いい趣味じゃないは自覚してる
皆さま、こんばんは!
ちょっと長いけど楽しんでくださいね!
そして、ブックマーク・ポイント評価ありがとうございます!
土曜出勤バンザーイ!
ーリンドブルム家・応接室ー
紅茶からゆらゆらと立ち昇る湯気。
それをただ沈黙して囲む四人。
「………」
「………」
「………」
「………」
どうも皆さんこんにちは。
俺は今、少々気まずい沈黙の中でルイスさんと一緒にとある二人組の応対をしています。
お相手はオレンジ色の短髪と瞳の中性的な見た目の人物と……この街の冒険者ギルドで出会ったレヴィと名乗る金髪に翡翠色の瞳の女の子。
「……んっんぅ!気を取り直して、とりあえず僕たちがここに来た理由なんだけどね。前とは別件でとある人物を探す為に僕たちが来たんだけど………」
しばらくの沈黙の後、口を開いたオレンジ色の髪の人物が言葉と共に俺を一瞥する。
「どうしてここにいるのさっ!?」
そして、目を見開いて悲鳴のような声で叫んだ。
「ぷっ!あはははは!!やっぱ、お兄さん最高っす!!この前といい、今回といい、会う度にウチを笑わせてくれるっす!あははは!!」
オレンジ髪の人物がそう声をあげた直後、レヴィが堰を切ったように腹を抱えて大笑いする。
「レヴィもレヴィさ!なんで知り合いだって言ってくれなかったの!?面識があるなら直接会いに行っても問題なかったじゃんかぁ!!」
その様子を見てオレンジ髪の人物が立ち上がって叫ぶようにレヴィに対して文句を言った。
声を張り上げてはいるが、頰を膨らませる余裕があるあたり、激昂している訳ではないようだ。
「あははは!!……ふぅ、ぷっ!くっ………ひぃ、ふぅ……そう言われても前に一回会っただけっすよ?確実な居場所までは知らないっす。ウチだってここに居るなんて思わなかったですし。
それに、今こうして会えたからいいじゃないっすか。」
目尻に涙をためて笑っていた彼女は深呼吸して落ち着きを取り戻し、非常にイイ笑顔で言い返す。
前に会った時も少し思ったが、レヴィって割と人を煽る能力高いよな。
「それは結果論だよ!情報共有の大切さはレヴィもわかってるよね!?それにボクは探すのも得意だし!」
「もちろんっすよ。でも、別にいいかなって。」
「それが致命的になるんだってばぁぁぁ!!」
「まぁまぁ、落ち着いてほしいっす。ほら、これ一つあげますから。」
「んむっ!?」
ちょっと泣きそうな表情を浮かべていたオレンジ髪の人物の口にレヴィがアメをねじ込んだ。
もう少しあの表情を見ていたかったので残念。
「……な、なにさぁ、ボクだけ蚊帳の外って……うぅ……美味しいのが悔しい。」
すると、アメをねじ込まれた人物はしょんぼりした様子でソファに腰を下ろした。
コロコロと口の中でアメを転がす仕草はどこか愛らしい。………にしても、この子ってどっちなんだろうか?見た目だと判別が難しいぞ。
あと、いじけて不満そうに、恨めしそうな目をしながらアメを口で転がしてる性別不詳の中性的で顔立ちの整った人物➕それをニヤニヤしながら眺める金髪の美少女。
この光景もしばらく眺めていたいな……
《黙っていましたが、先ほどから主様の思考が酷いです。》
人間そんなもんだよ。可愛いものは可愛い。
女の子がウィンドウショッピングするみたいなもんだ。『アレは綺麗だなー、コレは可愛いなー、でも高いから買えないなー』みたいな。あと、『自分には似合わないかなー』とかも追加で。
《なるほど、理解できません。》
だろうな。俺もわからん。クミさんの受け売りだし、そもそも使い所が合ってるのかすらわからん。
《…左様ですか。》
おう。
あぁ、それと、どうしてこんな状況になったのかも説明しよう。
《誰にですか?》
さぁ?知らない。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ー数十分前ー
どすこいベアの肉と内臓を貯蔵庫に仕舞った後、セル爺さんとリーシア、俺の三人はルイスさん達の元へ戻ってきていた。
ただ、俺は一度トイレに行っていたので、戻ってくるなりルイスさんとアリシアさんに急接近されてこう言われた。
「シミズ君、ありがとう。まさか君が直接狩ってきてくれた物だったなんて……本当に嬉しいよ。」
「そうねぇ〜、さっきうちの料理人が目を輝かせて飛び込んできたわ〜。『こんなにも新鮮で質の良い肉を扱えるなんて光栄です!心からの感謝を!』ですって〜、うふふ。」
「また後でシミズ君に直接お礼を言いたいそうだよ。」
「あはは……喜んでいただけたようで幸いです。」
ズイズイと距離を詰めてくる二人に若干気圧され、苦笑いしながらなんとか言葉をひねり出した。
「お父様!お母様!お兄様が困っておられます!」
「ん……?あぁ、ごめんよ。」
「あらあら〜、ごめんなさいね〜」
すると、俺が困っているのを察したリーシアが機敏に動いて助け船を出してくれた。
「もう……お兄様、どうぞこちらへ。」
「お、おう、ありがとう……」
ふくれっ面でこちらに来たかと思えば俺と視線を合わせるなり笑顔を見せる彼女。
この際、自然に腕を組んで誘導してくれたのには言及しない。助けてくれたんだから文句など言えん。
「………」
「むぅ………」
「ドン引きです。」
そう、たとえローナから悲しそうな瞳で見つめられ、ラウから不満そうな表情をされ、ベルに腐った食材を見るような目をされていたとしてもだ。
「♪」
「………」
ここは日本ではなく、異世界の国だ。多少のスキンシップは致し方のない事なのだ。
「お兄様、こちらへお座りくださいませ。」
「おう、サンキュ……………ん?」
「………///」
「あっ……」
「え?」
自分に言い聞かせてローナ達の側まで誘導されると、ローナとラウを左右にして座らされ、リーシアは当然のように膝の上に乗ってきた。
膝の上に乗った本人は耳まで赤くしながらプルプルと震え、ローナは何か言いたそうにした後に黙り込み、ラウは驚きの声と共に目を軽く見開いている。
「えっと………え?え?……んんぅ?」
彼女の大胆で予想外すぎる行動に俺も混乱し、言葉を出せないまま戸惑う。
「その……お兄様の両隣は埋まっているようでしたので………///」
すると、リーシアはうつむきながらボソッと呟いた。
俺の視点では彼女の後頭部と耳が見えるだけだが、耳がさらに赤くなっているのは確認できた。
うーん、ものすごい大胆でお兄様はビックリ!!
