さぁ!招喚だ!
本当にお久しぶりです
ちゃんと書いてます、逃げてませんよ?
就職に向けてラストスパートをかけている時期なのでかなり遅れました
もう2週間は軽く過ぎてることに驚きです
これからも続けさせて頂きたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします
そして、ご感想ありがとうございます!
ー朝ー
「……っ……!」
水面下から勢いよく浮上するかのような感覚
次第にその感覚はハッキリとしたものとなっていく
その勢いは衰えることを知らず
やがては水面を突き抜ける
「っ、はぁ……!…………あの野郎っ!」
潜行していた潜水艦が急激に浮上したかのように飛び起きた俺は開口一番に悪態をつく。
あまり良い朝とは言えないが、今度はハッキリと覚えている。つい先ほど見た夢の内容を。
「朝、か。」
外を見てみれば賑やかな陽光と陽気なリズムに乗って無邪気な風が窓をノックしている。
それとは対照的な気分である俺は一体どんな表情を浮かべているのだろうか。
「……本がある。」
ふと、枕元を確認すると、そこにはその存在を主張するかのように黒い本が鎮座していた。
「……。」
パラパラとページをめくってみるが、やはり特にこれといった変化は見当たらない。
《おはようございます、主様。》
「おはよう、シュティ。」
俺の起床に気がついたらしいシュティが声をかけてくる。
《気持ちの良い朝ですね。主様はそうでもないご様子ですが。》
まぁな。
どうやらシュティは俺の今の心境を当然のように把握しているらしい。
それはともあれ、どうにもこの本は俺にとって何か重要なものらしい。シュティ、悪いがこの本の解析を頼めるか?
そう言って俺は本をインベントリに仕舞いこむ。
《承知しました。》
ありがとう。
……そういえば解析で思い出したんだが俺の魔力の性質云々についてはどうだ?何か判明したことはあるか?
《はい、ある程度はですが。ご説明しましょうか?》
へぇ、思ったより早かったな。じゃあ、頼むわ。
《はい、ではご報告させていただきます。
主様の魔力についてですが、様々なイレギュラーによりこの世界で認識されている魔力とはかなり違う傾向を示しているようです。》
……具体的には?
《この世界で社会一般に通説となっている魔力属性などの概念がございません。》
……?
すまん、全く理解できないからもっとわかりやすく。
《承知しました。
はっきり申しますと主様はこの世界においての『属性魔法』が使えません。さらに、『本来の魔力の性質』でもありません。》
……はい?じゃあなに?魔法!ファイアランス!とかできないの?
《はい、あくまでもこの世界においての魔法ですが。》
マジで……実はかなり楽しみにしてたのに……
《そう落ち込まれるのは些か早計かと、正確には使う必要がございません。むしろ喜ばしい事です。》
いや、確かに権能があればそうかもしれないけどロマンは必要だろ……?男なら一度はやってみたい事なんだけど?
俺がそう不機嫌に物申すと
《話を最後まで聞いてくださいませ。》
あ、はい、すみませんでした。
いつも中性的で落ち着いた声のシュティが若干ではあるものの、怒気を込めた声色で俺を窘める。
珍しく俺に対して怒ったシュティに俺も黙って聞くことにした。
《いえ、ご理解いただき感謝します。
では、僭越ながらこの世界においての魔法と魔術、その根源となる魔力および属性と適正についてご説明をさせて頂きます。
まず、この世界において魔力には属性適正という概念がございます。
これらはいわゆる炎系統や水系統の魔法など、どの系統の魔法が使用できるかを表しています。
属性は、【炎】【水】【風】【土】【氷】【雷】【光】【闇】【無】の全部で九つ存在するとされます。
そして、人族やエルフ族、魔族など種族に差異はあれど生まれついての属性が魔力に宿っていると考えられており、その適正度合いによって初期段階での修練の苦労が激変します。
とはいえ、苦労の度合いが違うだけで習得できない事はありません。ですが、その苦難から心が折れたり、単純に適正の属性のみを伸ばす方が都合が良いためにあまり全属性を習得する物好きはおりませんが。
ただし、魔力を有する容量については完全に魂の容量とイコールとなりますのでそこは覆せません。
次に、この世界においての魔法と魔術の違いに関してです。
まず、この世界では魔法と魔術では魔法の方が簡単であるとされ、魔術が難解であるとされています。》
はいはーい、一つ質問よろしいですか?
《はい、なんでしょうか。》
魔術と魔法って何が違うんだ?
