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閑話【執事の憂い】


お久しぶりです

最近、忙しいのなんのと素晴らしきこの夏


明日あたりに『お知らせ投稿』という名の近況報告等をしますのでよろしくお願いします


初期から見てくださっている方なら知っていらっしゃるであろう本編に関係のない投稿です

ちなみに一定期間が過ぎる、あるいは必要がなくなったと判断した場合その投稿は消しますのでご理解ください


 


 ーリンドブルム領地・シュトルツー



 皆様、おはようございます。

 (わたくし)は領主様の館にて執事をしておりますセルディアスと申します。以後、お見知り置きを。


「〜〜〜♪」


 おや、あちらにいらっしゃるリーシアお嬢様ですな。

 なんとも機嫌良さげに鼻歌を歌っておられます。


「おはようございます、お嬢様。今日(こんにち)はとてもご機嫌がよろしいようで。」


 私は思わずお嬢様にお声がけしてしまいました。


「おはようございます、セル爺。

 はい!そうなんです!」


「なにか喜ばしい事でも?」


 常夏に咲く花の様な笑顔で答えられるお嬢様に私も思わず笑みがこぼれてしまいますな。


「実は明日、お兄様が来られるのです!」


「アレクセイ様がですか?」


 今にも弾けんばかりの嬉しさがこもった声でそうおっしゃったお嬢様。

 しかし、アレクセイ様は王都に居られる筈ですが……?あぁ、『あちら』のお兄様の事ですな……『この笑顔』の時は。


「あ、いえ、実のお兄様ではなくてですね……」


 わたくしの疑問にお嬢様は慌てたご様子で否定されました。


「おやおや……これは失礼しました、シミズ様の方でしたか。」


「はっ、はいっ……」


 お嬢様は紅く熟れた果実の様に頰を染め、尻すぼみに肯定されます。


 ほっほっ、なんもと初心で愛らしい反応であるのでしょうか。

 これを受けて応援したくならない者など何処(どこ)におりましょうか。


「お嬢様の恋路、ささやかではありますが私も応援させて頂きます。」


「あ、ありがとうございます…セル爺……」


 そう言って一礼した私に対し、恥ずかしさからか頰に両手を当ててうつむくお嬢様。

 ……お嬢様がこれ程までに年頃の少女らしくお元気であらせられるのは『あの方』のお陰です。

 これは私の命にかけてでもお嬢様を(めと)って頂かなければなりませんな。


「ほっほっほっ、罪なお方ですなぁ……ですが、あの方であればわたくしと致しましても安心できるというもの。」


 これも紛れもないわたくしの本心で御座います。

 領主様に圧倒的な力をもって勝利し、わたくしですら相殺するのにかなりの労力を費やしたあの一撃。

 あれが本気の一撃ではない事は明白ですが、もし、彼の本気の一撃が放たれればこの領地どころか国そのものが危うい……ですが、だからこそ、お嬢様をお守りして頂ければそれは最強の矛となる。


 なによりも、お嬢様の『いつもの笑顔』と貴方が側にいる時や貴方の話題が出た時にだけ見せる『特別な笑顔』は全く違う。


 我々に心配させまいとするその笑顔は確かに美しい笑みです。ですが、それ以上の笑みを我々はつい最近知ってしまった。

 気に入った魔力の事を話す時と同じくらい……いえ、それ以上の(まばゆ)い笑顔。


 その事実が我々にどれ程の衝撃を与えた事か……貴方は知りもしないでしょうなぁ……


 我々では引き出せないその笑顔は貴方だけが頼りなのです。この歳になってまだ悔しさを感じる事があったという事実に私自身も驚きました。


「そんなっ…セル爺までお父様のようなことを……」


「紛れもない事実ですが故、しかし、あの方は特殊です。一筋縄ではいきませんでしょうな。」


「はい、それは承知の上です。」


 おそらく、私でも知ることの出来ない事をお嬢様は知る事が出来るでしょう。

 その『心を見通す力』をもってすれば彼の心に誰よりも近づく事ができる……ですが、それは逆に言えば、あまりにも容易に心へと近づけてしまうが故に、彼の怒りや心の闇に簡単に触れてしまえるいわば諸刃(もろは)の剣。