そしてローナとラウからの目線がすごく痛い!!雰囲気でわかるくらいには怖い!
「ぇっと………」
喉に石を押し込まれたかのように声を詰まらせながらローナとラウに視線をやると
「うふふ、随分と仲良しになったのね。」
「あはは、そうだね。」
「ぁ…は、はい……あ、あは、あはは………」
満面の笑みを浮かべた二人の顔が。
表情こそ百点満点の女神の笑顔を浮かべてはいるが、俺にはわかる。
あ、コレ、アカンやつや………って。
そう、文字通りこの二人は今、笑みを『浮かべている』だけ。
その水面下にはクラーケン級のおぞましいナニカが潜んでいる。リーシアやその家族がいるからこそ今はなりを潜めているが、もしも、俺とローナ達だけの部屋に戻れば何をされるかわからない。
なぜわかるのか?
それは、俺とローナ、ラウとの契約した時に繋がったであろう回路の様なモノに激しく魔力を叩きつけられているからだ。
ラウに魔力を流し込んだ時とはまるで真逆。俺を押し潰す勢いで魔力の激流を流し込んできている。
特にローナのがシャレにならない。
それに、表には一切漏らすことなく流し込んでくるあたりで本気なのがよくわかる。
《通常の魔力の流れが『川や用水路』だとすると、この場合は『地下に埋設された水道管』といったところでしょうか。》
補足ありがとう。
それより、なぜ俺が無事なのか不思議なくらいだ。
《それは【安全制御機構】に備わっている〈余剰魔力貯蓄〉を応用してそちらに流し込んでいるからです。
イメージ的にはダムが一番近いです。タンクにしてはあまりにも魔力量が多いので。》
………シュティ、マジでありがとう。
それなかったら俺は確実に死んでたわ。
《はい。コレがなければ冗談でもなんでもなく、死んでいます。この場合は魂に直接流し込まれてますので、魂が深海の水圧に押し潰される様に圧縮されますね。
例えるなら軽くプチッとエアキャップを潰すように。》
※エアキャップとは通称〈プチプチ〉。
電化製品を買った時、箱の中で部品等を保護してくれているアレです。
なぁ、それってもしかしなくても本気で俺を殺しにきてない?ていうか、気軽すぎない?気軽で手軽すぎるよね?
《いえ、コレは愛情と信頼の表れですね。主様だからこそ遠慮なくここまでしてくるのでしょう。》
……………
《神とは意外にも嫉妬深いものです。孤独であった期間が長い神であればあるほど、期間に比例して愛情と嫉妬が深くなりますね。》
…………なぁ。
《はい、なんでしょうか。》
正直に言うと、めちゃくちゃ嬉しい自分がいる。
《………はい?》
いや、うん、わかってる。
おかしいって事は自分でもよーーくわかってる。
でもさ、冷静に考えてみたら『俺なら死なないし、受け止めてくれる』『俺なら遠慮しなくていい』という事に加えて、小さな子の行動一つで『狂いそうなくらいの愛情表現をしてくれた』って事だろ?
なにそれ超嬉しい!
