表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/154

こいつ……できる……!?


こんにちは!

10日ぶりの投稿です!

読者の皆様

年々気温が高くなっていますが、体調を崩されないようご自愛くださいませ。


 


 俺が招喚術によって呼び出したのは一人の女性だった。


(わたくし)

『黒き神々』にして『七魔公爵』が一柱

【怠惰】の名を冠する者

 どうぞ、ベルとお呼び下さい。

 もっとも、契約などしませんので今日限りの話ですが。」


 その女性は俺を見るなり気だるそうな目つきをしながらも完璧な所作でそう言った。


「……えっと、その……え?七魔公爵?君が?」


 だが、俺は彼女の言葉をうまく処理することが出来なかった。

 なぜならば、彼女は身長にしておそよ150cmほどで、その小さな身体に(まと)うのはロングスカートタイプでクラシックなメイド服なのだ。


 その瞳は鮮やかな瑞々しい赤であり、その肌は真珠のように白く美しい。

 灰色の髪は小さな体躯や白い肌と相まって儚い印象を俺に与える。

 どう見たって小柄な可愛いメイドさんにしか見えない。……目つきはちょっと悪いが。


 そんな彼女が以前にルイスさんから聞かされた、あのたった一人で一軍に匹敵する力を持つと言われる七魔公爵の一人だと誰が納得できようか。

 というよりも、実在した事に驚きである。


 だが、権能《眼》で確認すると彼女は確かに人族では持ちえないであろう魔力量をしている。ていうか、かなりラウに近い魔力量だ。


「はい、そうですが何か?……あぁ、殿方は皆クレイジーモンキーでしたね。言語を理解しろと言う方が酷な話でした。かと言って猿に謝っても仕方ありませんね。」


「ちょっと待ってめっちゃ毒吐くこの人!?」


 驚きも(つか)()、俺の言葉に反応した彼女は不快そうに顔を歪めると、口元に片手を当ててなぜか納得したようにそう言い放った。

 その様子には冷笑という言葉が確実に当てはまる。


「あら、わたくしの言葉が理解できるのですか?

 ならば貴方はクレイジーの中のクレイジーですね。恐ろしく気持ち悪いです。」


 彼女の発言に驚きと戸惑いで俺がアクションを起こさないでいると、彼女はそう続けた。

 そして、極め付けはゴミを見るような目である。


「見た目可愛いのに言ってること全然可愛くない!?こんな家政婦さんいたら心折れるわ!ていうかなんでメイド服!?」


「猿に褒められても嬉しくありませんね……反吐が出ます。それとわたくしは冥土(メイド)ですから冥土服を着るのは当然です。」


「ちょっと待って!なんか俺の知ってるメイドとニュアンスが違う!それ絶対やばいやつ!」


 すまし顔で答える彼女だが、そのニュアンスには何か得体の知れない恐ろしさを感じる。


「いちいちうるさいですね……あっ、猿ですから当然でした。あと、汚らしいので視線をこちらに向けないで頂けますか?」


「この人ほんとになんなんだ!?隙あらば毒吐きまくってるぞ!スローロリスか!」


 ※スローロリスは唯一毒を持った猿であり、その可愛らしい見た目とは裏腹に人が噛まれると炎症を起こし、死亡するほど強い毒を持ちます。ちなみに、グルーミングと呼ばれる毛づくろいで全身に毒を塗り込んでたりもします。


 ヤベェ……この人本気で言ってるぞ……とりつく島もない。


 《当然です。彼女は七魔公爵であり、黒き神々の一柱である者なのですから。》


 そういえば、その黒き神々ってなに?


