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狩りのはずだった



お久しぶりでございます。

新学年の忙しさに忙殺される今日この頃。

就活が始まるまで半年を切りました。


話は変わりますが、学校の課題研究でとある企業さんからの依頼としてとある製品を開発する班に配属になりました。

開発費も出資して頂いているので『出来ませんでした。』は通用しません。責任重大ですね。

ですが、納期までに開発せねばならないこの状況を楽しんでおります。


これが悪名高き社畜の始まりでしょうか?



 



 ー深淵の森にてー



 ガサガサガサッッ!!と勢いよく草木をかき分けながら茂みを飛び出し、森の中を疾走する青年と狼がいた。


「ギチギチ、ギチチッ!」


 その背後から不快な音を撒き散らしながら走る黒い影。

 それはテラテラと光り、黒い表面に光沢を生んでいる。その上素早く脚を動かしながら追走する姿は不快極まりない。


「あぁ!くそっ!」


 青年は走りながら後悔していた。


(どうしてこうなった……!)


「ガウっ!」


 青年の傍らを並走する銀狼が声をかけるように鳴いた、『狩ってもいいか』と。


「ダメだ!あんなもんに触るなよ!絶対だ!ばっちいからな!」


 その声に青年は却下し、念を押して注意する。


「ガウ!」


「いい子だ!」


『理解した』そう言わんとせんばかりに一つ鳴き、走ることに専念する狼。



 ブゥゥゥゥウウゥゥゥンンンン!!!



 次の瞬間、青年の背後で何かが飛び立つ音が聞こえた。


「え?……うわぁぉぉぁぉぉぁ!!?ちょ!無理!マジで無理!無理!こっちくんな!!」


 青年は振り向くと飛び立ったそれを視認し、焦りと不快さに表情を歪めながらに叫んだ。


「あぁぁああぉぁぁあぁ!!!キモいぃいいぃぃ!!!」


 青年の絶叫が森の中で木霊する。



 –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



 どうも、皆さんこんにちは。俺です。

 なんだかすごく久しぶりな感じがするのは気のせいでしょうか。


 まぁ、それはそれとして。


 俺は今、愛狼のフェルと一緒に森の中をとても元気に走り回っています。


 身体能力任せとはいえ、森の木々の間を縫うようにしてひたすらに走り抜けるのは爽快なものです。

 鼻腔をくすぐる土の香りや草木の香り、頬を伝う風はひんやりとしていて本当に心地よいものです。

 いやはや非常に素晴らしい。


 ですが、今とてもピンチです。

 えぇ、それはもうかつてないほどに……もっとも、ダメージを受けているのは主に俺のメンタルですけどね。


 なぜピンチなのかって?それは……


「ギチッ!ギギチッ!」


「だからこっち来るんじゃねぇぇ!!Gぃぃぃぃ!!!」


 それは全長3mはあろうかという巨大なG(ゴキブリ)に追いかけられているからです。しかも、今はGが飛んでいます。


 細かい事は言えません。というより言いたくありません。

 言える事は少しだけで、シンプルにキモいです。ただでさえキモいのに加えて巨大で高速なあのG(野郎)。まさに黒い流星ですね、さっさと殺したい。

 ですが、理由なく殺すのも何となく申し訳ないので逃げています。


「ギチギチギチ!!キシャァ!!」


「おあぁあぁぁ!?トラウマになるわ!!」


 ごめんなさい嘘です。本当は単純にあのサイズのGを仕留めた後の光景を見たくないだけです。あと触りたくない。


「ガウ!」


 本気で嫌悪感を示している俺を見たフェルが瞳に殺意を(ほとばし)らせ、ヤツを狩る許可を得ようとする。

 牙を剥いていることからもフェルは本気でアイツ(G)を狩るつもりなのだろう。飼い主思いの優しい子だ。


「ダメ!絶対!」


「クゥ・・・」


 その心遣いは嬉しい。だが、ダメだ。

 そんなに悲しそうに鳴いてもダメなものはダメだ。


 もし、あんなモノに触れてフェルが病気にでもなったらどうしてくれる。あのG(野郎)一族をこの世から根絶やしにする事も辞さない覚悟だ。


 しかし、あんな見た目でもGは森の分解者として重要な役目を果たす益虫 (のはず)だ。そんな事をすれば森がどうなるかわからない。


 だから逃げる。ひたすら逃げる。あいつが諦めるまで逃げる。


 はずだったのだが……


「どこまでついて来るつもりだこの野郎!○○○○!!○○○○!!」


 かれこれ20分は追いかけっこしている。これがまたなかなかにしつこいのだ。


「ギチギチッッ!!」


「おおぉぁぁああ!?」


 俺が中指を立てながらあの野郎に吐き捨てると、野郎は挑発という事だけは理解したのだろうか。


 さらに速度を上げてきやがった!マジでありえねぇ!