《……主様も大概ですね。想定よりも狂ってます。》
うん、今になって自覚した。俺も結構ヤバい奴だわ。
《ですが、ここまでされてそんな風に考える事ができる主様も素敵です。》
シュティ、お前もか。
《あら、わたくしがマトモだなんて一言も言っておりませんが。》
類は友を呼ぶ、とは言い得て妙だな。
《そうですね。》
クスクスと笑うシュティに俺もつい頰がほころぶ。
「……ねぇ、おにーさん、なにニヤニヤしてるの。」
すると、ラウが俺をジトッと睨みながら頰をつついてきた。
……なるほど、しくじったようだ。
ラウやローナからは完全に俺がリーシアを膝の上に乗せて喜んでいるようにしか見えないだろう。
「タケシはそんなに小さな子が好きなのかしら?」
追加でローナからも頰をつつかれる。
ついでに魔力の流れがさらに激しくなったのが明確にわかる。もうこの魔力の流れだけで発電所を稼働できそうである。
「んー、色々と誤解されてるな。とりあえず、落ち着こうか。」
俺は天井に視線を向けながらそう言ってローナとラウに俺の魔力を同じように流し込む。
ただし、彼女たちの激流の様な流れではなく、ラウに流し込んだ時と同じくらい穏やかな清流のような流れで。
「「っ………!!」」
すると、二人は同時に肩を跳ねさせて反応を示した。
流れこそ穏やかではあるが、幅を大きくもたせてあるのでかなりの量になる。俺の中の魔力が確実に少しずつ減っていくのが認識できる。
今まで味わったことのない感覚だ。
《魔力を消費している証です。》
……まさか、こんな事で魔力の消費を実感する事になるとは思わなかった。
「お返しだ。」
自分の不手際に内心呆れながらも、笑いながらそう言って左右の手を使ってそれぞれの頰をつつくと
「う……そうね、少し大人気なかったわ。」
「うん、そうだね……」
二人は反省の色を見せて大人しくなった。ついでに二人からの魔力の流れもピタリと止まった。
《この量ならば星一つくらいなら作れそうですね。》
何それ怖い……ん?ちょっと待てよ………少し大人気なかった?今ので?
……あぁ、表面上は俺の頬をつついて皮肉を口にしただけだから、確かに少しだな。
ただし、『表面上は』の話だが。
「?、お兄様、どうされました?」
「いや、なんでもない。」
「そうですか?」
「おう、気にするな。」
不思議そうな声色で尋ねてきたリーシアに対してそう答えながらつい、クセで頭を撫でる。
「///………♪」
すると、彼女は突然頭を触られて驚いたのか少しだけ身を跳ねさせたが、すぐに俺に背を預けてリラックスしているご様子。
あと、今さらだけど膝の上に人を乗せるとお尻の部分にある腰骨が太ももにぐっさり刺さって割と痛い……あっ、やべ。せっかくローナとラウの機嫌をとったのにまた悪くなったんじゃ……….?
不意によぎる不安に内心で怯えながら交互に視線を向けると
「うふふ、可愛らしいわね。」
「うんうん、そうだね。」
先ほどとは違い、二人は機嫌良さそうに純粋な言葉を放った。
《どうやら主様が二人に魔力を送り込んでいる事で気を良くしているようです。
彼女たちにとっては『自身の愛情表現を受け止めた上でそっくりそのまま返してくれた』という事になりますので、当然機嫌も良くなります。》
俺よ、ファインプレーだ。こればっかりはシュティも褒めて。
《流石です。最高の女神たらしぶりに流石のわたくしも舌を巻いております。》
うん、完全に皮肉だよね。
《えぇ、皮肉もありますが心よりの賞賛であることも確かです。》
流石は俺の半身だな。俺の嗜好を着実に理解してきてる。
《有難き幸せ。》
そんなこんなで、なんとか場を丸く収める事ができた。
しかし、突然の訪問者はそうして安心した矢先の事だった。
「領主様、シミズ様、お客様がお見えになられました。」
またしても唐突に姿を現したセル爺さんが俺とルイスさんに向かって淡々と告げた。
「ん?僕はわかるけど……どうしてシミズ君もなんだい?」
その言葉にルイスさんが疑問を投げかける。
「お客様はアン様とレヴィ様でございます。」
「……あぁ、あれね。うん、わかったよ。
唐突で本当に申し訳ないんだけど、シミズ君も一緒に来てくれないかな?」
だが、セル爺さんの答えを聞いたルイスさんは表情の中にほんの少しだけ険しさをのぞかせながら頷き、俺に確認を取る。
「あ、はい。わかりました。」
「ありがとう。」
「んじゃあ、リーシアには悪いけど……」
「お兄様の仰ろうとされている事は理解できていますわ。」
「あ、うん。ありがとう。」
リーシアに退いてもらおうと声をかけると、その一言だけで彼女は意図を汲んで膝の上から降りてくれた。
……もしかして、リーシアって超がつくほどの良妻になるんじゃないか?
