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お、お前らなぁぁぁ!?

お待たせしましたぁ!

確か、三週間ぶりですかね……うん、言い訳はなしで!

それではどうぞ!


 

 頭上で近づいてきた三人の声がする。


「…って、え?あれ?なんで頭下げてるの?いや、それよりなんで手枷はめられてるの!?」


「あら、本当ですね。誰ですか、この様な無礼を働いたのは。」


「あらあら〜、いけない子がいるのね〜」


 待って、状況がうまく飲み込めない。

 知らない声の主に話しかけられたと思ったら、なぜか俺の名前を知って………あ。


 《お察しの通りですが、言わせていただきます。

 彼女たちは最上位神です。創造神の部下であり、アルラウネの後輩になります。》


 ……マジで?


 《マジです。》


 嫌な予感に満ちた頭でどうにか状況の理解に努めていると、シュティにあっさりと現実を突きつけられた。


「タケシ君!お願いだから顔上げて!君にそんな事させたらわたし達が怒られちゃう!」


「えっと……はい……」


 とりあえず、(逆らうのは後が怖いので)言われるがままに顔を上げると


「あっ、ヤバ……思ってたよりカッコいい……」


「ようやく御尊顔を拝する事が叶いましたっ……!」


「あらあらぁ〜、可愛らしいわぁ〜」


 そこにはこれまた絶世の美女が三人もいた。

 なにやら不穏な言葉を放った気がするが、聞かなかった事にする。理解したくない。


 一人は黒髪ロングで片目に眼帯をつけ、気だるげな雰囲気で手脚が長く、スラッとした印象の高身長美女。美女だが、どこか幼さがあり大人びた高校生といった感じだ。

 あと、絶壁。飛行甲板レベルのフルフラットである。


 一人は淡い紫色の頭髪にハイライトの灯っていない柴色の瞳でこちらをうっとりと見つめる危うげな雰囲気の美女。見た目は大学生くらいかな。

 あと、でかい。


 一人はウェーブのかかったピンク色の髪に豊満な肉体をしていて、優しげな笑みをたずさえ、ふわふわとした雰囲気の美女。20代後半の人妻感が半端ない。

 ………あと、超()級。



 三者三様の魅力を兼ね備えた美しい人物たち……いや、この場合は神物(じんぶつ)


 いずれにせよ、それぞれがローナやラウとは違った魅力を持っている。

 あと、三人とも人間離れした美しさだが、黒髪という共通点がある女神には少しだけ親近感がわく。



「って、見惚れてる場合じゃない!手枷外さないと!」


 すると、突然慌てた様子で黒髪の女神がそう言った。


「あ、お構いなく。」


「い、意外と冷静だねー……」


 俺が思わずクセで対外的な反応を示すと、黒髪の女神が若干引きつった笑みで言った。


「いけません。我らが君にその様な物を付けられているなどもってのほかです。我らに処罰が下ります。」


「そうよお〜、外さないなんて選択肢はないわぁ〜」


 しかし、淡い柴髪の女神とピンク髪の女神が口を揃えて『外さなければならない』と緩やかな圧をかけて言ってきた。


「ですので、我らが君。御手を拝借致します。」


 冷静な表情で俺の手首につけられた枷に手を伸ばす柴髪の女神だが……


「………」


 異様なくらいに手が震えている。


「あらぁ〜?手が震えてるわよぉ〜?」


「わ、わかっています……で、ですが、我らが君に触れる事が畏れ多く……」


 ピンク髪の女神が話しかけると、柴髪の女神が緊張した様子で応える。


「それならぁ〜、わたしが変わってあげるわぁ〜」


「い、いえ!結構です!」


「でもぉ〜、手が産まれたての子鹿みたいよぉ〜?」


 黙って話を聞いていると、内容が微妙に怖い。


 畏れ多くて手が震えるってなに?俺の手は国宝か何かですか?ただの手だよ?聖遺物とかじゃないよ?


 《では、主様自身で外されてはいかがでしょうか。もう外しても問題ないでしょうし、自力で壊せるではありませんか。》


 そういえばそうだった……



 シュティの指摘を受け


 –––ガギンッッ!!……ゴトッ!