《それは本来の魔法と魔術に関して、という解釈でよろしいでしょうか?》
あー、うん、そうしてくれ。
《承知しました。ですが、先にそれを説明してしまうとややこしくなるのでまずこの世界においての魔法と魔術についてご説明させて頂きます。》
了解、話に割って入って悪かったな。
《問題ありません。
では、続けさせて頂きます。
まず魔法についてですが、これは己の想像した事柄を現実にするという事になります。
例えば『炎の嵐』や『風の刃』など多岐に渡る想像を現実としてしまうのです。
これらはあくまでも『イメージで固められた魔力』であり、その威力は様々です。人によっては強力なものとなりますが。》
んー、まぁ、その辺りは理解できる。
ただ、自然の法則を無視した不思議な現象を起こすって意味では間違ってないと思うんだが?
魔法って頭でイメージを固めて不思議な力を込めるんじゃないのか?
《おおよそは該当しています。ですが、これでは不十分なのです。本来の魔法とはイメージの度合いが違います。もちろん、悪い意味で、です。
それでもこの世界の魔法はそれなりに正解に近いので想像力が豊かであれば基本的に使用できます。
極端に言ってしまえば妄想好きの変態であればあるほどその威力は増していきます。》
つまり?
《魔法使いはみんな妄想が得意な変態です。》
ぷっ……!あははははは!!そうかそうか!あはははは!……なぁ、それって男の魔法使いが多そうな気がするのは気のせいか?
《気のせいです。方向性は違えど女性もまた夢見る生き物ですから。》
あぁ、確かにそうかもな……
《話が逸れましたね、続けても?》
おう。
《承知しました。
では、次に魔術についてなのですが、この世界において、これは本来のものと同等であります。
ですので細かいご説明は本来の魔法についてのご説明と一緒にさせて頂きます。
なので簡潔に済ませます。
これは一言で表すなら『科学のようなもの』です。
故に、これを使用するには様々な努力が必要となります。根気や数学的知能がないともはや絶望的です。》
お、おう……そうか、ある程度はわかった。それと、もう一つ質問いいか?
《はい。》
さっきから『この世界において』というフレーズがものすごく気になるんだが?
《それは後にご説明いたしますので今しばらくご静聴願います。》
アッ、ハイ。ごめんなさい。
《はい、ではこの世界においての属性概念についてです。
端的に申しますとこれはこの世界の住人によって生まれた概念です。本来は存在しえない概念となります。》
お、おう……?
シュティの説明に俺は頭をひねる。どういう事なのかその先の内容が一切つかめない。
ひとまず窓を開けて空を眺める。澄んだ空は青く美しく、頰を撫でるような風が心地よい。
既にキャパオーバー気味の頭を冷やしてくれる。
「さて、続けてくれ。」
《承知しました。つまり、本来は存在しないはずの『属性という概念』が生まれたという事です。》
あぁ、なるほど……って、どうしてそうなった?存在しないはずの物が存在するっておかしいよな?
もうこの際、どうしてシュティがそんな事を知ってるのかは考えない。そもそもスキルの名前が《全知全能》だし。
《それこそが魔法や魔術にも関連する魔力本来の性質によるものです。
端的に言うならば、魔力とは本来『どんなモノにでもなり得る存在』です。》
あ、ああ……うん?……うん
《……そうですね。こう言い換えた方がご理解頂きやすいでしょう。魔力とは『万物の根源である』と。》
いきなりスケールが大きくなった!?……つまり、えぇと……その、どういうことだ……あれか?深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている的な?ニーチェ的なやつ?
《ある意味では正解です。
魔力とは想像し、創造する為に在るモノです。
この世界も、スキルも、魔法も、魔術も、人や神でさえも……世界という枠組みや物質、全てを創り出す為の材料であり、その根幹となる無くてはならない要素です。
そして、この世界の住人が無意識に思い込んでいる『属性』という確固たる固定観念と上記の性質が合わさる事によって『属性という概念』が成立しました。
補足として人に宿る魔力もまたその宿主の感情の変化なら伴って性質が変化する事もございます。
ちなみに主様の世界では暗黒物質や暗黒エネルギーなどと呼ばれている物です。》
え、ちょっと待って!?それ宇宙のほとんどの割合を占めてる訳のわからない謎物質と謎エネルギー!?
え、なに?宇宙空間って魔力で創り出されてるの!?……いや、魔力で満たされているのか?
って、なんでもいいけどこんな事で世界の真理に到達しちゃった!?マジで!?え?マジで!?
それ補足で明かしていい事実じゃないぞ!
《はい、マジです。》
じゃあ、暗黒物質が光学的に観測できない理由って……?