《その可能性は高そうです。》
見た目良し、性格良し、気遣い良し、の三拍子揃ってるとかなにそれ怖い。
《料理の腕も一級品ですね。》
完璧かよ。
リーシアを嫁にもらえる奴はその時点で一生分の運を使い果たした事になるだろうな。
《そうかもしれませんね。》
といった感じの会話をシュティとしながら立ち上がり、ルイスさんと一緒に応接室まで向かった。
ー応接室ー
俺とルイスさんが応接室に入ると
「あ!きたきた、またまたごめんね!」
既に中で待機していた二人の人物のうち、片方のオレンジ色の髪をした人物が立ち上がって愛嬌のある笑みを浮かべてそう言った。
もう一人はレヴィと名乗ったあの金髪に翡翠色の目をした少女。
オレンジ髪の人物は中性的で整った顔立ちに、かなり厚底のブーツをはいた活発そうな印象を受ける子。
身長はブーツ含めて165cmくらい。
「うん、別にいいよ。『出直してくれ』と言ったのは僕だからね。」
その人物に対してルイスさんが笑いながら言葉を返した。
「そうそう、昨日ここに来た時は用件を伝えた瞬間『明日にしてくれ。』なんて言われたからね。びっくりしたよ。
……ところで、その子は?」
すると、その人物は少し不満そうに言った後、俺について言及してくる。
ていうか、『その子』って……こっちからしたら相手は10代半ばくらいにしか見えないんだけど……
「あぁ、彼がアンさんたちが探しているお客様だよ。」
俺が言葉に違和感を感じていると、ルイスさんがオレンジ髪の人物にそう言った。
「あははは、君が冗談なんて珍しいね。ねぇ、レヴィ?」
すると、アンと呼ばれたその人物は笑い流してレヴィに同意を求める。
「いや、その人で合ってるっすよ?その人が深淵の狩人っす。」
しかし、レヴィはあっけからんとした様子でルイスさんの言葉を肯定した。
「はぇ?彼が?……え?……うえぇぇええええ!?」
アンは俺を指差して心底驚いたように目を見開き、声をあげるのだった。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
以上が事の顛末である。
《七割ほど関係のない話でしたね。》
うん、確かに。
シュティの指摘に対して頷いていると
「……とりあえず、君は深淵の狩人であってるんだよね?」
オレンジ髪の人物が訝しむような視線を俺に浴びせながら問いただす。
「えぇ、まぁ、そうですが……本名はシミズ・タケシです。通り名はものすごく恥ずかしいので本名でお願いします。」
流石にその通り名で呼ばれるのは恥ずかしさのあまりにその辺を転げ回りたくなるので本名を名乗った。
「けっこうあっさり認めるんだね………あ、ボクはアンだよ。一応、商人をやっているんだ。よろしくね。」
俺があっさり認めた事に苦笑しながら自らを【アン】と名乗った人物。
「よろしくお願いします。」
俺も普通に返事を返す。
この商人なのか……こりゃ下手に俺の居た世界の物を出すわけにはいかないな。
アンと名乗った人物は先程は少し取り乱していたようだが、今は落ち着いた雰囲気だ。
印象としては『しっかりした中学生』といったような感じが近いだろうか。
「にしても、ルイスくんも人が悪いなぁ……まさか本人を連れてくるなんて思いもよらなかったよ。」
すると、ルイスさんに視線を移したアンは困ったような愛らしい笑みを浮かべて言った。
「あはは、アンさんにはいつもお世話になってるからね。お返しも兼ねた僕からのちょっとしたサプライズだよ。
驚いてくれたようでなにより。」
「別にボクはただ自分のやりたい事をやってるだけさ。商人らしく『欲に忠実に真っ直ぐに』、ね。」
「そのおかげで助かってるのさ。」
親しげに話す二人だが、言葉使いが似てるせいで少し混乱しそうになる。
しかし、なんでまた俺なんかに用があるんだろうか?
「それじゃあ、さっそく本題に移るけど……シミズ君に質問だよ。いいかな?」
「は、はぁ……答えられる範囲でなら。」
アンへの対応に少し考えを巡らせていると、その子から言葉をかけられる。
「うん、ありがとう。無理のない範囲でいいよ。」
言葉自体は親しげだが、声色は柔らかく丁寧な印象を受ける。笑顔も親しみやすいからなおさらだ。
この手のタイプを相手にすると、つい口が滑りそうで怖い。
《自然に相手の懐に入る事が出来る人物の様ですね。気をつけてください。》
あぁ、そうする。忠告ありがとう。
《はい。》
「君はこの街に住んでいるのかい?」
「いえ、ここに住んでるわけではないです。」
どんな質問がくるのかと身構えていたが、割とどうでもいいような質問がきた。
「あ、そうなんだ?」
「うん、そうだよ。」
アンが目線で確認を取り、ルイスさんがそれに頷いて答える。
「ルイスくんの街はどう?王都からはそれなりに離れてると思うけど。」
二つ目の質問も雑談のような内容。
「良いところですね。ルイスさんも良い人ですし、街にも活気があって色んな人たちが居ます。
それに、騎士団の人たちも気取ってなくて親しみやすいです。」
何人か愉快な人もいるが。
イケメンだけど脳筋な騎士団長とか、そこに居る恐ろしい量のご飯を食べる少女冒険者とか。
「そうだね。ボクも色んな街を見てきたけど、同じ感想だよ。」
俺の言葉にアン笑みを浮かべて同意を示す。
「シミズ君にそう言ってもらえると嬉しいな。」
ルイスさんはにこにこしながらそう言い
「ウチもこの街は好きっすね。完璧美少女レヴィちゃんのお墨付きっすよ!」
レヴィもしれっと参加する。
ていうか、お前さんは何様のつもりだ。よく領主の前でそんな事を言えるな。
「あはは、レヴィはいつもこんな感じだから気にしないでね。」
「ちょっと残念な方ですね。」
「僕は気にしないよ。いつもの事だからね。」
苦笑しながら言うアンに対して俺も同じように笑いながら返す。ルイスさんは相変わらずにこにこしたまま大人の対応。
「ボクもちょっとアレだとは思ってるんだけどね……これでも大切な友達なんだ。」
「苦労しそうですね。」
「あはは……大目に見てあげてね?」
「大丈夫ですよ。前に会った時にテンション高めなのはわかってますから。
それに、身内にちょっと攻撃的な者もいるので。」
「ありがとう。」
ちなみに、攻撃的なのはナイフメイド……もといベルのこと。ローナとラウは愛情表現なのでセーフ。
「あれ?なんでウチが非難されてるんすか?ウチが超絶可愛いからっすか?」
すると、レヴィがコロコロと表情を変えながら言い放った。
最初は不服そうだったが、すぐにニヤニヤしながら言うあたり本当に根性が据わっている。
そんな彼女を見て、俺は不意にこう思った。
………リーシアってものすごく可愛いよね。
《急にどうされたのですか。》
いや、ほら、同じ金髪美少女でも性格一つでここまで違って見えるんだなって……
《失礼ですね。》
わかってる。
シュティと脳内で会話しながら俺はレヴィに言った。
「はいはい、可愛い可愛い。」
「ちょ!?なんか適当じゃないっすか!?もっと真心込めてください!」
すると、レヴィがすごい勢いで噛みついてくる。
なんだかめんどくさいスイッチを入れてしまったようだ。
「アー、レヴィちゃんカワイイナー」
「もっと雑になったっす!?」
心外だと言わんばかりに驚いた表情の彼女。
「黙ってりゃ可愛いのに……」
「ストレートで酷い!?」
俺が呟くように吐き捨てると、またまた反応を示す。
……いちいち反応してくるから面白いな。
《なんだかんだで楽しむ主様も主様です。》
すまん、普通に楽しんでた。
でも、実際レヴィは黙ってれば可愛いだろ。客観的な意見として。
《そうですね。黙っていれば可愛いでしょう。》
だろ?
