体育祭
今日はとある休日。梅雨入り前のまだ暑くもなく、寒さが残ることもなく、とても過ごしやすい時期。そんな休みの日に、生徒たちは学校に来て選手たちに声援をおくっている。体操服姿で。そう。今日は体育祭だ。学校生活において、文化祭と並ぶ二大祭りである。
私はクラスの中でも、足が速いのでこれは和田くんにアピールするチャンスだ。はて?はたして足の速い女子はモテるのだろうか?まぁ和田くんが私を見てくれてればそれでいいか。
綱引きや玉入れ、障害物リレーと次々とプログラムが、消化されていき、いよいよ私の出番。リレーである。
女子リレー
1走 かず
2走 わったー
3走 青江さん
4走 私
アンカーとは我ながらなかなかの大役を引き受けてしまった。普段ならこんな大役は引き受けないだろう。でも、これも和田くんへのアピールの為、頑張るきゃない。
大丈夫。不安だったから、今朝おみくじ引いたら大吉だった。しかも、願い事のところは[悩むことなし、そのままで願い叶う]
つまり、これはリレーで大活躍して、私の願いである和田くんと話す機会がくるってことだよね。
よーーし、頑張る。
「のんちゃん、みんなで円陣組もうよ。」
「いいねいいね」
わったーが呼び掛け、私とかずと青江さん、わったーで肩を組んで円上に頭を寄せる。
「ウチら、最速~~勝つぞ~」
「お~~~」
景気よく円陣で声を出して、心も決まる。
よーし、やるぞ。見ててね、和田くん。
「おい、和田。お前の出番まだだろ?わりぃんだけど、次の競技の用具出すの手伝ってくんない?」
「ああ、いいよ」
和田くんは体育委員の田中くんと一緒に行ってしまった。
なんでこのタイミングで居なくなるの?さっきまでめちゃくちゃ暇そうにしてたじゃん。田中くんのバカ~テンションめっちゃ下がる。
和田くんの後ろ姿を見送り私たちの競技は、和田くんの見てない中、スタートした。
せっかくの和田くんに応援してもらうチャンスが。しくしく( >Д<;)
「位置について、よーい」パンっ。
かずは最高のスタートを切って、トップでわったーにバトンを渡した。わったーは後続との間をどんどん広げながら、青江さんにバトンが渡った。これは私には1位でくるかも。しかし青江さんはバトンをもらってすぐ、足を縺れさせて転んでしまった。すぐに立ち上がるが足を痛めたようであまりスピードが出ていない。2人に抜かされたが懸命に走っている。しかし私にバトンを渡す瞬間に手を滑らせて、バトンは青江さんの足元にいき青江さんの右足に蹴られてバトンはコースアウト。その間に最後の1人にも抜かされる。私は唖然として、開いた口が塞がらない。パクパク。
「まだ、終わってねぇぞ!」
クラスの客席から、誰かの声が聞こえた気がした。私はハッとしてまだ唖然としている、青江さんに声をかける。
「青江さんあとちょっとだよ。頑張って!」
青江さんは足を引きずりながら、バトンを広い、私に渡してくれた。
「ごめん。」
もうこの時点で1位はゴールしている。2位も無理だろう。3位も無理だろう。けどここまで、繋いでくれたみんなの気持ちに答えなきゃ。私は、全力で走った。順位は最下位と決まっていたが、全力で走った。
レース後···
「ごめんね。私のせいで。」
青江さんは、私達に頭を下げて謝った。声が少し掠れて小声になっており、涙を堪えてるようだった。
「いいよ、いいよ。気にしないで。」
「そうそう。みんなで走れて楽しかったし。」
「さぁ、みんなの応援しにいこ。」
わったーは青江さんの手を取り、私たちはクラスのテントに戻った。
「お~お~、せっかくの1位を台無しにしたやつのご帰還だ。」
石原と取り巻き男子2人がニヤニヤしながら、近づいてくる。
「ちょっと、石原~やめなよ。」
「だってそうだろ~渡邉と岡田であんなにダントツだったのによ~」
石原の心ない言葉に青江さんは、座り込んで泣き出してしまった。
正直言って私は争い事が嫌いだ。殴るのも痛いし、殴られるのも痛い。クラスには30人の生徒がいる。それだけ居れば、好き嫌いもあるだろうし、多少の派閥も生まれるだろう。だから多少の争いもあるだろう。
「青江って他のクラスのスパイで、わざと最下位になったんじゃねぇの」
「そうだ、そうだ。このスパイやろ~」
私の原動力は、和田くんにどうやったら好かれるかどうか。今回の体育祭も含め、他の行事もその為に頑張っている。不純かもしれないが、これが私の率直な気持ちである。しかしこれとは別のベクトルで、私の原動力になることがある。それは、友達を泣かせるやつである。
「嘘泣きしてんじゃねぇよ~」
石原が、青江さんを軽く蹴ったことで、私は遂にキレた。
「石原、あんたいい加減にしなさいよ。」
私は石原の肩を掴み、左手の拳を力いっぱい握りしめ、顔面に殴り付けた。
「がはっ」
石原は2、3歩後退りする。
「ってえーな。てめぇ何すんだよ。」
石原が私に仕返ししようと、右手を伸ばす。私はその右手を交わし、袖を掴むと、石原の重心が傾け、背負い投げで地面に叩きつけた。
私は怒りが収まらず、更に睨みつける。
「もう、あんた喋るな。」
石原は半泣きで何も喋らない。
場の空気が凍り付いている。わったーとかずですら、私と石原を見ながら何も言葉を発しない。
「青江さん、あっちに行こう」
青江さんを起こすと、私たちはクラスのテントを去っていった。
テントから移動する時に和田くんの姿をちらっとみえて、私はようやく冷静になり、やってしまった~っと心の中で反省した。また嫌われちゃったかな~なんでこんな時に居るのよ。ホント間が悪い。トホホ···