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第三話


ガラガラと戸が開く音がした。

医師が帰ってきたのだろうか?


「おい、どこに行くかも告げないでどこ行ってたんですか!」

帽子の男が子供を叱るように声を高くして言う。


「悪い」

医師はぼそっと答えた。

なんとなく、自分とシオンの関係に似ていると思った。


「悪いと思ってないくせに、はぁ、散らかってたので片づけましたよ……それと、食事を作りに来ました、何食分入りますか?」

帽子の男が医師に問う。


「3食」

医師が答える。

3食ということは俺の分も入っているのだろうか?


それから何やら医師はどこかの部屋に入ったのか、なにやら室内で行動しているようだった。


━━━━━━━━━━


「よかったら、どうぞ」

帽子の男が食事をくれた。


「ありがとうございます。」

シオンの看病はいつまで続くかわからない。

純粋に有難いので素直にいただく。

食事の最中は、医師がシオンの看病を変わってくれた。


「コイツとはどういう関係だ?」

始めて会話という会話を医師が振ってきた。


「シオンとは旧友です」

コハクは適当に答えた。


「ほんとにそうか?」

そう告げる医師の口から出た疑いの言葉は、コハクの嘘を完全に見抜いているように見えた。


「さっき、連絡があったのでいつになるか分かりませんが、仲間が迎えに着ます。治療感謝いたします。治療費はその時に」

話をそらすように言った。



帽子の男は医師に対して何やら良くしゃべり、医師は答えるだけという二人のやりとりが聞えた。


帽子の男は本当に食事を作りに来ただけだったのか、分かるがわる食べ終わった食器を洗い終わると帰宅していった。


━━━━━━━━━━

<数時間後>

轟音が近づいてきた。

それは迎えのヘリだった。

医療設備の整ったヘリ、いわゆるドクターヘリをチャーターしたらしい。

シオンはヘリドクターに抱えられヘリに乗せられる。


「こんな場所に大層なもの呼んだな。そんな大事な人間か」

嫌な笑みを浮かべながら医師に皮肉に言われるが、ぐうの音も出ない。


この村では、治療を行えば治る病気やケガを設備がないという理由で死んだり余計に苦しんだ人間が筈多く居る。

この医師はそれを見ている一番見ているはずだ。

コハクは皮肉の1つや2つ受け入れようと思った。


「今投薬してる漢方だ、使うかどうかは任せる、さっさと出ていけ」

医師がそう言い、漢方が入っているであろう袋を渡された。

漢方はシオンの口からも注射でも投与していて、嫌がるシオンに無理やり口から飲ませていたので、シオンの歯が医師の指に食い込んでいた。

医師が危険を冒してシオンの世話をしてくれたのだ。

そこまでして飲ませてくれたものを毒だと疑いたくない。


「ありがとうございました、このご恩は改めて」

詳しい投薬方法はわざわざ教えてもらえなかったが、見ていたので大体わかる。本当に感謝している。


「治療費はもらった、もう来るな」

ぞんざいな弁舌でそう言う。

治療費はヘリに乗っていた人間が医師に渡していた。

いくら入っているかは知らない。

医師は見送ることをせず家の中に入り扉を閉めてしまった。


コハクはヘリに乗り込んだ。

その後の対応は専門のドクターヘリの医師に任せた。

説明を終えて俺に出来ることはもうない。

コハクはほぼ半日シオンを抑えていて神経を尖らしていたので急激に疲労がやってきた。


シオンが苦しむ声が聞えない。

ヘリの中は騒音で溢れ返っている。ヘッドホンでカバーしているが、騒音は完全には消せない。その騒音に耳を澄ませていた。

全ての音がヘリの雑音にかき消される。


ヘリの窓から外を覗く。下を見ると、小さな村が一望できる。このまま潜入していたこの地を離れることになるのだろうか。


深夜の銃声からの怒涛の今日一日が、もうずいぶん遠いものに感じた。


━━━━━━━━━━

<数日後>


シオンは都市病院に運ばれた。

作戦が中止になった為、コハクもシオンと共に病院に滞在していた。


シオンは酸素マスクを着け、数日呻き、発熱と痙攣が続いた。

解毒薬がないことは本当で、さらに無理やり規定以上の漢方を飲ませることは常軌を逸脱した処置だが、おかげで上手く毒を浄化していると都市医師が言っていた。

貰った漢方をそのまま使用した。

シオンはいつ力尽きてもおかしくない状況で、コハクは腹をくくった。


━━━━━━━━━━

<数日後>


「はっ、う、ふぅ、はっ、ああああl!!み、えない…」

峠を越え、すべて使い果たそうとする頃、やっとシオンの意識が戻った。


「……シオン!!おい、聞こえるか」


「……あ゛……ッ!……ハァ……ッ……!はっ、ふ、コハク君か?、俺は?そ、そうだ、どくやを打たれた……」

数日間ずっと叫び上げていたからだろう、シオンの声がカスカスだが会話が成立している。目が見えないのだろうか。


「ああ、もう処置してる、ここは病院だ」


「はっ、そ、そうか……さ、作戦失敗だ……」

自分の失態だと呻くように呟き、その声質は落ち込んだように聞こえた。


「もういい、過ぎたことだ……それより具合はどうだ?目が見えないのか?」


「……気持ち悪い、吐きそうだ、それに目が見えない。無数の濁った点の浮かぶような……うえ、這いずりやがる」

そう言ってシオンは吐こうとするのでうがい受けを口元に持って行く。


「いい、そのまま吐いてください」


「げほ……ッ、おえ゛……ッ!!、は、は、」

シオンは耐えきれなかったのだろう、勢いよく吐いた。


その後シオンは吐いて落ち着いたのか、悪いと謝り呼吸を整える。

「目が見えないんだ……俺の目はどうなっている?」

そう尋ねるシオンの瞳はどこか不安げで揺れていた。

手首には治療のために何本も打ち込まれた痛々しい注射器の跡が見える。

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