 《主様の世界では悪魔と呼ばれている者たちのことです。

 とはいえ、主様の世界で一般的に知られている悪魔ではなく、本来の在り方ですが。》


「悪魔!?」


 あ、やばっ……声に出しちゃった。

 あとそれ夜に詳しく。


 《承知しました。》


「おや、珍しい呼び名を知っていますね?それを知っている人族などもう居ないと思っていましたが……貴方、何者ですか?」


 すると彼女の興味をひいたらしく、毒を吐かずに純粋な質問をしてきた。首を傾げ、いまだ不機嫌な顔で彼女はこちらを射抜かんばかりに見つめてくる。


 ……まぁ、これは隠しても意味ないし正直に話すか。


「俺は異世界から来た人間だ。この世界ではないどこかの世界、魔法なんてものは存在しない世界だ。」


 俺がそう説明すると、彼女はこう言った。


「……なるほど。しかし、そうなると疑問が増えましたね。別の世界からこの世界への転生や転移などの権限を持つのは『白き主』だけなのですが?

 それに、貴方程度のなんの変哲もないただの人間を送るなど何を考えているのでしょうか。」


 えらくすんなり納得したな……ん?白き主?


 《ローナ様のことですね。》


 あぁ、なるほどね……ありがとう。


「そりゃあ、俺は創造神と契約したからな……それと、一つ訂正がある。俺はもう人間じゃねぇ。」


「はい……?はっ、人族の肥大妄想もここまでくると滑稽を通り越して不愉快ですね。それに白き主も落ちたものです。」


 俺の言葉に彼女は一瞬だけ狐に化かされた様な表情をしたものの、すぐに表情を元に戻してから鼻で笑ってそう言った。


 お?さっきから言わせておけば好きなように言いやがって……俺はともかくローナに対してその口ぶりは見過ごせねぇな?


「おいちっこいの、さっきから毒づきやがってそれしか能がないのか?もしそうだったら悪魔の名折れだな?」


 俺が軽く煽ると


「あら、急にどうしたのですか?見苦しいですよ。ひどく退屈な殿方ですこと。」


 彼女はどこ吹く風と涼しげな表情


「自己紹介どうも、毒吐きしか能のない退屈なお嬢さん。」


 俺も負けじと不敵な笑みを浮かべて言い返す。


「少なくともわたくしは貴方よりは年上です。

 わたくしがどういった存在すら理解せずにわたくしを呼び出した無能はどこのどなたでしょうね?」


 だが、それもまた返された。

 こいつ手強いぞ。


 シュティ、あいつが悪魔っていう事以外になんか情報ある?


 《そうですね……彼女はこの世界で真祖と呼ばれる吸血鬼であること、でしょうか。》


 ……なるほど、ありがとう。


「おいおい、吸血女がなにか言ってるが超音波だから聞き取れねぇや。ちゃんとした言葉でいいんだぜ?

 あ、それとも血でも吸うか?」


「はぁ……午前から堂々とセクハラ発言とは最低です。やはり猿は女性の下半身しか見ていないのでしょうね。……あぁ、それと残念ですがわたくしの眷属はコウモリではありませんのであしからず。」


