さぁ、どれがいい?
三連休だったので書きました!
その代わりに今週と来週の土曜日が出勤ですけどね!
半休、取ろうかな……
「……ぅ……」
文字通り全力を尽くした俺は力なく空を駆けくだる。
試してみたが、身体に力は入らない。
そうして、ぼんやりとした意識で視線を彷徨わせた先
「ぁ………」
そこには王都の外壁近くに集う人々の姿があった。
「……よ…かっ…た……………?」
その漠然とした安堵の中で一際目を引いたモノが一つ。
それは射掛けられた矢のごとく疾走する一台の【馬車】。馬車とは思えない程もの凄い速度で王都から遠ざかっていく。
《主様!今お助けします!》
それを視界に捉えた時、シュティの声が頭に響いた。
ー謁見の間ー
シュティの声が聞こえた刹那、俺は王様やルイスさん達が居る場所へと戻っていた。
「ぅ………」
ぐったりとしたまま地面に寝転がる俺。
「!、大丈夫かい!?シミズ君!!しっかりして!」
「…………」
「っ、衛生兵!!衛生兵を早く!!」
それをいち早く認識したルイスさんが駆け寄り、声をかけるが、俺の返事がないことに青ざめた彼は大声で叫ぶ。
《メインタンクブロー!貯蔵魔力注入開始します!
……主様、ご安心ください。すぐに治療を開始します。》
あぁ……あり、がとう……シュ、ティ。
シュティの声になんとか思考を絞り出す。だが、声が出せる程の余裕はまるでない。
「シミズ君!お願いだ!意識をしっかり保ってくれ!
君が……君が居なくなってしまったら、僕はリーシアになんて言えばいいんだい!?
こんな……こんな事になるなら……いっそ僕がやればっ……!」
俺に負担をかけないように抱きかかえ、焦燥と悲壮に染まった声をあげるルイスさん。とても、震えた声。
「………ぅ……」
ルイスさんの純粋な心配と後悔の声を聞いた俺は土嚢のように重い頭を動かして口の端をつり上げる。首から下は鉄の塊になったのかと思うほど重く、動かない。
「!……シミズ、君っ………」
それに気がついたルイスさんは僅かだが表情に光が灯る。
「……あはは…っ…….…大丈夫、です。」
混濁した意識が次第に鮮明になっていく中でようやく声を捻り出し、視線をルイスさんに送る。
「は、はは……全然、大丈夫そうに見えないよ……」
いつもにこやかなルイスさんの表情は今にも泣き崩れそうなほど。
あぁ、この人はどうして……ここまで俺の心配をするのだろうか……?
先程よりも明確に意識が浮上しているのを認識しながらルイスさんの行動に疑問を抱く。
《意識確立……確認。メディカルチェック開始……異常なし。魔力回復率5%。
主様、必要最低の魔力は回復しました。意識もはっきりとしていますし、体調も良好とは言えませんが悪くはありません。
まだ体が重いと感じますが、動かしても大丈夫です。》
おう、さんきゅ……とりあえず、起きよう。
シュティから太鼓判を押してもらったので、ひとまず体を起こす事にした。
「起きます……」
頭の鈍痛に少々苦悶しながらも、ルイスさんに支えてもらいながら上半身を起こす。
痛みは頭部だけだが、全身がダルい。
「シミズ君……大丈夫かい?」
「えぇ、なんとか………」
「衛生兵!到着しました!」
すると、ルイスさんが呼んだ衛生兵が到着する。
到着が救急車並みに早い。王城に居るだけあって相当に優秀なのだろう。
「来て頂いておいて……こう言うのは申し訳ありませんが……その、大丈夫です。しばらくすれば治りますから。」
「駄目だよ……いくらシミズ君でも今のはマズイよ。どう考えても今のは『急激な魔力損失』によるものだ。
下手をすれば命に関わる事だから、診てもらおう。」
「……いえ、問題ありません。」
「っ、駄目だ!僕は無理矢理にでも君を安静にさせる!」
すると、突然ルイスさんが怒鳴りつける様に声を荒げた。
「っ!?……ルイスさん、声が頭に響きます。」
珍しいルイスさんの怒声にかなり驚いたものの、鈍い頭痛に響く声だったので少し不満を呈する。
「あ……ごめん………でも、どうか今は安静にしてくれないかな……?」
「…………」
どこか怯えた様な、それでいて悲しそうな表情のルイスさんに俺はおし黙る。
俺は……この目を知っている。
この世界に来る前、クミさんと話さなくなってからあの人がしていた目と同じだ。