《そもそも観測する必要が無いからです。
子どもが無邪気に昆虫を惨殺するくらい無意味です。》
へ、へぇー……ソウナンダー……
《魔力とはどんな存在にでもなり得ます。もはや『そういうもの』とお考えください。
要はいつも主様が使用されている魔力交換です。
もう一つ例をあげるとすれば、先ほどこの世界においての魔法についてのご説明で言いました通りの『イメージで固められた魔力』ではなく、『イメージを元に変質した魔力』です。
魔力とは無色透明の液体であり、それに様々な染色液を入れる事で『色の分離しない液体を作る様な事』であると。》
……了解した。
シュティの話で驚きの事実を知ってしまったが、それも今この現状においては些事らしい。
《では、話を元に戻しますが、一度整理を致しましょう。》
あ、うん……よろしく。
《では、失礼します。
【この世界の魔力について】
・魔力には適正属性が存在する
適正となる魔法の属性は以下の通り全部で九つ存在する
【炎】【水】【風】【土】【氷】【雷】【光】【闇】【無】
・魔力には魔法属性の適正が存在する
それは種族や個人によって差が存在するが、だからといって適正ではない魔法属性が使用出来ないという事ではない
【この世界の魔法と魔術について】
〈魔法〉
・イメージで魔力を固めて現実に具現化する
・それは個人の想像力に委ねられている
〈魔術〉
・科学のようなもの
・数学的知能や根気が必要
【本来の魔力について】
・魔力とは万物の根源であり、それ故にどんな存在にさえも変化しうる
・本来、魔力には属性などの概念は存在しない
しかし、人々の強い思い込みや固定観念などから本来持ちえない性質を獲得する場合がある
・魔力は宿主の感情の変化に左右される
これが今しがたご説明させて頂きました事項の概要です。》
な、なるほど……こうしてみると案外簡単な気がしないでもない?
《そうであれば幸いです。》
よし、それで次が本来の魔法についてか?
《はい、本来の魔法と魔術についてご説明させて頂きます。》
頼んだ。
《承知しました。では、まず一つだけ前提を踏まえて頂きます。
『魔法と魔術は同時に使用する為のものである』という事をご理解ください。》
わ、わかった。
《それでは魔術からご説明します。
魔術とは先ほども言いました通りに『科学のようなもの』という認識が最もご理解頂きやすいかと。
これは単純に魔術の火力を高めたり、効果を増幅させる機械的性質を持ちます。
その理由としまして、これは物事の原理を理解する必要がある事に起因します。
魔術とは文字通り『魔をもって術となす』
つまりは魔力を原動力とし、原理の手順を踏んで現象を引き起こす事を可能とするものです。
あくまでも魔力を使用した手段という事になります。
噛み砕くと、どうして炎が燃えるのかを理解し、それを術式として書き込み、魔力を通す事でその現象を引き起こします。
簡潔に済ませるならば、自然の法則を術式という設計図に書き込むのです。
よって、これを理解する知能や知識、さらに術式の配列や効率化など地道な研究を行う根気、さらには研究資金など様々な条件が揃わなければ習得は困難です。
まとめます。
・魔術は機械的性質を持ち、単純に火力を高めたり付与される効果を増幅させる
・あくまでも法則に従い、魔力を用いた手段
・法則や術式など様々な研究を行い、なおかつそれを理解する必要がある
以上が魔術のご説明とさせて頂きます。》
な、なるほど……これはなんとか理解できる範囲だ……つまりは魔力が俺の世界で言うところの電気で術式が電気配線や電子基板と考えればいいのか。
《流石でございます。その通りです。》
オーケー、じゃあ魔法の説明も頼んだ。
《承知しました。
魔法とは魔術とは違い、非常にシンプルです。
魔法もまた文字通り『魔をもって法となす』
つまり、自身のイメージを使用して魔力を変質させ、その空間に限定的な独自法則を展開します。
これによって自然の法則を無視した超次元の現象が発生します。
こちらは使役者の強固な想像と魔力量によって威力やその独自法則の強度が変化します。
先ほども申しました魔力の性質である想像し、創造する事を最大限に発揮する方法が魔法です。
己の『理想』を、『想い』を『形にする』事こそ魔法が魔法たる所以です。
簡単に申しますとオーダーメイドです。》
最後の説明で一気にわかりやすくなったな……?
《ありがとうございます。
そして、どうしてこの世界において魔法よりも魔術が難解であるとされるかご理解頂けたかと。》
そうだな……確かに中世ヨーロッパみたいな時代背景の世界で物理学やら科学を理解してさらに研究費用とかその他諸々を考えたら想像しただけで使える魔法の方が断然使い勝手がいいよな。
《その通りです。》
じゃあ、さっきの前提の話はなんなんだ?魔術と魔法は一緒に使うっていうあれ。
《そうですね……例えるとするならば『魔法が銃』で『魔術が弾薬』でしょうか。
魔法単体でも威力は絶大ですが、魔術との組み合わせが本来あるべき姿といえます。
これは主様もよく使用されている神の《権能》にあたります。》
は……?
《極端な例ですが、魔法でファイヤーボールという火の玉を作ったとしてそこに水素爆弾の原理を術式として組み込むとどうなりますか?》
いや、それ星が死ぬから!?
