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閑話【メイドの手記その1】


10日以上更新しなくてすみません!

あと本編じゃなぁーい!

ごめんなさい!

でも書きたくなった!書きたかった!

読んで!楽しんで!


 


 とある部屋の一室。

 そこには、机に設置されたスタンドライトに照らされている人物がいた。


「……」


 その人物の手元には一冊のノートのような物、そして古ぼけた一本のペンが握られている。



 ––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––




 本日、(わたくし)は柄にもなく召喚に応じてしまいました。

 応じた理由…….それはいくつかありますが、その最たるものとして挙げるならば二つあります。



 ・一つ

 わたくしを喚んだ術式は完全に【黒き神専用】の召喚術式だった事です。それも、あまりにも完璧で研ぎ澄まされた術式。

 つまりは、黒き神々を喚ぶ為だけに作られた術式だったのです。


 ・二つ

 術式に込められた魔力が『あまりにも強大であった』事。

 あれ程までの魔力を込めるとすれば数十……いえ、数百人もの『魔術師』が一週間不眠不休で詠唱してやっと込められるかどうかです。


 そんな魔力が込められた術式ならば我々【黒き神々】の最高位である七魔公爵の一柱を召喚するには十分すぎる。



 しかし、我々が『監視するこの世界』に戦乱の兆候はありません。



 で、あればこそ、わたくし達を召喚するのは決まって禁忌に手を染めた大バカ者か、謀反を企む狂者か……あるいは純粋な願いのもとに自らの命を捨てる者か……


 いずれにせよ、わたくしは術式を展開した張本人を『片付けるか否か』、その成否を決定する為に出向きました。

 場合によってはその場にいる全員を殺害対象にする事もいといません。


 ……ですが、いざ蓋を開けてみればどうでしょう。



『……最悪です。』



 私が開口一番にそう呟くのも無理はありません。


 なぜなら、出向いた先に居たのはとんでもない『化け物』ではありませんか。


 たった一人で私を召喚するだけの魔力を消費してなお、有り余る莫大な魔力量。

 加えて、あまりにも完璧な召喚術式展開にも関わらず、まったく疲労感を見せていない。


 それに、あの人物……いえ、あの青年には一切の隙がなかった。

 その理由として、彼には私の『魔眼』による『魅力』や『恐怖』など、吸血鬼としての特性が『何一つ効かなかった』のですから。



 ですが、なによりも特筆すべきは彼の『異常性』……とでも言うべきでしょうか?


 私がなんとか見抜いた彼の正体とでも言うべきモノ……それは彼の『(まと)っている』『複数のナニカ』でしょう。


 ……いえ、纏っているというのは正しくありませんね。どちらかと言えば『混ざっている』、とでも言うべきでしょうか?



 どちらにせよ、そのまま立ちすくんでいる訳にもいかず、私は名乗りをあげることにしました。



『私は

『黒き神々』にして『七魔公爵』が一柱

【怠惰】の名を冠する者

 どうぞ、ベルとお呼び下さい。

 もっとも、契約などしませんので今日限りの話ですが。』



 すると、彼は心底驚いたような表情でこう言うではありませんか。


『……えっと、その……え?七魔公爵?君が?』


 私の事を『権能』を使ってまで『確認』しておいて……よくそんな事が言えたものです。

 ですが、それが本心のものである事が明らかなのは彼の表情から読み取れました。


 この時、私は彼に対してひどくチグハグな印象を受けました。

 そこで、彼をもう少し試してみる事にしました。


『はい、そうですが何か?……あぁ、殿方は皆クレイジーモンキーでしたね。言語を理解しろと言う方が酷な話でした。かと言って猿に謝っても仕方ありませんね。』


『ちょっと待ってめっちゃ毒吐くこの人!?』



 すると、驚く事に



『あら、わたくしの言葉が理解できるのですか?

