黒きモノ
お待たせしました!待っててくれてありがとう!
代わりと言ってはなんですが、若干長いです!
晴れ渡る大空に和やかな風が舞い、広く自生している青草が揺蕩う昼下がり。
爽やかだが独特な草の香りと、ほど良く湿った土の香りが鼻腔をぬける。
「この辺りでよろしいでしょう。」
「わかりやした。」
「わかりました。」
俺はプーロさんと模擬戦を行う為に領地から10kmほど離れた地点に移動してきた。
審判役としてセル爺さんが来てくれている。
他にはギャラリーとしてルイスさん一家とローナ達にフェルとサティ、リンドブルム騎士団の副団長であるクレアが来ている。
ただし、模擬戦とはいえ龍族と化物の戦闘なので、安全の為に500mほど領地方面に退がってもらっている。
一応、俺の権能でボックス型の防御壁を展開してはいるが、念のためだ。
あ、それとなぜ騎士団のクレアが来ているかを説明すると、リンドブルム騎士団の戦空隊に周辺警備をしてもらっているからだ。彼女はその責任者として来ている。
警備してもらっているのは、冒険者や商人が付近にいた場合、危険なので速やかにその場から離れてもらうため。
「戦空隊の皆さんに流れ弾を当てないようにしないといけませんね。」
まだ人の姿をしているプーロさんに話しかける。
「なはは!大丈夫でやすよ!あっしがワイバーンに一定の距離を保つよう言ってありやす!
龍族に似た魔獣でやすから、その辺りはお任せくだせぇ!
それに、セル爺もいやす!」
すると、プーロさんは快活に笑い飛ばして言った。
なるほど、騎士団がどうしてワイバーンを扱えているのかが今わかった。
ワイバーンの上位存在であるプーロさんがいるからか。納得だ。
そして、安定の信頼を誇るセル爺さんである。
「では、ご両名。ご準備を。」
一人で勝手に納得していると、セル爺さんが口を開く。
「んじぁ、タケ坊!ちっと離れてくんな!」
「?、あ、はい。」
すると、プーロさんがおもむろにそう言ってきたので素直に距離を取る。
「さぁて、解除っと!」
「!?」
解除、そう口にしたプーロさんは一瞬眩しい光を放った。
唐突な光に思わず目をつむった後、再び目を開けると
「……おぉっ!?おおおぉぉぉおぉおおっ!?」
そこには全長70mはあろうかという巨体を誇る一頭の黒龍が堂々たる姿で顕現していた。
龍の姿も人型に近く、黒く煌めく外殻はまるで甲冑をまとっているかのよう。
魔力も人と比べ物にならないほど放出している。
そして、黒龍はまるで泉を飲み干すかのように空気を飲み込み始め
【ゴガァァァッッ……ユ、ユニバァァース!!!?】
「えっ、ちょ、口から大猿の頭が………!?」
[ピンポンパンポーン]
–––ただいま、映像が乱れております–––
長閑な草原を駆け抜けるフェル、それを眺めるローナやラウの笑顔を思い浮かべながら少々お待ちください。
「ガウっ!!」
えー……ちょっとトラブルがあったけど続行!
黒龍は何事もなかったかのように振る舞い、まるで泉を飲み干すかのごとく空気を飲み込み始め
【ゴガァァァァアアァアアアアァアアアァァァ!!!!!】
「っっ!!」
大空を引き裂くような轟音で咆えた。
その咆哮は大気や自生する草花を屈伏させ、地面でさえも恐怖に揺れる。
肌をビリビリと刺激する音は心臓の鼓動をかき消し、体が音に震えているのがはっきりとわかった。
そんな俺を押し潰さんとする音の洪水を全身に浴び、俺は感動と興奮に心を踊らせた。
かつて、ローナが見せたあの絶対的な強者の姿が脳裏によぎる。
これこそが正に【威風堂々】!!
そう表さずしてコレをなんと表せるというのか!
