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【第四回】地の文コンテスト 〜責任と答え〜

【責任と答え】決戦前夜

作者: ろりじょ

暗い部屋に電灯が浮かぶ。窓のない部屋だ。

男が一人、女が一人。どちらも深刻な表情をしている。

静かだ。しかし誰も喋らない。


男の名は山田ゴロー、女の名は霧崎シオンという。

どちらもこの組織の幹部だ。他の幹部は、すでに死んでいる。

すぐに二人も死ぬことになるだろう。起死回生の一手も思い浮かびそうになかった。

故に、ここに言葉はなかった。


そんな静寂を切り裂くように、突然ドアが開く。

逆光とシルエット。二人にはそれが誰なのか、すぐにわかった。

霧崎は無表情のまま男を見ている。冷たい目だ。

山田はしばし呆然としていたが、ややあって来訪者を睨みつけた。


「よぉ、元気にしてたか?」

来訪者、その名は壇カイト。かつてこの組織のリーダーだった男だ。

「……どの面下げて戻って来やがった」

絞り出すような声だ。しかし壇は意に介さない。彼はそういう男だった。

霧崎は、そういうところが嫌いなんだ、とつぶやいたが、それを誰が聞くこともなかった。

「別に?普通の面で良いだろ」

山田は苛立ちを隠せない様子だ。それに追い打ちをかけるように、壇はニヤリと笑って言った。

「何か変える必要があるか?」


山田は俯いて肩を震わす。やがて、ゆっくりと壇の方に歩み寄りながら言う。

「あぁ、あるだろうが……」

壇の目の前で立ち止まる山田。しばらくして、胸ぐらを掴む。壇の余裕そうな表情が余計に怒りを育てる。

「アンタのせいで……あんな事にッ!!

 アンタさえ居なければッ!!こんな事になっていなかった!!!!」

そう、幹部七人を含む大勢の仲間が殺された、あの作戦のことだ。

壇はその作戦後、数ヶ月もの間行方をくらませていたのだ。

親友や恋人を、激しい尋問の果てに殺された山田は、ここで激昂しないわけにはいかなかった。


「ん?……ハッハッハッハッ………」

ひとしきり笑った後、突然表情が変わる壇。さっきまでとは打って変わって、そこには確かに組織の長としての姿があった。

「俺のせいだと?」

纏う空気が変わったことに気がついた霧崎。一方、山田はあまりの怒りに我を忘れている。

「俺が居なければ状況は変わっていただと?

 それは……面白くない冗談だなァ……!!」

「……」

霧崎は沈黙を守っている。ただ、真剣な表情でじっと壇を見ている。

山田も、ようやく壇の様子に気がついて、胸ぐらを掴む手の力が緩む。

彼がここまで真剣な表情をしているところはほとんど見たことがなかった。

それこそ、あの作戦の時くらいだ。

「本当に俺のせいかァ!?俺だけのせいか!!!」

「……そうだ、全ては貴様のせいだ!!」

霧崎は強い口調でそう言う。しかし、そこには迷いも感じられる。

壇はそれを見逃さない。

「フンッ、ガキみたいな意見の一点張りだな。もう少し頭を使ったらどうだ?」

口調は厳しく、二人は一瞬身構える。しかし、表情は和らいでいる。

それを見て二人は、壇が二人を試していることを理解した。


壇から手を離し、目を見据える山田。少しの間があって、そして話し始める。

「……あぁ、アンタに言われてたから……何度も頭を使ったさ、どうすれば良いかずっと考えた。

 これが、この答えが!!俺の考えた結果だ!!!」

山田は指を鳴らす。壁に投影されたのは、新しい作戦の内容だ。

霧崎は、私だって一緒に考えたじゃないか、とつぶやいたが、返事をする者は特にいなかった。

作戦の内容を読む壇。しかし、だんだん堪えきれなくなり、終いには腹を抱えて大笑いし始めた。

「ハッ……ハハハッ!!その程度で、今の状況が変わるとでも!?たかがその程度で!!!アハハハ!!!!」

目の端に涙が浮かんでいる。二人も苦笑いしている。


そう、これが実現不可能であることはわかっていたのだ。

内容は、敵の組織に二人だけで乗り込み全員を捕らえるという、実にシンプルなもの。

幹部が全員揃っていたあの頃ならあるいは可能性はゼロではなかったかもしれない。

だが、今はたったの二人。その上敵の戦力は日に日に増してきている。不可能であることは、火を見るよりも明らかだった。

起死回生の一手は、なかった。

「変わるさ……変えてやるんだ、絶対に!!」

霧崎のその言葉も、半ばやけくそである。

しかし、ただの自暴自棄ではない。覚悟を伴う自暴自棄だ。

敗北すれば、仲間たちがそうであったように、酷い尋問を受けて殺される運命だ。

そこに自ら飛び込もうというのだから正気の沙汰でない。

だが、そんなことはもはやどうでもよかった。

敵に、正義を謳う彼らに、一矢報いることができればそれでよかったのだ。


「なら、変えてみるがいいさ、俺には出来なかったことを……

 お前が、その手で、やり遂げてみせろ」

壇はニヤリと笑う。山田もそれに応じる。

一方で霧崎は、だから私のことをのけ者にするな、と言おうとして、唐突に気絶する。

崩れ落ちる霧崎を壇が支えて、グッジョブと親指を立てる。

そう、山田が手刀をしたのだ。

霧崎は、このまま平和に過ごしていけばいい。山田や壇と違って顔の知られていない霧崎にはそれができる。


「言われなくてもそのつもりだ。無様に死ぬのは、俺だけで十分だからな」

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