 ならば貴方はクレイジーの中のクレイジーですね。恐ろしく気持ち悪いです。』


『見た目可愛いのに言ってること全然可愛くない!?こんな家政婦さんいたら心折れるわ!ていうかなんでメイド服!?』



 やはり、彼はわたくしの発した言語を『理解』したではありませんか。


 この時、私は一度たりとも『この世界の言語で話してはいない』のです。

 言葉の一つごとに全く違う言語で話そうとも、彼はその全てを理解し、会話を成立させるのです。

 本来ならば会話はおろか言葉の意味すら理解する事が出来ないでしょう。


 これに対して『驚くな』という方が無理な話です。



 ですが、それと同時に私は彼に興味を持ちました。



『猿に褒められても嬉しくありませんね……反吐が出ます。それとわたくしは冥土(メイド)ですから冥土服を着るのは当然です。』


『ちょっと待って!なんか俺の知ってるメイドとニュアンスが違う!それ絶対やばいやつ!』



 彼は私の言葉に対して不愉快そうに表情を陰らせるわけでもなく



『いちいちうるさいですね……あっ、猿ですから当然でした。あと、汚らしいので視線をこちらに向けないで頂けますか?』


『この人ほんとになんなんだ!?隙あらば毒吐きまくってるぞ!スローロリスか!』



 かといって本気で怒る様子もなく、私との会話をまるで楽しむかのように言葉を返してきます。



『悪魔!?』



 さらには、私たちの『古き名』を口にしたのです。


『おや、珍しい呼び名を知っていますね?それを知っている人族などもう居ないと思っていましたが……貴方、何者ですか?』


 これは私の純粋な疑問です。

 彼が『この世界の人族ではない』というのは確信していましたが、それを聞く絶好の機会に私もつい質問してしまいました。


 すると、彼はあまりにも容易く素性を明かしました。


『俺は異世界から来た人間だ。この世界ではないどこかの世界、魔法なんてものは存在しない世界だ。』


 しかし、それはあからさまな虚実です。

 人間?魔法なんて存在しない世界?


 確かにそんな世界も無数に存在します。



 ですが、『神すら屠る力』を持った化け物がそんな取るに足らない存在である筈がない。

 人間という生物は数あってこそ力を発揮します。いかなる英雄であろうとも人間である限り、一個人でその力を存分に発揮する事はできません。



 しかし、彼さ白き神々の最上位神が持ちうる権能さえ簡単に使用するような人物です。

 魔力量、権能、複数のナニカ、そのどれを取っても、【人間】とは言い難い。


 しかし、目の前にいる彼が嘘をついているようにも見えません。彼の表情は真剣そのものでした。

 ……まぁ、人間など平気で嘘をつくので元より信じてなどいませんが。


 それはさておき、嘘であろうとなかろうと、あまりにも辻褄が合わない。今まで生きてきた中で『彼』という存在を私は知らない。


 かつて神界で勃発したかの『大戦争』に彼のような神はいなかった。

 たとえ、あの大戦争の時に『存在した事すら消滅した神』だったとしても、私は『覚えている』のです。


『……なるほど。しかし、そうなると疑問が増えましたね。別の世界からこの世界への転生や転移などの権限を持つのは『白き主』だけなのですが?

 それに、貴方程度のなんの変哲もないただの人間を送るなど何を考えているのでしょうか。』


 そこで少しばかりカマをかけてみました。

 これで何かがわかれば、そう思ったも無理はないでしょう。


『そりゃあ、俺は創造神と契約したからな……それと、一つ訂正がある。俺はもう人間じゃねぇ。』


 そして、明らかになった事実であろうその言葉。

 これでほとんどの事に納得できました。……いえ、そうでなければ納得のしようがないのです。


 魔力量は白き主、つまりは創造神からの加護や譲渡によるものであり、権能は白き主の部下にあたる最上位神のもの……なにより、私の発言の通り、この世界への転移や転生は白き主の権限でのみ承認されます。