アドレナリンの放出を感じながらも
【タケ坊!準備はいいでやすね!!】
「いや、話せるんかい!?」
思わず出たツッコミ。
悲しいかな、こればかりはどうにも直らない。いや、これもまた本能だ。
「って、そうじゃなくて!……えぇ、えぇ!もちろんです!」
気を取り直し、背中に翼を展開しさせ、権能《弓》を片手に答える。
「よろしい。では、始めっ!!」
俺とプーロさんの臨戦態勢を見て、セル爺さんがタイミングよく言い放った。
【ガァァ!!!】
「えっ、ちょ!?色んな意味で速っ!?」
刹那、プーロさんはその巨体に見合わなぬ速度で拳を叩き込んできた。
意表を突いた初撃に驚きつつも、回避行動をとる。
–––ドゴッォォォオォオオォォ!!
凄まじい轟音と砂塵を降らせた一撃は
「うわぁ、クレーターできてる……」
ドン引きするくらい見事なクレーターを作った。
地面に拳の型をつけるってなんだよ……足跡じゃねぇんだぞ………
そんな呆れも束の間
【よそ見ですかい?そいつぁは危ねぇですぜぇ!!】
そう言ったプーロさんは長い尻尾を鞭のようにしならせる。その尻尾は巨大さ故に少しスローに見えるが、大気を切り裂くほどの速度は出ている。
先ほどは点の攻撃だったが、今度は線の攻撃。
なるほど、ここは転移を使用しなければ間に合わない距離だ。一度防いでみるか。
「ラウ・ファン○ル!!」
《それはダメなやつです!》
シュティの制止の声も聞かずに危険ワードで危険を回避しようと試みる。
–––ガギィィイィイイィィ!!!
【!、らぁぁっっ!!!】
「な!?…ぐっ!!!」
–––ズバァァァァァァンンッッ!!
しかし、尻尾の打撃を防いだのはほんの一瞬だけであり、プーロさんはそのまま振り抜いて俺を盾ごと吹き飛ばした。
空間そのものを叩きつけられたような錯覚すら覚える。
「うっはっ!威力ヤッベェ!?」
空中で姿勢を立て直した俺は先の攻撃の威力に言葉をもらす。
【防御するだけてすかい!?いいや!兄貴に勝ったタケ坊の実力がその程度なわけがねぇ!!】
「もちろんですよ!!」
プーロさんの言葉に対して俺は答える。
シュティ!魔力制限一段階解放だ!
《承知しました。
【安全制御機構・一段階目解放】魔力解放率35%》
35%とはいえ、すでに普段のラウよりは出力を出している。
今、この時だけは魔力と共に高ぶる心を抑える必要はない。
「さぁ、いきますよ!」
自然と口角がつりあがるを感じながら《弓》をつがえる。
【あぁ!そいつぁいい!!獰猛な獣の笑みでさぁ!!】
「《弓》よ、やつを地に叩き墜とせ!」
番えた弓から放たれるのは淡い白色の一線。
–––パシュ!シュゥゥウゥ!!!
弦が空気を引き裂く音と共に矢はプーロさんめがけて飛翔する。
【そんな小さい一撃が効くとでも!!】
–––パァン!!
しかし、矢はプーロさんの外殻で覆われた腕に弾かれるだけだった。
「すげぇ……でも、おかわりなら、まだまだありますよ!」
それを見た俺は新たな弓を放つ。
–––バシュュ……ッッッッ!!ゴォォッッッッ!!
新しく放たれた弓はネズミ算式に増加し、即座に音を置き去りにした。
それは言うなれば音速の矢嵐。
【!!】
プーロさんはそれを真正面から受ける。
–––スダァァンンッッ!!
弓の着弾音とは思えない轟音。
【なははは!!効かねぇなぁ!!】
《損傷軽微!!》
しかし、プーロさんは快活に笑いながら空に上昇していく。
マジかよ。
【今度はあっしの番でさぁ!!】
プーロさんはそう宣言した後、口元に魔法陣を浮かび上がらせる。
「ブレスか!?マジかよ!!カッケェ!!」
【なはははは!!タケ坊、余裕でやすね!とりあえず、こいつをくらってみなぁ!!】
危機感皆無の俺にプーロさんが笑う。
ノリの軽いやり取りとは裏腹に、プーロさんの発現させた魔法陣に魔力が集い、次第に熱量をもって膨張していく。
【轟き渡るは勝利の咆哮!
これなるは龍の凱歌なり!
