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第四話


 満点の青空の下、中央通りの端を民衆に紛れながら、急ぎ足で歩いている嫉妬の魔王レヴァン。急いでいるのは、もうすぐ勇者が凱旋パレードを行うからだ。とある魔王の幹部を討伐したのを、冒険者ギルドに報告しに行くのだ。レヴァンはそれを、酒場で飲んだくれていた情報屋から三十万で聞きだした。金銭感覚がぶっ壊れている嫉妬の魔王である。


 冒険者ギルドで、勇者と鉢合わせになるのを避けたいのだ。何も不味いことは無いのだが、毎回美女を連れている勇者に嫉妬して力を解放してしまうと、この街が一瞬で塵になるから鉢合わせはなるべく避けたいのだ。


 ぐぅぅぅぅ。ひっそりと歩いていたが、腹の虫が鳴ったせいで周りの人間の視線を引き付けるレヴァン。昨日から何も食べていないことを思い出して、串肉の香りに惹かれて屋台へ向かった。豚人(オーク)のモモ肉の厚切りを串に刺し、塩だれをたっぷりとぬったモノが売っていた。


「それじゃあ、これを三本くだ……お前、何やってんだ?」


 屋台に立っていたのは、明け方まで酒場の店主をしていた男、ポワポだった。自慢のスキンヘッドに新品の純白タオルを巻いて、串肉を炭火で焼いている。


「レヴァン……ッ!? よ、よう。い、いやあ、小遣い稼ぎになるかなぁと思いまし、て……」


「十二万はどうした。数日は生活に困らない金だと思うんだが」


 ポワポは冷や汗をかいて言葉に詰まった。ならない口笛を鳴らして、分かりやすい誤魔化しをする。レヴァンは指定された値段よりもだいぶ安い金を払って、焼き立ての串肉を三本ぶんどった。大きく口を広げ、旨そうに頬張る。


「おい、これ一本百五十ゴルドだぞ? 後四百四十九ゴルド出せよ」


「どうせこの金もギャンブルに使うんだろう?」


「んぐっ……」


 ポワポは思わず苦渋の表情を見せる。その表情が、この金をギャンブルに使うつもりでいたことの証拠になってしまった。他人の金の使い方に難癖つけるつもりは無いレヴァンだが、ギャンブルが不得意なので、無意識に難癖をつけてしまう。


「でもよ、別にいいじゃないか。これが人生で唯一の楽しみなんだよ。お前がギャンブルの神様から見放されているからと言って、俺に当たるのは止めてくれよ」


「ギャンブルの神様って誰だよ。てか、迂闊に魔王の前で神族の話はしないほうがいい。神族を恨んでる魔王は多いからな。まあ、俺はそこら辺は気にしないが」


 レヴァンは得意げな笑みを浮かべて、食べ終わった一本の串をゴミ箱に放り投げる。しかし、ゴミ箱は串で満杯になっており、跳ね返って落ちてしまった。これは、男の懐がホカホカになっている証拠だった。


「十万ゴルドまではいかずとも、結構儲けてるじゃないか。ギャンブルに何か使わずに、もっといい酒仕入れてくれよ」


 するとポワポは悔しさを滲ませて、下唇を噛み締めた。


「……悪い。その串ほとんど俺が食った奴だ」


「そ、そうか」


 お昼時の喧噪で溢れている中央通りに、あるはずのない気まずい雰囲気が漂う。それも、屋台を中心とした半径一メートルだけに。串肉が全て食べ終わってしまい、沈黙を破らざるを得なくなったレヴァン。


「なんで売れないんだ? 別に不味くは無いし、リーズナブルというほどではないが、中央通りに店を構えたんだ。売れ行きは良くなるものだと思うんだが」


「後ろを見てみろ」


 ポワポが差したのは、屋台の反対側に店を構えるレストランだった。よく見ると大行列が出来ており、よほど人気なのだと伺えた。そしてレヴァンは店前に置かれた「百ゴルドランチ、提供中」と書かれた看板に気付く。その文字を見た瞬間、レヴァンは全てを察した。


「あのレストランに客を奪われてたのか。百五十ゴルドの串肉より、百ゴルドのランチの方がお得だから、こればかりはしょうがないな」


「せっかく中央通りに屋台構えられたのに。あのレストラン、一週間前に勇者が立ち寄ってから、百ゴルドランチなどという忌々しいキャンペーンを始めたんだ。ああ、タイミングが悪かった――あっ、そうだ。レヴァン、お前に情報を売ってやろう。お前が絶対に知りたい情報を……」


「もうすぐここに勇者が訪れる事ならさっき、情報屋から聞いたぞ。三十万でな」


「嘘だろ……なぜ俺に言ってくれなかった。情報なんてその半分の値で売ってやったのに」


 それでも十五万だ、と独り言ちるレヴァン。レヴァンはポワポが蹲っているのを無視して串肉を数本奪い、気付かれる前に去ろうとする。しかし、突如立ち上がったポワポの腕に捕まり、拘束されてしまう。


「それじゃあもう、勇者が魔王の幹部を倒してきたことは知ってるんだよな」


「ああ」


「それが、どの魔王の幹部か知ってるか? 別に重要な情報でもないから、一万ゴルドで売ってやるよ」


 レヴァンなら拘束から脱出することなど簡単なのだが、未知なる情報を知れるチャンスを逃すのは痛い、という思いが脱出の邪魔をする。ポワポは非常に気まぐれな男で、自分から情報を売って来る男ではない。


「分かった。ここにちょうど十万ゴルドある」


 懐から取り出した汚い布で縫われた袋を、肉を焼く網の上に置いた。どや顔で情報を売って来たポワポへの、小さな仕返しだった。


「おいおいおいおい、止めてくれよ。それでよ、その魔王って言うのがな――幻影の魔王なんだ」


 幻影の魔王。唯一実体を持たない魔王であり、幽体であることから、物理攻撃がまったく効かない魔王として人間に恐れられている。それに加え、自分より弱い人間の体ならば簡単に乗っ取ることが出来る。人間にとっては、とても恐ろしい魔王なのだ。


「幻影の魔王の幹部……? 彼奴に仲間なんていたのか? 最後にあったのが百年ぐらい前だから全く覚えてないが、仲間らしき存在は……」


「ま、百年も経てば誰でも変わるものだろ。ほら、帰った帰った。お前みたいなミズぼらしいガキが目の前に居たら、客が来なくなっちまう」


「は? おい、金貰った瞬間に態度変わり過ぎだろ」


 ポワポはレヴァンを店前から追い出すと、行列にうんざりしているレストランの客に届くほどの大きな声で、呼び込みを始めた。全く成果が出ず、それをほくそ笑みながらレヴァンは冒険者ギルドに向かった。


面白いと思っていただけたら、ブクマ、評価等よろしくお願いします。

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