《そうですね。》
いや、スケールが大きすぎて逆に想像しずらいんだけど!?
《では、別の例を出します。
ミニガンで迫撃砲の弾を撃ち出す事が可能、そのようなイメージです。》
うわぁ……なにそれこわい……それ最大100発/s発射出来るから10秒撃ち続けるだけで1000発か……もうそれ逆に使えないな……
《何を言ってらっしゃるのですか。主様もよく《権能》をお使いになられているではありませんか。
かつて盗賊団を捕らえる際に《弓》の一矢に拘束魔法を組み込んだ事が良い例です。》
待って、それ俺が考えなしになんとなくやっちゃっただけだから!
《行動に伴う責任がございます事をお忘れなきよう。》
た、確かにっ…!それを言われるとぐうの音もでない!
《お気をつけください。》
あぁ、ありがとう。肝に命じておくよ。……そういえば前に魔力の破片をくっつけて盗聴器の代わりにしたのって魔力が変質したからか?
《左様です。》
それでか……つまり、好きな発想で色んな事が出来るんだな?俺がスキルを作ったり、作り変えたりした時みたいに。
《肯定です。もっとも、スキルや魔法を創り出すとは主様だからこそ出来る事ですが。》
そういえば、ラウはそんな事普通は出来ないって言ってたな……神様なのに……なんでだ?
《当然です。彼女は創り出す存在ではなく、創り出されたモノを見守る存在なのですから。知らなくても良いとことです。》
なにその可哀想な理由は。
《ならば、主様は自由に独自の魔法やスキルを持ち、さらに新たに創り出すことが出来る部下を沢山抱えこむ立場になれますか?それも無数の世界を管理しなければならないのですよ?》
無理です、生意気言ってごめんなさい。
《いえ、ご理解頂き感謝します。》
じゃあ、この世界の人がそれを出来ない理由はなんだ?
《単に常識から並外れた発想であるためです。
常識とはそこに住まう人々の意識の集合体と言ってもよろしいでしょう。不特定大多数がそうであると認めた事が正しく、不特定少数の意見が否とされる。それが常識というものでございますれば。》
あぁ、住む地域によって習慣や世界観が違うのと同じか。外国の人は生魚に抵抗があるとかそんな感じのやつね。
《その解釈で問題ないかと。
一つ言い忘れておりましたが、この世界においての魔法にも例外はございます。
誰が使用しても同じ効果を発揮するものもまた存在します。
招喚魔法などはその類に分類されるでしょう。これは皆が共通して認識している事柄であるという事が原因です。》
つまりはそれが常識だから?
《左様です。》
なるほどなぁ……じゃあ、結局のところ俺の魔力ってのは他のとなにが違うんだ?
《主様の魔力には属性概念と基本的な感情変化に伴う魔力の変動がございません。これが本来の魔力やこの世界においての魔力との相違点と言えるでしょう。》
そうか……それは特に損とかはしてないんだな?
《はい、これと言った損失はありませんのでご安心下さい。》
そっか、ならいいや。別に気にしなくてもよさそうだな。
結局、俺は持ち前のテキトーさで全て流す。説明してくれたシュティには悪いが、特に損はしてないなら気にする必要もないだろう。
《いえ、お役に立てたのならばこれ以上の事はございません。》
ありがとう。
《はい。》
そうしてシュティの説明を受け終わると
「……ク……クァ……がう……」
どうやらフェルが今しがた目を覚ましたらしい。前脚でぐしぐしと顔を擦っている。その愛らしい仕草は何度見ても良いものだ。
「おはよう、フェル。」
「がう……♪」
声をかけながら撫でてやると、耳を下げ、パタパタと尻尾を振りながら眠たそうな声で反応する。心なしか尻尾を振る速度ががいつもよりゆっくりな気がする。
「はは……とりあえず本とかに関しては朝食の後で考えよう。それと招喚術もその時にやるか。」
《承知しました。》
フェルの愛らしさによって心穏やかな気分な気分になりつつも、今日の予定を考える。
「あぁ、それと明日は街に行かないとな。」
正確にはリーシアにフェルとサティを会わせるという約束の履行のためだ。あと、レヴィの健康診断な。
それにはローナやラウも一緒に街へと赴くかどうか確認しなければいけない……そう、ラウにも。
「ま、それはそれとして顔洗うか。」
ラウが街に行くかどうかは本人が決めることなので、とやかく言うつもりもない。
俺が何か考えるだけ無駄だろう。
「フェル、下に行くぞー。」
「ガウ!」
そう結論を出した俺はフェルと共にリビングへと向かった。
俺とフェルがリビングへと降りると
「タケシおはよう。」
「……おはよう、おにーさん。」
「おう、おはようさん。」
すでにローナとラウはソファで談笑中だった。優雅に紅茶を嗜んでいる。
ただし、ラウは俺を認識した瞬間、ちょっと気まずような顔をした。
HQ、HQ、こちら猛士、ラウは恥ずかしそうだ。繰り返す、ラウは恥ずかしそうだ。
大事な事だから二回言ってみた。
《こちらHQ、それは女神だ。扱いには注意されたし。》
お、おう、まさかシュティがノリにのってくれるとは思ってなかった……ありがとう。
《いえ、わたくしも何となくやってみたかっただけですので……お恥ずかしい限りです。》
いや、それ何気なく俺をディスってる……
《申し訳御座いません。》
あ、うん、気にしてないからいいぞ?