そうしてレヴィの反応を少しばかり楽しんでいると
「レヴィとシミズ君って思ったより仲いいんだね。」
アンがなぜか嬉しそうに笑いながらそう言った。
「どこがっすか!!まだ二回しか会ってないっすよ!」
「二回目でそこまで話せたら十分さ。」
「確かに!じゃあ、ウチってば美少女な上にコミュニケーション能力まで最強ってこと!
これはもう誇っていいと思うっす!」
ボコっていい?
《ダメです。》
ちぇ、ノリで一回くらいなら許されると思うんだけどなぁ。
《絵面的にも倫理的にもアウトです。》
わかってる、冗談だ。
この程度で殴ったりしてたら俺は何回ラウに刺されたらいいんだろうな?
やけにポジティブなレヴィに対してとりあえず反応しておく。
「そうだな。すごいな。」
「そうっす!ウチは凄いんす!もっと褒めてくれてもいいっすよ!」
「アンさん、でいいですかね。他に何か質問ありますか?」
「君の感想を聞く限りだとこの街ってかなり居心地が良いと思うんだけど、ここに住むつもりはないのかい?」
「思いっきりスルー!?」
「あはは、流石シミズ君。手厳しいね。」
レヴィに構っていると話が進まなくなるので放置する事を決めて話を戻す。
すると、意外にもアンは俺との話を優先し、レヴィが驚きの声を上げてルイスさんが愉快そうに笑っている。
なにこの状況。
……しっかし、また答えにくい質問だな。
俺の答えは決まっているが、ルイスさんの前で言うのは少し気が引ける。……まぁ、ラウとの約束が優先だから仕方ないか。
「今のところ移住は考えていないですね。」
「そうなんだね。」
「はい、今住んでいるところに愛着がありますから。」
「うんうん、土地に愛着があるなら移住とかは考えにくいよね。ボクもそこそこ色んな場所を回ってるけど、やっぱり自分の住んでる所が大好きさ。」
すると、アンは微笑みながら同意を示してくる。
「僕はシミズ君が住んでくれるなら大歓迎するけど……」
そんな折にルイスさんがふと呟く。
「あはは、そのお気持ちだけで私には十分過ぎます。」
「そんなに謙遜しなくても本当さ。」
「いえいえ、ルイスさんだってこんな化物が街に居ては気が気でないでしょう?」
「君なら何も問題ないからね。優しくて思いやりのある良い子だとわかってるよ。」
自虐を交えてルイスさんに言うが、どうあがいても謎の信用をもって答えられる。
いつも思うがその信用はどこからくるんだ?
「シミズ君は凄いね。ルイス君にそこまで気に入られる子もそうそう居ないんじゃないかな?」
ルイスさんからの信用の高さに頭をひねっていると、アンが微笑ましいものを見るような表情を浮かべて言ってきた。
「私自身、なぜここまで良くしてくださるのか……」
苦笑を浮かべながら答えると
「リーシアのお婿さん候補だからね。」
ルイスさんがそんな事を口にする。
俺に妻(予定だけど)居るってわかってるよね?
《この国は多妻制ですから。それに、主様の妻は今のところ二人の予定ではありませんか。》
あぁ……うん……って、今後増えるみたいな言い方やめろ。
《ふふっ。》
なんだその意味深な笑いは。
《いえ、なんでもありません。》
……気になる。
シュティの意味深な反応に困っていると
「ほほぅ、シミズ君やるじゃないか!」
「そんな!?ウチというものがありながら!ヒドイっす!ウチとは遊びだったんすね!?」
「レヴィ、俺はお前と遊んだ覚えもなければ一度しか会ってねぇよ!?場をかき回そうとすんじゃねぇ!」
アンが目を細めてコロコロと笑い、レヴィがとんでもねぇふざけ方をしやがった!