 いや、本当に疲れを知らない体に感謝するしかありません。……全力疾走で森の悪路を20分走り回って息が切れない事にはツッコマナイ。


 《主様、先ほどの発言は(いささ)か言葉使いがよろしくないかと。》


 シュティが俺の発言に注意をうながすが今は構ってはいられない。


 うるせぇ!そんな事どうでもいいわ!だってアレだぜ!?黒くてテカっててキモくてデカくて速くてカサカサ蠢いててキモくて!


 《主様、同じ発言がありました。意味が重複しています。》


 俺の発言にシュティ(スキル)天然(スキル)を発動する。


 今はそこじゃねぇだろ!?なんかいい案ない!?


 とにかくアイツから離れたくて仕方ないが、殺すのはキモいから嫌だし逃げてもひたすら追いかけてくる。こんな時に頼れるのはシュティだけだ。


 《転移が最も有効かと。》


 あ……


 《主様……》


 俺の言葉にシュティが呆れの含んだ声色で呟いた。


 いやはやパニックに陥った状況下での判断能力低下というものは本当に恐ろしいもので、普段なら確実にそうしていたであろう選択肢を忘れてしまっていたようだ。


「フェル!転移するぞ!驚いて舌噛むなよ!」


 俺は早速フェルに声をかけて心の準備をしてもらう。


「クゥ?……ガウっ!」


 フェルは一瞬だけ首をひねって俺を見たが、すぐに一声鳴いた。


 ……こいつ今一瞬だけ理解してなかったな?まぁいいや。

 そもそも、これ程までに言語を理解してるだけでもすごいのだから、あまり多くを求めるのも酷だろう。

 それにこの子賢さの値がCだった気がするので仕方ない。


 閑話休題(それはともかくとして)!逃げるか!


「3!2!」


 俺一人なら自分のタイミングで転移しても問題ないだろうが、今回はフェルと並走しながらの転移なので掛け声でタイミングを合わせる。


「1!」


 そしていざ転移しようとしたその刹那


「ほいっす!」


 不意に前方から一つの黒い影が現れ、瞬く間に俺たちの横をすり抜けていった。


「なぁ!?」


「ガウっ!?」


 俺たちが驚いて後ろを振り返ると


「ギジャ………!?」


 そこにはまるで腐食していくように溶けていくGの姿とその(かたわ)らに立つ一人の少女がいた。


 そして、先ほどまで元気に鬼役をやっていたGは跡形もなく溶けていった。ざまぁみろ。


 視線を横に移すと、その光景を生み出したであろうその子は見覚えのある少女だった。


 長い金髪で前髪を真ん中分けにしたデコだしスタイルに翡翠色の瞳、身長140cm半ばほどの小柄な体格、全身真っ黒で所々に入った白い刺繍が特徴的な少女。


「いやー、危ないところだったっすね?」


 にひひ、と歯を見せて笑う少女は手に持ったナイフをクルクルと回しながら仕舞って言った。


 それは以前、冒険者ギルドでありえない量のご飯を奢った少女だった。


「……た、助かった、ありがとう。」


 俺は少女に対してぎこちない笑顔で礼を言う。


 本当に助かった……あんな気持ち悪い生物はたとえ間接的であっても触りたくない。

 権能(飛び道具)《弓》を使うにしてもGが爆散したりするところなんか見たくないからな……それなのにこんな可愛い少女がアレを倒すとかこの世界の人メンタル強すぎるだろ。