《寛大なる御心に感謝の意を。》
シュティが前みたいな言葉使いになっちゃったよ……さっきの素直な態度はどこへやら……
シュティとふざけていると、サティが俺の存在に気がついた。
「グル……」
ちなみにサティはフローリングに居座っていて、前脚を組んでそこに顎を乗せている。
「おう、おはよう。」
サティは片目を開けて俺に挨拶してからまた目を閉じた。相変わらずクールでカッコいいやつだな……基本的にはだが。
さて、朝食を作る前に一つやること……というよりはやりたい事がある。
「……。」
「っ……なに?おにーさん。」
俺はおもむろにラウの隣へと移動し、肩を叩く。
それにびっくりしたのか少々肩をビクつかせて反応するラウ。
こちらを向いた彼女の表情は少し硬い。照れ隠しでもしてるのだろうか?だが、深緑の瞳は不安げに揺れている。
不安を拭いたいのか紅茶に口をつける彼女。
そんな彼女に俺は満面の笑みを浮かべ
「よお、ラウ。なに恥ずかしそうな顔してんだ?モーニングのキスしてやろうか?」
全力でおちょくる。
「ぶっ……!」
するとラウは口に含んでいた紅茶を俺に向かって吹き出した。
「……。」
「ラウちゃん!?タケシ!?」
その瞬間、俺は硬直し、ローナが悲鳴に近い声をあげた。
ポタポタと琥珀色の液体が俺の頰を滴る。
ちょっと予想外な反撃だな……流石にこれをご褒美と言える精神力は生憎持ち合わせていない。
しかし、これは自分の招いた事態なので怒ってはいけない。
「ごめんなさいおにーさん!でも、いきなりそんな事言うのはずるいよ!?でもごめんなさい!」
「タケシ大丈夫?」
吹き出した後、サァッ と一瞬で青い顔をしたラウは慌てた様子で平謝りしてくる。
ローナは慌ててハンカチを持って俺の側へ駆け寄り、顔を拭ってくれる。
「……いくら気に入らなかったからって女の子がそんなことしちゃ駄目だぞ☆」
ローナに拭いてもらってはいるが、魔力交換によって取り出したタオルを使って顔や服を拭きながら俺は自分の招いた事態に収集をつけるべく言葉をかける。
「……なんだろう、一気に申し訳なさが消えたよ。」
「……わたしも、もういいんじゃないかなって思ったわ。」
すると、二人はちょっと引いた様子でそう言葉を漏らした。
出来るだけ場を軽くするつもりで言ったのだが、どうにも選択肢を間違えてしまったようだ。
「……フェル。」
そんな二人の態度に俺は静かにフェルの名前を呼ぶ。
「クゥ?」
それに反応したフェルは不思議そうな雰囲気で俺を見つめてきたので
「ローナとラウがいじめるぅー」
「クゥ……」
「そんなことしてないよ!?」
「そんな風に受け止めるなんて思わなかったわ……言い過ぎたかしら……?」
俺は ひしっ! と崩れ落ちるようにしてフェルにすがりついた。外野がなんか言ってるけど知らん。知らないったら知らないね!