 俺は両手首をひねって物理的に枷を外した。

 化物の身体能力を侮ってはいけない。鉄の枷くらいなら普通にねじ切る事が出来るのである。


 《いえ、それは魔獣用に使用される特別な鉄と魔術回路を使用した特製の手枷ですが。》


 ……馬鹿力って素敵。



「自分で外せるので大丈夫です。お気づかいありがとうございます。」


 シュティの言葉を雑に流し、目の前にいる三人に対してそう言って話を強制的に終わらせた。


「あー、ほらー、もたもたしてるから彼が外しちゃったよー。残念だったねー」


「我らが君、御手を煩わせてしまい申し訳ございません。」


「うふふ〜、少しくらい手を握らせてくれてもよかったのにぃ〜、いけずね〜」


 俺の行動に対して、目の前の三人はそんな事を話している。


 ……なんか、初対面なのに俺に対する好感度高くない?これだとまるで俺に触れるチャンスだと思ってた、とかそんなくだらない男の願望抱いちゃうよ?


 《間違っていませんよ。》


 おい、やめろ。頼むからそこは黙ってくれ。背中がかゆくなるだろ。普通に嬉しいんだよちくしょう。


 《えぇ……》



「えっちゃん取り繕ってるけどー、内心ちょっと残念だと思ってるでしょー?」


「いえ、その様な不遜な事は全く。」


「ほんとー?」


 へらへらと緩い雰囲気で笑う黒髪の女神が瞳からハイライトの消えている柴髪の女神と会話している間、俺は周りがざわついている事に気がついた。


「なんと……」「どういう事だ。」「御柱の君と聞こえたが……何がどうなっておる?」「なぜあそこまで親しげに話されるのだ?」「わざと枷をはめられていたのか……何故だ。」「逃げ出すのは容易だったという事か……」