《…………》
けれど、俺にはやるべき事がある。
「すみません、今はそれどころではないんです。俺は大丈夫ですから。」
「でもっ……!」
まだ食い下がるルイスさんに俺は目を見て言う。
「俺を、信じられませんか?信じてはくれないのですか?」
「………君は嫌な人だ。」
ルイスさんは少し視線を下に向けてから言った。
「えぇ、よく言われますよ。性格が悪い、いじわるだ、と。」
にやり、と不敵な笑みを浮かべて応える。
「あはは、それは奥様方からかな?」
「はい、特にラウから。」
「あはは……うん、わかった。君なら大丈夫、そう信じるよ。」
「ありがとうございます。」
ルイスさんは観念したらしく、少しぎこちない笑みを浮かべて言った。
少し過剰なほど心配してくれたルイスさんには悪いが、俺はこの状況を作る原因となった者たちにお仕置きしなければいけないのだ。
「衛生兵、すまない。下がってくれていいよ。」
「はっ!」
「さて、と。」
衛生兵が出て行くのを見ながら俺は立ち上がる。
さっきからやけに静かな空間を見渡してみると、王様はまだ声が出せないらしく、驚いた表情で俺を見つめている。
その他の貴族たちと冒険者組は全員が祈る姿勢をとっており、その先には【三人の元凶】がいた。
「よぉ、こら。よくも初っ端から苦労させてくれたな。死ぬかと思ったぞ?」
俺は笑いながら三人の元へと歩みよる。
「えーっとー………そのー……」
エルピスはバツが悪そうに言葉を濁し
「ご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありません。我らが君。」
ヴェーラは深く頭を下げて素直に謝るが
「ごめんなさいね〜」
シャリテに関しては反省のハの字もない。ふわふわとした雰囲気のままだ。
「なぁ、エルピスさんや。」
「は、はい!なんでしょー!?」
最初にエルピスに話しかける。
「とりあえず、王様の声を出せようにしてあげような。話はそれからだ。」
「イ、イエッサー!」
緊張しているのか、妙なテンションで応えるエルピス。
「!……声が、出る……」
そして、再び声が出せるようになった王様。
その様子を見た俺は王様へと歩みを進める。
「!……な、なにを!?」
やがて、王様の前に辿り着くと俺は膝を折り
「我が部下の不始末によりこの王都に危機をもたらした事、心よりお詫び申し上げます。
本当に申し訳ありませんでした。
そして、貴方のご慧眼と王としての素質に心よりの賞賛と敬意を。」
謝罪を行い、今回の事態に対する行いに純粋な賛辞を送った。
認識違いだったとはいえ、危険人物を王都まで連行する為の下準備と適切な人材配置には舌を巻く。
「タケシ君!?」
「我らが君、なにをなされているのですか!?」
「あら〜?」
俺の行動に思わずといった様子で声をあげたのは女神たち。だが、今は無視する。
「い、いけません……我らが御柱の主たる貴方様が私ごときに頭を下げられるなど……畏れ多く…」
崇める女神の上司である俺の立場を知った王様は明らかに萎縮した口調で話すが
「わたしがどの様な立場であれ、部下が失態をおかしたならばその責はもう一人の主たるわたしが負うべきであり、謝罪は必ず行うべきです。
王たる貴方ならご理解いただけるでしょう?」
失礼を承知で言葉を遮る。
今回、王様は女神たちとのコミュニケーションエラー以外では特に失敗していない事がシュティの報告によって判明しているのだ。
それに、王様の立場は『本来関わる事がない女神たち三人に突然呼びつけられて言葉足らずの厳命を下された』である。
これに対して王様の行動に不足はないと俺は考えた。だから、今回の一件は【8:2】の割合で8割女神たちが悪い事にしておく。というか、絶対にそうする。
2割は……まぁ、ユレンとかいう冒険者のせい。
オレ、アイツ、キライ。
《それ完全に私怨ですよね。》
うん、そうだよ?
俺も心は未熟な人間のままだからな。私怨の一つや二つ交える時だってあるさ。
「し、しかし、それは……」
まさか俺に謝られるとは思っていなかったのか、王様は言葉が見つからない様子。
「納得いただけませんか。」
「いえ!有り難き御言葉に御座います!