撃滅せよ!『惨禍の唄』!!】
やがて放たれる黒炎は
–––GAAAAAAAAAAAA!!!!
名状しがたい音を撒き散らしてこちらをのみ込まんとする。
「A.T.フィー○ド!!全開ッッ!!!」
《それで拒絶されるのはこちらの方です!!》
シュティの指摘を拒絶して魔力を盾に注ぐ。
白亜の城壁がごとく、淡い白色の盾が眼前に展開される。
–––ゴァァアァァァァアァァァ!!!!
そして、盾と炎がせめぎ合う。
【なははは!!!すげぇ!!すげぇですぜぇ!】
プーロさんは余裕綽々といった様子で笑う。
「ッッ……まだまだぁ!!」
対して、俺は想定していた以上に押されている。
「意外と気力的なモノを持ってかれるなっ!」
《それ魔力です!》
「そうだった!よし、押し返すか!!」
今度は魔力を全力で流し込んでいく。
–––ッッッッ!!
拮抗する炎と盾だったが
–––シュゥゥウゥ!!ゴァァア………
唐突に炎が途切れた。
炎が途切れたその刹那
【なはははは!!!完全に防ぐとは流石でさぁ!!】
肉薄してきたプーロさんが拳で盾を殴りつける。
–––ガギィィォイイイィッッ!!
【かってぇ!?なんでぃこりゃぁ!?】
それを弾くとプーロさんは驚きの声をあげる。
「自慢の奥さんがいるもんでね!!負ける訳にはいかないんです!!《劔》よ!斬り裂け!」
ラウに感謝しながら、接近してきたプーロさんめがけて俺は権能《劔》を本来の意味で使用する。
【そんなもの……】
–––ザシュッ!!
【なぁッッ!?】
腕で防ごうとしたプーロさんの外殻を紙切れのように斬り裂いた。
「このまま押し通す!!」
警戒心からか、少し離れたプーロさんに肉薄する。
【こいつぁ、うかうかしてられねぇなぁ!!】
「うぉぉうっ!!?」
しかし、プーロさんはその巨大な腕で凄まじい速度の乱撃を繰り出す。
–––ギィォン!!ガギィィ!!ギャリリリッッ!!
うっ……防ぐので手一杯だな。
バケモノの身体能力のお陰で防げてるけど、反撃する隙が見当たらない。
全くといっていい程にまともな戦闘経験のない俺は自身の身体能力を活かす事が出来ない。
例え、戦っても基本的にロングレンジ戦法なので接近戦は無理がある。
《流石に戦闘時において常に冷静な判断は難しいようですね。》
うん、接近戦は無理だ。経験がなさすぎる上に、技術もない。
ここはいったん離脱しよう。
《承知しました。》
結果、転移を使用してプーロさんから離れる。
【ほぉ!そんな事まで出来るんですかい!】
俺の転移を見たプーロさんは感心の声をあげる。
「あはは、使っておいて言うのもおかしいですけど……反則ですよね。コレ。」
苦笑しながら言う俺に
【実戦なんざ生きるか死ぬかの一択でさぁ!反則もクソもねぇ!!】
プーロさんは責め立てず、そう言葉を返してくれた。
「ありがとうございます。」
【で、タケ坊自身が反則だと思ったのに使ったのはどうしてですかい?】
「簡単ですよ……俺には接近戦は無理みたいです。
そして……今から全力で貴方に撃ち込みます。」
質問に答え、再び《弓》を番える。
【なはははは!!!そいつぁいい!!撃ち込んでみなぁ!!】
すると、プーロさんは好戦的な声色へと変化した。
彼もまた翼を広げ、再び魔法陣を展開する。
『我が放つは想いの一矢!
我が妻たちに勝利を捧げよう!』
番えた矢に光が収束していく。
『燦爛たる想いの具現!』
煌々と輝きを放つ矢。
あとはもう、指を離すだけ。
『貫き《Unknown、急速接近!!》っ!?』
–––ギャリィッッ!!!