 俺が周りの声に注意を取られていると


「あ、そーそー……そういえば、なんでタケシ君が手枷なんてされてたのかなー?」


「……確かにそうですね。」


「ここはぁ〜王に聞いてみましょうかぁ〜」


 女神達は疑問に思った事を確認する為に王へと質問をすることに決めたらしい。


「ねー、人族の王さまー?」


「はっ!如何様(いかよう)にございましょう!」


「一つ質問なのですが、なぜ彼に手枷をはめていたのですか?」


「はっ、それは我らが御柱の御命令により、大罪人たるその者を……【–––ドゴォオォ!!】っっ!?」


「うふふ〜、今〜、なんて言ったのかしらぁ〜?」


 女神達の質問に答えているの王様だったが、突如としてその真後の壁に穴が穿たれた。

 壁に穴を穿った人物は、優しい表情と声をしたピンク髪の女神。その手には弓が握られている。


 わーお、意外と短気な女神様。



「は、は……で、ですので…….我らが御柱が大罪人として認定されているその者を王都まで連行する為に……「もう結構。」


 萎縮した王様の話を今度は柴髪の女神が遮った。


 おいおい、話は最後まで聞くものだぞ……


 《…………》



「ねー、色々とおかしいなー……わたし達は一言も彼が大罪人なんて言ってないよねー?」


 コツコツと音を立てながら王様の近くに歩み寄るのは黒髪の女神。


「は……し、しかし……「なにー?言い訳ー?」


「いえ!とんでもございません!」


 黒髪の女神に詰め寄られた王様が冷や汗をかいている。


 あれ、なんだか話の雲行きが怪しくなってきた……


「あの御方は我らが主の夫にして我らの救世主です。

 それ故にあの御方をここまでお連れする様に言い含めたのですが……それを事もあろうに罪人扱いし、手枷をはめるなど言語道断。」


「!?」


 俺が話の流れる先を案じていると、柴髪の女神が追い込みをかけている。

 そして、彼女の声色からして明らかに怒っている。


 ……なんかヤバそうな雰囲気だし、話を変えようか。

 王様もこんな大人数の前で詰め寄られてなんだか可哀想だし。


 そう思い、俺は立ち上がって口を開く。


「あのー、お取り込み中にすみません……俺は貴女方とは初対面のはずなんですが……どこかでお会いましたか?」


 とりあえず、空気を読んで空気を読まない発言をしてみると


「あー!そーいえば!まだ挨拶してなかったねー……これは失敬(しっけ)ー」


「はっ!申し訳ございません!……我らが君を疎かにするなどあってはならない事でした。」


「うふふ〜、それじゃ〜挨拶を致しましょ〜」


 見事に三人ともこちらに注意を向けてくれた。


 黒髪の女神はハッとした表情の後にへらーっと笑い、柴髪の女神は淡々とした表情のまま、ピンク髪の女神は穏やかな微笑みで応える。


「じゃー、順番はどうするー?」


「どうぞ、お先に。」


「わたしは最後でいいわぁ〜」


「おっけー、ありがとー」


 三人は話をしながらこちらに歩みよってくる。


 やがて俺の前に到着すると


 –––ザッ……


「あぁ……うん……」


 三人は同時に跪いた。

 それはまるで祈りを捧げるように。


 そして、黒髪の女神が言葉を紡ぐ。



「最上位神が一柱。

 名をエルピス。司るは【希望】

 この世界の均衡を保つ為、等しく光を与え、絶望より救う使命を拝命しております。


 我が名、どうかお見知りおきを。」



 エルピスと名乗った黒髪の女神。

 どうやら、彼女は【希望の女神】らしい。



「最上位神が一柱。

 名をヴェーラ。司るは【信仰】

 この世に在る信仰を尊び、信仰高き者に等しく応える使命を拝命しております。


 我が名、どうかお見知りおきを。」



 次に名乗ったのは柴髪の女神。

 ヴェーラという名前の彼女は【信仰の女神】のようだ。



「最上位神が一柱。

 名をシャリテ。司るは【博愛】

 この世を、万物を等しく愛し、慈愛の光を与える使命を拝命しております〜


 我が名、どうかお見知りおきを〜」



 最後に名乗ったのはピンク髪の女神。

 優しい声のシャリテは【博愛の女神】か……なるほど、雰囲気的にも納得。



 《主様、これは神名開示の簡易契約です。いかがなされますか?》


 あぁ、そういえばラウが前に言ってたな……『神様が名前を明かすのは絶対的な信頼を寄せる証だ』、みたいな事。

 ……って、あれ、こんな大勢の人が居る前で暴露しちゃっていいの?


 《問題ありません。

 通常、神は本当に名を明かしたい相手にしか名前が聞こえないように認識阻害をかけています。それに、元より現在話しているのは神の言語なので人は理解できません。

 ザックリ表現するならば、『無線機の周波数が違ううえに暗号化している』といった感じです。


 故に、この場において、名を聞く事が出来るのは主様だけです。その重要度は最上位神として共に肩を並べる彼女たちであっても互いに必ず愛称でのみ呼ぶ程です。》


 ……うん、ここまでされるとちょっと引くわ。

 まぁ、でも、簡易契約ならローナも許してくれるよね……?ベルは大丈夫だったし。


 《よろしいのですか?》


 彼女たちから借りてる《権能》にはかなりお世話になってるから……断るのも悪いかなって。


 《では、契約を交わしますのでいつも通りわたくしの言葉を復唱してください。》


 了解。


「汝らの名、確かに聞き届けた。

 【希望】よ、【信仰】よ、【博愛】よ、我が名と共に友と在れ。」


「仰せのままにー」


「御心のままに。」


「ありがたき幸せぇ〜」


 シュティが言う通りの言葉で俺が応えると、彼女たちは最後に顔をあげて笑った。

 その時、俺の中で何かが繋がった感覚がした。


 《簡易契約成立です。それに伴い、互いに魂の繋がりを得ました。主様から彼女へと魔力的なアクセスが可能になります。しかし、逆は基本的に不可能です。


 あくまでも、彼女たちに対する命令権限を手に入れたと思ってください。》


 ベルの時にはなかった感覚だな。


 《黒き神の方は本当の名を明かしていませんので。

 しかし、今回は名を明かしている為にパスが繋がりました。》


 納得した。こりゃあ悪用厳禁だな。


 俺がシュティから説明を受けて納得していると、唐突にヴェーラが口を開いた。


「さて、我らが君にご挨拶も済みましたので話を戻しましょう。」


「うぇ……?」


 うまく話をそらした気になっていたが、どうやら全くもってそらせていなかったようだ。

 ただ単に話を先送りにしただけ。


 その事実に対して、俺は驚きに固まる事しか出来なかった。


「じゃー、【最上位神議会】開廷(かいて)ー」


 ヴェーラに続いてエルピスが何かを宣言する。


「わ、我らが御柱よ!どうかお待ち下さい!!」


 その瞬間、王様が焦燥を隠さない声で叫ぶが


「あはっ、君に発言権とかないからー」


「っ!!……!、っ!!」


 エルピスによって強制的に口を封じられてしまった。

 いったい、どんな手段を使ったのだろうか?


 《魔法で発声が出来ないように封じられてますね。》


 いやそれ解説してる場合かっ!?