……それに、わたくしも矮小な身でありながらも王という立場にあります故、貴方様から頂いた御言葉には感激の念に絶えません。」
俺の言葉に王様も同じように膝をついて話し始めた。
互いが互いに対して最敬礼の姿勢で話すというシュールな光景の出来上がりだ。
「では、謝罪はこれにて。また後ほど何かお詫びをさせていただきます。」
そう言って俺は立ち上がり、女神たちの方へと歩き出す。
「お、お待ちください!」
すると、王様は姿勢は崩さないまま声をあげる。
「はい、なんでしょうか?」
「無知なわたくしの先ほどの無礼について謝罪申し上げたく!」
王様の方へ振り向くと、彼はそう言った。
無礼、というのはなんだろうか?
《主様に対して高圧的な口調で話していた事と冤罪の事についてですね。》
あぁ、それか。全く気にしてないんだけど……
《主様が気にしていなくても周囲がそう判断しません。言葉にする事は大切なのでしょう?》
まぁ、確かにそうか……今回の一件も似た様なものだろうし。
王様の表情こそうかがえないものの、その声には確かに反省と誠意が宿っているのに気がついた俺は真面目モードで応える。
「……なら、今ので今回の一件はチャラです。
わたしはわたしの部下たちの不始末を、貴方は貴方自身の過ちを反省し、互いに謝った。
これ以上、責任の所在を問うのは野暮というもの。
ですので、顔を上げてください。」
先ほども述べた様に彼に罪はなかったのだ。
これで不問にするちょうどいい理由が出来た。
「!!」
言葉の通りに顔を上げる王様。
俺には彼に対して一つ言わなければならない事がある。
「貴公への最上位神議会による判決を無効とします。
よって、無罪。神罰執行も不承認です。
……どうか、これからも良い王様であってください。」
疲れでおかしくなったのか、あるいはこの状況に少なからず高揚しているのか、俺には似合わないウィンクをしてから再び歩みを進める。
「あ、有り難き幸せ!我らが御柱の主に光あれ!」
「「「「「御柱の主に光あれ!」」」」」
王様の言葉の後、他の貴族たちが揃って言葉を紡ぐ。
……あ、やっべ、変なスイッチ入れちゃった。
今後、めんどくさい事になりそう。
一抹の不安が脳裏によぎったが、無視して女神たちに話しかける。
「……なぁ、どうしてくれんの。これ。」
ジロッと睨みをきかせながら後ろを指差して三人に視線を向ける。
「えっとー……そのー……ば、場所変えない?
何をするにしても神界の方なら気兼ねなくなんでも出来るからー……ダメ?」
すると、エルピスが弁明もなくそう提案してくる。
……別に俺は場所など気にしないが。
《場所を変えた方がよろしいかと。
流石に宗教信仰の対象である彼女たちが目の前でお仕置きされるのは恥ずかしい上に権威が失墜します。》
そんな事は知らねぇな。
シュティの言葉を一蹴するが
《………貴方が乙女を公衆の面前で恥かしめる畜生に成り果てるのは嫌です。せめて、誰の目にもつかない神界の方でお願いします。》
ここまで言われてしまっては受け入れざるをえない。
つか、シュティは俺をなんだと思ってるんだ?
《愉悦の為なら時として手段と場所を選ばない愉悦主義者であり、家族以外には容赦も慈悲もない人物、という認識です。
今回は大義名分があるのでより一層えげつないでしょう。》
うーん、俺の事をよくわかってる!わかった!場所変えようか!
