閑話【メイドの手記その2】
メリーークルシミマース!!!
皆さま!良い一日を過ごせましたか!?
え?私?……わ、わたしの家はアメリカ式のクリスマスだから…………(見苦しい言い訳
追記:ついでに確認したら、総合20万PV突破してました!ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
(2018/12/24 23:41)
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簡易契約の後に私は住み込みで働くことになった家へと上がりこみます。
『ただいまー』
『お邪魔いたします。』
彼に続いて私がそう声に出すと
『は?なに言ってんだ?』
前方から不思議そうな声色で問われました。
ふと、視線を上げた先には彼が『意味がわからない』といった表情を浮かべています。
『はい?わたくしは何も間違えた覚えはありませんが?』
いわれのない批難に思わず眉をひそめて言い返すと
『いや、だってお前ここに住むんだぞ?』
彼は意図が汲み取れない言葉回しで私に問います。
何が言いたいのかが漠然としすぎていて流石の私も困惑しました。
『はい、それがなにか?』
故に我は彼から率直な答えを引き出そうと試みます。
すると、その直後に彼の口からは思いもよらない発言が飛び出しまた。
『そこは『ただいま』でいいだろ?』
『は……?』
予想の斜め上をゆく解答に私は素っ頓狂な声を出すこと以外に反応の示しようがありません。
初対面の吸血鬼、しかも七魔公爵に名を連ねる私をその場で雇う奇妙な物好きだとは承知していましたが、まさかここまでだったとは……
呆れてモノも言えない状況に置かれた私を差し置いて彼は続けて言いました。
『え?家に帰ってきたら普通はただいまって言わない?』
『言うとは思いますが……』
その不思議そうな表情と意外そうな声色に私も思わず立ちすくんだまま答えます。
『じゃあ、それでいいじゃねぇか。一応はベルも今日から俺の家族の一員なんだし、ここを我が家と思ってくれていいぞ。』
そして、安心したように笑みを浮かべた彼からの純粋な言葉。
私にとっては馴染みのない【家族】という言葉……その響きにどこか歯がゆさを覚えました。
『……貴方はつくづくおかしな方ですね。』
結局、私の口から出たのはその一言だけ。
ただ、この時、不思議と嫌悪感はありませんでした。
『今さら?……あ、ベル、靴はそこで脱いでくれよ。』
私の冷めた反応に彼はその一切を気に留めることなくマヌケに笑っていました。
それから少しくだらない話をしていると
『そうですか、それは一安心ですね。変態と契約など例え簡易的であったとしても願い下げですから。』
『はは、違いない……でも、残念だったな。男はほとんどが変態ばっかだぞ?紳士と書いて変態と読む奴もいるけどな。』
『チッ……だから男性は嫌いなんです。』
少しばかりですが彼が私のタブーに触れました。
……いえ、彼は何も知らないのですから致し方のない事なのでしょうけれど、私にとって男性とは本来ならば嫌悪の対象でしかないのです。
『おいおい、レディが舌打ちなんてしちゃダメだろ。』
すると、彼は私のタブーに触れた事に気がついたのか笑いながら話しかけてきます。彼がほんの少しだけ悲しげな目をしたのが良い証左。
……詮索しない程度の気遣いが出来るようでなによりです。私にはないモノですね……不愉快極まりない。
それからまた雑談を交わし、彼が一つのドアを開けると
『あ、おにーさんお帰りー、ちゃんと出来た?』
『お帰りなさいタケシ。外ですごい音がしてたけど大丈夫だったみたいね。』
そこには白き神々の最上位神の一柱と白き主がいらっしゃいました。
この時、私は幻覚でも見ているのかと我が目を疑いましたが……残念ながら現実でした。
私より少し上の存在はまさかのアルラウネ様であり、もう片方に至っては白き主……彼から『創造神と契約した。』と聞いてはいても驚かずにはいられません。
なにせ、【神の序列】『一位』と『二位』が揃っているのですから……むしろ当然の反応です。
『がう。』
『……』
さらには、瞳を閉じてはいても明らかにこちらを警戒している紅のサーベルティーガーと機嫌が悪そうな翡翠色の瞳を持つフェンリル……どちらも特異個体です。
…………ここは万魔殿ですか?