 俺がシュティにツッコミを入れていると



「対象は〜この王都ねぇ〜」


「我らが君への暴行、並びに冤罪。よって、罪状は不敬罪。

【信仰の女神】の名の下に提出します。」


 冷静な声が残忍に



「【希望の女神】の名の下に承認(しょーにーん)。」


 緩やかな声が淡々と



「【博愛の女神】の名の下に承認よぉ〜」


 柔らかな声が冷徹に



「「「議題可決。神罰執行用意。」」」


 あまりにも唐突に理不尽な罰を下す号令をかけた。



 〈〈〈複合権能発動承認 【神罰】執行用意〉〉〉



 その後、シュティとは別の無機質な声が響き、頭上からとてつもない圧迫感に襲われた。


 城の中にいてなお、魔力の塊が空に浮かんでいるのが嫌でも理解出来る。

 肌を突き刺すような存在感は本能に警鐘を鳴らす。


 権能《眼》で空を見上げると、そこには王都の空を覆い尽くす巨大な魔法陣が鎮座している。


 明らかにヤバい、そう思った俺は咄嗟に声を上げる。


「待て!いきなりそれは理不尽だろ!今すぐ止めろ!」


「承服致しかねます。我らが君への行動は万死に値しますので、この程度の罰は受けて当然です。」


「ふ、不敬って……それより!この程度ってなんだ!」


 彼女の言う不敬の意味がイマイチ……いや、全く理解出来なかった俺はシュティに声をかける。


 なぁ、シュティ!王様の俺に対する行動って間違ってたか!?さっき、俺が聞いた通りなら王様の判断は間違ってなかったと思うんだけど!!


 《……そうですね、ここはあえて客観的な意見を述べます。

 人族として、この国に君臨する者としての行動、という意味であればその者に間違いはなかったかと。

 むしろ、賞賛されるべきです。


 その証拠としてこの城に入る前に、そして入ってから人を見ましたか?》


 いや、見てない……驚くほど人気がなかった……


 《それは、例え主様に暴れられても建物と最低限の人的被害で抑えられる様に使用人や住民たちを王城および王都中心部から外部に避難させているからです。》


 じゃ、じゃあ、さっきの女神たちと王様の話から察するに……


 《単純なコミュニケーションエラーです。

 初歩中の初歩でありながら致命的なミスとなりえ、誰もが一度は経験する些細な事ですね。》


 り、理不尽過ぎるだろっ!?

 それに、誰がどう見ても最高の王様じゃねぇか!それに貴族だけは逃げてないし!かなり模範的な国家体制じゃん!



 〈()()()()()()()()()を確認。()()()()()()()()()を確認。〉



 俺があまりの理不尽さに怒りを覚えていると


「!?」


 突然、空を覆う魔法陣から放たれる威圧感がより一層増した。


 それはもはや、空そのものが地上を押し潰そうとしているかの様。


 やがて、女神たちが言葉を紡ぎ始める。



『我が愛はこの蒼穹、其は光番える大弓。』


『我が信仰はこの光、其は槍と成りて地を穿つ。』


『我が希望はこの(まなこ)、其は(たが)わぬ裁定の軌跡を見ゆ。』



 俺が見た空の魔法陣は言葉の度に形を変化させ



『『『悪しきは此処(ここ)、誉は何処(いずこ)』』』



 やがて白い光の槍を番えた大弓へと姿を変えていく。


 アレがここに放たれるのはマズイ、そう直感した俺は声をあげる。


「おい!今すぐそれを止めろ!!俺はそんなこと認めない!!これは命令だ!」



『『『鳴呼、我らが光は誉の焔。

 其は空を翔け、地を焼き、海を裂く、始原の光。』』』



 しかし、彼女たちは聞く耳を持たず詠唱を続ける。

 おい命令権!仕事しろ!


 《あの……主様、非常に申し上げにくいのですが……》


 なんだ!


 《その……『最上位神全柱』と『創造神』が神罰執行を承認しています……ですので、命令権があっても止められません。》


 Oh,my Gods!!

 ローナとラウまで!?何やってんの!?


 《アルラウネは人族が嫌いですから今回出るであろう被害などは気にしないのでしょう。

 そして、これはアルラウネにも当てはまる事なのですが、創造神は今現在、基本的に貴方様の為にだけ行動しますので……》


 これラウが前に言ってた神の独善性ってやつか!!

 こんな事になるとか……まじか!ほんっとマジか!!


 忘れていた、というよりもあまり気にしなくてもいいと考えていた事柄が今回の要因の一つである事を知った俺は頭を抱え、語彙力を喪失する。


「タ、タケシ…君……君は、い、いや、貴方はいったい……?」


 俺が後悔と焦燥に駆られていると、ルイスさんが恐る恐るといった様子で話しかけてくる。


「えっと……後で説明します!あと、口調もいつも通りで大丈夫です!

