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閑話【名も無き化物】光ある絶望と虚無の少女


皆様、お久しぶりです。

時間というのは過ぎるのが早いものでもう9月になりましたね。

今回、文字の大きさを少し大きくしてみました。

個人的に気に入っているので今後はこの大きさにするかもしれません。


それと、これは私事ではありますが

あと、2週間程で就活本番となります。

本編再開まで今しばらくお待ち頂ければ幸いです。



 



 ーとある日の早朝ー



 コツコツコツコツコツ……



 複数の足音が薄暗い静かな空間を波打つ。


 そして、足音が檻の前で止まると



 ……ガチャン………キィ……



 やがて檻の鍵が外され、扉の開く音が発せられた。


「……?」


 少女がその音に目を覚まし、ぼんやりとした瞳のままで音のした方へと視線を向ける。


「……。」


「……。」


 そこにはいつも通り仮面をつけた見張り役二人に加えて、見知らぬ女性と男が立っていた。

 女性は同じエルフである事を証明する長い耳を有しており、秀麗な顔立ちは人形を思わせるほど。


 一方、男性はエルフではなく、生真面目な印象を与える人物だった。それに、その男性はエルフ達とは違う見慣れぬ装いをしている。


 ただ一つ、共通点としてこの二人は仮面をつけていなかった。


「この子が例の?」


「はい。」


 男性は眉をひそめながら女性に問うと、女性はそれに頷く。

 いつもの見張りである二人は黙って両者の後ろに控える。


「では、どのように?」


 男性がエルフの女性に問うと


「この地図にある場所へ。」


 女性は手に持っていた地図を広げて何かを指定する。


「承知しました。では、念のために最終確認を……」


 それからも二人は会話を交わしているがその真意は伺えない。


 《……はて?この時間に客人とは何事かの?》


 そんな折、レースが疑問を口にすると


(……おはよう、レース。)


 少女は日課の挨拶を交わした。


 《ああ、おはよう……お主、この状況でのんきじゃの?》


 少女から楽観的な印象を受けたレースは問いかける。


(……焦った方がいい?)


 《その考えが出来るということは大方の察しはついておるようじゃな。》


(……うん。)


 しかし、少女も理解した上での態度であったようだ。


 《ワシの力が必要かの?》


(ううん、もう少し待って。)


 《あい、わかった……じゃが、もしもの時はワシがお主に代わって行動に移すからの?》


(レース……)


 《なに、心配するな。自ら言うのもおかしいが、ワシはこれでも百戦錬磨の古強者(ふるつわもの)じゃ、手心くらい弁えておる……とはいえ、大した力は出せんがの。ま、それでもここから抜け出すに不足はないがな。》


(うん、ありがとう、それだけで十分。)


