2-3 『研究会』の耳や目は
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
「パンケーキは、フワフワのトロトロで、絶品でした。
添えられたアイスクリームはまあこんなものかなというかんじでしたけれど、ソースはアレ絶対なにか秘密がありますよ」
授業後『研究会』に行くと、待っていたユーリ様にお茶をいただきながら、お話をする。
「うー、いいなぁ。私も、食べてみたい~!
……なんだか、お腹が空いてきた!
うぅ、『ナナタマ』のティーセットかなにか、たべいきたい~!
ぐぬぬ」
ユーリ様がうなりながら、本当に悔しそうな声を出す。
「『ナナタマ』って、市場の塔の最上階にあるっていう、あの有名なカフェですか?」
「そう。1時間くらいワクワクしながら友達とおしゃべりしつつ待って、疲れた頃にスマートな案内であのしっとりとした席に座って、12階の窓際から聖都を一望しながら最高のお茶とお菓子を堪能する!
私、チーズケーキがいいなぁ……」
なんだか具体的な説明が続いた。そして、
「神殿を見下ろせるのも、気持ちいいしね♪」
なんて続くのだ。
ほんとにこのひと、巫女様かいな?
「でも、そういえばそういうの、失礼にならないのでしょうか?」
などと聞いてみると、
「なるよー。
神殿は内心けっこう気にしてるし、塔を立てた人もそれ狙ってやってると思うし」
とかえってきた。
「まあ、それくらいの意趣返しと言うかは仕方ないよねー。
聖都を再開発するカンフル剤として連合国を誘致したんだし、あっちは聖王国あんまり好きじゃないし」
「諸ギルド連合国ですか。海の向こうですよね?
王様が各ギルドの推薦で選ばれるなんて、不思議な制度ですよね」
「ギルド連合を牛耳った人が国主になる実力主義だから、うちの血統主義とは合わないのよね。
でも、レンガちゃん、よく勉強してるね。さすが、さすが」
ニッコリされた。
「あら、たのしそうですね?」
優しげな声がかけられた。ショートカットに細めのメガネをかけケープを羽織った、『研究会』メンバーのミイツ様だ。
「ミイツ様、こんにちは」
「みっちゃん、いらっしゃー」
「こんにちは、皆様」
「あれ? 手に持っているのは、お菓子? 美味しそうな香りが、スンスン」
ユーリ様は、鼻を鳴らす。
「ぜひ、ユーリ様のお茶をいただきたいと思って。
きっと、よく合うと思うわ」
開けられた袋から、クロスロード海洋国産のスコーンが現れる。東方の島国からの舶来品だ。
海洋国は通商で知られる国だけど、製造から消費までの日数を考えると「転移門」か「飛竜便」か、それとも……
何れにせよ、お値段を聞いたら、口にできなくなりそうだ。
「ふーん、個別包装に鮮度維持の魔法がかかっているんだ。
あそこの紅茶とスコーンも、なかなか絶品よね!」
あっさり謎解きをしてから、ユーリ様は立ち上がると、お茶の準備を始めた。
…… …… ……
ミイツ様とふたりでテーブルを囲むが、間が持たない。
視線をさまよわせたあともう一度ミイツ様の方を見ると、優しげな笑みといっしょに、「どうしたの?」というかんじで小首をかしげられた。
なんだかミイツ様って、優しそうだけど、いや実際に優しいんだけれども、なんだか緊張してしまうんですよね……
そんな微妙な空気を知ってか知らずか、
「できたよー!」
ユーリ様の声が割り込んで、紅茶のスモーキーな香りが流れた。
「それで、調べたかんじ、どうだったの?」
「ええ、やっぱり新市街南街区の事件が増えているみたいね。
もともと治安が行き届いていないところだけれど、タイミングよく増加傾向なのは、怪しいわ」
「やっぱり『アレ』に、はいりこまれてる?」
「可能性は、十分あるわね」
「オケ。それじゃ、早めにミズナ女史に威力偵察してもらいましょうか」
「ミズナ様、今日の授業後は騎士団だそうよ」
「学院と騎士団の二足のわらじ、尊敬するわ~」
「ミズナ様は、騎士団の方もしっかり活動されておられますものね」
ユーリ様とミイツ様のお話を、邪魔にならないように紅茶をすすりつつ、神妙に聞く。
「旧市街なら、レンガちゃんに地の利があるから、レンガちゃんに『アレ』がいないか、見てきてもらえるんだけどねぇ」
「べつに、どこでも見に行きますよ?」
話を振られたのかとそう答えると、
「いーよ、いーよ。
適材適所、次はミズナちゃんだ」
軽く手を振って、ユーリ様はどこか厳かにそう宣ったのだった。