一狩りいこうか
O☆MA☆TA☆SE☆
皆さんこんばんは!
最近、持病を脳内で無口だけどかまってちゃんな女の子に擬人化してしまい、『ある意味で別の病気じゃねぇか!』と凹んでいる作者です。
笑って過ごせる日々に感謝な今日この頃。
それではどうぞ!
俺と愛狼のフェルは草陰に隠れて身を潜めていた。
「……フェル、静かにな。」
「……ガウ。」
俺の小さな言葉にフェルは『わかった。』と小さく返事をする。
……そもそも野生だったフェルに素人の俺が指示するのも変な話だが。
そんな俺たちの視線の先にはどすこいベアという大型のクマが食事をとっている最中だった。
どすこいベアは顔の両頬に赤いラインの入ったクマだ。たったこれだけの情報だと『これのどこがどすこいなんだ』と思うかもしれない。むしろ歌舞伎的じゃないのかとすら思うだろう。
だが、特徴的なのは顔のラインだけじゃない。
体型がなんともずんぐりむっくりしているのだ。そう、例えるとするなら鏡餅だろうか。あるいはひょうたん。
どすこいベアの全長はおよそ4m弱で体高が180cmほどだ。ヒグマよりでかいな。
「フェル、おさらいだ。」
「クゥ。」
「俺の合図で飛び出せ。一撃離脱を基本にしろ。いいな?」
「ガウ。」
狩りを始める前にフェルに最後の確認をとっておく。作戦……というより、立ち回りは一言でいうと持久戦だ。
内容としてはフェルが主にヒット&アウェイでどすこいベアに攻撃を加え、俺はフェルが怪我をしないように援護するだけ。
ちなみに俺が使うのは今朝新しく追加された権能《劔》だ。
これは物質を介して魔力を伝達したり、魔力を物質化して剣を作成する能力を有している。
そこで俺は『魔力を物質化して作成する事が出来るのは剣だけじゃないのでは?』と思い至ったのだ。
そして、どすこいベアのいる場所までの移動中に試してみるとあら不思議!盾や槍が作れるではありませんか!
剣や槍を自分の周りにいくつも浮かせて遊んでいたのは内緒だ。個人的にファンタジー好きなら一度はやってみたい事の内の一つだったからな。
それからテンションが上がって『ファ〇ネル!』とか言いながら飛ばして遊んだりなんかしてないヨ。ホントダヨ。
《権能をそのまま使わない辺りが流石です。》
……それって褒めてんの?
《純粋な賞賛ですが。》
さいですか……まぁ、それはともかく、最初は剣で何からしらの獲物を見つけて狩ろうかと思っていたのだが、他の権能の威力を考えると瞬殺するのは目に見えている。
そこで、フェルの運動も兼ねて権能の試験運用も出来て、ルイスさんへのお土産も獲得できるという、正に一石三鳥の効果が見込めるこの手段を取ることにした。
そんなわけで、俺は権能《劔》で作成した盾でフェルを支援しつつ、フェルの実力も見せてもらおうという事だ。
もはや一石4鳥だな……って、うん、何でもかんでも新しく言葉を作り変えていいってもんじゃないな。
もうわけわかんねぇや。
「よし、じゃあまず俺が出るから後はよろしくな。」
「ガウ。」
「よし、いくか。」
笑いながらフェルの頭に手を乗せた後、俺は茂みを飛び出した。
そして、飛び出した俺は
「盾作成!」
自分の周りに複数の透明な盾を展開し
「いけ!ファン〇ル!」
とりあえず言ってみたかった事を口にする。
え?完全にNGワード言っちゃってる?
言ってないとは言ったけど、言わないとは言ってないよ?
あと、どうでもいいけどフェンリルとファ◯ネルって語感が似てるよね。
すると周りに展開していた複数の盾の内、一つがどすこいベアに飛来していき……
「ゴガァ!?」
食事中のどすこいベアの顔面を横からぶん殴った。
どすこいベアはよっぽど驚いたのだろう、変な声をあげて倒れた。
「よし!ストライク!」
ガッツポーズで野球審判のごとく声を張り上げて喜ぶ俺。
「グ……ゴガ……」
その少し先では不意を突かれたどすこいベアがうずくまるように倒れている。
あ、まさかアゴに当たって軽い脳震盪でも引き起こした?
どすこいベア……長いから熊公でいいや。あの熊公もしかして弱い?
《いえ、主様が強いだけです。》
慢心、ダメ、ゼッタイ。
あと、俺が強いんじゃなくてシュティが強いの!俺はただふんぞり返っているだけなの!
《申し訳ありませんでした。ですがその様な事は……》
二度も言わせるな。
《申し訳ありません。》
わかればよろしい。
そんな脳内会話をしているうちに熊公が起き上がって自身をぶん殴ったであろう俺を視認した。
やっほー、元気してる?
