第十三話
言ってしまった。と、レヴァンは心の内で深く後悔する。レヴァンはジークリンデの手を手放して、口を押えた。ジークリンデは勇者パーティがいると聞いた途端、拳を打ち震わせて眉間に皺を寄せる。
「い、いや……あぁ、不味いことになった……」
レヴァンは弁解をしようとするも、もう遅いと気が付き諦めた。後ろからゆっくりとではあるが、着々と近づいてきている勇者パーティに、足を止めてしまったジークリンデ。勇者パーティと鉢合わせる展開しか予測できないレヴァンは、頭をフル回転に働かせて、この展開の打開策を考える。
ジークリンデを無理矢理担ぐ訳にもいかず、勇者パーティを蹴散らす訳にもいかない。最終的にレヴァンは、ジークリンデの手を引いて逃げる事にした。その際、レヴァンは全力で抵抗するジークリンデを見て、少し心が痛んだ。
レヴァンは“復讐を果たさせたい”と思うも、復讐の手助けをするべき相手は依頼人であるジークハルトなので、無理矢理にでも勇者パーティから遠ざける。
「は――なしてッ! 勇者を……殺す……わッ!」
「勇者を殺すのはジークリンデさん、あなたの役目じゃありません……弟さんの役目です」
「何故やらせてくれないのッ!? チャンスはもう来ないかもしれないわッ!」
(怒りで何も聞こえていないのか。しょうがない、ここは無理矢理にでも逃げないと。依頼に支障をきたす可能性がある)
ジークリンデは怒りで冷静さを欠いており、無我夢中でレヴァンの手から逃れようとする。流石に魔王の握力に打ち勝つことは出来なかった。
レヴァンはいついかなる場合でも依頼を優先する男だ。例外はあるが、情に流されることはほとんど無い。
「すいませんジークリンデさん。こうするしかないんです」
「――ッ!? 何……を…………」
レヴァンはジークリンデの口を強く押さえ込んで、昏睡の魔法を唱える。ジークリンデはたちまち瞼を閉じて、意識を失った。起きる方法はたった一つ、体に死亡するほどの衝撃を銜えるか、レヴァンが魔法を解くか。レヴァンが使った昏睡の魔法は常時発動型で、解けば起きるようになっている。
「もう足音が聞こえるぐらいに近づいてきている……しょうがない。瞬間移動するしかないか」
ダンジョンでの瞬間移動のデメリットは、別の階層までは移動できないのと、場所が細かく指定できないという事だ。右に三メートルと言っても、左に行ってしまったり、五メートルになってしまったり。
因みに転移の魔法もダンジョンでは使い物にならない。
レヴァンはジークリンデを抱えて、瞬間移動の魔法を唱える。そしてレヴァンは、とにかく遠くへ瞬間移動した。床も天井も壁もすべて同じ色素材なので、成功したか全く分からないが、索敵能力で勇者パーティからかなり離れた場所にいることを知り、レヴァンはひと先ず安堵した。
しかし、安堵してここに留まることは許されない。勇者パーティは、盗賊の索敵能力でレヴァンの居場所を常に把握している。追いつかれれば、なんで逃げたか問いただされるのは確実。そして、ジークリンデにちょっかいを出されるのも確実。それはレヴァンにとっても、昏睡しているジークリンデにとっても不味い事なので、急いでボス部屋を探す。
迷路になっている道を、行き止まりに突き当たらないよう願いながら走り回る。
クリムゾンオーガと多数遭遇したが、ジークリンデが見ていないので自重する必要がないレヴァンは、一瞬で戦闘を終わらせていた。
他の階層よりも広く、より交じり合っている道に惑わされて、結局ボス部屋を見つけることは出来なかった。そればかりか、何度か行き止まりに突き当たり、勇者パーティと鉢合わせる場面があった。
レヴァンは少しばかり本気を出せば、不可能とされているダンジョンの壁の破壊も、魔法でボス部屋の発見も出来るのだが、その際に放つ大量で濃密な闘気に、ダンジョンが耐えられなくなり壊れてしまうので出来なかった。
ダンジョンが壊れると、その中の空間は世界から完全に消滅する。そうなれば、レヴァン自身も消えてしまうことになる。それが出来ない理由だ。
「しかし、魔物に囲まれてしまってるな。クリムゾンオーガに、ドラゴンレクス。はあ、つくづく俺は運が悪い……」