『はい……?はっ、人族の肥大妄想もここまでくると滑稽を通り越して不愉快ですね。それに白き主も落ちたものです。』


 だからこそ、私はここで更に突き詰める必要がありました。


 すると彼は突然、攻撃的な口調でこう言い放ちます。


『おいちっこいの、さっきから毒づきやがってそれしか能がないのか?もしそうだったら悪魔の名折れだな?』


 おそらくは私の口にした白き主に対する暴言によるものでしょう。

 これによって、彼が創造神と関わりがある事は確かな事実として認めざるえなくなってしまいました。


 それから少し話しをしていると


『おいおい、吸血女がなにか言ってるが超音波だから聞き取れねぇや。ちゃんとした言葉でいいんだぜ?

 あ、それとも血でも吸うか?』


 私が吸血鬼である事が看破されている事がわかりました。……まぁ、おそらくは最初から見抜かれていたのでしょうけれど。


 しかし、吸血鬼が異性から吸血する場合は発情を伴います。故に、『夜伽(よとぎ)をしろ』と突然言われたも同然なのです。

 流石にこれは頭にきました。


 私も年甲斐なくムキになってしまい、つい熱がこもります。


 ……と、話が逸れましたね。


 結局のところ、『彼が何者なのか』という疑問が晴れるのは彼の住まう家に訪れてから判明しましたが、それはもう少し後で書き記しましょう。


 少しの口論の末に私は彼という人物を観察対象として認識しました。

 私と気が合う、というのも珍しいですし、神とて未知なるモノに興味は抱きます。

 いずれにせよ、異性に対する好意ではない事は確かですが。


 ……私は誰に向かって弁明しているのでしょうか。



『さて、わたくしと気が合う珍しい殿方と出会えたのは僥倖(ぎょうこう)なのですが、そうなった場合はどうしましょうか……』


 こう言ってはいますが、この時点でもう仮契約を結ぶ事も視野に入れてありました。


 ですが、こちらから『契約しましょう』などと持ちかけるのもなんだか(しゃく)です。


『ん?なにが?』


 しかし、召喚した張本人である彼は何も考えていない呑気な出で立ちでした。


『……契約の話です。そもそもはわたくしと契約したくて呼び出したのではないのですか?』


『あぁ、それな……』


 仕方なくこちらが指摘すると、彼は少しバツの悪そうな表情を浮かべて話を濁します。


『まさかとは思いますが、呼び出しておきながら契約の事を忘れていたのではないですか?そこまで愚鈍だと失笑案件ですね。』


 召喚しておいてそれはないだろう、などと思いながらも彼に言うと


『いや、まぁ、それが……』


 はっきりとしない態度の彼。

 どうやら図星のご様子。


『なんですか、はっきりしてください。即断即決出来ない殿方は好かれませんよ?』


『うぐっ……』


『おや……ふっ…図星でしたか……?それはっ……大変っ…ふっ……失礼っ…しました……ふふっ……』


 それをいいことについつい愉しんでしまいました。私の悪い癖です。直そうとは思いませんが。


 今思い出しても少しだけ笑えてきます。彼は振り回す事はあっても、振り回される経験は少ないようでしたので。


『ほっとけチクショウ……それで?君はなにが出来るんだ?』


 すると、少々強引に話をそらされました。

 下手に実力行使されるよりは断然良いのでそれに乗りましたが。


『その前に貴方もそろそろ名乗っていいのでは?