シュティの評価に若干凹みながら場所を変えることに決めた。
「よし、ならご要望の通りに場所を変えようか。」
俺は非常に素晴らしい笑みをたずさえてエルピスの提案を受け入れる。
「あ、あははー、ありがとー……」
エルピスは引きつった表情で今にも泣きそうな瞳をして
「我らが君からの処罰は気になりますね。」
ヴェーラは謎の余裕を持って
「わたし達なにをされるのかしら〜?」
シャリテはどことなく期待感をにじませた表情で反応を示した。
神界へと行く前に俺はルイスさんに声をかける。
「ルイスさん、少し出かけますがまた戻ります。」
「うん、わかったよ。僕は王都の別邸にいるからいつでも帰ってきてね。」
にこやかに手を振ってくれるルイスさんに笑い返しながらシュティに転移を発動させてもらう。
シュティ、俺は神界の場所とか知らないから頼んだ。
《承知しました。》
そうして、俺は女神達と共に神界へと転移した。
ー神界ー
ほんの一瞬視界が歪んだ後、俺たちは真っ白な空間に佇んでいた。
「………ほぉ。」
しかし、辺りを見渡してみるとローナが居た場所とは違うようで、三つの神殿が荘厳な雰囲気で鎮座している。
「あ!おにーさん!」
「あら、来たのね。」
すると、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ラウ!ローナ!どこに行ったのかと思えばここに居たのか!」
即座に振り向くとそこには笑みを浮かべた二人が居た。
「うん!」
「えぇ、そうなの。」
この二人が居るとわかった途端、この上ない安心感が胸の内に広がった。
「ねぇ、めっちゃいい笑顔なんだけど……なにあれ、さっきと全然違う……」
「我らが主とラウ先輩にはあのような笑顔をなされるのですね。」
「可愛いわぁ〜……」
すると、後ろの三人がなにやら話している声が聞こえてきた。
その声を聞いてハッとした俺は平静になってここに来た理由を思い出す。
「なぁ、ラウ、ローナ。一つ聞きたいことがあるんだ。」
「ん?どうしたの?」
「なんでも聞いて。」
ラウとローナは華やかに笑みを浮かべる。
「どうして神罰執行を承認したんだ?」
そんな彼女たちに俺は正面から質問をぶつける。
「え?そんなのおにーさんが大切だからに決まってるじゃん。」
「そうね。」
彼女たちの返答はシュティが予測した通りだった。
「…………そうか。」
個人としては嬉しい反面、倫理的な観点から見た理由としてはあまりにも身勝手な理由に俺は一言反応するので精一杯だ。
「納得、してないわね?」
「……あぁ。」
そうしていると、ローナが俺の表情から読み取ったのかそう聞いてきた。
「じゃあ、わたしからも質問いいかしら?」
「なんだ?」
今度はローナからの質問。
「タケシ、貴方は自身の好きな人が、愛する人があるはずのない罪を着せられた状況を黙って見過ごせるの?
その時、貴方はなにも思わないのかしら?ただ何もせずにジッとしていられる?」
「無理だな。」
真っ直ぐ俺を見つめながら質問してくるローナに即答する。
「そうでしょう?貴方なら特に何か行動をするでしょうね。
けれど、それは貴方だけに限った話ではないのよ?」
「………」
彼女はゆっくりとこちらに歩み寄りながら話を続ける。
「だからね、わたしは私の持てる全てを行使して貴方を救うわ。例え、それが多くの犠牲を払う事になろうとも。」
普段よりも真面目な声色で話す彼女の表情からは確かな意思を感じた。
そして、目の前に来た彼女は俺の頰に手を添える。
「私にとって、貴方は最愛の人。
文字通り、全ての世界においてたった一人の存在なの……だから、私は執行を承認した。
私は貴方が救えるのならそれでいい。理由なんてそれだけよ。」
美しく微笑む彼女が放ったこの言葉を聞いた時、俺はようやく神の本質を少し理解した。
彼女たちはあくまでも神であり、人間の尺度では決して測れない価値観を持っているのだ。
思考も、思想も、価値観も、倫理観も、それら全てが人間とは違う。
例え、人の形をしていたとしても彼女たちは【神】なのだ。
俺と時間を共に過ごしてきた彼女たちは『人間の様な神』であって決して人間ではない。
なにより、彼女たちの内にあるのは『人の心』ではないのだ。
言うなれば、それは【似て非なる心の在り方】。
単純な事だった。簡単な事だった。
考える必要さえない程に明確な答え。
けれど、俺にはそれを否定などする権利はないし、する気もない。
だって、それを含めた全てが彼女たちなのだから。
ならば、俺はそれを承知した上で彼女たちと向き合おう。
なに、気楽に考えてしまえば異文化交流のようなものだ。外国と出身国の常識が違うようなものだ。
簡単ではないが、単純ではある。
そう結論付けた俺はローナに笑いかけて一言。
「ありがとう。」
思ったままの事を口にした。
「ふふ、こちらこそ納得してくれてありがとう。」
俺の言葉を受けて、鮮やかに華やぐ彼女の表情は楽園の女神とでも言うべき美しさだった。
「あぁ、ローナが全力で俺のことが好きなのがよくわかったよ。」
そして、少しばかりふざけて真面目な雰囲気を崩す。
真面目な雰囲気は苦手なんだ。
「も、もぅ……///」
顔を紅くして照れるローナも可愛らしい。
「……ねぇ、おにーさん。わたしは?」
次に口を開いたのはラウだった。
放置されていたのが面白くなかったのか、少し不満げな表情を浮かべている。
「ラウもありがとな。」
「ん………」
いつも雑な扱いをしている自覚はあるので、今回は普通に頭を撫でながら感謝を伝える。
「……なんか、おにーさんが珍しく素直。」
「たまにはな。」
「そう……」
ラウが少々訝しげに見つめてきたが、撫でられるのを優先したらしく、すぐに黙る。
あと、普段より若干そっけない。後輩の前だからか?