レヴァンは顔を俯かせて溜息を吐いた。
レヴァンがいるのは一本道。レヴァンの目の前には一体のクリムゾンオーガ。そして後ろには、黄金の鱗に四枚の翼、二本の尻尾。そして巨大で強靭な角を持つ、ドラゴンレクスが二体立ちはだかっている。
レヴァンが問題視しているのは、囲まれている事でも数でもない。ドラゴンレクスの事だ。ドラゴンレクスは、ドラゴンの王と言われており、その咆哮は全てのドラゴンを支配するという伝説が残っている。
二体のドラゴンレクスは、レヴァンに視線を向けられた瞬間、同時に咆哮を放った。
「「ギャァァァァァァァァァァッ!」」
九階層全域に耳を劈く咆哮が響き渡る。レヴァンに直接的な被害は無いが、これで盗賊以外の勇者パーティに、居場所がばれてしまった。
盗賊がパーティを率いる必要が無くなり、勇者が先頭に立つ。勇者はダンジョン内で瞬間移動の魔法が不自由なく使える。それ意外の、ダンジョンでのデメリットも全て帳消しになっている。それはすべて神の加護のおかげだ。
レヴァンの居場所を何となく把握できた勇者は、瞬間移動の魔法を唱えて、レヴァンがいるであろう場所に移動する。
きっとピンチだろう。ここで颯爽と駆けつけて、Bランク冒険者を惚れさせよう。という邪念を胸に。
「……あれ? いない……」
その声に返答する者はいない。瞬間移動の魔法で移動したのは勇者一人だけで、勇者パーティの面々はその場で置き去りにされていた。
勇者は周りを見渡し、魔物を三体見つけるが興味が無いのか無視して、悪態を吐く。
「チィッ、何処に行きやがった…‥」
「ギャァァァァァァッ!」
ドラゴンレクスの咆哮に勇者は耳を抑えて、鋭い眼光で睨む。それと同時に、大量の闘気が一気に沸き上がる。それを肌で感じ取ったドラゴンレクスは、一瞬身が竦む。プライドがそれを許さなかったのか、ドラゴンレクスは翼を広げて勇者に突進した。
「クソッ、小賢しい」
勇者は腰に掛けていた聖剣を抜刀して、突進して来たドラゴンレウスの角を切断する。綺麗に両断された角を見たドラゴンレクスは激高して、息を大きく吸い込む。そこで素直にブレスを受けてやるほど、勇者は甘く無い。
「食らえッ!」
勇者はドラゴンレクスの懐に飛び込んで、ドラゴンのレクスの胸を聖剣で貫く。鮮血が飛び散る前に勇者は後退して、もだえ苦しむドラゴンレクスを無表情で眺める。絶命し胸に穴が開いた血だらけの死体を踏み越えて、残ったドラゴンレクスに向かって駆け出す。
勇者は強く踏み込んで跳躍した。同じようにドラゴンレクスは四枚の美しい翼を広げて、後ろに跳躍する。同族を殺され激高している中でも、冷静さを欠いていないのだ。
それでも勇者は問答無用で聖剣を振りかざす。が、それは愚策だと思い、勇者はクリムゾンオーガの背中に瞬間移動する。何故そんな事をしたか。それはクリムゾンオーガが空中にいる勇者に向かって、巨大な剣を投げ飛ばしてきたからだ。勇者が避けたせいでその剣は、見事にドラゴンレクスの首を切断して、壁に突き刺さる。
勇者は聖剣でクリムゾンオーガを縦に両断して、戦闘を終わらせる。しかし、目的の冒険者たちがいなかったので、怒りが湧き出てくる。
「何故逃げるんだ! 別に警戒する必要なんてないのに。僕は危害を加えようなんて――」
白々しいな。勇者は自分で口にしていてふと思った。徐々に冷静さを取り戻して行った勇者は、笑みを浮かべて呟く。
「待ってろ、Aランク冒険者。お前の目の前で、女を――ふっ」
一方その頃、勇者と鉢合わせにならないために、無我夢中で瞬間移動の魔法を発動したレヴァンは、移動先で大きな問題に直面していた。
「つくづく俺は運が悪い。なんで、勇者パーティの元に移動したんだ……」
レヴァンの目の前では、ボス部屋の扉らしきものの前に美少女が三人立ちはだかっていた。魔法使いに盗賊に神官。そして最後の神官はレヴァンも見覚えがあった。
「これ、どうするかな……」
絶体絶命になったレヴァンは、美少女三人に目を向けられず俯いた。
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