 《……そうか。》



「はい、相違ありません。」


「承知しました。では、私は馬車の準備を整えておきますので。」


「お願いします。あぁ、それとこれを…私以外の者が扉を開けるのに必要になります。」


 少女と不思議な声の相談が終わると同時にエルフの女性と男性の会話も終了する。

 エルフの女性は男性に何かを手渡し、それを受け取った男性が出口へ向かうのを見届けると、少女へと歩み寄ってきた。


 そして、膝をついて少女に目線を合わせると


「……貴女にはこれからとある場所に行って頂きます。ですが、貴女に危害を加えるつもりはありません、むしろこれからはこの様な生活を送らずに済むでしょう。」


 女性は真剣な表情で語りかけてきた。

 しかし、その瞳にはどこか焦りのような色味が混じっている。


「……。」


 《おや、これは暴れなくても済むやもしれんの。》


 意外そうに言葉を漏らしたレースとは対照的に、少女はただぼんやりとそれを聞き入れる。


「そうですね……いくつかは貴女に伝えておく必要があるでしょう。」


「……。」


 女性は少女が特に反応しないことを気に留めることもなく淡々とした口調で話を続ける。


「貴女はこれからとある商会に引き取って頂きます。そこはとても大きな商会なので仕事も生活も保証して頂けています。

 ああ、それとその商会のトップは優しい方なので心配ありません。話もついていますので安心してくださいね。


 そして、最も重要なのが……」


 女性はそこで言葉をいったん区切り、深呼吸をしてまっすぐ少女の片目を見つめる。



 ひどく張り詰めた空気の中


 ゆっくりとした時間が漂う


 だが、次の一言がその静寂を破った



「貴女は一族から追放です。」



「「っ……!」」


 女性がその一言を発した瞬間、後ろの見張り二人の体が強張る。

 手を強く握りしめ、仮面から覗く瞳は何を映しているのだろうか。


「……。」


 《……ほぅ?》


 しかし、少女はその言葉に何ら疑問を抱くことはなかった。

 なぜならば、彼女は自分を化物と定義し、自身をエルフと認識していなかったのだから。

 むしろ自身が一族の末端に加えられたことに少し驚いている程であった。


「何か言うことはありませんか?『鎖よ』」


 女性は質問をしながら少女の首輪を外す。

 ガチャリ、という音と共に少女は生まれて初めて自由を体験する。


「……。」


 しかし少女は ふるふる と首を振って意思を伝えるだけであった。


「はぁ……そうですか。なら最後に今まで貴女の世話をしてくれたこのお二方には?」


 少しのため息と共に女性は立ち上がりながらそう言った。


「……。」


 それに対して少女はヨロヨロとおぼつかない足取りで立ち上がった後にペコリ、とお辞儀を一つ。


 《なんじゃ、最後くらい声を出しても良いのではないかの?お主が監禁されてあった理由はその瞳じゃ、よって声は問題ないはずじゃが?》


 少女の簡素な行動にレースが口を開くが


(必要ない。それに迷惑かけたくない。)


 少女は冷静にそう返しただけであった。


 《……お主なりの感謝というわけか。》


 少女の回答にレースは強く言い返すことなくそれを見届けた。


 《……あやつらも報われんの。》


 ほんの少しの憐れみと共に。


(?)


 《いや、なんでもない。》


(そう。)


「では、ついてきなさい。」


 女性は少女がお辞儀をしたのを見るとついてくるように催促(さいそく)する。


「……。」


 少女は こくり と一つ頷いて女性の後を追うが、その足取りはひどく(つたな)く、今にも転んでしまいそうな状態だった。

 それでも、その少女に誰も手を貸そうとはせず、彼女の後ろを見張りの二人が追従していく。


「……っ……。」


 《大丈夫かの?》


 少女のあまりにも拙い足取りに心配になったのか、レースが声をかけた。


(……大丈夫、なんとか…歩ける。)


 《そうか……しかし、あまり無理はするものではないぞ?ずっと座って生活していたお主にとって急に歩くのは辛かろうて。》


 少女の返答を受けてレースは、心配しながらも意思を尊重する姿勢を示した。


(ありがとう、レース。)


 《なに、気にするでない。年寄りの節介(せっかい)じゃ……しかし、あのエルフが一族から追放とはの……時の流れとは残酷よな。》


 ふと、レースは憂いのこもった声色で呟いた。


(レース、どうかしたの?)


 《いや、お主にこの話を聞かせるのは酷なものと承知で話すが……エルフはその数少なさ故に一族を大切にしている節があってな。そのエルフが一族追放など考えられん。》


(でも、私はされた。私は魔者だから。)


 《……すまぬ。》


(どうしてレースが謝るの?)


 《かつても言うたが、全てはワシの業。

 可能ならばワシがお主を救って……いや、これは傲慢というものか……一族を道連れにしたワシが一族に追放された少女を救おうなど……それに、友との約束すら守れんしのぉ……かかっ、滑稽もはなはだしい。》


(レースは十分私を救ってくれてるよ……?)


