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第六話


 ダンジョンとは、魔物が定期的に生まれる場所の事だ。洞窟型であったり塔型であったり、様々な形で出現する。効率よく魔物を狩れることから、冒険者がよく訪れる。


 ジークリンデが向かった燻りの迷宮は、その中でも難関とされるダンジョンで、Bランクの冒険者パーティでないと太刀打ちできない難易度である。


「ここが燻りの迷宮か……城型とは、珍しい」


 レヴァンが瞬間移動の魔法で来たのは、とても大きく漆黒の城の形をしたダンジョンだった。周辺の街からかなり離れており、難関ダンジョンなので人は全然いない。


 因みに、レヴァンの瞬間移動の魔法は、行ったことが無い場所でも自由に行き来できる。


 五メートルほどある城門を潜り抜けると、そこはすでに魔物の巣窟だった。まだ解明されていないが、ダンジョン内で生まれた魔物は外に出られない。だから、入口周辺にいる魔物でも、外に出てくることは無い。


 城まで約十五メートル。頭に角を生やし、三メートルほどの真っ赤な体を持つオーガ達が、城までの道を遮っていた。レヴァンの存在を確認した途端、右手に持っていた大振りの剣を振り回し襲い掛かる。総数五体。


「グラァァァァァッ!」


 一斉に雄叫びを上げてレヴァンを囲み、五体同時に剣を振り下ろす。口の端を吊り上げて、オーガ達は勝利を確信した。人間にやられるわけがないと慢心していたのだ。


 しかし、レヴァンが溜息を吐いた瞬間、オーガ達は一瞬の内に消滅した。特別な技ではないが、名を付けるなら魔王の闘気(オーラ)


 レヴァンは溜息を吐くと同時に、コンマ一秒間闘気を放った。それにより、オーガたちを完全に消滅したのだ。闘気とは、魔法や戦技を使う際に使ったり、相手を威嚇する際に使う。


 千年も錬成された闘気ともなれば、威嚇を通り越して相手を殺すことも出来る。離れた所にいたオーガもその闘気に怯えて、レヴァンから逃げていく。


 現在、城までの道を遮るオーガはいない。


「次元が違うんだよ。……はぁ、それにしても危なかった。本気でやったら、ダンジョンごと消滅させるところだった」


 嫉妬の魔王レヴァンは、何においても規格外である。


 *


 城の扉を開けると、どんよりとした重い空気がレヴァンの身に伸し掛かる。燭台があちこちに設置されているが、あまり意味が無くとても暗かった。


 城の中には、とても広い空間が広がっていた。豪華な絨毯が敷かれ、先にある幅の広い階段を上れば、二階へ行くことが出来る。左右に廊下が分かれていて、その廊下には規則的に扉が並んでいた。扉の先には部屋が用意されている。


 まずレヴァンは右へ行き、部屋の中にジークリンデがいないか確認していく。先が見えないほど廊下が長いので、終わりは一向に見えない。コピーしたように内装が同じ部屋を永遠と渡り続ける。


「というか、魔物が全然いないんだが」


 レヴァンが奇妙に感じたのは、魔物がいない事だった。部屋の中にも廊下にもいない、これでは誰もいないただの城だ。誰かが全ての敵を倒したという可能性もあるが、宝箱が開けられていないので、それは有り得ない。


 ダンジョンには宝箱が設置されており、その中には伝説級のアイテムが入っていることもある。それが目的でダンジョンに潜る冒険者も少なくない。


 右の廊下の全ての部屋を確認したが、魔物もジークリンデも見つけられなかった。かけた時間は三時間ほど。ゴミ箱に時間を投げ捨てたようなものである。


「何の成果も得られなかったじゃないか。たぶん左にもいないんだろうな」


 そう言いながらも、レヴァンは左の廊下に向かう。これまた数時間かけて探索したが、魔物もジークリンデも見つけられなかった。


 因みに発見した宝箱は全て放置してある。


「次は二階か……そろそろ見つかってくれないと、予定が狂うんだが」


 レヴァンの予定では、すでにジークリンデから情報を聞き出して、現在勇者歓迎パーティの出席者に会いに行っているはずだった。そして、それを二日間で終わし、勇者の偵察に移る予定でいた。しかし、ダンジョン探索に時間を浪費してしまい、全ての予定が狂いかけていた。