《弓》の一矢を放たんとするその一瞬、突如として下からナニカに突き上げられた。
《主様!お怪我は!?》
ない!防いでくれてありがとう。
《当然の事をしたまでです。
それよりも、申し訳ありません。まさかこの状況で攻撃を仕掛けてくるとは……甘く見ていました。わたくしの過失です。》
シュティは気がついてたのか……ていうか、今の誰だ。
シュティと脳内で会話しながら周りを見回すと
《Unknown、後方!》
「喝ァッッッ!!」
「!?」
–––ギャリィォィ!!!
今度は背後からの一撃。
しかし、それも自動的にシュティが防ぐ。
「なんなんだ!?」
「ほぉ!やりおるわい!」
振り向いた先にはひどく好戦的な笑みを浮かべた老人がいた。
俺が老人を視界に移した瞬間
「堕ちろ!童ァ!!」
「ぐぅっ!?」
そいつは目にも留まらぬ速さで槍を下方に振るった。
状況を把握しきれていない俺は凄まじい威力のあまりに、そのまま地面へと急接近する。
「クソッ!地面にキスはごめんだ!」
地面にぶつかる寸前で落下を止めると
「その身のこなし……見事なり!」
そこには人型爬虫類の様な人物が腰を低くして待ち構えていた。
「いや誰「斬り捨て御免!」
–––ガギィィ!!!
「刀!?あぶねぇ!!」
問答無用で斬りかかられるが、なんとか防いで距離をとる。
《北西より攻撃飛来!!》
忙しいなぁ!?
–––ガンッ!ギンッッ!!ギギンッッッッ!!
考える暇もなく今度は氷の矢が複数飛んできた。
「後ろ、がら空きだぁ!」
「ケモ耳親父!?つか、誰!?」
–––ドゴォァッ!!
「いでぇ!!おらの拳がぁ!?」
誰かは知らんが、カウンター効果のある盾を素手で殴ったんだ。そりゃ痛いに決まってる。
《そんな事よりもこの状況は何でしょうか?》
さぁな!俺にもよくわからん!
とりあえず、こいつだけでもぶん殴っとくか!
『風槍殺陣!!』
そんな余裕もつかの間、今度はケモ耳親父の後ろから数えきれない量の魔法が飛んでくる。
「ファ○ネル!叩き斬れ!!」
回避行動を取りながら権能で全て落とす。
「はぁ……なに?ほんとなに?」
複数人から急襲されて乱れた息を整えながら辺りを見渡そうとすると
「喝ァ!!」
「またか爺さん!?」
槍を持った老人が素早く突撃してくる。
–––ギィィォイイィンン!!
槍を盾で受け流すが
「ツツジィ!!クラフトォ!!」
「承知!!」「んだぁ!」
「うそぉ!?」
老人の背後から人型爬虫類とケモ耳親父が飛び出てくる。
「でぇぇい!」「んだらぁ!」
左右からの挟撃。
「だから誰!?ねぇ、誰!!」
–––ギュイィィンンンッ!!
盾で防ぎ、叫びながら疑問を口にするが
【なははは!!なんですかいこりゃあ!】
「俺が聞きてぇ!!」
プーロさんが笑って見ているだけ。
「ぬんっ!!」
「だぁ!!」
「えぇい!!」
–––ギィンッ!!ガギィィッッ!!ギャリリリ!!
止まらぬ猛攻の中、ふと疑問に思った。
あれ、そういえば援護射撃がこない……?
直後、シュティが口を開いた。
《主様!後衛と思しき二人が!!》
「!?」
視界の端に映像として移されるのはローナ達が居る場所に向かっている青い髪の人物とこげ茶色髪の人物。
それを見た瞬間
–––ドクン–––
俺の中で【ナニカ】が鳴動した。
【マタ、失ウノカ?】
そんな考えが浮かび、脳裏に焼きついた絶望が俺をのみ込む。
『生きて!』
車とオイルの焼けるむせ返る臭いと絶望
『さようなら。』
心を焦がすのはあの時の後悔
………させない。
間違えない。
もうニ度と……失わない。
失ってなるものか!
【承認[code 96953]プログラム《マリーゴールド》解凍】
あぁ、視界に映る三人の動きがひどく遅い。
まるで、時が減速したかのよう。
《!?