 《そうか……じゃが、今はその言葉が辛いの。》


(ごめんなさいレース。)


 《お主が謝ることではない……ん、話をしているうちに着いたようじゃな。》


(ん。)


 やがて出口らしき場所にたどり着いた一行は立ち止まる。

 少女の視線の先、そこにはつる植物で雁字搦(がんじがら)めにされた扉があった。


「『扉よ』」


 エルフの女性はその扉の前に立ち、手をかざして一言呟いた。

 すると、それらは一斉にうごめき始め、(またた)く間に石の扉が姿を現した。


「さぁ、外へ。」


 そして、女性は扉を開きながら少女を催促する。


「……。」


 その開け放たれた扉のその先には、美しくも堂々たる輝きを放つ樹々が立っていた。


 木々は暁の空に照らされ、少女に美しく神秘的な空間を演出する。


 澄んだ空気は少女の頰を優しく撫で、樹々のざわめきが歓迎するように少女の耳をうつ。


 そして、視線の先には木製の車体に布地で天幕を張っただけの簡素な馬車とそれを引くための馬。


「……。」


 けれども、それらは少女にとって



 初めて見る空


 初めて見る色彩


 初めて感じる外の空気



 全てが『初めて』の物ばかりだった。

 光も、馬も、馬車も、木も、空の色でさえ……



「……。」


 《なんじゃ、もう良いのか?》


 しかし、少女はそれらを一瞥(いちべつ)すると静かに馬車に向かって歩き始めた。


(興味ない、それに疲れた。)


 《なんと……これはかなり重症じゃな。》


 驚くことにそれらの『初めて』は少女の心を動かすには至らなかったのだ。


「待ちなさい。」


 それをエルフの女性が呼び止める。


「……?」


 少女が不思議に思いながら振り返ると


「『汝、我が名の下に我らが一族より追放を此処に宣言する。』」


 女性は少女へとそう宣言し、冷たい口調でこう付け加えた。


「これであなたはもうエルフの一族ではありません。よって精霊からの恩恵も受けられないでしょう。」


(……。)


 《……わざわざ口に出すことかの?罪人(つみびと)ならば話は別じゃが、幼子相手にその宣言をするとはエルフも落ちたものよの。》


 少女は特にこれといった感情は湧かなかったようだが、レースは違った。


(レース、怒ってる……?)


 《当たり前じゃ。》


(どうして?)


 《どうして……と、言われてもの……》


 だが、少女はレースの怒りの意味を理解することが出来なかった。

 自身のために怒るレースの考えも、自らに追放を宣言した女性に対する怒りも、少女にとっては不可解なものであった。


 しかし、レースもまた少女の言葉に困惑を隠せないでいた。


(よくわからないけど、レースは満足した?)


 そして、邪気のない純粋な少女の言葉がレースへと容赦なく突き刺さった。


 《うぐ……そう言われるとワシはもう何も言えなくなるの……まったく無自覚が一番厄介じゃて。》


(そう?)


 少女とレースがそんな会話をしている間にも、エルフの女性は淡々とした口調で少女に別れを告げる。


「それでは、さようなら。名も無き少女。」


 女性がそう言い終わると、先ほどの男性が馬車から姿を現した。


「では参りましょうか。」


「……。」


 男性は少女へと優しく微笑みかけながら馬車へとエスコートした。


「簡素なもので申し訳ありません。

 なにぶん商業用の馬車でして……荷台はそれなりに広くスペースを取ってあります。それと、クッションと本も用意してあるのでご自由にお使いください。

 ……あぁ、他の荷物はご心配には及びませんよ?収納用の魔具を会長より賜っておりますので。」


「……。」


 男性に促されるがままに少女はなんとか荷台へと乗り込んだ。


「……ふぅ。」


 そして、少女は乗り込むやいなや腰を下ろしたのだが……


 《お主、その用意された物の上には座らんのか?》


(いい、床はかたい方が落ち着く。)


 《そうか……》


 少女が一切の迷いなく腰を下ろしたのは木の板を貼りつけただけの硬い床だった。


 物心ついた時から地下のかたい地面の上で生活を送っていた彼女にとって、クッションは不要のようである。


「はぁっ!」


 唐突に馬車の前から声が聞こえてくる。


 ヒヒーンッッ!–––ガラ、ガラガラガラ……


 続けざまにゆったりと馬車が揺れ始め、走り出したことを知らせる。


「……。」


 《……それにしても、あの商人とやらの声……どこかで聞いたことがあるような気がするの……?》


 揺れる馬車の中で ボーッ としていた少女だが、レースがなんとなく思い出したように言った。


(そうなの?)


 《……いや、単に気のせいかもしれん。いやはや歳はとりたくないもんじゃな。》


 少し考えてからレースは気のせいであると判断する。


(……そういえばレースって何歳?)