「…ゴガァ!!」
熊公は俺が笑顔で手をひらひらと振った事に怒ったのか、息を吸い込んで咆哮を繰り出す。
つか、咆哮短っ!?君ずいぶんと肺活量ないね!?
ひどくつまらない事を考えながら俺は熊公を挑発していく。
「クマさんこちら♪手の鳴る方へ♪」
手を叩きながらステップでおちょくる。
すると、ほら
「ガァ!グガァァァァ!!!」
ものすごく怒った。
熊公は鬼の形相で俺に襲いかからんと、そのずんぐり体型で猛ダッシュしてくる。
「あんよが上手♪あんよが上手♪」
俺は臆することなく熊公への挑発を続けた。
どうしてこんなにも余裕なのか?
愚問だな……それは盾があるからさ!守られてるって素敵!
《主様……》
注釈、シュティの呟きは聞かなかった事にする。
《自分で言わないで下さい。》
注釈、シュティのry……
「ガァァァァ!!!」
しかし、俺がもう一度言う前に、さっきよりも肺活量が上がったどすこいクマは張り手のような一撃を俺に向けて放った。
ガギィン!ボギッ!!
しかし、結果は知れている。
俺の盾によって綺麗に防がれた……ってんんん!?今、『ボギッ』って鈍い音しなかった!?
予想外に発せられた謎の音の正体を見つけるべく熊公の方を見てみると
「ガァァ!!ゴガァァァ!!グガァァァ!!」
どすこいベアが一心不乱に俺を殴りつけようと張り手のような一撃を繰り出している。
だが、その前足をよく見てみると
あ、そのぶっとい足折れてますやん……この盾かなり硬いんだな……
《カウンター効果も付属してありますので。》
あ、そういう事ね。
前足首が明後日の方向に向いていた。それでもなお、修羅のごとく俺の盾を乱打する熊公。
ドゴォ!バギィ!ガン!ボギッ!
盾を殴りつけるたびに前足にダメージがあるはずのに、それでも攻撃をやめないとは……そんなん怖いわ!?ものすっごい執念深いな!?
ま、まぁ、でも、囮としては好都合だし?べ、別にビビってねぇし?
《ビビってますね。へいへいへーい。》
ビ、ビビってねぇし!
《では、その様に。》
あ、うん。
《それはそうと合図はいいのですか?》
……あまりの衝撃に忘れてた。
どすこいベアの執念深さに驚いて、つい忘れてしまっていたフェルへの合図。
それでは皆さんご一緒に!
合図、いつ送るの?
「今でしょ!こい!フェル!」
「ガウ!!」
「ゴア!?」
俺が熊公とたわむれている間に背後に回り込んだフェルが合図と共に奇襲をかける。
熊公もそれに反応しようとしたが、もう遅い。
フェルの素早さを示す値はAだ。
不意を突かれればひとたまりもない。
「ガァウ!」
「ゴ…ァッ!?」
フェルは牙を使ってどすこいベアの首筋へと思い切り噛みついた。
「よし!……え。」
フェルの攻撃がどすこいベアにヒットした事に歓声をあげた俺だったが、それ以上の出来事が目の前で起きていた。
その光景とは
「ゴ……ァ……」
「ガウ。」
どすこいベアが倒れ
「オォーーン!」
フェルがその脇に立ち雄叫びをあげる
「…………」
「クゥ?」
「い、一撃かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
フェルがたった一撃でどすこいベアを仕留めてしまうというものだった。嬉しい誤算である。
「クゥン♪」
フェルは『褒めて褒めてー』と言わんばかりに尻尾をブンブンと千切れそうなくらい振って俺の前に座る。
だが、俺は想定外の光景に
「前足が折れていたとはいえ!普通、傷のなかった首筋を噛み切っちゃう!?
え!?何?フェルってそんなに強かったの!?アホの子っぽいのに!?アホの子っぽいのに!?」
失礼極まりないツッコミをフェルにいれた。
「クゥ?……クゥン、クゥンクゥ。」
褒められているわけではないと察したらしいフェルは『どうして褒めてくれないの?』と訴えかけるように俺の腹に頭を擦りつける。
「はぁ、はぁ……あ、ごめんフェル。い、いい子だ、よくやったな?すごいぞ……うん、ほんとうにすごいヨ。」
「クゥ……♪」
軽く引きつった笑みを浮かべながらもわしゃわしゃと頭を撫でてやると、フェルは気持ち良さそうに目を細める。
フェルが嬉しそうだし……まぁ、いっか。うん、気にしないでおこう。
どすこいベアをインベントリに収納しながら諦めの思考へとシフトチェンジしていくのだった。
《主様、主様。一つご報告がございます。》
ん?どうした?
するとシュティが話しかけてくる。
《詳しくはこのフェンリルの能力を参照して下さい。》
え?フェルの能力?なんかあるの?
