラージリア国だった。それが決めてだった。
生まれ育った国を嫌いになりたくはなかった。しかし、年を重ねるに連れて、「おかしい」という違和感は大きくなり、ロザリーの事故があってそれは確信に変わった。
国に根付く考え方はそう変わらない。だから、自分が出て行くのだ。
リンはラージリア国へ出航する港行きの馬車に乗る瞬間、少しの怖さと輝く未来への期待で手先fがジンジンと脈を打った。
最後にロザリーとした会話を今も鮮明に覚えている。
「いつまでも湿っぽくてごめんね。でも、リンといると温かい気持ちになって元気になれるの。ありがとう」
力なく項垂れるロザリーは前を向こうとしていたと思う。
「私もロザリーといると優しい気持ちになれるの。無理に元気にならなくていいから! だって、ロザリーは元気がなくてもロザリーだから」
リンの言葉にロザリーはそよ風が吹いたかのような爽やかな笑みを浮かべた。
「リン、いつまでもそのままでいてね」
「もちろんよ。変われっこないわ」
そう返したことを絶対に忘れはしない。
ラージリア国行きの港への馬車が出発し、ガタガタと馬車が揺れた。