 ああ言えばこう言う、まさに一進一退と言うべき舌戦だ。


 《いえ、ムキになった者同士の見苦しい言い争いかと。》


 うるせえ。


「あぁ、そうかい、それは失礼。定番の眷属すら持てない残念な吸血鬼だったとは……あと、そこ太陽当たってるぜ?干からびるのも時間の問題じゃないのか?」


「わたくしは太陽を克服していますからなんら問題ありません。そんなことも知らないとは……残念なのは貴方の頭でしたね。」



「あ?」

「はい?」



 一通り言い終えて俺と彼女は共に無言で相手の目を見据える。


「……」


「……」


 なるほど……よーく、わかった


「……」


「……」


 そして、双方ゆっくりと歩みより


「見直しました。貴方はわたくしに臆するどころか張り合ってくる賞賛に値するおバカです。」


「あぁ、俺もあんたの事を勘違いしてたよ。吸血鬼じゃなくて毒舌鬼だってな。」


 ガシッ!と固い握手を交わした。

 共に不敵な笑みを浮かべ、その瞳にはなにかを分かち合った理解の光が灯っている。


 ……間違いない、こいつは俺と同類(愉悦主義者)だ。

 他人を振り回し、その様子を見て愉悦に浸る。

 まさに俺と気の合う人物と言ってもいい。


 そして、彼女は手を離すとなにやら呟く。


「さて、わたくしと気が合う珍しい殿方と出会えたのは僥倖(ぎょうこう)なのですが、そうなった場合はどうしましょうか……」


「ん?なにが?」


 気になったのでとりあえず聞いてみると


「……契約の話です。そもそもはわたくしと契約したくて呼び出したのではないのですか?」


「あぁ、それな……」


 彼女は『何を言ってるんだこいつは』という呆れた表情でそう答えた。

 どうやら契約に関しての事だったらしい。


 俺の曖昧な反応に彼女は目を細め、責め立てるような瞳でこう言う。


「まさかとは思いますが、呼び出しておきながら契約の事を忘れていたのではないですか?そこまで愚鈍だと失笑案件ですね。」


 と言いつつ上品に片手で口元を押さえて笑いを堪える仕草を見せる彼女。


 失笑案件じゃなかったのかよ……つかなんだその首相案件みたいな言い方は……国会じゃなくてうちの家族会議に議題として提出してやろうか。



 閑話休題(それはそれとして)



「いや、まぁ、それが……」


 彼女に言うべきだろうか?いや、言えるだろうか?


『ドラゴンが欲しくてドラゴンを呼び出そうとランダム招喚したら君を呼び出しちゃった。』


 などと。いや、言えないな。


 彼女の誇りを傷つけそうだ。

 神である彼女からしたらドラゴンなど格下の存在だろう。そんな存在を呼び出そうとして自分が呼び出されたなんて知ったらどう思うか……

 なにより、確実にネタにされる。俺だったらするからな、同類の俺が言うんだ。間違いない。


 《後半の部分が本音ですよね?》


 ち、ちがわい!全部本音だい!


「なんですか、はっきりしてください。即断即決出来ない殿方は好かれませんよ?」


 もたもたしているとドンドンと毒を吐いてくる彼女。


「うぐっ……」


 やめろ、それは今の俺には痛すぎる。

 彼女の何気ない一言が俺の心を傷つけた。


「おや……ふっ…図星でしたか……?それはっ……大変っ…ふっ……失礼っ…しました……ふふっ……」


 俺の内心を察したらしく、彼女はまた笑いを堪えている。その瞳には(あわ)れみと軽蔑が見てとれる。


「ほっとけチクショウ……それで?君はなにが出来るんだ?」


 とにかく話題を変えるべく彼女が一体何を得意とするのかは聞いておこう。


「その前に貴方もそろそろ名乗っていいのでは?

 こちらが名乗っているのにも関わらず貴方が名乗らないのはいかがなものかと。」


 すると、彼女は若干の毒気を込めた物言いでそう言った。


「あぁ、確かにそうだった。それは失礼した。」


 確かに彼女の言う通りだ……つうか、毒吐きが衝撃的すぎて忘れてたな。


「俺はタケシ・シミズだ。前居た世界では清水猛士って言い方をした。後は……二人の女神と契約してて、その二人と二頭の魔獣と一緒に暮らしている。」


 ……いま改めて考えると俺ってかなりすごい事してるよな。

 絶世の美女と美少女、二頭の可愛らしいペットと一緒に暮らしてて、美女と美少女は女神っていうこの生活。さらに頼りになり過ぎるスキルとかいう豪華特典付き。


 俺が自己紹介をすると彼女は一つ頷いて口を開いた。


「そうですか。色々と聞きたいことがありますが、ひとまずはこちらが質問に答えるべきですね。

 わたくしの得意分野ですが、家事全般とその他もろもろです。」


 予想通りというか……見た目通りというか……逆にどんな反応をすればいいかわからんな。無難に頷いておこう。


「なるほど。」


「あら、予想通りでしたか?当然でしょうけれど。」


 俺が頷くと彼女は特に表情を変えずにそう言う。


「すまん。」


「?、なぜ謝るのです?」


 謝ると不思議そうな顔で彼女は聞いてくる。

 その表情は先ほどとは違い、純粋な疑問だと感じさせる。


「まぁ、いいです。それよりも他に出来ること……そうですね……では、こういうのは……」


 彼女は俺の予想通りすぎたという事が面白くなかったのだろうか?