無駄に上手い迫真の演技で才能の無駄遣いをしてやがる!
「え?レヴィに手を出したの……?」
「シミズ君……?」
すると、言うまでもなくアンとルイスさんが真顔で俺に視線を移して言った。
「ほらぁ!真に受けた!」
「ぷっ!あはははははは!!」
俺はたまらずレヴィに抗議すると、彼女は一人で大笑い。
「よし、テメェいっぺん表でろ。しばき倒してやる!」
「うわ〜ん、お兄さんにドロドロにされるっす〜」
「オーケー、望み通り血みどろにしてやる。」
くねくねと身をよじらせながらまだふざけているレヴィに俺は立ち上がって笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄った。
「あっ嘘っす!!謝ります!謝りますから許してくださいっす!ちょ!?お兄さん笑顔が怖いっす!」
そんな俺を見たレヴィは青ざめた表情で早口にまくし立てる。どうやら危険を察知したようだ。
勘だけは良いらしい。
にしてもこいつ、俺よりタチが悪いぞ。人を貶めるようなふざけ方しやがる。
「な、なんだぁ……」
「流石に驚いたね……」
「ほんとだよ……」
レヴィのタチの悪さに呆れていると、アンとルイスさんが安堵の息をもらしながら頷き合っていた。
「もう!レヴィってば心臓に悪いからそういうふざけ方しないでって言ってるじゃん!」
「痛っ!?わ、悪かったっす!でもびっくりしたでしょ?」
肩をバシッと叩かれてもなお、ニヤッと笑って答えたレヴィに
「びっくりしたから怒ってるんじゃないかぁ!」
「いっ!?痛いっ!!めちゃくちゃ痛いっす!!」
アンが怒ってさらにバシバシと肩を叩きまくる。
パッと見た感じはプンプンと可愛らしく怒っているように見えるが、見た目とは裏腹に重く乾いた音が響いている。
アンはああ見えて力が強いようだ。
「お、お兄さんっ!痛っ!!た、助けてほしいっす!!」
若干涙目で俺に訴えかけてくるが、俺も被害者だ。
「知らん、自分で撒いた種だろ。反省しろ。」
「なんという無慈悲っ!!ちょ!?もうやめっ………」
レヴィが言い切る前に音がピタリとやんだ。
「ふぅ……これに懲りたらもうやめてね?」
「うぅ……乙女の柔肌が……肩がジンジンするっすぅ……」
アンがジトっと見つめながら言うが、レヴィは肩を撫でているだけで返事をしない。
「レヴィ、返事は?」
不信感を漂わせるアンの言葉に
「お断りっす!!」
レヴィはものすごく良い笑顔を浮かべ、サムズアップしながら威勢良く答えた。
うん、あいつバカだ。
「この分からず屋っ!」
「ひぐぅっ!?」
最後にもう一発と言わんばかりに肩を叩かれている。
見ている分には愉快な奴だ。つか、今女の子が出しちゃいけない声が出たぞ。
「今の見ました!?酷くないっすか!?」
内心ほくそ笑みながら傍観を決め込んでいると、レヴィが俺とルイスさんに訴えかけてきた。
「完全にレヴィが悪いな。」
「僕もそう思うよ。」
しかし、両者共にアンの肩をもった。
誰がどう見てもレヴィが悪いことには変わりないだろうに。
「うぅっ、みんながウチをいじめるっす……」
「嘘泣き下手か。」
先ほどの演技力はどこへやら、ナヨナヨと見え透いた嘘泣きについつい言及してしまう。
「っ……っ…!」
すると、レヴィは俺の指摘にピクッと肩を震えさせてから目線をこちらにチラチラと迷わせる。
「チラチラこっち見んな。落とし所を見つけられないんだったらそう言え。」
どうやら止めるタイミングを失ったらしい。仕方ないので助け舟を出す事に。
「はい、すみませんっす。ぶっちゃけ、やり過ぎてどこで止めればいいのかわからなくなったっす。」
「正直なのは良いことだ。」
ようやくブレーキをかけたレヴィに対して俺は追い打ちをかけずに普通に言葉をかける。
「ほ、褒められたっす!さっきから文句ばっかりだったから嬉しいっす!」
すると、レヴィは目を輝かせて嬉しそうに言った。
「お前、チョロいな……変な奴に騙されるなよ?」
流石の俺も素になって心配してしまう。
ローナやラウもだが、流石に今のはチョロすぎると思うぞ……
「ここにきて急に優しいっ!?なんすか!?お兄さんはウチをどうしたいんすか!?」
そんな俺の言葉にレヴィは自身を抱いて不審者でも見たかのような反応を示した。
「失礼な。単純にレヴィがチョロくて心配になっただけだ。」
「ウチは軽い女じゃないっすよ!体重は軽いっすけど!」
うん、心配して損した。こいつ元気だ。
あ………そういえば、元気で思い出したけど、こいつの健康診断しなきゃいけないの忘れてた。
《認識阻害を発動していた時に飴を渡してしまった件の事ですね。今から気がつかれないように行いますか?》
いや、今やって変に勘づかれたりすると面倒くさそうだからやめとく。
明日の朝くらいに認識阻害のやつ発動させてギルドに行くわ。
《承知しました。しかし、今日の夜でなくていいのですか?》