そう口に出かけた言葉を飲み込んで口上を述べます。
『これはこれは……皆様ご機嫌麗しゅうございます。
私は簡易契約によって本日よりここで女中を務めさせて頂きます事になりました、ベルと申します。以後、お見知り置きを。』
最大の敬意を払って、決して失礼のないようにお辞儀をして。
『え……おにーさん……今度はそっち?私たちだけじゃ物足りなかったの?』
『タケシ……そうなの?お願いだから本当の事を言って?』
しかし、《御二方》は私を気にもとめず彼に話しかけます。それは御二方にとって私よりも彼の方が優先度が高いという事に他なりません。
否が応にも突きつけられる事実に、私は感動を覚えます。
なぜ?簡単です。
どこに居ても七魔公爵として、あるいは魔族の長の一人として扱われる私が初めて《気にとめる必要のない存在》として扱われたのです。
本来あるべき《冥土としての扱い》……それがここにはあった。
これを喜ばずして、どうして冥土と名乗れましょうか。
そして、話をされている御二方に私は不敬を承知で割り込みました。
『驚きました。まさかここで『白き神々』の最高神である一柱と我らが『主』に出会うとは思いもしませんでしたね。
まさか、本当にあの男と契約をなさったのですか?』
私のこの質問に
『うん、まぁ、そうだね。わたしもローナさんもおにーさんと本契約したよ。ね、ローナさん?』
アルラウネ様は本当に嬉しそうに微笑みながら手の甲を見せてくださいました。
そこにあったのは紛れもない契約の紋章です。
簡易契約では紋章など出ませんので事実であることは明白。
『ええ。』
そして、少し照れくさそうなはにかみを浮かべて頷く、白き主。
紋章は見当たりませんでしたが、おそらくその代わりとして『ローナ』という【名】を彼から受け取っているのでしょう。……ならば、その名の対価として魔力を譲渡したのでしょうか?
『……どうやら本当のようです。このお2人と本契約するとは侮れませんね。
ともすると、あの男がなぜ権能を使えるのかも納得です。』
なにはともあれ、ひとまず完全に納得した私は彼に視線を向けました。
『お?見直してくれたか?』
すると、へらっと表情を崩した彼が私に問いかけます。
『ええ、そうですね。貴方が女神を手篭めにする末恐ろしい変態だという事は今しがた理解しました。』
それに対して私も普段通りの答え方で返します。
『期待してくれていいぞ?』
私の答えに彼が優しい笑みを浮かべなおして肩をすくめました。
どうやら彼は男性の中でも類い稀にみる不愉快極まりない部類に入るようです。
彼の言った《期待》。その一言がなにを指しているのかは私と彼との共通認識です。しかし、わざわざここで言うことではありません。
『……そうですね。わたくしも手篭めにされないようせいぜい気をつける事にします。』
自身から提示した条件で不機嫌になるのもおかしな話ですが、少しだけ気分を害しました。
『そうかい、だが、無理矢理は俺だって嫌だぞ。お前さんで勝手に気をつけてな。』
『えぇ、言われずとも。』
あっさりとそう言ってのけた彼に少しくらいの攻撃も許されるでしょう。
そう思ってナイフを投げます。
–––ヒュン!
–––ガキン! カタンカタン……
『あっぶな!?』
当然ですが結果は不発です。
あれは演技ではない本当の反応なのでしょうけれど、しっかりと防いでいるからには見切っているはずです。
どうしてあそこまで驚くのでしょうか?やはり、その真意が掴めません。
『上手く防ぎましたね。』
しかし、先ほどよりも近くから投げたにも関わらず、全く同じ距離で防ぐのはお見事です。
『おう、愛情表現キツくて困るわ。予備動作無しで投げるのやめてくれる?』
そう言いながら彼は拾い上げたナイフを私に手渡しました。
………刺さればなおよかったですね。
今のを愛情表現と捉えられるポジティブさは素晴らしいですが、私に対して発揮しないで頂きたいです。
その理由の一つとしと、彼の一言を機に後ろの御二方からもの凄い殺気を飛ばされているのです。……完全にとばっちりではありませんか。特にローナ様からの圧力が槍のように身を鋭く抉られる勢いです。
『今のを愛情表現と捉えられる貴方は頭の中が幸せですね。』
なんとか誤解を解いて解放されようとしますが
『そりゃどうも。』
『前言撤回です。頭が腐りきっているようです。』
『なんとでも言えばいい。』
この時の私は柄にもなく焦っていたのか