「っ!」

 《主様!》


「いかがでしょう?」


 彼女は一瞬にして距離を詰め、俺の首元へ小ぶりのナイフを突き立てた。

『ふふっ』といたずらが成功した子どものような、それでいて不敵で魅力的な笑みを浮かべている。


「なんのつもりだ?」


 俺が声のトーンを落として呟くように問うと


「さぁ?どうしてでしょうね?でも、わたくし家事の中でも『掃除』がもっとも得意なんですよ……ほら、早く逃げないと首が裂けてしまいますよ?」


 彼女は愉快そうに笑う。


 そんな彼女の瞳を見ながら俺は一言


「……遊ぶにしても危ないぞ。」


 呆れまじりにそう呟いた。


「あら?気付いていらしたのですね……それは残念。」


 だが、そう言う彼女の表情は変わっていない。


 彼女が俺の首元へナイフを近づけているため、必然的に距離が近くなる。……なんか良いにおいする。

 って、そうじゃなくて!彼女の持つナイフは刃が丸く潰されており、切れ味など無いに等しい。


「それに、君のナイフは俺の首には届かない。」


 俺は権能《劔》で作成した透明の薄い盾でナイフを防いでいるのを彼女にもわかるように白く色をつける。……シュティが反応してくれていなかったらヤバかった。


「……確かにそのようです。何かに(はば)まれた感触がありましたが、まさか権能をここまで自在に使用出来るとは思いませんでしたね。」


 彼女は俺から離れてナイフをしまう。その挙動は一切の無駄がなく、たったそれだけの動作で素人目からも熟練だとわかる程だ。


「ていうか、最初は割と本気で殺す気だっただろ。」


「当然です。この程度で死んでいてはわたくしの主など務まりませんので。」


 なに食わぬ顔でそうのたまった彼女に俺は苦笑しつつも質問する。


「それで?俺は合格点を貰えるのか?」


「及第点、と言ったところでしょう。」


 俺がおどけた口調で言うと彼女はそう答えた。


 あ、一応は問題ないのね……あれ?ちょっと待てよ?そもそも俺の家にメイドって必要か?


 《必要ありません!家は浄化機能で掃除は不要です!食料はたとえ主様が出さなくても永久に尽きることのない野菜と肉、調味料類が保管されています!》


 おわっ!?びっくりした……どうしたシュティ?


 《ぁ……い、いえ、なんでもありません。申し訳ありませんでした。》


 お、おう……?


 珍しくシュティが大きい声を出した事に頭をひねっていると


「ですが、もしわたくしと契約するというのならいくつか条件があります。どうされますか?」


 彼女から契約に関しての話を持ちかけられた。


 流石にこのまま断るのも悪いな……それに家にメイドさんってのもすげぇ憧れるし……とりあえずは話を聞こうか。


 《……。》


「よし、話を聞こう。」


 彼女の目を見据えて話を聞く。


「分かりました。では一つ目の条件です。

 貴方の全力を見せて下さい。」


「……ちょっと待ってくれ。」


 やべぇ、いきなり問題発生だ。

 そんな事したらまたルイスさんに説明しなきゃいけなくなるぞ……シュティ、なにかいい策はないか?


 《……。》


 シュティ?あれ?おい、シュティ?


 《……はい。》


 どうしたんだ?具合でも悪いのか?


 《……いえ、そんなことはありません……ご心配いただきありがとうございます。》


 それならいいんだが……それで、なにかいい案ないか?


 《……主様の期待にお応え出来ないわたくしをお許しください。》


 いや、別にないならいいんだが……大丈夫か?