「クゥクゥ……」
すると、フェルが慰めるように俺の頰をぺろぺろと舐めてくる。まるで『落ち込まないで。』と言ってくれているような仕草だ。
毛がちょっとひんやりとしていて、さらにサラサラだから気持ちいい。
「フェルは優しいなー……良い子だ、あぁ〜傷つけられた心が安らぐ〜」
「クゥ♪」
フェルも俺に撫でられているからか機嫌が良いようなのでしばらくこうさせてもらおう。
フェルを高速で撫でながらほんわかしていると
「わたし謝ったよ!?それにおにーさんだって急に変なこと言うからだよ!?ていうか、なにその手の動き!?はやいよ!そしてなんか気持ち悪い!」
「わたしは……えっと……わたしもタケシが悪いと思うわ……手の動きは……ノーコメントね。」
二人が俺に抗議をしてくる。
そんな二人に俺もあえてふてくされた様子でこう言った。
「へぇー……そんなこと言っていいんだー……?じゃあ、今日の朝ごはんは無しな。」
「おにーさんは子どもなのっ!?対応がいつもよりなんか幼いよ!?」
「えっ……」
ラウはああ言っているが、割とショックを受けているようで目が少し泳いでいる。ローナは目に見えて落胆しているしな。
ふふふ、計画通りだ……しばらくはこの二人の反応を楽しもうじゃないか。
内心ほくそ笑みながら彼女たちの慌てふためく姿を見ていると
「……。」
無言でサティが俺の目の前にやってきた。
「サティー、傷ついた俺を癒してくれー」
俺がサティにもこっちに来るように催促すると
「……。」
「あだっ!?」
尻尾で割と強めに頭をはたかれた。しかも無言で。
「あ、あの、サティさん……?」
驚いた俺はサティの方を見上げる。だが、サティは何も語らずジッと俺を見つめてくる。
「……。」
「え、ちょ、なにその冷たい目……?いたっ!?え?なに!?なんですか!?いだっ!」
バシバシと一撃目より比較にならない威力の尻尾攻撃に流石の俺もうろたえる。
「……グル。」
サティはその燃えたぎる炎のような真紅の毛色とは裏腹に、驚くほど冷ややかな瞳で俺を叱りつけるように唸った。
「あ、はい、ごめんなさい。」
「グル。」
サティに怒られたので俺が素直に謝ると
「あ、くすぐったいぞ……」
「グゥ。」
納得したのか尻尾で俺の頰をなぞるように軽く撫でる。
え、なにこの子どもと母親みたいな絵面……サティは俺の第二の母親だった……?
《そんなわけないでしょう。》
ツッコミを忘れないシュティさん流石っす。
「お、おにーさんが怒られてる……しかもおにーさんがすごく素直だよ……」
「サティちゃんすごいわ……これでタケシのご飯も食べられそうで安心ね。」
「ローナさん安心するところそこなの?」
「え?だってタケシのご飯美味しいわよ?」
「そうだけど……なんか違うよ……」
「そうなの?」
俺とサティのやりとりを見ていた二人が驚きを隠せない様子だ。あと、ローナ?君はそんなにご飯が食べたかったのか?
「さてと、まぁ、ローナもああ言ってる事だしご飯を作ろうか。」
ひとしきり愉しん……じゃなかった、サティに怒られたので朝食を作るために立ち上がると
「クゥ……」
フェルが少し残念そうに鳴いた。
「飯食ったらまた遊ぼうなー」
「!、ガウ!」
いつものことなのだが、可愛いその反応についつい甘やかしてしまう。
「いま遊ぶって言った!やっぱりおにーさんわたしたちで遊んでたんだ!」
そして、耳聡く見事に俺の言葉に反応した奴がいるが無視しよう。君のような勘のいい神は嫌いだよ。
「んじゃあ、手を洗って〜っと。」
そさくさとキッチンに移動して手を洗う。
「ちょっと!無視しないでよ!?」
「〜♪」
「……むぅ、もういい。」
ちょっとやりすぎた気がしないでもないが、あんまり相手をしていると料理が進まなくなる。
ー数十分後ー
「ほい、できたぞー」
三人分の料理をテーブルに並べて二人に合図する。
「わかったわ。行きましょ、ラウちゃん。」
「うん。」
二人はいつもと同じくソファでゆったりと談笑していたようだ。
「今日はなにかな……って、おにーさんなにこれ……旗?黄色い何かに旗が立ってるよ?」
席に座るやいなやラウがいつもの料理とは違う事に気がついたようだ。
「なにってオムライスだけど?」
そんなラウの様子に俺は悪びれることなく答える。
彼女に用意したのはなんの変哲もない『お子様用』のオムライスだ。な?なにも間違ってないだろ?
「えっと、これはそういうものなんだよね?なんだか悪意を感じるんだけど……」
「いや、別にそんな事ないぞ?」
「むぅ……あ、よく見たら旗に契約の紋章が描かれてる……」
なにやら納得していなかったようだが、旗の紋章を見てどうでもよくなったらしい。ふっ、チョロいな。
「タケシ?ラウちゃんはともかくわたしのにも旗が立ってるのはどうして?」
ラウを柔和し終わると今度はローナからも質問が飛んできた。
「なにか間違えてたか?」
「これって確か……」
「なにか間違えてたか?」
「えっと……わたしは子どもじゃないよ?」
「なにか間違えてたか?」
「……。」
「なにか間違えてたか?」
「ぐすっ……」
「ごめん、ほんとごめん。」
ほんの冗談のつもりだったんです!そういう精神的なところがちょっと幼いからいけるかな〜、って思っただけなんです!