《おそらくそうでしょうね。神の序列において彼女は創造神に次ぐ第二位ですから。》
やっぱ、ラウも凄いんだな……今までの行動を見た限りではほぼニートだけど。
《世界が平和なら特にやる事がありませんから。》
軍隊のようなものか?
《抑止力、という意味では似たようなものですね。》
ラウの頭を撫でつつシュティと話をしていると
「あれー……わたし達もしかして邪魔ー?」
「そうかもしれませんね。」
「残念ね〜」
エルピス、ヴェーラ、シャリテの三人がどこかへ行こうとしていた。
「あ、君らは別だから。お仕置きは確定してるからそこのところ間違えないように。」
「え!?」
三人に釘を刺すと、エルピスがビクッと体を跳ねさせて反応する。
コッソリ逃げようとしてもダメです。逃がしません。
「当たり前だろ。今回の一件は君たちのコミュニケーション不足で招いた事態なんだぞ?」
「え、えー……でも、ローナ様とラウ先輩の事は許したよねー……?」
エルピスがなにやら筋違いの事を言ってきた。
「身内補正です。」
「そんなー!?理不尽っ!」
軽くジャブ程度に冗談をはさむとエルピスが愕然とした様子で応える。
「いや、普通に考えてみろ。ラウとローナが怒った原因を作ったのが君たちだぞ?根本的な責任は君たちにある。」
今度は少し真面目に説得してみると
「うっ……それをいわれるとねー……なにも言い返せないなー……」
彼女は肩を落として観念したように呟いた。
「エル、致し方ありません。今回の責は確かに我らにあるのです。」
「そうね〜、こればっかりはね〜」
「う、うぅー……!」
他の二人に慰められるエルピスが変な唸り声をあげる。
ここでふと、一つ疑問が浮かんだ。
「あ、そういえばお仕置きする前に一つ聞きたいんだが。」
「な、なにー?」
「なんでわざわざ王様経由で俺を王都に呼ぼうとしたんだ?」
そう、なぜ彼女たちが俺を王都に呼ぼうとしたのか?
その意図が全くわからないのだ。
「そ、それは……ローナ様とラウ先輩がタケシ君と王都でデートしてくれたらなーって思ったからだけど……下手にわたし達が押しかけても迷惑だろうし、せっかくなら王様に紹介ついでに招待しよっかなーって思って…….」
すると、意外な答えがエルピスの口から飛び出した。
「なぜそんな事を……」
彼女の妙な気遣いに頭をひねっていると
「だ、だってタケシ君ってば森からほとんど出てこないじゃんかさー!普通、デートくらいするじゃんかー!」
なるほど、と頷く以外に答えのない一般的な意見を聞かされた。
確かに俺は森以外はルイスさんの街へ行く程度で、ローナやラウとのデートはしたことがなかった。
「確かにデートとかしたことないな……前にラウとピクニック行ったくらいで後はずっと家に居るか、街に行ってたかだったし……」
「でしょー!?」
俺の呟きにエルピスか嬉々として反応する。
「で、なんでそれをエルピスが知ってるんだ?」
そして、俺はまた笑顔を浮かべながら問いただす。
まぁ、確かにデートなどそれっぽい事をしてなかったのは事実だが、なぜそれを彼女が知っているのか。
権能の効果を鑑みればある程度の察しはつくが……問題はそこじゃない。
「えっ………あ、あぁー………」
質問に対し、再び気まずそうな表情を見せた彼女の反応に俺は確信した。目もせわしなく泳いでいる。
「見てたな?今まで、ずっと、許可なく。」
「ぅ………はい。」
核心を突いた問いに彼女はガックリと肩を落として頷いた。
「プライバシーって知ってる?」
「わ、悪気はなかったんだよー……?それに全部見てたわけじゃないしー……」
にこやかに一歩詰め寄ると、エルピスは口の端をつり上げて言った。緊張しているのか、つり上がった口の端が震えている。
「なぁ、盗撮や覗きってさ……犯罪なんだぞ。」
肩にポンと手を置き、笑顔はそのままで彼女の瞳を鋭く見つめる。
彼女は俺より身長が高いので必然的に見上げる形になる。
「ほんっとーにっ!すみませんでしたっ!!」
すると、たちまち腰を九十度きっちり曲げて謝罪するエルピス。
「いや、うん、別にいいよ?俺は男だし別に見られて困るモノは何もないし、してない。
けどさぁ……せめて許可は取ろうな?ふとした瞬間に見たくないもの見ちゃっても俺は知らないぞ?」
「そ、それって………」
顔を上げた彼女の瞳が少し揺れる。
それにしても、首が痛くなりそうな姿勢だ。腰を九十度にしたまま首だけを上げている。
「さぁ?なんだろうな?」
「そ、そっかぁー……お、男の人だもんねー……そうだよねー……」
首を傾げて言う俺に、エルピスは耳を少し紅くしながら納得した。
「以後、気をつけるように。ほら、姿勢を戻して。」
「は、はいっ!」
釘を刺した後、彼女はビシッと姿勢を正して返事した。
なんというか、ヘラヘラした印象だったのが少しだけ改められた。……覗き見はよくないけど。
「じゃあ、改めましてお仕置きのお時間です。」
さて、気を取り直してお楽しみといこう。
《あ、やっぱりするんですね。》
もちろん!苦労した分だけヒィヒィ言わせてやる!