主様!お気を確かに!!自我を保ってください!!》
悲鳴の様に、縋りつくように、俺に言葉をかける声は遠く。
胸の内側からどす黒い感情が溶岩のように重たくドロリとこぼれる。
【……ロサ…バ…】
別の声が…聞こえる……
《今はまだダメです!!どうして!?あまりにも早すぎる!》
【コ……ナ…レバ……】
え……?なんだって……?よく、聞こえない……
意識の水面から遠ざかる……ゆっくりと、沈みゆく船のように……ドロリ、ドロリ、と心がのみ込まれている……
《主様!主様!!
シ、システムチェックを……!!……あぁ……そんな……今すぐっ、今すぐ取り除かないとっ……!》
【コロサ……レバ……】
だから、聞こえないって……
《間に合わないっ……!?なら、発動からすぐに収束をっ……!!》
【コロサ…ケレバ……】
あと、もう少し……もう少しダ……
《そんな!安全制御機構が全段階解放!?っ!ま、魔力膨張が……止まらないっ!
全演算能力行使!未来予測演算及び該当ルートの検索!定義乖離修正!
大丈夫……大丈夫っ……並行的進行はない!ここから派生する分だけを全て計算すればいいっ!!隙を……隙を見つけて……!!》
【コロサナケレバ……】
あァ、ウん……今度ハしっかリ聞き取レタ……ソウダナ、コロサナイト。
「フ、フフッ……」
青年が灰暗い笑みを浮かべた。
–––ザシュッ!!ゴリャッ!!ズジャァ!!
そして、防御を解いて全員の攻撃を一身に受ける。
「なんと!?」
槍は足に突き刺さり
「んだ!?」
拳は腹を直撃し
「血迷ったか!」
刀は肩を裂く。
突然の行動に驚きを隠せない三人。
「誉レノ君、祝福ヲ……古キ君ヘノ想イハココニ………【■◼︎◾︎◼️■■◾︎◼️】」
そして、青年は何事もなかったかの様にして誰かに言祝ぎ、口ずさむ。
しかし、青年の瞳は澱みきっていた。
刹那、まるで暗闇を凝縮したような黒い槍が四人を取り囲む。
そこに逃げ場はない。空を見上げてもあるべき色は見えず、ただただ黒いだけ。だが、それらは言い知れぬ威圧感と独特なオーラを纏っていた。
そして、青年からは先程とは比べ物にならない規模の魔力が放出されている。
「こりゃマズイわい……殺意の塊…いや、その具現化とでも言うべきかの。」
空を見上げて一筋の冷や汗をかくジン。
「あ、あ、ぁ……」
絶望からか目の焦点が定まらないクラフト。
「クラフト殿!気を確かに!!クッ!!ならば、咎人を……おらぬ!?」
そして、ツツジは目の前に居たはずの青年が姿を消している事に気がついた。
コロス。
そう思った時、俺は淡々と、ひどく冷静で、まるでゲームをしているかのような感覚でローナ達に近づく二人の後ろに『移動』していた。
「驚いた!あなたも使えるのね!」
「どう見てもはしゃいでいる場合ではないでしょう……何ですか、アレ。」
ローナ達を背に彼らは何かを話している。
「…………」
デも、関係ない。コロス、それだケダ。
無感情に淡々と歩みを進める。
雑草を刈り取るノと同ジ。知らナいウチに虫を踏み潰シテいるのト同じ。子どもガ好奇心デ生き物を殺スのト同じ。
ダカラ、これもソレト何もカワラナイ。
「………」
音もなく踏み込む。
「消えたっ!?」
「どこにっ!」
そして、赤髪ノ人物の首メガケテ黒剣を流し込む。
剣を振るうベキ道筋ハ不思議ト体が教えてクレル。
敵ノ瞳には標的を見失った驚きしかナク、恐怖はない。ソイツはきっと、自分が死んだコトニすら気がつカないダロウ。
【フフッ……ソ◾︎◼︎イ■◼︎ヨ……】
頭にノイズがはシる。
ケレど、俺にハ関係ナイ。
ソノママ、俺は一切ノためらイなく剣を振っタ。
–––ギッィィィンンッッ!!
「!!」
シカシ、剣は受ケ止メられる。
「駄目……駄目だよ。おにーさん。」
–––ギリッギリギリッ!!
他でもナイ、ラウに。守るベキ人ニ。
彼女ハ怒った瞳で俺を見据エ、剣を手ニしている。
見タことのナイ剣。彼女ノ権能?