 レヴァンは階段を静かに上り、魔物がいないか周りを見渡す。


「……いた」


 二階は左右中央に道が分かれていたが、どの方向にも魔物がいた。オーガとは比べ物にならない強敵、デュラハン。天井が高いので馬に乗っていたとしても、天井に頭をぶつけることは無い。


 デュラハンとは、漆黒の鎧を身に纏った騎士の姿をした魔物である。特徴なのは、首から上が無く、トゲトゲの鉄球を片手に持っている事と、乗っている馬に首が無い事である。もう片方の手には手縄を持っている。


 そのデュラハンが、何体もいるのだ。近づいた瞬間に、四方八方から鉄球が迫ってきて一瞬で殺される。この鬼畜さに、このダンジョンが難関と言われる理由がある。


「というか……もうジークリンデさん帰ってるんじゃないか?」


 部屋を探索していた時間、合計で約六時間。この六時間の間にジークリンデが帰ってしまった可能性は大いにある。それでもレヴァンは先に進むことを決めた。瞬間移動で一旦帰って、ジークリンデが帰ったかを確認して、また戻って来る事は可能だったが、面倒くさいのかやらなかった。


「まあいいや。それじゃあ行くぞ」


 レヴァンは中央の廊下を臆せずに進んでいく。デュラハンはレヴァンの姿を確認すると、鉄球を振り回しながら馬を走らせる。ブルブルと震えた首無し馬は、闘牛の様にレヴァンへ一直線に駆ける。振り回している鉄球が壁に直撃すると、その壁は簡単に崩れてしまう。普通の人間が当たれば、一溜りも無いだろう。


 首無し馬は寸前のところで止まり、デュラハンはその鉄球を薙ぎ払った。それをレヴァンは、右の小指で受け止める。苦痛を見せないどころか、鉄球の方が苦しそうである。小指に直撃した辺りに小さなひびが入る。そのひびは次第に広がっていき、やがて鉄球は粉砕した。これには顔が無いデュラハンも、体を揺らして驚きを見せる。


「次元が違うんだよ」


 レヴァンはそう一言呟いて、デュラハンの懐に向かって跳躍する。そのまま拳を突き出して、鎧を貫いた。レヴァンの全身に血が飛び散り、真っ赤に染まる。それまでにかかった時間0.01秒。デュラハンは己が殺されたことを認識出来ぬまま、死んでいった。デュラハンの死とともに、一心同体の首無し馬も死ぬ。


「弱いな……人間はこんなのにてこずるのか」


 嫉妬の魔王レヴァンは、何においても規格外である。




 ある程度デュラハンを倒しながら進んでいったら、ドーム状の広い空間に出た。中心には魔法陣の様なものが描かれており、レヴァンが触れた瞬間、魔法が発動する。


「召喚魔法か」


 世界中の魔物をランダムに召喚する設置型魔法だ。術者の腕によって、召喚される魔物のレベルが違ってくる。ダンジョンにある召喚魔法では、例外なく強敵が召喚され、トラップ扱いなのか、触れると発動するようになっている。これの対処法はとても簡単である。この魔法の弱点、発動速度の遅さを利用すればいい。


「アンチ・アビリティ」


 レヴァンが魔法を発動して手を差し出すと、魔法陣が新たな魔法陣に塗り替えられる。やがて、その新たな魔法陣も消滅して、そこには何もなくなった。こういう魔法である。


 魔法陣に強い衝撃を加えたり、アンチ・アビリティなどの魔法と戦技をキャンセルさせる魔法でも破壊できる。


 ドゴォォォォン。突如、レヴァンが一息ついていると、先にある扉の奥から爆発音が聞こえてくる。扉越しに聞こえてくるのが、とても激しい戦闘が行われているのを物語っていた。


 扉の先はボス部屋で、ジークリンデとボスの激しい戦闘が行われている。そう推測したレヴァンは、急いでボス部屋へと向かう。


「やっと見つけた」


 レヴァンは、ひそかに顔をほころばせて、そう呟いた。

 

 

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