魔王城の商人
「表の看板見たんだけど……やってるか?」
「あ、はい! 営業中ですよーすいませんお客さん来ないんでくつろいでましたー」
「そりゃ、客そんな来ないだろうな……ここ、魔王の部屋の前だし。何だってこんなところで店やってんだ……」
「ボスの前にリソース回復しておきたいなーとか、リソースあっても一応確認しときたいなと思ったりするでしょう? だからお客さんもここに立ち寄ったんじゃありません?」
「まぁ……そうだな」
「需要あるところに商人ありですよ、何がお入り用で?」
「とりあえず回復薬……見せてくれるか?」
「はい! 回復薬はこちらですよー」
「ポーション3本に、MPポーション2本……おい、なんか高くないか? 相場の三倍くらいの値段だろこれ」
「そりゃこんな辺境の地まで商品を仕入れて持ってくるとなればそれなりに値は張りますよ……あ、ちょっと待ってくださいね! 別のお客さんの対応してきますね、すぐ終わるので――はい、素材の買い取りですね。全部で1000ルピになります、いつもありがとうございます! またどうぞ!――すいませんお待たせしました」
「お前……今の魔物じゃん……」
「はい、常連さんです」
「魔物相手にも商売してんの!? 『げ、勇者いる……だけどもう店入っちゃったしどうしよう……欲しいものあるけど……とりあえず気まずいから素材だけ売って帰ろう』みたいな顔してたぞ」
「魔物の心理を見抜く……流石勇者ですね」
「うん、俺も気まずかったからな!」
「私の店はお金持ってくれば誰でもお客さんです、魔王様もお菓子買いに来ますよ」
「魔王もかよ! ボス部屋前でエンカウントしてんじゃねーよ!」
「ちなみに勇者さんが来るちょっと前に来てました」
「危ねぇ!?」
「実際鉢合わせた別の勇者の方は戦う前に『さっきぶりだな、魔王よ』って言ってました」
「嫌だな!? そのセリフ言うの!」
「まぁさっき来たんでしばらくは来ないですよ」
「普通の店では1パーもあっちゃならんだろ……」
「購買業務はここでの商売する上での条件の一つでしたからねぇ……」
「あ、やっぱ許可とって営業してんだ?」
「そうじゃなかったらこんなとこで店なんて出せませんよ、私も少々腕には覚えがありますが魔王様とタメ貼るレベルではないので」
「お前戦えんの? 強いなら仲間になってほしいけど」
「嫌ですよ、ここで仲間になったら初戦が魔王スタートじゃないですか、鬼畜ですか」
「だよな、俺もそんな勧誘されんの嫌だわ」
「自分が嫌なら私に言わないでくださいよ……」
「言うだけならタダだろ?」
「お客さん商人に向いてるって言われまわせん? 私と一緒に行商します?」
「悪い、悪い、冗談だ。他の商品も見せてもらえるか? 武器とか」
「武器ですねーこちらになります」
「ふむ、見たことない武器が多いな」
「このホーミングソードなんておすすめですよ、魔力を込めて投げると敵を自動追尾して攻撃してくれる武器です。便利ですよ」
「自分も攻撃してもよし、回避に専念するもよし……うん、確かに便利だ」
「欠点は魔力量が少なくなると魔力の補充のためにこっちに刃を向けて飛んでくることですかね」
「致命的すぎんだろ! 呪われた武器より達悪いわ!」
「こうギリギリのところでキャッチして魔力を込めるんです」
「三本ぐらい買おうかと思ったけど、セルフ黒ひげ危機一髪になるとこだったわ」
「むぅ……在庫処分できると思ったんですがねぇ」
「おいこらテメェ」
「じゃあ、これなんかはどうです、カウンターシールド、敵の攻撃を防いでその衝撃を吸収、ここのボタンを押すと吸収した衝撃を放出します」
「おお、いいじゃないか攻防一体で」
「欠点は盾を中心にした全方向に向けて放出してしまうことですかね」
「自爆スイッチじゃねーか!」
「それならこれはどうでしょう、ファントムソード、相手の防御をすり抜けて攻撃できます」
「……欠点は?」
「ついでに相手の体もすり抜けます」
「ポンコツしかないな」
「はぁ、やっぱりどれも売れませんねー」
「福袋みたいにしてまとめて売り出せば?」
「それです!」
「止めろ、クレーム殺到するぞ」
「良い武器もあるにはあるんですよ?」
「ホントかよ」
「例えばこの杖、上にダイヤルがついててその方向に合わせると全属性の魔法が魔力を込めるだけで使えます、面倒な詠唱はいりません」
「あれだろ、ダイヤルがルーレット型式で魔法がランダムとかなんだろ?」
「いいえ、これには欠点はないです。それどころかほら、魔力の注入量を加減してやればろうそくの火をともす為のお手軽な魔法から敵を丸焦げにする魔法まで思いのまま、光に属性をセットすれば松明よりも明るい光を、水にセットすれば井戸水を汲みに行く必要もありません」