 それよりルイスさん、アレ止められますか!?」


 天井を指差しながらルイスさんに問う。


「わ、わかった……あと、率直に言って止めるのは無理だよ。

 いくらなんでもあの規模の魔法を打ち消すのは不可能だ。時間も魔力も足りなさすぎる。

 仮に僕とケーニヒが本気で迎え撃っても全最上位神様の力には敵わないよ。」


「……じゃあ、魔力と時間があればなんとかなるんですね?」


「……ごめんね。僕は最上位神様方に逆らうつもりはないんだ。」


「……わかりました。」


 俺の言いたい事を察したルイスさんだったが、信仰が厚いらしく、キッパリと断られてしまった。

 信仰心というものを甘くみていた。


「あぁ……なんという事だ……」「もう、おしまいだ……」「これも御柱の御意志とあれば致し方ない……」「そう、だな……」


 ふと、周りを見渡すとそこにはひどく動揺し、絶望に膝を折る多くの人々がいた。中には諦めの表情で祈る人もいる。


「っ!!」


 それを見た俺はかつて(絶望)()を思い出す。

 運命にあっさりと殺された両親

 理由もわからないまま姿を消した大好きな人

 絶望と虚無に暮れた日々を過ごし、色彩を失った世界。


 理不尽な運命に殺された過去(トラウマ)が蘇る。


 だが、それ以上に俺は……


「あぁ、ちくしょう!こんなもん止めるしかないだろ!!理不尽過ぎる!!よくも余計な事を思い出させてくれたな!!」


 あんなくだらない理由で誰かが絶望しなければならない事に

 こんな些細な事で誰かにとっての大切な人が殺されてしまう事に

 激しい怒りを覚えた。



 きっと、全てに絶望した過去の自分を重ねてしまったのだろう。



 事実、かつては『現実を変えられる程の力があれば。』などと幻想を抱いた。

 だが、それは不可能だと、諦める事しか出来なかった。そんなものは存在しない、それが常識だった。


 でも……今は違う。

 今の俺なら全力を尽くせば止められるかもしれない……シュティ、どうだ?


 《そうですね………可能ではあります。》


 なら十分だ!やってやるさ!やるともさ!俺も原因の一部ならなおさらだ!


 《ですが、彼女たちは立場的に主様の部下ですよ?主様の為に行動しているのですよ?》


 それが間違いだ、と言っているんだ。

 あの女神たちの意思表示があの魔法だというのなら、俺もまたそれと同じ様に意思表示をする。


 それに、世間では部下の不始末を片付けるのが上司の役割だというだろう?なら、例え初対面でも部下のミスは俺のミスだ!

 全部責任持って片付けるしかないだろ!


 《!……ふふ、主様らしいです。》


 そりゃどうも!