 だからこそ、お嬢様は誰よりも慎重に、時に大胆に、彼の『本心』へと迫る必要があります。

 それは聡明なお嬢様であればご理解して頂いているとわたくしは確信しております。


「ならばお嬢様、本日は少し予定を変更してお料理の勉強などはいかがでしょう?」


 余談ですが、私はお嬢様の教育係も兼任させて頂いております故、少しの変更など私の裁量の範囲でございます。


「はいっ!お願いしますわっ!」


「ほっほっほっ、元気で良い返事ですなぁ。これならば奥様のようにはならないと思いたいのですが……」


 しかし、ここで一つ心配事を思い出しましたな。


「お、お母様の料理は……その、あれは少し…奇抜ですから……」


「錬金術……ですかな?」


「否定できませんわ……」


「左様ですな……」


 その会話と共に私とお嬢様は肩を落とします。


 お嬢様のお母様であらせられるアリシア様のお料理は……はっきり申しますと『謎』の一言に尽きますな。


 ある時は、鍋で野菜と肉のスープを作っていたはずなのに、なぜか最終的に紫色のうごめく固形物が出来上がっていたり……


 またある時は、『健康に気をつけて欲しいから。』という理由で薬草、きのこ類、果物がドロドロになるまで煮込んだだけの『自然の恵みスープ』なるものが出来上がったり……その料理の影響で鍋の底が抜けたことに関しては開いた口が塞がりませんでしたなぁ。

 材料の一つになぜヒドラ茸を使おうと思ったのかは未だに理解に及びません。


 それに、領主様だけは笑顔で食されていたのですが……目が死んでおりました。

 使用人……?味見と称した毒味をさせられた結果として皆一様に気を失っておりましたぞ。……アン&レヴィ商会からあらかじめ解毒剤を買っておいて正解でしたな。


 その死屍累々たる光景を思い出して私はより一層固く決意します。


「……このセルディアス、この名にかけて必ずやお嬢様が胸を張って料理が出来るように指導させて頂きます。」


「はい……」


 食とは1日の楽しみでもあります。

 それを地獄に変える料理を出してしまえばシミズ様にも申し訳がたちません。


「では、参りましょうか。」


「はい、よろしくお願いしますわ。」



 –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



 それから数時間後、彼らは館の調理場に居た。



「こ、これは……いったい……?」


「わ、わかりません……」


 調理場にいる我々の目の前にある物に、驚愕の意を隠せません。


 おかしい……確かに途中までは調理工程を手順通りに行ったはずなのですが……


「お嬢様?失礼ですがいったい何をなさられたので……?」


 思わずお嬢様に問いかけますと


「わ、わたくしはただ教わった事を自分なりに努力しただけなのですが……そ、それにわたくしはこういった事は初めてで……何か間違っていましたでしょうか……?」


 おずおずとそうおっしゃるお嬢様。

 そこには戸惑いと不安の色が強く出ております。


「……一口よろしいですか?」


 意を決してわたくしは『ソレ』を食すことにしました。


「えっ?……は、はい。」


「ありがとうございます……では、いざ……っ!」


 こ、これはっ……!?自分なりに努力した……?たったそれだけの事で?

 わたくしは単純に包丁の使い方や食材の切り方、調理手順を教えただけなのですぞ?



 なのに何故……!



 何故こんなにも『完璧なスープ』が出来上がるのですか!?



「お、お味の方は……その、どうでしょうか……?」


 お嬢様の問いかけに私は膝を屈して申し上げます。


「お……お見事で御座います……このセルディアス、感服いたしました……初めて作った物でさえこれ程の出来栄えならば本日の昼食にも出すことができましょう。」


 野菜と肉が程よく入り、透き通った美しいシンプルなスープ……ですが、スープには野菜の甘みを溶け込ませながらも肉の旨味を邪魔しない、肉はしっかりと火が通っていて硬すぎず、程よい噛みごたえです。