 《はい……ただ、その……っ、いえ、なんでも……ありません。》


 ……あとで少し話そうか。話すだけでも気は紛れるし、心が軽くなるさ。


 《っ!……はい。》


 なぜかシュティの様子がおかしいが、それは後にしよう。今は目の前メイドことベルとの話だ。


「よし、わかった。全力だな?」


 俺は頷きながら承諾する。


 あ、ちなみにいい案は浮かばなかったから明日の自分にぶん投げることにした。

 どのみち明日は街に行くからその時にそれっぽいこと言っておけばいいだろう。


「はい、是非とも全力でお願いします。」


「あ、それとそれって魔力解放だけでいいのか?権能とか使わずに。」


 念のため確認しておく。

 もう権能が使えることはわかっているようだから下手に嘘をついてもバレるのは確実だろう。


「出来れば権能も見たいですね。そもそも貴方がなぜ権能を使えるのかは後で伺いますので。」


「……わかった。」


 細かいことは気にしない。

 さて、じゃあどの権能を使うか……はい、一覧ドン!


【権能】


 《眼》

 ・プロビデンス

 ・ラー


 《弓》

 ・神弓ヘラクレス

 ・神弓アポロン

 ・神弓アルテミス


 《槍》

 ・雷槍ケラウノス

 ・蒼槍トライデント


 《(つるぎ)

 ・【真名】フスティシア


 どうせなら派手なやついっちゃう?いっちゃう?


 《……それならば《槍》で名を使用したケラウノスがよろしいかと。》


 お、アドバイスありがとう。


 《……いえ。》


 声のトーン低っ!?め、めちゃくちゃ落ち込んでる……?なんで?……まぁ、それはおいおい聞くとして、いっちょやりますか!槍だけに!


 《……面白くないです。》


 シュティが辛辣だ!?


 予想外の攻撃に驚きつつとベルに注意喚起する。


「すまん、少し……いや、かなり退がっててくれ。」


 俺がおよそ30mほど先を指すと


「はて?誇張は男の十八番とはいえ、そこまでする必要があるのでしょうか?嘯く(うそぶ)と痛い目をみますよ?……特に夜は。」


「い・い・か・ら・退・が・れ!」


 彼女は嘲笑しながらシレッと下ネタをはさんで退がっていく。

 さっきセクハラ云々(うんぬん)で文句を言ってきたのはそっちだろうに……つか、よく考えたらなんで血を吸う=セクハラなんだよ……まぁ、いい。


「はぁ……始めるぞー!」


 げんなりしつつも、およそ30m先にいる彼女に手を振って合図をすると


「いつでもどうぞ、ふぅ。」


「うぼぁばぁ!?」


「ふふっ、おかしな声……無様ですね。」


 また転移かなにかで彼女は俺の側まで来て、耳に息を吹きかけて戻っていった。


 てか、いまのどうやったんだ!?俺とベルの身長差軽く頭一つ分はあるぞ!?

 あぁ、クソッ……同族を敵に回すと厄介だな……決めた!絶対認めさせてやる!そして、必ず仕返ししてやる!


「《安全制御機構(セーフティシステム)全制限解除(オールパージ)


 《了承。》


 俺の一言を機に、身体中の枷が一気に外れるかのような感覚

 我ながら溢れ出す魔力はいつ見てもおかしいな…….


「権能《槍》その名はケラウノス」


 自分自身に呆れつつも呟くと、片手に黄金色の五鈷杵(ごこしょ)のような物が出現する。それは前見た時と同じように軽く帯電している。


 そして、俺はやり投げの姿勢をとった。

 前にまともなやり投げをしたのは高校の体育の授業以来だ。え?権能の性能テスト?あれは事故だからノーカン。


「すぅ……はぁ……」


「……。」


 ベルが黙って見守る中、一つ深呼吸をして詠唱を開始する。


『我が手に顕現せしは神の(いかづち)



 すると手に持った五鈷杵の雷が呼応するかのようにその光を強くする。さらに、(まと)う雷がチリチリとかすれるような音からバリバリと弾けるような音に変わった。



 ()は空を裂き 音をも置き去る轟雷の槍!