 こちらが名乗っているのにも関わらず貴方が名乗らないのはいかがなものかと。』


 なによりも、彼の名を知る機会なのです。

 これを逃すという選択肢はありません。


『あぁ、確かにそうだった。それは失礼した。

 俺はタケシ・シミズだ。前居た世界では清水猛士って言い方をした。後は……二人の女神と契約してて、その二人と二頭の魔獣と一緒に暮らしている。』


 そして、彼は納得した上で名を名乗りました。やはり、彼は神ではない。それは確かです。


 しかし、名乗ったまではいいのですが……その後半に驚かざるえません。

 女神二人と暮らしている?ただ単に意味がわかりません。……いえ、正確にはその理由がわかりません。


 ですが、よくよく観察してみると、彼の後ろに存在する家屋らしき場所に神と思わしきソレが二つほど存在感を放っています。

 彼に対する興味が優っていたのでその時になるまで全く気がつきませんでした。……その二つも莫大な魔力です。片方は私より少し上くらいなのですが、もう片方が異常です。


『そうですか。色々と聞きたいことがありますが、ひとまずはこちらが質問に答えるべきですね。

 わたくしの得意分野ですが、家事全般とその他もろもろです。』


 頭の中に湧き出る疑問を押し殺して私は彼の質問に答える事にしました。


『なるほど。』


『あら、予想通りでしたか?当然でしょうけれど。』


 まぁ、この辺りは私の見た目通りでしょうし、予想されて当然の範囲です。


『すまん。』


『?、なぜ謝るのです?』


 しかし、ここで謝罪を口にする彼の意図が理解できません。何も悪くないにも関わらず謝るというのはおかしな話です。


 それはさておき、彼の実力を見せて頂くついでとして、なんとなくイタズラがしたくなりました。


『まぁ、いいです。それよりも他に出来ること……そうですね……では、こういうのは……』


 ですので、私から少し仕掛けてみることにしました。


『いかがでしょう?』


 それは私の《権能》を用いたイタズラです。

 彼からすれば子どもがじゃれつく程度の優しいものでしょう。


『なんのつもりだ?』


 そんな折、彼がほんの垣間(かいま)見せた冷たい視線とひどく重たい言葉。

 ほんの刹那でしたが、彼が発した殺気に私も思わず逃げ出しそうになりました。


『さぁ?どうしてでしょうね?でも、わたくし家事の中でも『掃除』がもっとも得意なんですよ……ほら、早く逃げないと首が裂けてしまいますよ?』


 そんな中、自然と笑みを浮かべる自分も大概です。


 ですが、それも仕方のない事です。

 だって、少しとはいえ《権能》を使用して彼に攻撃したのですよ?


