1-4 その晩
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月01日-マリオさんへの心情を少し書き足しました。
「ふいー、疲れたですよ……
おはようございます!」
刺激的な学院生活も今日はこれで終わり、つぎは聖都の皆さんに夜の食事を届ける任務が待っています。
お店に入ると、猫の帽子に猫のエプロンをつけ、それから猫のパン屋の猫車に今晩のお届け物を積み込んで、そろそろ日の落ちかけた町に飛びだす。
猫車からは、良いスパイスの香りが漂う。
今晩の一番人気は、猫のパン特製のカレーのパン包み、ですよね!
しっかり煮込まれた蕩けるスジ肉と、香りすぎないけれどしっかり主張するスパイスに、何か隠し味もあるそうですが、それは私も詳しく知りません。
でも、いわばヤメラレナイ系の美味しさがものすごいのは、日々残り物を分けてもらっている私だから、自信を持って言える。
きっと、楽しみにソワソワしているお子様もいるに違いない、
そんな事を考えて猫車を押す手にも力が入る私です。
配達を終えたら、そのままあがる同僚も多いけれど、私は居残り。
閉店までお店に出て、その後お会計を手伝って、最後に残ったパンを分けてもらって、家へと帰る。
「レンガちゃん、今日はだいぶ遅くなっちゃって、ごめんな。
今から帰るのは、いくら聖都とはいえ、1人じゃ危なくないかい?」
いつもマリオさんが心配してくれるけど、私は大丈夫。
『宝具』もあるし、これでも私けっこう強いのです。
それでも、心配してもらえるのは嬉しくて。
「ありがとうございます。大丈夫、賄いのパンで元気100倍ですし、まんがいち帰り道で襲われてもワンパンで返り討ちですよ!」
「でも、家に帰ってもひと……
いや、そうだな、気をつけて帰るんだよ」
マリオさんは優しい笑顔と一緒に、大きなゴツい手で頭をなでてくれました。
えへへ、こういうの、なんかくすぐったくなりますね。
私のパパは学者でどちらかというと細身だったそうなので、こんな大きな手ではないのかもしれないけれど。それでも大きな手といえば、やっぱりパパのイメージ。
その手で頭をなでてもらえると、まるでパパに「いいこ、いいこ」してもらえているみたいで。
なんだか、嬉しいような懐かしいような気がして、ちょっと泣きたくなってしまうくらい幸せだったりするんです。
なんて、恥ずかしくて絶対口には出せませんけれど。
そんないっぱい幸せな気分で、家に帰って。
「ただいまです!」
まずは、元気に挨拶。制服を脱ぎ寝押しの準備をしてから、お風呂!
温かい湯船で体を伸ばすと、一日の疲れが抜けていく。
体をながすのは、お気に入りの石鹸。ハチミツ入り!
まとめた髪をお風呂のヘリに乗せながら、つま先をチャポチャポと出したり入れたりして、表面の波を眺めてみたり。
ちょっと歌いたくなって、軽く鼻歌。♪フン、フン、フン♪
のんびりお湯に浸かっていると、誰かは知らないけれど、世界にお風呂をひろめたひとに、感謝したくなる。
ありがとうございます。
お風呂から出たら、マリオさんからもらってきた牛乳をゴクリ。
これが、なんともいえず、とにかくおいしい。
この牛乳、お店のパンにも混ぜこんでいる、自信の一品らしい。さすがです。
髪を乾かして、肌のお手入れをして。
そして、学院から出された今日の課題と格闘して、明日の準備を整えて。
流石に眠くなって、ベッドへと向かう。
今日も色々あったけれど、充実した一日だったな。
ふと視線を上げると、壁にかかった、ちいさい私とパパとママの肖像画。
パパ、ママ、私は今日も元気です。
明日は、きっともっと元気です。
安心して、見守ってくださいね。
そして、おやすみなさいをいうと、フトンに入って目を閉じるのでした。
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