今夜はシュティと話さないとな。
《……有難き幸せ、心よりの感謝を。》
「アンさん、話を進めましょうか。」
「あ、うん。じゃあ、余談なんだけどここにはどれくらい滞在するつもりだい?」
「まさかの放置プレイッ!ウチにそんな趣味ないっす!」
レヴィがなんか言ってるが知らん。どうせまた明日には相手しなきゃいけないから今は放置だ。
第一、それが俺だとは気がつかないだろうけど。
「予定では明日までですね。あまり長く居てもご迷惑でしょうし。」
「あれ、思ったより短いんだね。」
「僕としてはリーシアが喜ぶからもっと居てくれてもいいんだけどね。
どのみち客室もあまり使わないし、せっかくリアも帰ってきたからシミズ君の奥様方と女子会でも開きたいだろうし。」
俺の返答に対してアンは何故か少し不思議そうに言い、ルイスさんは提案のような説得を試みてきた。
「あはは、そこは要家族会議ということで……」
ひとまず問題を先送りにして難を逃れる。
《後でどうなっても知りませんよ。》
どうとでもなればいいさ。そん時はそん時に考えるよ。
《左様ですか。》
「そっか、じゃあ、シミズ君の奥様方にもっとここに居たいと思ってもらわないとね。」
にこやかに笑ってそう言ったルイスさん。
ローナはまだしもラウが人間嫌いだからなぁ……あんまり負担を掛けさせたくないんだよな。
そんな事を考えていると、紅茶を飲んでいたアンからこんな事を聞かれる。
「普段は森に居るみたいだけど、他の街に行ってみたりはしないのかい?もしくは考えているとか。」
「そんな予定も考えもないですね。基本的に森でのんびりしてますから、街に来るとしたらここくらいです。」
別に答えても何ら問題のない質問なので普通に答える。
「へぇ、じゃあこの国の王都はどうだい?色んな物があって楽しいよ?」
ニヤッと口角を上げて可愛らしく笑ったアンの言葉に
「興味ないです。」
俺はただ一言だけそう答えた。
「バッサリ切り捨てたね……」
苦笑を浮かべながらそう言ってまた紅茶を飲むアン。
こればっかりは本当に興味がないので仕方がない。
「これって僕は喜んでいいのかな?僕の街には少なくとも興味があって来てくれるって事だよね。」
「お兄さんの発言を聞く限りじゃそうっすね。」
少し首を傾げて疑問を口にしたルイスさんに対してレヴィが肯定する。
「うん、なら素直に喜んでおくよ。」
レヴィの言葉を受けてルイスさんは機嫌良さげに微笑み、紅茶の入ったカップを傾けた。
……ごめん、ルイスさん。ぶっちゃけリーシアが居なかったらこの街にも来ないよ。
いや、正確にはリーシアが俺に懐いてなかったらだけども。
《ロリコンと言われても不思議ではない発言ですよ。》
リーシアは妹枠だぜ?
《客観的な意見です。》
それを言われると何も言い返せないな。客観的ってワードの威力が高すぎる。
「うん、ありがとう。ボクからはもう何もないよ。
レヴィはどう?なにかあるかい?」
すると、一息ついたアンが口を開き、レヴィに促した。
「ん?ウチっすか?んー………あっ!そうそう!お兄さん、前にウチが探してた人見つけてくれました!?」
最初は頭をひねっていたレヴィだが、唐突に思い出したらしいあの時の探し人について尋ねてきた。
ていうか、それって俺なんだけどね……まぁ、いいや。
丁度いいからそれっぽい事を言って明日の朝にはギルドに居てもらえるように誘導しよう。
「あぁ、その人なら少し前に見かけたぞ。多分、明日の朝くらいにはギルドに来るんじゃないか?事情を説明したら納得してくれたし。」
我ながらなんとも白々しい言葉なのだろうか。
なによりもスラスラとこんな嘘が出てくる事に俺自身も驚きを隠せない。
「はっ!?マジっすか!?」
「えぇ!?本当!?」
すると、俺の言葉にレヴィとアンが驚き
「「どうやって!?」」
身を乗り出して見事にハモッた。
動きから言葉までコントのように一致している。あんたら打ち合わせでもしたのか?
「いや、見つけたも何も普通にこの街で見かけただけだぞ?」
そんな風に適当に作った嘘で受け答えしていると
「なん、っすか……それ………」
レヴィが驚きのあまりに言葉を失い
「ボクたちが全力で探して見つけられなかったのに……?」
アンが結構本気で凹み
「……うーん、セル爺にもお願いしてたからこの街にいるならすぐ見つかるはずなんだけど。おかしいな。」
ルイスさんでさえも腕を組んで本当に不思議そうに首をひねっている。
……はいこれ、や・ら・か・し・た☆
アンとレヴィはともかく、あの万能執事たるセル爺さんがやってダメだった事を俺がやってしまった事になる。
うん、完全にやらかしたよね。もっと考えて発言すべきだったね。残念だねもう遅いね。
《……この場にいる全員の記憶を一部削除しますか?》
はーい、そこ怖い事言わなーい!絶対にダメ!
今以上にややこしくなるから!!いいね!?