「ひどいわ……わたしのことそんな風に思ってたなんて……ぐすっ……」
「誠に申し訳ございませんでした!今のはほんの思いつきだったんです!」
俺がふざけすぎたことを猛省していると
「……なんてね、嘘よ。ふふっ、騙されたかしら?」
けろっと態度を豹変させたローナ。
ペロッと舌を出していたずらっぽく微笑む。
「騙されたっ!?」
ま、まさかローナに出し抜かれるなんて思ってもいなかった……でも、そんな表情もいいね。
「ふふふっ、お返しよ。」
「うっ……すまん……」
微笑む彼女に俺もおふざけが過ぎたことを反省する。
「へぇー、おにーさんローナさんには弱いんだねー」
「うるせぇ、ほら、飯が冷める前に食え。」
すると、ラウがニヤニヤしながら俺をからかってくる。
恥ずかしくなった俺は顔をそむけながら話題をそらす。
「はーい。」
「そうしましょう。」
さらなる追求をしてこなかった彼女たちに感謝だな。
「これが女神の慈悲か……」
「ふふっ、崇めてくれてもいいのよ?」
「そうだよ!おにーさん!」
「祝詞はなにがいいんだ?」
「「それはもちろん……ね?」」
ハモった彼女たちは互いに顔を見合わせて微笑む。
……なるほどね。
「……わかった。考えておこう。」
なんとなく考えを感じとった俺は今しばらく待ってもらうことにした。
《言葉にする事は大切なのでは?》
行動に伴う責任があるからな。もちろんいずれは口に出すし、責任も取るさ。今は資格がないから駄目。
《……そうですか。》
おう。
「それじゃあ、食うか。」
「うん。」
「ええ。」
「「「頂きます。」」」
「ガウ!」「グル。」
少し時間がかかったが、三人と二頭で朝の食卓を囲むのだった。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「さて、朝飯からそれなりに時間が経って落ち着いたしそろそろか。」
「ガウ?」
午前も中頃、フェルと一緒に草原で遊んでいた俺はそろそろ招喚術を使ってみようと思い立った。
フェルがパタパタも尻尾を振りながら『なになにー?』と興味津々のご様子。
「喜べフェル、今日から魔獣仲間が増えるぞー」
招喚術というくらいだからやはり魔獣を招喚するはずだし、フェルにもそれを伝える。
「キャン……!?クゥ……?」
すると、フェルがなぜかショックを受けたような仕草を見せた。なぜだ。
「え……嬉しくないのか……?」
「クゥン……クゥン……」
俺が驚きながら撫でていると、フェルはものすごく哀愁漂う表情をみせた。尻尾もだらんと下がってさっきまでのハイテンションが嘘のようだ。
な、なぜだ……なぜフェルはこうも落ち込んでいる……?
《恐らく主様に飽きられたと思ったのでしょう。それとも主様といられる時間か短くなる、など。》
あー……思ったよりこの子デリケートなんだな……とびはねて喜んでくれると思ってたのに……だが!心配ご無用!俺は贔屓などしないぞ!
むしろフェルを甘やかしちゃうぞこんにゃろう!
《それはそれで問題を引き起こしそうですね。》
大丈夫、フェルをダメ犬ならぬダメ狼になんてしないさ。それにフェルは賢いから大丈夫だろ。
《むしろダメになる典型例かと思うのですが。》
大丈夫、飼ってるくせに自然状態が一番とか言って他人に迷惑なんかかけないから。飼ってる時点でそれもう自然状態から逸脱してるし。
《そうだとよろしいのですが……》
ていうか、俺さっきの朝ごはんの時にみんなに話したはずだけど……?
《餌に夢中で聞いていなかったのでしょう。》
あぁ、納得した……フェルだからありえそう。
ちなみにその時のラウとローナの反応はこうだった。
『え?招喚術……?んー、いいんじゃないかな。どんな子を招喚してもここは森だから大丈夫だと思うよ。』
『さらに賑やかになるわね。わたしはタケシのしたい事をすれば良いと思うわ。』
二人とも特に反対するわけでもなく、むしろ肯定的だった。なお、ラウが最初の一言目で諦めの目に変わったのは言うまでもない。
ともかく、フェルを安心させてから招喚術を試してみよう。
「フェル、大丈夫だぞ。フェルに飽きたりなんかしてないから。ただ、ちょっとドラゴンも欲しいだけだから。」
「がう……?」
『ほんとうに?』フェルの瞳からそんな思いがひしひしと伝わってくる。
《そこでシレッとドラゴンが欲しいと言うあたりが流石ですね。》
別にいいじゃん。クレアのところのワイバーン可愛かったから俺も欲しいんだよ。
《招喚術はランダムですからワイバーンが出るとは限りませんよ?》
いやほら、そこは楽しむところじゃん?『なにがでるかなー?』ってさ。せっかくなら楽しみながらの方がいいだろ?