 そして、彼はそれをあっさりと防いでみせた。

 私の持つナイフが見えないナニカに阻まれた感覚が手に伝わっていました。


 さらに、手に持っていたナイフをよく見てみるといつの間にか『刃が丸く潰れて』いました。


 恐らくは彼が防ぐと同時に刃を潰したのでしょう。

 私ですら気がつかなかったその技には感動すら覚えます。


 私は彼に対して『素晴らしい』素直にそう思いました。そして、同時にこうも思いました『これは良い(玩具)を見つけた』と。


 すると、彼は私の心情を読み取ったのか


『……遊ぶにしても危ないぞ。』


 と、呆れ気味に呟きます。


『あら?気付いていらしたのですね……それは残念。』


 私のこの言葉が白々しいのは百も承知です。


『それに、君のナイフは俺の首には届かない。』


 彼のその一言の後、ナイフを阻んだナニカが姿を現しました。

 その《権能》は初めて見るものであり、まるでその場で白く色を塗ったようなソレはあまりにも頑強で、展開速度も異常です。


『……確かにそのようです。何かに阻はばまれた感触がありましたが、まさか権能をここまで自在に使用出来るとは思いませんでしたね。』


 流石の私もここで諦めをつけて認めることにしました。

 私は『彼には敵わない』その事実は明白となりました。まぁ、口には出しませんが。


『ていうか、最初は割と本気で殺す気だっただろ。』


 そして、彼は仕方なさそうに笑いながら私に向けてそう言います。


『当然です。この程度で死んでいてはわたくしの主など務まりませんので。』


 事実、ここで死ぬ程度の者であればどうでもよかった。


『それで?俺は合格点を貰えるのか?』


『及第点、と言ったところでしょう。』


 しかし、彼は私の求めていた『人物像』に完璧と言っても差し支えない程に近しい存在。

 及第点、などと言ってはいますが……実際には契約対象としての評価ラインは優に超えています。

 ……一つだけ難癖をつけるとすれば、彼が『男性』であるという事、くらいでしょう。


 ですが、彼も私と同族(愉悦主義)の者。

 そのような事は口が裂けても言いません。


『ですが、もしわたくしと契約するというのならいくつか条件があります。どうされますか?』


 せっかくこちらが有利な状況ですし、これは有効活用させて頂きました。


『よし、話を聞こう。』


 彼も条件を満たす姿勢を示しています。


『分かりました。では一つ目の条件です。

 貴方の全力を見せて下さい。』


 好機とばかりに私がそう提示すると


『……ちょっと待ってくれ。』


 彼は少し困った表情でそう応えました。


 しかし、そんな迷いも束の間


『よし、わかった。全力だな?』


 彼は承諾の意思表示をします。


『はい、是非とも全力でお願いします。』


 恥ずかしながら……内心、私は彼の全力を見る事が少し楽しみでした。

 私の攻撃(イタズラ)を軽く受け流す人物の実力……それも最大のソレを見る事が出来るのです。


 そうして期待していると彼から質問をされます。


『あ、それとそれって魔力解放だけでいいのか?権能とか使わずに。』


『出来れば権能も見たいですね。そもそも貴方がなぜ権能を使えるのかは後で伺いますので。』


 私はすぐに答えました。

 彼の本当の全力を見るためにも是非とも持てる全てを使って頂きます。


『……わかった。』


 私の言葉に彼は一言だけそう呟いて考え込む仕草を見せます。


『すまん、少し……いや、かなり退がっててくれ。』


 しばらくすると彼は私にそう言って30mほど離れた場所を指差しました。


 素直に従うのも少し嫌なので、今度は言葉で遊ぶ事にしました。


『はて?誇張は男の十八番とはいえ、そこまでする必要があるのでしょうか?(うそぶ)くと痛い目をみますよ?……特に夜は。』


『い・い・か・ら・退・が・れ!』


 完全にセクハラです。えぇ、セクハラです。

 余談ですが、どうやら彼はまだのようですね。顔を赤くして叫ぶように言い返してきました。

 これは良いネタを見つけました。


『はぁ……始めるぞー!』


 うんざりした様子でため息をついた彼は、気を取り直して私に合図を送ります。


『いつでもどうぞ、ふぅ。』


『うぼぁばぁ!?』


『ふふっ、おかしな声……無様ですね。』


 非常に愉快です。

 わざわざ《権能》を使用した甲斐もあったというものです。


 しかし、上機嫌な私は次の瞬間、凍りつくことになります。


『《安全制御機構(セーフティシステム)全制限解除(オールパージ)


 彼が何かを呟いた瞬間、彼からまるで川から氾濫した激流ように魔力が溢れ出てきました。

 その場に居るだけで息が詰まりそうな程の圧迫感と途方もなく広がり続ける馬鹿げた魔力量。


 そして、まるで枷が取れたような表情の彼を見たその時にやっと悟りました。


 彼は力を抑えていてなお、神を屠るだけの力を有している。さらに、彼が本気になれば我ら《七魔公爵》が『束になったとしても勝てないかもしれない』と。


 彼は一体何者なのか。

 白き神々に(あら)ず、黒き神々に(あら)ず、龍に(あら)ず……私はその存在の在り方に、頭を鉄で殴りつけられた様なとてつもない衝撃を受けました。


『権能《槍》その名はケラウノス』


 そして、彼がまた一つ言葉を発すると、手には黄金に輝くモノが出現しました。


 ソレを見た途端、私は身の毛がよだつ程の恐怖を感じました。彼の存在感に引けを取らない程に強く発せられるその輝きは正に神雷の具現化。


『すぅ……はぁ……』


 そして、彼が一つ呼吸をして詠唱を開始します。


『我が手に顕現せしは神の(いかずち)


 ()は空を裂き 音をも置き去る轟雷の槍!