『ベルちゃん……だったかしら?』
『はい、なんでしょうか?』
『ちょっとお話しがあるんだけどいいかしら?』
盛大に自爆してしまいました。
ローナ様の無機質な笑みから送られてくる凄まじい殺気が我が身を貫き通し、魂が凍えるような感覚に陥ります。
『……どうやら教育が必要だったのはわたくしの方だったようです。』
思わず諦めと共に呟いてしまいました。
そして、気がつくと果てまで真っ白な場所へと転移させられていました。
その場所にいたのは私とローナ様のみ。
『………』
ふと、視線を上げた先にはニコニコと微笑みながら殺気を全開にしたローナ様。
正直に申しますと生きている心地がしませんでした。えぇ、本当に……先ほどは一本の槍で貫かれているような感覚でしたが、この時は槍の雨を全身で受け止めているかのような感覚に陥りました。
『ねぇ、私がどうして怒っているかわかるかしら?』
固まったまま動けない私に対してローナ様は静かに問います。
『私が彼に対して不敬であったから、でしょうか。』
私は心当たりのあるものを口に出しますが
『そうね、それも一つの理由よ。それで、他にはどんな理由があると思うのかしら?』
怒りの理由はそれだけではないご様子でした。
『……申し訳ありませんが、皆目見当がつきません。』
『そうでしょうね。』
私が正直に申しましたところ、ローナ様は頷きながらそう仰いました。
そして、椅子を二つと円形のテーブルを一つ出現させて
『さぁ、座りましょう。』
私に促します。
『失礼します。』
そうして、私が座ると
『そうね。あまりタケシを待たせるのも悪いから率直にお話しようかしら。』
『はい。』
彼の名を口にしたローナ様は先ほどまでの殺気が嘘のように霧散し、柔らかな笑みを浮かべられます。
『単刀直入に聞くわ。タケシの言った《愛情表現》アレはどういう意味かしら?わたし達の関係に土足で踏み込むことは許さないわ。』
しかし、その表情も束の間、ローナ様のご尊顔から表情という概念が存在しなくなります。
『………それは言葉の綾です。私が彼に出した条件の一つとして、とあるモノを要求しました。』
私は出来る限り冷静に、慎重に、言葉を選んで答えます。
『そう、聞かせてくれるかしら?』
有無を言わせぬ問いに
『はい、私の出した条件……それは【––––】です。私に【––––––––】という事です。』
私は包み隠さず話しました。
『そう………』
『………』
ローナ様は私の言葉に一言だけ反応されてから少し考えられているご様子でした。
おそらく、それはたった数秒の沈黙だったのでしょう。ですが、私には数分、数十分という時間が過ぎたような感覚でした。
そして、ローナ様はこう仰られました。
『タケシがそれでいいならわたしに異論はないわ。』
無表情から一転し、屈託のない柔らかな笑みを浮かべておられるローナ様に私の胸の内には少なからず動揺がありました。
『……よろしいのですか?』
あまりにもあっさりとし過ぎている結論に、思わず口に出してしまった私の疑問。
『わたしはタケシを信頼しているもの。
それに、心から愛しているわ。あの子がそう決めたのならわたしはそれを尊重する……いいえ、それに従うと言った方が正しいわね。』
それに対してローナ様は表情を崩さぬまま答えられました。
『…………左様でございますか。』
『えぇ、そうよ。わたしにとってはそういうものなの。』
私の呟きを聞いてそう仰るローナ様。
『創造神である貴女様がたった一人の何も知らない人間に何故そこまで……』
この質問は不敬は百も承知の上、しかし、私はこれを聞かずにはいられませんでした。
『そうね、創造神という立場では本来あるはずのない選択ね。でも、それは彼だからこそよ。
確かに彼は神に関しては無知蒙昧だけれど……そうだからこそ、わたしを受け入れてくれたの。彼じゃないとわたしはダメなのよ。
創造神をわたしにしてくれた彼……だから、わたしは彼を愛し、慈しみ、尊び、共に在る。
そう決めたの。
それと……さっきのは聞かなかったことにしてあげるわ。次、もし彼を貶めるような発言があればわたしは貴女を許せなくなるわ。』
『承知しました。』
私の質問にローナ様は瞳を閉じて何かを思い出すようにされながらも、嬉しそうな微笑みで答えられました。……最後にまた殺気を飛ばされましたが。
『一つ、よろしいでしょうか?』
ただ、そうなると一つ気になることがありました。