 段々と雷が集まり、収縮していく。

 やがて五鈷杵の周りには完全に槍と化した雷が形成されていた。



 穿て!勇敢なる(ヴァリアント)槍騎兵(・ランサー)!』



 俺は詠唱を終えると共に空へと槍を投擲(とうてき)する。

 すると、目の前に幾重にも重なった魔法陣が展開され、雷槍はその中心をことごとく貫いていき、魔法陣を貫く度にソレは巨大な雷となる。



 –––ッッッッッッッ!



 最後の魔法陣を貫いたその刹那、ソレは音も無く空へと飛翔した。


 空を翔ける雷槍は瞬く間に雲の中へと消えていった。


「……あれ?これで終わり……?」


 ぶっちゃけ、盛大に投げた割に一切の音もなく、ただ槍をぶん投げただけである。



 –––ダッ…ダァァァァンンンッッッ!!!



 俺が余りにも手応えがない事に驚いていると、思い出したように耳をつんざくような重低音の轟音と衝撃波が荒波のように草原を蹂躙(じゅうりん)する。

 まるで雷が真横に落ちてきたみたいだ。


「おぉぅ!?空中で炸裂したのか!?」


 《いえ、今のは投擲した時の音と衝撃波が遅れて響いただけです。》


 は?


 《その証拠に今すぐに空を見上げてください。》


 意味不明な言葉に呆けながらも言われるがままに空を見上げると



 –––ピカッッ!!



 雷槍が消えていった雲が一度激しく発光し、その直後の事だった。


「あ……」



 –––ドゴォォォォォォォォンンンッッ!!!



 晴れ渡る空に程よく広がっていた雲が跡形もなく消しとばされてしまった。大音量の炸裂音は花火を思わせる。



 –––ビュゴォォォォォォッッ!!



 そして吹き荒ぶ暴風は俺たちのところまで届いた。

 呆然とする俺の周りを嘲笑の波が吹き抜けていく。


「お見事です。まさかここまでの威力を発揮するとは思いもしませんでした。たしかにこれは距離を空けておいて正解でしたね。」


 そんな中、パチパチバチ、と拍手しながら歩み寄ってくるベル。しかし、その言葉とは裏腹に彼女はそこまで驚いていないようだ。


「おや?どうかしましたか?」


「や……」


「や?」


 だが、俺はそうじゃない。


「やっちまったぁぁぁぁぁ!!!思った以上にやっちまった!どうしよう!?ルイスさんはともかくリーシアに嫌われたりしたら……俺は泣くぞ!?」


 正直言って途中からちょっとノリノリだっとはいえ、そこまで威力があるとは思ってなかった!

 ……制限解除したとはいえ自然発生してる魔力でこの威力だぞ?俺が本気で魔力込めたらどうなるの?ねぇ?どうなるの!?


 《さぁ?》


「今度はなんですか……自身の放った一撃にそこまで驚く方はそういませんよ。まるで初めて買ってもらえたおもちゃを壊してしまった子どものようですね。」


 膝をついて絶叫する俺を傍目(はため)にクスクスと笑う彼女。


「……すまん、少し取り乱した。」


 俺は何事もなかったように立ち上がると一言謝る。


「いえ、とても面白かったので構いません。」


 彼女は静かに一言だけそう答えた。


 こいつ……!けど俺だったら追い打ちをかけてるだろうから何も言えないっ……!