「………どケろ。」
デモ、関係ナイ。早くコロサナイト。
「嫌だよ。そんな悲しそうな目をしたおにーさんが誰かを殺すところなんて見たくない。
別にこの人たちはどうでもいいけど、おにーさんにそんな事はさせたくない……ううん、して欲しくない!」
なぜカ、彼女ハ俺の言葉ヲ聞く耳を持タナイ。
張り詰メタ表情デ見つメてクル。
「………なにヲ「タケシ、どうしてそんなに焦っているの?」ッ!!」
背後から言葉ト共にフワリと香ル。
彼女は俺を後ろカラ抱き込ンデ、剣を持ツ手に自身の手ヲ重ネル。
「怖がらなくていいのよ。」
ローナの甘いカオリ……
「ほら、私はここよ。ラウちゃんもいるわ。」
握りこまれタ温かイ手と、柔らかナ声……
「フェルちゃんにサティちゃん、ベルちゃんだって……みんな、どこにも行かないわ。」
とても、とても落ち着く……
《!!
影響が減衰した今ならっ!!》
【[c■d◾︎ 9◾︎◾︎◾︎3]プロ#/&《マリ€ゴー^ド》強制凍結】
《やった……!やりました!主様、主様!目を覚ましてください!》
澱んだ重たい感情が消えていく………沈んでいた意識が急浮上する。
声が……呼んでいる……?………っ!……俺は、俺は今……なぜ、あんな事をしようとした……?
《あ、あぁ……良かったっ!正気を取り戻したのですね!本当に……良かったっ……》
……すまない。どうやら、手間を取らせたようだ。
《いえ、これはわたくしの不手際です。それよりも今は……》
あぁ、わかってる。ありがとう。
正気を取り戻した俺は手に持つ黒い剣を消滅させる。
「!……おにーさん。」
「ふふ、大丈夫?」
すると、ラウの張り詰めた表情は一転して柔らかな表情に、ローナは後ろから俺を抱きしめたまま声をかけてくれる。
「……すまん、取り乱した。………その、ありがとう。」
気恥ずかしい気持ちを抑えて彼女たちに感謝を述べる。
「いいよ、おにーさんにはお世話になってるからね。たまにはお返ししないと。」
「そうそう、わたし達だってもらってばかりじゃ悪いもの。」
すると、二人は愛らしい笑顔でそう言ってくれた。
「……もらってばかりなのは俺の方だ。」
「そんな事ない。おにーさんはわたし達の知らなかったモノをくれるよ。」
「タケシはわたし達だけじゃ得られない筈のモノを沢山くれるわ。」
俺の呟きに二人が同時に反応した。
ラウの後ろでは微笑みを浮かべて俺たちを眺めるルイスさんとアリシアさんがいる。
リーシアに至っては羨ましそうに見つめてくる始末。
「……あぁ、クソ。恥ずかしい。」
思わず天を仰いで悪態をついていると
「はいはい、惚気はもう結構です。それよりも、この突然現れた方々はどうなさるおつもりですか?
殺しますか?拷問しますか?」
「ひっ……」「……窮地、ですね。」
「こりゃあ、参ったのう……」
「んだぁ……」
「なんと……」
ベルが手を叩きながら話の流れを変えた。
いつのまにか二人を捕縛しており、他の三人は距離を取ってこちらの動向を探っている。
「いやいや、すぐにそんな事しねぇよ。俺を悪魔か何かと勘違いしてんのか?