 そこで少女はなんとなく疑問を抱いた。


 《さぁて、いくつかの?当ててみるがよい。》


 その疑問にレースは少し楽しげな声でそう返した。


(ん……1500歳?)


 しかし、少女はエルフ。そもそもの基準が違った。


 《かかかっ!それでは国一つ滅ぼすのに一晩はかかるの!……しかし、そうじゃな……今のワシならそんなところかの?》


 だが、レースは更に格が違った。


(もしかしてレースっておばぁちゃん?)


 《そうじゃ、ワシはお婆ちゃんなんじゃ、なんならこれからはワシのことをレースお婆ちゃんと呼んでもよいぞ?》


(……今まで通りがいい。)


 《そうかそうか、それは残念じゃな。》


(?、レースはおばぁちゃんになりたいの?)


 残念がりながらも、楽しげな声でカラカラと笑うレースに少女は首をひねる。


 《そういう訳ではないがな……ま、お主も歳を重ねればいつかわかるやもしれんの。》


(それまで生きてたら。)


 《なんじゃ、お主は絶望するにはまだちと若すぎるぞ?少しは希望を持ったらどうじゃ?》


 少女の現実的で悲観的な考えにレースはつまらなさそうに声を曇らせた。


(……希望なんて持つだけ無駄。私は魔者でエルフから追放された化け物。)


 だが、少女は歳不相応の冷めた考えで答える。


 《確かに今はそうじゃな。しかし、世界は広いぞ?お主なんぞ可愛く見える化物がはびこっておるわ。》


 そんな少女にレースは精一杯のフォローを入れるが……


(……例えば?)


 《そうじゃな……七魔公爵、祖龍なんてどうじゃ?》


(……それは伝説の存在だから実在しない。)


 やはり少女は現実主義者だった。


 《さて、それはどうかの……?》


(もういい、する事もないから寝る。)


 《先ほどまで寝ておったというのにもう眠いのか?》


(さっき歩いてすごく疲れた。)


 《かなりの運動不足じゃな。これからは少し散歩でもしてみるといいかもしれんのぉ。》


(嫌。)


 《……お主、つまらんぞ?ワシかてたまには違う景色が見たいんじゃが?》


(私の片目を通して今見ればいい。)


 《……のぉ、お主この先必ず後悔するぞ?(つがい)になりたい相手を見つけてもそやつに相手されんぞ?》


(だから、番には興味ない。)


 《ワシも昔はそうじゃったからその気持ちはよくわかるが…….お主といると、番と子をもうければこんな風に過ごせたのかと思うようになってな。

 今さらながらに後悔しとる。》


(レースはレース、私は私。)


 《……ふぅむ、参ったの。》


 少女の否定的で頑固な意見にレースもお手上げとばかりに言葉を漏らす。


(私は少しだけ景色を見たら寝る。)


 《あい、わかった。良い夢を見れるといいの。》


(そう。)


 《他人事のように言いよったわ……》


 そして、話は終わりだと言外に伝えてくる少女にレースも諦めた。




 少女は馬車に揺られながら道を行く


 ガラガラと揺れる馬車の中で流れゆく景色をただ、ぼんやりと眺めながら希望のない今を過ごす


 少女は明日もまた今日のように過ごすのだろう


 けれど、少女は絶望しない


 なぜなら少女には


 失うはずの『家族(モノ)』も


 失われてはならない『(モノ)』も


 少女には元から『理想など(ナニモ)』無いのだから


 それが少女の『常識(日常)』なのだから



 そんな少女の夜は未だ明けることはなく


 少女の長い旅路()はまだ続く






作者「いやぁ、面接指導やらSPI3対策やら学校やらのやる事盛りだくさんでぶっちゃけ書く時間なんてありません。ごめんなさい。」


隊長「もはや我々の普段のノリすら忘れてるくらいだしな。」


作者「第一希望の企業様を受けられることだし、一回で合格して早く再開したいです。」


隊長「SPI3が鬼門だがな。」


作者「前例として、《面接が良かったから160時間の課題をこなせば内定あげる。》なんて事もあるから……(震え声)」



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