《表現が型落ちですよ……》
俺はその表現が新しくて驚きだぞ。
「うわぁ、おにーさんのお仕置きかぁ……」
宣言を聞いて真っ先に反応を示したのはラウだった。
その表情はなんともいえない雰囲気を醸し出している。
「なんでラウが嫌そうな顔するんだ。」
「おにーさん前にわたしでもてあそんだよね?」
「………あ、確かに。あと、言い方には気をつけような。」
笑いながらラウに話しかけると、彼女は勘違いされそうな言い方で答えた。
そういえば、前に世界樹の上でお仕置きと称してくすぐった事があったんだ。
「まぁ、今回はラウとローナは対象外だから大丈夫。」
「今回『は』ってことは……」
「時と場合によります!」
「いい返事ね……」
ラウが諦めた表情で呟いたのに元気よく応えると、ローナが苦笑しながら言った。
「ねー、ほんとなにされるのー ……」
「さぁ?」
「ドキドキしちゃうわぁ〜」
対象の三人もそれぞれの反応を示す。
「よし、じゃあ好きなのを選んでくれ。」
そんな彼女たちに俺は一枚のリストを手渡した。
「な、なにこれ……」
「題名は【ドキドキ☆お仕置きリスト!】、ですか。」
「全力でふざけてるわねぇ〜」
ちなみに、手渡したリストの内訳はこれ。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ードキドキ☆お仕置きリスト!ー
・正座
・ビンタ
・デコピン
・ケツバット
・的
・シャトルラン
・ラン・ラン・ラン
・特別【気分次第のランダム執行!】
リストに載っていないお仕置きもあるかも!?
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「あれー?思ってたより軽いねー……って、この『的』ってなにさー!?」
手渡されたリストを見ていの一番に声をあげたのはエルピス。
「この最後の気分次第というのも気になるわあ〜、シェフの気まぐれランチみたいねぇ〜」
「なんと言いますか……独特ですね。」
今しがた考えた雑なリストなので中身以外の意味は特にないが、あまり評判はよろしくない様だ。
だが、大事なのはお仕置きなので気にしない。
「で、どれがいい?」
「ん〜、あまりわたし好みなのはないわねぇ〜……もっと触れ合えるのがいいわぁ〜」
すると、シャリテがそう言ってこちらに視線を送ってくる。
それは男性なら誰もが魅了されるであろう甘ったるい視線だが、残念ながら俺には効かない。ローナが後ろで笑ってる。
「ダメです。そのお品書きの中から選びましょう。」
「いけず〜」
「こんなに嫌なお品書きは初めて……」
「ふむ……一つ聞きたいのですが、これは一つを全員で受けるのですか?」
シャリテの誘惑を受け流していると、ヴェーラから真面目な質問が飛んできた。
「いや、一人一つだ。それぞれ別々のお仕置きを受けてもらう。執行役はもちろん俺だ。」
「承知しました。ありがとうございます。」
「おう。」
この三人の中では一番まともそうなのはヴェーラだな。
そうして、彼女たちはしばらくの間お仕置きされる内容について悩んでいた。
作者「ちょっと長くなったので二分割です!
あと、誰にどれを執行するかも決めてないので……」
隊長「健全なリストにしたのは賢明な判断だな。」
作者「だって、薄い本で事足りますし……」