 穿て!勇敢なる(ヴァリアント)槍騎兵(・ランサー)! 』


 彼の紡ぐ言葉の一つ毎にその雷は形を成し、輝きを強くしていきました。


 そして、最後の言葉を機に放たれたソレは空を穿ちながら彼方へと消え去りました。


 最早、私にはこれを楽しむ余裕などありません。



 –––ダッ…ダァァァァンンンッッッ!!!



 やがて、放たれた際に発生した音が遅れて鳴り響き



 –––ドゴォォォォォォォォンンンッッ!!!



 少しの後に空の彼方で槍が炸裂した証明が現れます。


 もしも……もしもあんなモノが直撃すれば神でさえ、その『存在ごと消し飛ぶ』でしょう。

 もし、あれを人族などに向けて放てば、魂もろとも消し飛びます。そして、二度として輪廻の輪には還れないはずです。


 それ程までに強力なモノを彼は使用したのです。

 これに対して難癖をつけるのは不可能。そして、私が『決心する理由』にもなりました。



 –––ビュゴォォォォォォッッ!!



 吹き抜ける風はまるで彼の力量を見誤った私を嘲笑うかのよう。

 ここまでいくといっそ清々しいですね。


『お見事です。まさかここまでの威力を発揮するとは思いもしませんでした。たしかにこれは距離を空けておいて正解でしたね。』


 私は彼に歩みを寄せながら純粋な敬意を払って賞賛を口にします。


『や……やっちまったぁぁぁぁぁ!!!思った以上にやっちまった!どうしよう!?ルイスさんはともかくリーシアに嫌われたりしたら……俺は泣くぞ!?』


 しかし、彼はそれを意に介さず膝から崩れ落ちながら叫びました。

 ……私に顔を向けながら知らぬ人物の名を口にされても困るのですが……まぁ、面白いので良しとしましょう。


『今度はなんですか……自身の放った一撃にそこまで驚く方はそういませんよ。まるで初めて買ってもらえたおもちゃを壊してしまった子どものようですね。』


 呆れ半分、愉しみ半分に言い放つと


『……すまん、少し取り乱した。』


 すっ、と立ち上がって一言。


『いえ、とても面白かったので構いません。』


 私の率直な感想に彼が少し悔しそうにしているのを見て、今しばらく愉しもうかと考えていると


『そうか、で?次の条件はなんだ?』


 表情を切り替えた彼が私にそう聞いてきました。

 残念。


『そうですね……本当はまだいくつか提示したかったのですが、次の条件だけでいいでしょう。今のだけでも充分に愉しめましたから。』


 正直言ってこの時点ですでに出せる条件など無くなりました。先の光景を見て納得せぬ者が居れば、それはただの愚か者……いえ、バカです。


 そう考えていた私ですが、前述した通り一つ『決心』をしているのです。


 それは……いえ、書くのはやめておきましょう。

 私の心に留めておけばそれで構いません。仮にこれが彼に見つかってこの記述を見られないとも限りませんから。


 ですが、簡潔に一言だけで表すなら『私の欲しかったモノ』でしょう。



『それは重畳(ちょうじょう)……で?』


『少し屈んでいただけますか?私と目線を合わせるくらいで結構です。』


 私が彼を手招きしながら言います。


『?、まぁ、いいけど……』


 不思議そうな表情を浮かべながらも屈む彼に私は近づき


『感謝します。では、次の条件ですが……』


『おう。』


『–––––。』


 彼の耳元で二つ目の条件を提示しました。


『!……本気か?』


 それを聞いた彼の表情は驚きと疑問に染められていますが、声は真剣そのもの。


『はい。それだけで私と契約が出来るなら安いものでしょう?』


 私の『欲しかったモノ』は彼になら……いえ、彼だからこそ私は求めようと思えたのかもしれません。


 その内容?書くわけないでしょう。


『けどそれは……』


 そして、意外にも否定的な口調で呟く彼に


『おや?では、私にはその価値がないと?』


 私は思わず語気を強めて言い返します。


『いや、そういうわけじゃないんだが……いいのか?』


