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決意(改編)

初投稿です。

もう、うんざりだ


 リンは16歳になり今日高等部を卒業した。


 現在、母と父とリンの3人でテーブルについている。リンは目の前の母と父に何度となく言った言葉を勢いよく投げかけた。


「花嫁修行も結婚もしない。他の国に行って挑戦してみたいの。一度きりの人生だから。お願い、わかって」


 高等部に入学した14歳の時から今現在を含めて100回以上は両親と話をした。リンは伝える努力を種火から焚き木に育てるようにしたと思っている。だが、父は今も尚首を横に振る。


「花嫁修行をしながらでも、結婚してからでも好きなことはできるだろ。まず、どこかの家に入り尽くしなさい。それが幸せだ。子を幸せにしたいという親の願いだとなぜわからないんだ!」


 叱責するかのような物言いする父に嫌気がさす。


「そうじゃないの」


 父の目を真っ直ぐに見て、リンは燃えるような想いのたけを吐き出した。


「何度も言ってるけど、結婚だけが幸せじゃないわ! 自分で働いて学校へ通って資格を取る、これのどこが不幸せなのよ!」


「不幸せとは言ってない! 苦労するような道に行くと言っている娘を止めない親がいると思ってるのか!」


「結婚したって苦労することはあるわ!」


 今日もまた言い合いだ。父の叫びは愛情なのだろうか。リンは娘を世間様と外れさせないために叫んでいるようにしか聞こえなくなってしまった。それでも、意見を曲げずうんざりするほど同じことを言っては返されを繰り返すのは両親にわかってほしいからだ。

 諦めず、改めて言葉を紡ごうとしたその時。


「あなた」


 リンが口を開く前に母が口を開いた。


「私はいいと思うわ。何百回も聞いたじゃない。苦労するってあなたは言うけれど、リンにとっては苦労じゃないのよ。努力しようとしてることを応援するのも親の役目だわ」


 母の静かな口調は父を黙らせる効果があった。


「リン、季節の変わり目には必ず手紙を送って頂戴ね。それができるのなら私は反対しないわ」


 父の顔がみるみる赤くなり「ふざけるな」と大声で怒鳴るが母はまるで聞こえていないかのように振る舞った。母は父が机を拳で殴りつけるのを一瞥して、「あなた、約束は今守ってもらうわ」と冷たい瞳で言い切った。父は音を作ることなく口を開閉している。


 リンは母から賛成の言葉を聞けると思っていなかった。母は高等部を卒業して16歳ですぐ父に嫁入りし、19歳でリンを産んだ。これまでの話し合いでも、心の何処かでその固定観念は崩れないと思っていた。そんな母がリンの背を押してくれている。

 母からの後押しな嬉しくて泣きそうになりながら、思いの丈を伝える。


「お母さん、ありがとう。私、ちゃんと自分の足で立てるようになって今日の決断を後悔させないわ」


 母は頷いて、いつもの眼差しでリンを見つめている。母は父が口を挟まないことをいいことに丸め込みにかかったようでさっさと行けとでも言うように手の甲で内から外に振った。


「ええ、リンの人生だもの。頑張ってきなさい」


 父は未だに目を見開いて固まっている。もう言い合いは今日でお終いだ。リンは母とアイコンタクトしまとめて足元に置いていた荷物と貯めたお金を持ち、家を出た。


 出発だ。


 どこまでも高い空を見て、3年前に亡くなったロザリーが微笑んでくれているように思えた。親友であり姉のような存在でもあったロザリーが澄み渡った空を見て、まるでリンのようだと言ってくれた。「青はリンの色ね」と優しく笑って青い花で花冠を作ってくれたあの花の色に今日の空は似ている。リンの髪の色も瞳の色も栗色で青など入っていないというのに。

 思い出はいつでも胸の中にある。


 必ず自分で決めた道を歩いてみせる。見てて、ロザリー。


 リンは決意を胸に馬車に乗るための停留所までの道のりを空を眺めながら歩いた。

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