 あの独創的な料理をお作りになるアリシア様のご子女とは思えない程の出来栄え……どうして親と子でこうも差が出るのか不思議でなりませんなぁ……


「ありがとうございます!……それなら、その……お兄様にもお出しできるでしょうか?」


 お嬢様は活き活きとしていながらも恥ずかしさや照れの混じった笑顔でそうおっしゃいます。


「はい、もちろんです。

 ですが、まだまだ料理も奥深い世界ですが故、スープのみならず他の料理も作れるに越したことはないでしょうな。」


 これは思わぬ誤算でした。お嬢様にこれ以上ない程の素晴らしい才をもう一つ見出せたのですから。


「ひとまずは領主様にもお出ししてみましょう。」


「はいっ!」


「では、早速……っ!!」


「っ!?」


 わたくしが早速『料理を領主様に届けましょう。』と提案しようとしたその瞬間、わたくしはお嬢様を守る体勢に、お嬢様は身を縮めてわたくしに隠れる体勢を取りました。


「今のは……」


「わ、わかりません……ですが、一つ確かな事は……」


 理由は言わずとも私とお嬢様の間では理解しておりました。


 なぜなら


「お兄様が本気で魔力を展開せざる得ない状況にあるという事です!」


 森の方角から少し前と同じように莫大な魔力を感じ取ったのです。


「こうしてはいられません!すぐにお父様にご連絡を!」


 すぐに立ち上がったお嬢様は領主様の執務室へと駆け出そうとします。


「お嬢様、落ち着いて下さいませ。」


 ですが、今のお嬢様が執務室に飛び込んだところで何か出来るわけでもありません。急いては事を仕損じます。

 故に、私はお嬢様の眼前に回り込みました。


「落ち着いています!」


「いえ、お嬢様は少々焦っておられます。」


「そんな事はっ……!」


「では、なぜ私の目を見て下さらないのですかな?領主様もこの異変には気づいておられますでしょう。」


「それはっ……!……セル爺、ごめんなさい。」


 私を押しのけようとしていたお嬢様も説得によって理解を示して頂けました。


「はい、素直で非常に嬉しく思います。この件はわたくしが領主様に取り合ってきますので今はお部屋にお戻り下さい。」


「わかりました……」


(すぐに理解して頂けましたのは幸いですな。)


 そうして我々が調理場出た時でした。


「なんですか……この魔力……」


 お嬢様が何らかの変化に気がついたご様子です。


「お嬢様?どうかされましたか?」


「セル爺、今すぐわたくしと一緒に外に出てください!」


「承知しました。では、お嬢様失礼します。」


「!、ありがとうございます。」


 お嬢様は切迫した表情で私の手を引きます。

 ですので、私はお嬢様をお抱えして館から外へと飛び出しました。


 そして、私は館の外に出るとお嬢様を地面に降ろします。


「ありがとうございますセル爺。今から森の方角を見ていて下さい。」


「承知しました。」


 疑問を持たずに森の方角を見ていますと『ソレ』はすぐにおこりました。




 –––ピカッッッ!!!




 遠く空の果てに光る何かが見えたのです。

 そして次の瞬間には一瞬にして消し去られた雲と、周りへと押し寄せていく衝撃の波が見えました。


「お兄様……」


「……。」


 その光景を見て、悲痛に顔を歪ませるお嬢様にわたくしも胸が痛みます。

 あれはシミズ様に何かが起きた事を表すのには十分すぎます……しかし、彼に『個人で勝利する事が出来る者』はそう居ないでしょう。

 私の知る限りでは、せいぜい『善戦できるかどうかが数人』程度……いえ、『あやつ』ならあるいは……ですが、あやつがあの森に現れる事などあるのでしょうか……?

 ……いえ、あやつが現れたとすればあの森は焼け野原にならざる得ないでしょうな。


 ともかく、今はお嬢様にご安心いただく事が先決でしょう。


「お嬢様、シミズ様ならば大丈夫です。あの方はお強い……かの剣聖たるルイス様にも勝利なさられたのです。ご安心を。」


 私は様々な憶測を振り切り、お嬢様にご安心いただけるように言葉をおかけします。


「……そう、ですね……お兄様なら……きっと……」


「はい。」


「……そうですわ、お兄様はきっと来てくださいます!お兄様を信じましょう!」


「はい、シミズ様を信じましょう。」


『いつもの笑顔』でそう仰るお嬢様に私も笑みを浮かべながらお応えします。


「館へ戻りましょう。」


「そうですね。」


 そうして私とお嬢様は館へと戻ります。


「……。」


 シミズ様、貴方様にとってお嬢様は単なる一人の少女かもしれません……ですが、我々にとってはかけがえのないお嬢様なのです。


 ですからどうか、どうかお嬢様に人並みの幸せを運んでくださいませ。


 その為ならば……私はこの名を捨てる事さえ(いと)いません。




作者「SPI3 とかもう本当にヤダ。作文もあるし……企業見学に溶接に夏の課題に資格試験に……全てを投げ出したい。」


隊長「リア友に『学生とは学び生きるとも読める。』なんて言った奴の発言とは思えんな。」


作者「まぁ、ここが唯一愚痴をこぼせる場所ですから……少しは大目に見てください。」


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