「そうか、で?次の条件はなんだ?」


 胸に湧き上がる怒りともとれない形容しがたい感情を受け流しながら次の条件について質問する。


「そうですね……本当はまだいくつか提示したかったのですが、次の条件だけでいいでしょう。今のだけでも充分に愉しめましたから。」


 なに食わぬ顔で白状した彼女にはもうツッコマナイ。


「それは重畳(ちょうじょう)……で?」


「少し屈んでいただけますか?わたくしと目線を合わせるくらいで結構です。」


 すると、彼女はちょいちょい、と手招きをする。


「?、まぁ、いいけど……」


 戸惑いながらも彼女の言う通りにすると


「感謝します。では、次の条件ですが……」


「おう。」


「–––––。」


「!」


 俺の耳元で彼女が囁いた。


「……本気か?」


「はい。それだけでわたくしと契約が出来るなら安いものでしょう?」


 真面目に質問すると彼女は余裕の笑みで答える。


「けどそれは……」


「おや?では、わたくしにはその価値がないと?」


 責め立てるような瞳に俺も反論ができない。

 それに、その鮮やかな赤い瞳からは感情を読み取ることは出来ない。


「いや、そういうわけじゃないんだが……いいのか?」


「はい、むしろ出来るものならばやってみせてください、とだけ。」


「……。」


 彼女の出した条件、それは簡単に決めてしまってもいいものではない。それに、それは彼女が自身を軽んじる事とも捉える事が出来てしまう。


「……それは今すぐにとはいかないよな?」


「無論です。この条件は今すぐに達成出来るかどうかではなく、承諾出来るかどうかですから。」


「わかった、条件をのもう。」


 だが、それでも俺はその条件をのむことを決めた。


「ありがとうこざいます。あ、ちなみに雇用環境の方は?」


 そこはちゃんと気にするのね……まぁ、当然か。


「賃金は要相談だが、三食と一人部屋付きだ。

 好きな部屋を使っていいぞ。必要物資は言ってくれれば支給するし、飯は全員で一緒に食うのが暗黙の了解だ。

 契約破棄は君の意思次第だな。俺からの一方的な破棄は無しだ。」


「ふむ……高待遇ですね。」


「気に入ってくれたかな?」


 出来る限りは彼女の要望にも応えようと思っている。

 正装のメイドさんとか最高だろ。


「これで文句を言うのは愚か者です。

 さて、それでは簡易的ではありますが契約を。」


「あぁ、俺はなにをすればいい?」


「わたくしに合わせて下さい。」


「了解。」


 すると彼女は俺に手をかざして言葉を紡ぎ始める。


『我が主は汝に(あら)

 されど我は汝を仮初めの主と認めたり

 なればこそ、我は汝に問う

 汝、我を認めたり?』


 彼女はこちらに視線で合図を送る。


「認めよう。」


 それに俺も合わせると


『我、汝の答え聞き届けん

 故、我は此処に汝との仮初めの契り(ちぎり)を交わそう』


 彼女は俺の手をとり、かざした手に重ねる。


『【仮初め(ファルシュ・)の絆(コントラクト)】』


「……最後に一つだけ言っておく。」


「はい、なんでしょう?」


 不思議そうに首を傾げる彼女に対して俺は世界樹と自身の住まう家をバックに両手を広げて



「ようこそ、我が家へ!俺は君を歓迎しよう!」



 歓迎の言葉を贈る。


「ふふっ……はい、これから宜しくお願い致します。せいぜいわたくしを笑わせて下さいね。」


 俺の歓迎に彼女は少し表情を崩して一度お辞儀をした。最後のは聞かなかった事にしよう。





 こうして、新たな住人が増えたのだが


「……はぁ、これからは馬屋で生活ですか。」


「よし、やっぱ出てけ。」


「嫌です。」


「この野郎……!」


「わたくしは女ですが?」


「言葉の綾って知ってる?」


「はて?貴方の頭が悪いことは知っておりますが?」


「このっ……–––––!」


「––––。」


 二人が家まで歩く少しの間、ずっと言葉の応酬が続いたのだった。



作者「もうね?就職活動がね?就職試験対策やら希望企業調査やら夏の課題やら猛暑やら面倒なことこの上ないね。」


隊長「おい、最後のは関係なかろう。」


作者「いやだって暑いし……いや!もはやこれ熱いだし!」


隊長「そうかもしれんが、リアルの方はどうなんだ?」


作者「うーん、まぁ、順調……かな?

って、そうだ!明々後日から夏休みじゃん!頑張って書きます!

あ、でも基本的には就職活動の準備に力を入れたいのでそこはご了承のほどよろしくお願いします!」



若干の加筆修正と脱字修正をしました。

(2018 9/22 23:10)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ヘタレで人の気持ち理解できない粋がりが調子こいてる
2019/11/27 20:44 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