 すると、彼は戸惑いの残る表情を浮かべて私に問います。


『はい、むしろ出来るものならばやってみせてください、とだけ。』


 もちろん私がそれを否定するはずもなく。挑発まがいの誘い文句を彼におくります。



 そして、彼はこう聞き


『……それは今すぐにとはいかないよな?』


『無論です。この条件は今すぐに達成出来るかどうかではなく、承諾出来るかどうかですから。』


『わかった。条件をのもう。』


 最後には優しい笑みを浮かべて首を縦に振ります。


 これで私の心願成就も時間の問題となりました。

 少しばかり機嫌がいいですが、悟られる訳にもいかないので、雇用環境などを聞いて話の流れをそらします。


『賃金は要相談だが、三食と一人部屋付きだ。

 好きな部屋を使っていいぞ。必要物資は言ってくれれば支給するし、飯は全員で一緒に食うのが暗黙の了解だ。

 契約破棄は君の意思次第だな。俺からの一方的な破棄は無しだ。』


『ふむ……高待遇ですね。』


 まぁ、雇用環境などどうでもいいですし、少しばかり上機嫌なのも合わさって話など聞いていませんでしたが。


『気に入ってくれたかな?』


『これで文句を言うのは愚か者です。

 さて、それでは簡易的ではありますが契約を。』


『あぁ、俺はなにをすればいい?』


『私に合わせてください。』


『了解。』


 このようなやりとりをしながら簡易契約を結ぶことになりました。


 契約の様子については特に書くこともないので割愛しますが、契約を結び終えると


『……最後に一つだけ言っておく。』


『はい、なんでしょう?』


 私の目を見据えて一言呟いた後



『ようこそ、我が家へ!俺は君を歓迎しよう!』



 両手を広げて笑いながらそう言いました。


『ふふっ……はい、これから宜しくお願い致します。せいぜい私を笑わせて下さいね。』


 思わぬ歓迎の言葉に私も返礼し、自然と表情を綻ばせてしまいました。


 さて、これからは少しばかり愉しむ事が出来るでしょう。



 私は貴方に期待していますよ?

 くれぐれも私を失望させぬようご尽力下さいませ。




 –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



 机に向かっていた人物はペンを走らせる手を止め


「ふぅ……少しばかり休憩するとしましょう。」


 顔を上げて呟いた。


「……」


 そして、その人物が少し視線を逸らした先にあるのは黒く装飾された三角形の立方体と紅茶が淹れられたカップ。


「そういえば、まだ手をつけていませんでしたね。」


 そう言うと添えられていたフォークを手に取り、一口大に切りわけたソレを口に運ぶ。


「……それなりに甘くて美味しいですね。」


 咀嚼(そしゃく)し、飲み込んでから静かに呟いた人物の脳裏にはソレを提供してきた青年の姿がよぎった。


「……不愉快です。」


 表情を歪めながらも紅茶を一口飲み、もう一度ソレにフォークを入れて切り分け、口にする。


「……夕食もそうでしたが、吸血鬼が口にしてもなんら問題ないとは……不思議ですね。」


 そう呟きながら赤く冷たい眼差しで眺める。

 しかし、表情筋が死んでいるのではないかと疑うほど表情に変化がない。


「………さて、もう少しだけ書きましょう。残りはその後で頂くとします。」


 やがて、眺めることをやめた人物はそう言いながらフォークからペンに握りかえてペンを走らせる。




作者「やべぇ、書いてたらつい長くなった☆」


隊長「なんとなく、で書くからだろ。愚か者め。」


作者「そんな訳で閑話二話目を書くか、あるいは本編を先に書くか悩んでます。

一応、活動報告ページに本編か閑話か意見できる場所設置しときますね。

特に意見がなければ気分で書きますので。


あ、ちなみに本編も二話目も書いてません☆」


隊長「話を聞け。」


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