《承知しました。》
シュティの危ない発言を制止していると
「ま、まぁ、なんにせよ見つかったならそれでいいっす。じゃあ、その人は明日の朝くらいにはギルドに来るんすね?」
レヴィが若干引きつった笑みで聞いてきた。
「聞いた限りだとそうだな。」
「わかりました。ありがとうございますっす。」
「そういう所はしっかりしてるのな……」
俺がレヴィの価値観を計れずにいると、レヴィは心底心外そうにこう言った。
「お兄さんはウチをなんだと思ってるんすか……礼儀くらいわきまえてるっすよ。」
……ダウト。
「なんだかよくわかりませんがお兄さんが今、ウチに対して否定的な事を考えたのだけはその表情でわかるっす!」
「なぜバレた。」
「ウチがたった今表情に出てるって言ったっすよ!?」
「心読めちゃう系の子はもう間に合ってるから……」
「人の話を聞いてくださいっす!」
「うるさいよ、聞こえてるから静かにしなさい。ルイスさんに迷惑だろ?」
「なんでウチが悪者!?」
さっきの仕返しに少しからかってみたが、やっぱり面白い反応を返してくれる。
「あはは、レヴィにはいい薬になりそう。」
「シミズ君って意外と意地悪な所があるんだね。」
すると、アンが愉快そうにコロコロと笑いながら言い、ルイスさんもクスッと笑って興味深そうに俺を見る。
「お兄さんってたまに人の話を聞かないっすよね……」
すると、彼女は少しだけ疲れた様子を見せて言う。
「レヴィほどじゃない。」
「確かに!」
「納得すんな。」
俺の言葉に即座に同意を示してきたレヴィについツッコんでしまった。
「………」
「………」
そして、俺とレヴィはしばらく黙り込んで互いを見合うと
「ぷっ、あははは!!お兄さん面白いっすね!」
「あはははは!!レヴィもな!」
両者共に吹き出して褒め合った。
こいつアレだわ。ベルとは違うベクトルで趣味が合う。
ベルは皮肉、レヴィは悪ふざけ。良い趣味かと聞かれればそうではないが、たまにこういう人と出会う事があるからやめられない。
まぁ、だからといって腹の中を明かすほど親密になるつもりはないが。
《妙な所で冷静ですね。》
「あれ?今のレヴィってボクと話すより楽しそう……?」
「シミズ君、僕と話す時は敬語をやめてくれないのに……」
俺とレヴィが笑いあっていると、アンとルイスさんが軽く落ち込んだ様子で呟いた。
「アンはウチの親友っすから!ちょっとくらい扱いが雑でもいいんすよ!」
「親しき仲にも礼儀あり、です。ルイスさんには私なりの敬意を払っているだけですよ。」
そんな二人の様子を見た俺とレヴィは対極的な言葉を放つ。
「ちょっと待って!レヴィ酷いよ!?」
「僕は別に気にしないよ……なんだか疎外感があるからむしろやめて欲しいくらいだね。」
アンがレヴィに抗議している最中、ルイスさんは家庭内で孤立した父親のような寂しい雰囲気を纏わせて言った。
あれ?なんか、俺が悪い事したような錯覚が……
《孤独や独りぼっち等といった類の言葉に主様は弱いですからね。》
トラウマだから仕方ない。でも、ルイスさんはなんか大丈夫そうだからいいや。
《左様ですか。》
「って、もうこんな時間だ……そろそろボクたちは帰るよ。長居しちゃってごめんね!」
懐から懐中時計のよう物を取り出したアンは立ち上がりながらちょぴり申し訳なさそうに言う。
「ううん、アンさん達ならいつまでも歓迎するよ。出来れば来る時は事前に連絡くらい欲しいけどね。」
それにルイスさんも立ち上がって柔らかに微笑んで言う。
「あはは、いつも急に押しかけるからね。ごめん、これからもそうすると思うから先に謝っておくよ。」
「ふふ、そう言うと思ったよ。」
「ウチも帰るっす。」
「おう。」
和やかなムードが漂う中、部屋から出る二人の後に俺とレヴィもついて行く。
ー館の前ー
「それじゃ、またね!」
「また来るっす。」
館の前で待っていた馬車に乗り込んだアンとレヴィが手を振る。
「うん、待ってるよ。」
「気をつけてな。」
ルイスさんと俺も見送りの言葉をかけながら手を振り返した。
「………」
「………?」
馬車が見えなくなるまで見送る間、俺はふと視界の端に映る一羽の鳥に目が移った。
それは前にこの館に訪れた時に窓から見えたカラスのような『黒い鳥』。
こちらをジーッと見つめている。
「ん?どうかしたのかい?」
馬車とは別の方向に視線を向けている俺に気がついたルイスさんが不思議そうに聞いてきた。
「あ、いえ、なんでもありません。」
別段、ルイスさんに聞くような事でもないので視線を戻して答える。
「そうかい?じゃあ、僕たちも館に戻ろう。」
「そうですね。」
そう言って前を歩くルイスさんに俺もついて行く。
「………」
そして、もう一度あの鳥に視線を向けるが既にどこかへ飛び去った後だった。
まぁ、鳥くらいどこにでも居るか。
そう考えた俺は特に不思議に思う事もなく、館へと戻った。
作者「お仕事楽ひぃ。」
隊長「壊れるな。」
作者「まだ大丈夫!何も言わなくなった時が本当にヤバい時だから!」
隊長「ガチな話をするな馬鹿者。」