「おお、悪い武器紹介が立て続けに来て感覚がマヒってるのを抜きにしてもこれは良さそうに見えるぞ! でも俺とか普段魔法使わないから魔力の加減難しいんだよな……」
「はい、そんな方のために注入量のダイヤルもついており、1から10までのダイヤルで注入量を管理できます、慣れてきたら10に設定していただければ暴発の危険もありません」
「俺みたいな初心者にもやさしい設計なんだな!」
「風の魔法を使えば包丁はいらないし、その場で調理するなら火の魔法で薪もいりません。まな板と陶器製のお皿さえあれば調理は可能、下手な料理器具を買うよりはずっと経済的です。刃こぼれの心配もいらないですから」
「思ったけどこれ野営するときも便利だよな? 水の調達も簡単だし」
「はい、もう川を探す必要もありません。さらに野営したことのある方は分かると思いますが、マッチが湿気ってつかなかったりしませんか?」
「あるある、急な雨とかでカバンの中までびしょびしょだったりして震えながら寝るんだよ、あれ死にたくなるよな」
「そんな夜ともこの杖一本でおさらばです」
「日常でも戦闘でも使える便利な杖と言うわけか……でも気になるのは――」
「――お値段ですよね、こちらも勉強させていただきます、2万ルピです」
「2万ルピ!? こんな高性能な杖が!? 職業柄武器を見る機会は多いが5、6万はすると思ったぞ」
「ええ、私もお手ごろな価格だと思いますよ、2万ルピ」
「もうちょい安くならないか?」
「1万9千ルピ!」
「もう一声」
「1万8千ルピ!」
「買いで!」
「まいどあり!」
「ほい、1万8千ルピな」
「――やっぱりお客さん商人に向いてるって言われません? 今、ノリで値切られたんですけど」
「実家は商人やってるもんでな。で、なんでこんな安いんだ?」
「これ実は魔王様が趣味で自作したものなんですよ、値段は結構度外視というか」
「自作でこれはスゲェな……前半の武器とはエライ違いだ」
「前半の武器も魔王様の自作ですけどね」
「かなり初期に作った作品だったりするのか?」
「いえ、なんというか魔王様杖フェチで他の武器があんまり好きじゃないから適当に作るんだそうです」
「杖フェチって初めて聞いたぞ、ホントだ、よく見たら杖多いな7割強は杖だ」
「どれも先ほどの杖と負けず劣らずの性能を持ってますよ、説明長くなっちゃうんで端折りますけど」
「愛の有る無しで天地の差だな」
「自分の作った杖を装備して戦いに挑まれた日はかなり上機嫌になりますよ、魔王様」
「どんな魔王だよ……」
「あ、お客さん、配送サービスはお付けしますか?」
「買ったまま持って帰るからいらないけど」
「いえ、魔王様に負けた時にお客さんを近くの町まで届けるサービスです」
「送られるの俺かよ!? 配送っていうより敗走だな」
「これお付けしないと魔王城の外に叩き出すだけになります」
「この寒空の下に放り出されんのか……命取られないだけ有情だけど」
「さて、どうなさいます?」
「いや、つけないでいい」
「ほう、勝てる自信がおありで?」
「さっきは冗談で言ったんだが――」
「なんです?」
「――お前俺の仲間にならないか?」
~半年後~
「いやあ、勇者さんのお仲間になって良かった」
「だろ?」
「魔王様が杖を考案し、勇者さんが生産ラインを作り、私が販売する。最初魔王様に仲間にならないかと言った時にはどうしようかと思いましたけど」
「親の手伝いや、人助けで作った人脈が役に立ったわ。あいつはどこ行った?」
「部屋にいるんじゃないですかね?」
「あの仕事馬鹿……部屋に籠って杖の設計図書いてたら露天風呂に放り込む、何のための慰安旅行だよ」
「嬉しいんですよ多分、自分の作品が世に出ることになって」
「それで死にかけてたら意味ないだろ、栄養失調と過労で倒れる魔王なんて見たくなかったぞ」
「もともとの不摂生が祟った結果でしょうね、好き嫌い激しいですし」
「杖フェチを増やす為なんて理由で杖作ってるやつなんてあいつだけだろうぜ」
「三人でこの業界を支配する夢はまだ遠そうですねー」
「おい、リノア! 入るぞ――おう、今後ろに隠した設計図こっちに渡せ。旅行中は没収だ。言うこと聞かんならお前の専属メイドに食事はピーマン絶対に出すように言うからな――うん、素直でよろしい」
杖業界シェア率を他の武器販売大手を抑え一位になるのはさらに半年後のできごとである。
魔王城の商人 改め
魔王をプロデュース 完
次回予告勇者!
僕はこの職場で働くようになって知った。この業界にも勇者はいるんだと……
次回 異世界カジノの仕事の仕方
(続編ではありません)