どうしてローナ達を狙ったのか聞いてから殺せ。」
「まだ殺意全開ではありませんか。」
「……当たり前だろ。お前バカなの?つか、ベルも守るべき家族の枠組みだからな?」
「………バカなのは貴方では?」
俺の言葉にベルは少し驚いた表情で返す。
「……んで、こいつら誰?」
疑問を口にするが
「さぁ?」
「知らなーい。」
「わたしも知らないわ。」
「だよなぁ……」
ベル、ラウ、ローナは揃って同じ反応を示した。
「わたしはユレン!二つ名を嵐の魔女!S級冒険者よ!なんで知らないのよっ!?」
「………」
すると、二人のうちこげ茶色の髪をした女性が口を開く。
「うん、知らないものは知らないんだな、これが。
それより、だ。なんでお前らは襲ってきた挙句にローナ達を狙った?俺の大事な人達なんだけど。」
「はっ!大罪人が偉そうに何を言うのかしら!タケシ・シミズ!王の依頼で貴方を捕まえる為に決まってるじゃない!」
「情報ありがとう。じゃあ死んでくれ。ついでに王都も吹き飛ばすわ。」
「このっ!大罪人!!」
偉そうな口をきくユレンに再び剣を向けると
「シミズ君、ちょっと待ってくれるかな?」
ルイスさんが待ったをかけてくる。
「なんですか?一応言っておきますが、私の最優先は家族の安全ですよ。」
俺の中ではルイスさん達はあくまでも他人でしかなく、ローナ達ほどの優先度はないので釘を刺しておく。
「うん、それには同意するよ。僕も家族が狙われたら全力を尽くして死守するからね。
でも、もう少し話を聞いてもいいんじゃないかな?大罪人というのは誤解のはずだよ。あのケーニヒが何の理由もなく誰かを罪人として扱うはずがない。
セル爺もそう思うよね?」
「そうですな。シミズ様は今現在、何一つとして罪を犯しておりません。しかし、ここで死人を出してしまえばそれこそ罪に問う良い理由が出来てしまいます。
それに、この国の王は賢明な判断が出来る方です。
ここは一度、状況を整理されるのが一番かと。」
すると、ルイスさんとセル爺さんが最もな説得をしてくる。あと、ケーニヒって誰。
「………」
ローナ達に視線を移す。
「わたしは話を聞いてもいいと思うわ。」
「わたしは別にどうでもいいかな。おにーさんが居ればそれでいいし。」
「仮とはいえ、主人である貴方の意向に従います。」
三者三様の意見が出た。
シュティは?
《わたくしも話を聞くことに賛成です。それに、今の行動は貴方らしくありません。》
……わかった。過激なのは理解してるけど、どうしても………怖かったんだ。
《急いては事を仕損じる、です。
それに、今度は貴方を支える存在が多くいます。もう少し、誰かを信じてください。》
……そうだな。すまない。
「わかりました。では、話を聞きましょう。そこにいる方々もどうぞこちらへ。」
話を聞くことにした俺は剣を収め、遠巻きに見ていた三人にも声をかけた。
「ふぅ、ヒヤヒヤしたわい。」
「ご、ごわがっだだぁ。」
「ルイス殿、感謝致す。」
明らかにこちらを警戒したままの三人がルイスさんの近くへと歩みを進める。
「お兄様。」
それとは対照的に俺の方に近寄ってきたリーシアが話しかけてくる。
「ん?どうした?幻滅したか?」
冗談のように軽く笑って聞くが、正直なところ嫌われても文句は言えない。
目の前で普通に人を殺そうとしたのだから。
「いえ、わたくしはお兄様を信じております。貴方は何もしていない、簡単に罪を犯す人ではないと。」
けれど、彼女は信頼の光を灯した瞳で俺を見据える。
「ありがとう。俺自身も理由がサッパリでね。森かあの街にしか居ないのに急に犯罪者とは本当に勘弁して欲しいぜ。」
肩をすくめながら笑って応えると
「はい。……それと、誰かを守りたい、そんな想いを持つのは決して悪いことではありません。必然です。」
なんとまぁ、気を遣った言葉を添えてくるじゃないか。
「あはは、気を使われちった。さんきゅ。」
ちょっと恥ずかしいのでリーシアの頭を撫でてごまかす。
「///」
彼女もまんざらではなさそうなので良しとしよう。
「じゃあ、一度状況を整理しよう。」
そして、ルイスさんの一言で話の整理が始まった。
作者「うん、登場人物多くて扱い難しいね。」
隊長「戦闘描写も下手だな。」
作者「緻密な戦闘描写に加えてあの人数全員を発言させる。その上しっかり描写なんてしてたら余計に話が進まなくなるからやらないよ?
無駄に文字数増えるだけで読み辛さが増すし。」
隊長「安心しろ。そもそも出来ると思っとらん。」
作者「そりゃ良かったよ!ちくしょう!」