《はい。》
了解した。とりあえず見てみるか。
そして、フェルのステータスを見てみると
【フェンリル〈特異個体〉】
名前:フェル Level:58
性別:メス
《能力値》
HP:31540/31540 MP:20100/20100
STR:S DEX:A
VIT:A INT:C
AGI:S MND:A
LUK:5580
《固有スキル》:
〈スキル〉:〈氷魔法Lev4〉 〈武技Lev4〉〈全属性耐性Lev4〉 〈状態異常耐性Lev4〉
【称号】:【拾われ狼】【主大好きっ娘】
わ、わぁー、フェルちゃんスゴーい……なんか前見た時より格段に強くなってるー……って、なんでだよ!
スキルもなんか一段階ずつだけ上がってるし!HPとMPに関しては二倍だし!伸び代すごいな!?それから称号に【主大好きっ娘】追加!?ありがとう!!
つか、よく見たら賢さを示す値だけ据え置きじゃねぇか!やっぱアホの子なんだな?アホの子なんだな!?
《主様、特筆すべきはそこではありません。》
いや、そうかもしれないけど!言わせて!?
《言葉足らずで申し訳ありません。特筆すべきは能力上昇の部分ではなく、Levelの部分です。よく見て下さいませ。》
うん?Level?そんなのいくつ上がっててもおかしくな……ん?Levelが『上がってない』?
《Exactly.》
うーん、不思議だけど……ここは世界の不思議を発見も驚くファンタジー世界だ。そんな事があってもなんら不思議ではない気がするが……?
《いえ、はっきり言って異常です。》
え?マジで?
《マジです。それはもう不思議です。金のひ○し君獲得レベルです。やりましたね主様。》
……うっそーん。なんでや……意味わからん……
《考えられる原因は主様かと。流石、特異点ですね。》
あー、やっぱり原因は俺なんだ……ん?おいこら、今なんつった?
《特異点、と。どうやら主様の魔力は他者に対して変化を引き起こす性質を有しているようです。》
聞き間違えじゃなかった……ていうか何それ?俺の魔力っておかしいの?
《ご不快になられたのならば申し訳ありません。
ですが、普通なら魂ごと砕け散る程の魔力を受けてなおそれに適応なされたり、あまつさえ創造神と最上位神の一柱と契約など前代未聞です。
さらに『他者に対して変化を引き起こす魔力』など私の持つ情報にも御座いません。
もはや主様は文字通り三千世界にたった一人の神ではない『ナニカ』という事になります。
これを特異点と言わずしてなんと言いましょう。》
わーい、ついにシュティにすらUMA判定されたー……って、それ本物のバケモンじゃねぇか!チクショウめ!ちょび髭閣下も怒り心頭だぞ!
《ですが、それ以外に説明がつきません。ご容赦を。》
いや、シュティを責めてるわけじゃないんだ。勘違いさせたみたいで悪い。ただ、なんというか……こんな時どんな反応をしたらいいのかわからん……
《諦めて下さいませ。》
あぁ、うん、デスヨネー……うん、別に損してる訳じゃなさそうだし……まぁ、いいか。
そうだ。フェルとたわむれよう。うん、そうしよう。
「フェルー、おいでー。」
「ガウ♪」
そうして、今さら明らかになった俺の魔力の特性とやらについては考えないようにしたのだった。
そういえば最後に一個だけいい?
《はい、なんで御座いますか?》
原因は俺の魔力ってわかったのなんで?
《それはこのフェンリルが主様と出会ってから共に過ごした間は特に成長する要素が無かった点、その点を踏まえてフェンリルが何かしらの影響を受けるとすれば主様の魔力しかない事しかありえません。
世界樹には治療効果こそあれど、能力成長を促す効果はありません故。
消去法としてその結論に至りました。
強いてもう一つ理由を挙げるとするならば、フェンリルが主様の魔力の影響を受けるにあたって、その影響が強く出るとすれば主様が魔力を使用して交換した『肉』を与えられたことかと。》
あ、じゃあ何?俺が魔力を使って交換した物って俺の魔力が宿ってたりするの?
《正確には魔力を物質化しています。原子レベルで。》
……それって他の人にあげちゃいけなかったりする?
この時、俺の脳裏に浮かんだのはレヴィという子に渡した飴の事やギルドの人たちに振る舞ったアイスの事だ。
ローナとかラウは神様だから何とかなるだろう。たぶん。
《……あの少女が強くなることを願うばかりです。》
ちょっと待って!?それって与える影響が良い方向と悪い方向があるってこと!?
《不明です。》
よし、今度街に行ったら体調崩してないか見に行くぞ!俺のせいで女の子に悪い事が起きるかもしれないなんて気が気でない!
《それが賢明かと。
私の方でも主様の魔力の特性を解析しておきます。》
おう、よろしく。
かくして俺のスローライフに心配事が出来てしまったのだった。
物事にはメリットとデメリットは付き物だが、デメリットが不明瞭だというのが一番タチが悪い。
そんな事を実感させられる日となった。
作者「定期テスト終わりましたー!いえーい!」
隊長「来週進路テスト……(ボソッ」
作者「なん……だと……?」