『なにかしら?』
『端的に申しますと、私は口が悪いのです。そして、彼と同じく私は愉悦主義の気があります。
ですから、おそらくは彼と私の会話先ほどのモノと同じようになると思われます。なので、ローナ様やアルラウネ様には不愉快に感じられるかもしれないのです。』
ただ単に私の口の悪さです。
『そうね。でも、それは彼が本当に気にしていなくて、貴女が彼に実害さえ加えなければ特に問題はないわ。』
『左様でございますか。なら、私には彼を葬るだけの力量は持ち合わせていませんので問題ありませんね。』
『えぇ、そうね。』
……こうもあっさりと認められると、あまりないはずの自尊心が折れそうです。……いえ、事実ですから仕方ありませんが……そうですね、また彼にナイフを投げる機会があれば状況に応じてナイフを増量しましょう。
『さて、そろそろ戻りましょうか。』
『承知しました。』
胸の内で密かに八つ当たりする事を決めていると、ローナ様が席を立たれて仰いました。
私もそれに続いて立ち上がります。
『三つ数を数えるたら転移するわ。』
『はい。』
私が立ち上がるのを確認したローナ様は指を三本立てながら仰いました。
『3、2、1、はい。』
それに私が頷くと、ローナ様はすぐに数を数え、私と共にあの家へと転移しました。
その後は、戻るやいなや彼がローナ様を抱きしめて謝罪したかと思えば、私を擁護をしたりと忙しない動きをみせる彼にほんの少しだけ感心しました。
それと、女神三柱と魔獣二頭を連れて街に行くという話の際には面倒な事にならないかと憂鬱になりましたが、杞憂に終わってなによりです。
……私はともかくとして、あの御二人が強烈に発する神気をどうするのかも見ものです。
私は立場柄、神気を抑える術をもっていますが、あの御二人は本来それを必要としませんので、彼がどうにかするしかないでしょう。
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「さて、こんなものでしょうか……」
手を止め、呟いた人物は伸びをして椅子に背を預けた。
「…………あぁ、まだ半分ほど残していましたね。」
人物が何気なく視線を向けた先にあったのは、とある青年から提供されたケーキと紅茶。それらは半分ほどまで量を減らしていた。
「……」
その人物は静かにケーキを口に運び、優雅に紅茶を嗜む。
「……家屋は清潔かつホコリ一つすら見つからず、料理を作れば一流とまではいかずともそれなりに美味しい……なにより、神々の最高峰とその直属の部下たちの親愛と深愛を受ける者……さらに、その本人も人に非ずして神に非ず、まさに化物と呼称するに相応しい存在。」
そして、立ち上がって窓辺から月を眺め、この日をもって仮の主人となった青年や周りの環境に対する考えやを口にする。
「……なんとも仕え甲斐のある主人でしょうか。
数多ある世界の中、幾千、幾億もの人々の中でも、彼のような人物は他には存在しないでしょう。」
その人物にしては珍しく口にする人に対する純粋な賛辞の言葉。
「しかし、私が正式に認めるのはまだ先になります。それまではせいぜい楽しませて頂きましょう。」
だが、月のように冷たい表情が動くことはなかった。
果たして赤い月はどこを照らすのか
その月を照らす光はどんな星になのか
「そうですね。私の条件をクリアした暁には………いえ、らしくない事は言うものではありませんね。
さて、明日に備えて本日は休みましょう。憂鬱で面倒で仕方ありませんが、主人の生活に合わせるのも冥土の責務です。」
人物は窓辺を離れ、自身の放った言葉に表情を歪め、面倒くさそうな表情で寝床へと戻った。
けれども、そんな憂鬱そうなメイドの声はどこか弾んでいた。
作者「思ったより遅くなった……orz」
隊長「申し訳ない。このバカに代わって皆様にお詫びする。」
作者「それはそうと、明日もしかしたら初めて季節ネタを書いて投稿するかもしれません。
もちろん、クリスマスの話です。」
隊長「そうか。で、登場人物は誰にするんだ?」
作者「それが実は決めあぐねているんですよねー……どのクリスマスを書くか。」
隊長「なんだ、主人公とヒロイン達でいいではないか。」
作者「うーん、まぁ、そうなんですけどー……まぁ、そんな訳で多分『あー、そっちかー……』ってなるかもしれません!期待しないで下さいね!」
隊長「安心しろ。もとよりされとらん。」
作者「そんなー!(´;ω;`)」