《そういうものですか。》
そういうものだよ。
小さい時に胸をときめかせたガチャガチャと一緒だ。
《普通はそれと同じノリでしていいものではありませんが……やはり、主様はどこか常軌を逸脱しておりますね。》
ははっ、言うようになったじゃねぇか。
「クゥ……」
フェルはいまだに納得できないらしく、少し不安そうだ。
「フェル……わかってくれないか?これからもちゃんと一緒に遊ぶから。」
「……がう。」
すると、フェルはしぶしぶといった様子で俺の手を甘噛みしながら承諾の意を示した。……多分。
「よし、いい子だ。ありがとな。」
「ガウ……」
さて、フェルの説得も終わった事だし、始めようか!
「フェル、危ないかもしれないから家に戻っててくれ。」
「ガウ。」
リビングに通じる大窓を開けると、フェルはトボトボと家の中に入っていく。
「ラウ、ローナ、サティ、これから外で招喚術使ってくる。」
「はーい。」
「わかったわ。」
「……グル。」
他の二人と一頭にも念のために宣言しておき、返事が返ってきたのを確認すると俺は家から離れた位置であの黒い本をインベントリから取り出した。
「シュティ、これはここに魔力を流し込めばいいんだな?」
魔法陣が描かれたページを開いて俺はシュティに確認を取る。
《肯定です。》
「了解、それじゃあカモン!ドラゴン!」
そして、魔力をこのページに浸透させるようにして流し込むと
「おお!光った!」
魔法陣が光を放って輝き出した。
輝き出したのだが……
「あれ?なんか黒くね?……光が全体的に黒くね!?」
魔法陣はだんだんと黒く艶やかな光を放ち始める。
そして、それは俺の前方にある地面へと複写され始め、その複写された魔法陣はより黒く染まっていく。
「あ、やべぇ!これ絶対やばいやつだよ!なんか変なの出てきたらどうしよう!?」
そうこうしているうちに魔法陣は点滅を繰り返していき、やがてそれは黒い光の柱を生み出し、魔法陣いっぱいの黒い円柱状の光となる。
「……シュティ、臨戦態勢で待機な。」
《承知しました。》
それを見た俺は何が出てきてもいいようにシュティに指示を出す。
「鬼が出るか蛇が出るか……なんにせよ、変な生物じゃなけりゃいいが。」
だが、魔法陣は黒い光の柱をそれ以上広げることもなく収縮していく。
「あれ?もしかして失敗した……?」
俺はその光景を眺めながらその可能性を予期していた。
《それはありえないはずですが……っ!いえ、成功しています!ご注意ください!》
「……おう。」
だが、それは失敗などではなかったようだ。
俺もたった今確認した。
魔法陣の上にいるその『人物』を
「……。」
その人物は椅子に腰掛け、本を読んでいた
その髪は灰色
髪型はシニヨンと呼ばれるスタイルで後ろにまとめられており、左側頭部は編み込んだ髪をアーチ状にしている
その瞳は鮮血のような紅
サティのような深い赤ではなく、鮮やかな瑞々しい紅
そして、冷血な印象を与えるつり目
その肌は彫刻のように白い
小柄な体格と相まってそれはひどく儚い印象を受ける
だが、なによりも気になるのは……
「女性……?いや、ていうかアレって……メイド服?え?なんで?」
その人物が『綺麗な女性』で、さらに『メイド服』を着用していることだ。
それもロングスカートのクラシックタイプ。
《あれは……》
シュティが何かを言いかけた時、その人物が本を閉じ、空をまぶしそうに眺めて一言。
「……最悪です。」
「お、おう……?」
俺がその人物に対しての反応に困っているとその人はこちらに気がついたらしく椅子から立ち上がり
「非常に、誠に、えぇ、まったくもって遺憾で憂鬱で面倒ですが自己紹介をさせて頂きましょう。」
非常に不満を漏らしながらも完璧な所作でこう言った。
「私は
『黒き神々』にして『七魔公爵』が一柱
【怠惰】の名を冠する者
どうぞ、ベルとお呼び下さい。
もっとも、契約などしませんので今日限りの話ですが。」
そして、冷たく気だるそうな目つきでありながらも、十分な鋭さをもった眼光で俺を睨みつけた。
ラウ、ローナ、サティ、どうやら俺はとんでもないモノを招喚してしまったようです。
そして、フェル、よかったな。魔獣は増えなかったぞ。
作者「あぁ……なんとか出せた……」
ベル「ほとんど話していないに等しいではありませんか。」
作者「次の話でたくさん発言すると思うよ?」
ベル「そうでなくては困ります。」
隊長「で、次の投稿予定は?」
作者「もちろん未定!」
ベル「……」
隊長「……」
誤字を修正しました。(2018/10/13 22:27)
キャリーオーバー→キャパオーバー
過去の私よ、なぜそこを間違えた