「お前ら後でお仕置きだからな!!覚えとけよ!!」


「し、シミズ君!?なにを!?」


 俺は捨て台詞を吐きながら翼を広げ、空に転移した。




 転移した俺の眼前には澄み渡る青空に浮かぶ魔法陣。

 それは幾重にも重なった全てを滅ぼさんとする理不尽の具現。


「……マジかこれ……いけんの?」


 まるで小さな太陽とでも言わんばかりに燦爛とした魔法陣を前に、再び言葉を失う。


 《やるしかない、そうでしょう?》


「は、ははっ、それもそうだな。」


 シュティの少しいたずらっぽい声に笑って応える。


「……ちくしょう、あいつらのお仕置きかなりキツめにしてやる。」


 少しだけ愚痴をこぼしながら。



「さて、どうしたもんか。」


 《当然ですが、まず魔力を全開にしましょう。

 そして、今まで貯蔵してきた余剰魔力の2割をブーストの為に使用すれば威力としては申し分ありません。》


「権能は使ってもいいか?」


 《使用しても構いませんが、それだと威力を相殺しても爆風だけで王都が吹き飛びます。

 それに、現在空に浮かんでいるのは複合権能であるうえに、本人が真名で使用している為、簡易契約の状態でこちらが使用しても本来の威力を発揮できません。》


「え?じゃあ、どうしよう……」


 《考えてなかったのですね……》


 呆れた声色のシュティに、俺はなにも言えない。

 あまりの急展開に流石の俺も冷静になりきれていないのだ。


「……よし!じゃあ、ノリと勢いでやってみよう!」


 仕方がないのでいつも通りに。


 《はい……?》


 俺のバカな発言にシュティは間抜けた声を出す。

 だが、見上げる魔法陣は今もなお光度を増し続け、見るからに発射態勢へと移行している。もはや、迷う時間などない。


「魔法ってのは想像して創造するんだろ?これまでも何となくでやってきたんだ。なら大丈夫!」


 《っ!?》


 シュティの反応が返ってくる前に俺は言葉を紡ぎ始める。



『我は三千世界に漂うモノ

 明けの明星に愛を探し、夕闇に恋を謳う』



 自然に出てくる言葉。

 きっと、これは俺の想いをそのまま形にしてくれる。



『しかして我が世界に光はなく、闇もなく

 在りし日の絶望に焼かれ、焦燥に焦がれ、理不尽に燻る灰の野火が一つ』



 突き出した手の平、そこには灰色の弾丸が一つと魔法陣で組まれたライフル。

 それは俺自身を体現したナニカ。



『故に俺は理不尽を憎み、絶望を拒絶する!』



 俺の魔力回路を銃に接続し、魔力をありったけ注ぎ込むと、弾丸はライフルに装填され、空に口をもたげる。

 それは魔法のようであり、権能のようなナニカ。



『この空に在りしは誉に非ず!

 惨憺(さんたん)たる理不尽の具現にして虚構の威光!』



 銃口の先に現れた数多の魔法陣が照準を定め、一つに繋がっていく。


 俺はこんな理不尽を絶対に認めない!

 その思いを込めて……全力で撃ち出す。



灰よ(Ash)(of)無窮なれ(World)!』



 –––ダァァンッッ!!


 俺の想いを込めた弾丸は空めがけて撃ち出された。

 翔け上がる弾は高度を上げる度にその速度を落とすどころか加速していく。

 それはまるで、世界の全てを振り切っていくかの様に。


 だが、それと時を同じくして空は咆えた。



『『『光降る日(Downfall)』』』



 幾千もの極光放つ白槍が地上に向かって空をくだる。


「なっ………!」


 それを見て思考が停止した。


 俺を避けて通り過ぎる白い雨はとても美しく、幻想的だった。

 しかし、あんな物が地上へと到達してしまえば大惨事になる事は必定。


 や、やって……しまった……撃たせない為の攻撃しか、考えていなかった………駄目、だったのか……?力が……あっても?

 どうにか、どうにか出来たはずなのにっ!?こんな……こんな時に限って!!


 《ご安心ください!主様がわたくしの補助なしに魔法を放ちましたので、こちらで防ぐ手立てを実行出来ました!》


 浅はか過ぎた考えに対する後悔と絶望に思考をのまれかけた俺にシュティは割り込む様に言葉を発した。



 刹那、白い雨は俺のすぐ下で炸裂する。


 –––ドゴォッ!!ダァンッ!!ダラララッッ!!


 幾千もの槍が地上へと到達する前に勝手に自爆している。

 権能《劔》で作った盾とは少し毛色が違うが、防げた事に変わりはない。


 《ふぅ……間に合いました。》


「あ、ありがとう!シュティ!シュティが相棒で本当に良かった!」


 《感激の極み……そして主様、空を。》


 あ、そうだった。あれはどうなった!?


 急いで見上げた空で見たモノ。

 それは俺の放った弾丸が魔法陣を貫く瞬間だった。


 絶え間なく光の槍を降らせ続ける星のような魔法陣に着弾した瞬間、それは()()()()()


 同時に魔法陣はピタリと雨を止め、静かに崩壊し、霧散していく。

 その光景はまるで、燃え尽きた灰が風に舞うよう。



 《複合権能の完全停止を確認しました。》


「よ、よかった……」


 シュティの報告に胸をなでおろしていると


「あ、れ……ちから、が……?」


 急激に体中の力が抜け、今度は俺が空から降る羽目になった。


「…ぁ…ぅ…」


 思考する余裕さえない。

 漠然とした意識の中でなす術なく落下していく。


 《主様!今お助けします!》


 そのシュティの一声と共に、俺は王様たちがいる場所へと転移した。





作者「どうも!採用時の枠から明らかに外れた部署に配属されてびっくりするほど憂鬱な作者です!

善意の凶器とはまさにこの事!ちくしょう!持病なんざクソくらえ!」


隊長「どうみても元気だろ。それに、言い訳はなしなんじゃなかったのか?」


作者「言い訳じゃない!泣き言だ!」


隊長「……もはや何も言うまい。」


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