 俺がそんな事を考えながら突っ立っていると少女は俺の近くに歩みを進めながらに聞いてくる。


「初めましてっすね。

 それにしてもお兄さんこんなところで何してるっすか?冒険者ギルドでは見たことない顔っすけど?別の街から来たんすか?それに珍しい子も連れてるみたいっすし。」


「え?」


 初めまして?前に飯奢ったはずなんだが……


 《主様、その時は魔力秘匿及び認識阻害の魔法を使っておりました。》


 あぁ……そういえばそんなん使ってたな。俺じゃ全く違いがわからなかったから忘れてたけど完璧に偽装できてたんだな。


 《(わたくし)の事を疑っておられたのですか?》


 いや、別にそういう訳じゃないけどな?単に実感がなかっただけだ。


 《それならば安心です。》


 おう。


「おーい、お兄さん……?反応がなくなったっすね……はっ!まさか華麗にジァイアントGを討伐したウチが美少女すぎたとか!?」


 シュティと脳内会話をしていると、何やら一人でキャーキャーはしゃいでいるご様子の彼女。


「ああ、すまん。違うからな。」


「かなり酷いっす!?」


 まさに カビーン! という音が似合うほどの驚き様を見せた彼女に俺は苦笑しつつも礼を言う。


「はは、それはそうと助かった。ありがとう。」


「どういたしましてっす!案外素直っすねぇ。」


 後ろで手を組んで笑顔を咲かせる彼女だったが、それよりも俺はその足下に広がっている液体がものすごく気になる。


 ……どうやったら虫をあんなにドロドロに溶かすことが出来るのだろうか?

 助けてもらっておいてなんだが、率直に言ってこの光景にちょっと引いてる。


「そりゃ助けてもらったからな……それより一ついいか?」


「なんすか?今なら機嫌がイイっすから出来る限りは答えるっすよー!」


 イェイ!と元気にサムズアップしてそう言った彼女。なるほど、元気だ。


「お、おう、ありがとう……えーと、それであのでかい虫をどうやって溶かしたんだ?」


 そんな彼女の高いテンションについていけず、若干引き気味に聞くと


「おぉーっと?そこに触れちゃうっすか?さわっちゃうっすかー?乙女のヒミツっすよー?」


 なんかめんどくさそうな答えが返ってきた。


「あ、じゃあいいです。助けてくれてありがとうございました。お元気で。

 フェル、行こうか。」


 俺は嫌な予感がしたので取り消すことにした。


「ガウ。」


 フェルも俺の言葉に頷いて踵を返す。


 ああいうノリは嫌いではないが、今は相手をしている気分ではないので勘弁してほしい。


「えっ!?ちょっと!?そこは美少女の恥ずかしい一面を見ようと躍起(やっき)になるとこじゃないんすか!?」


 すると少女はもの凄い勢いで俺たちの前に回り込んで悲鳴のような声をあげた。


 いや、聞いてほしいのか聞いてほしくないのかどっちだよめんどくせぇ……前に会った時は親切で良い子だと思ってただけに少し残念な気持ちが拭えない。

 事実、彼女の言う通り見た目が良いだけになおさらだ。


「いや、別に聞かれたくない秘密なんて誰にでもあるだろ?それなら無理に聞き出す必要ないし。」


 俺は何食わぬ顔でそう言った。


「ぐぬぬ……正論すぎて何も言い返せないっす……!」


 俺の言葉を受け、悔しそうに唇を噛み締めて言った彼女。そして、俺はこの場から抜け出そうと試みる。


「それでは俺はこれで。」

「ちょっと待つっす!」


 だが、それは素早い彼女の制止によって阻まれることとなった。


「……なんだ?悪いが礼の品なんて生憎持ち合わせがないぞ?」


 本当はこの前のように何か食べ物でもあげればいいのだろうが、それをしてしまうとあの時の人物が俺だと勘付かれかねないので却下だ。

 バレたくない理由?めんどくさい事に巻き込まれたくないから。

 たとえ正体を知られたとしても、秘密にしていてくれるかもしれないが、出来る限りリスクを減らしておきたい。希望的観測や楽観的思考は致命的なミスとなりえるのだ。


 そんな事を考えながら彼女の言葉を待つと


「いや、そんな事はどうでもいいっす!それよりもっ……気になるっ……事がっ……あるっす!……届かないっす……」


 彼女は言葉の端でテンションが一気に落ち込んだ。

 その理由は俺の肩に手を置こうと手を伸ばしたが、その手が俺の肩に届かなかったからだ。


 なにせ俺は175cmで彼女は150cmに満たないくらいなのだ。

 最初こそ背伸びしたり、ぴょんぴょんと跳びはねたりして手を伸ばしていたが、途中で諦めた。


 ……なんだろう、もの凄く微笑ましい。その動作が可愛らしいと思えてしまった。美少女だからか?やっぱり美少女は正義なのだろうか?


 《主様。》


 はっ!……すまん、ありがとうシュティ。


 《いえ、主様が壊れるのは見たくなかっただけですので。》


 ……本当にごめん。


「ははっ……何か聞きたいならどうぞ。ただ、ここでずっと居るのもアレだし森の中を歩きながらでも。」


 それはそうと、彼女の先ほどの様子に少しグッときてしまった俺は気まぐれで話を聞くことにした。


「そ、そうっすね……くっ……こんなにも身長が足りないことを恨んだ事は初めてっす……!」


 俺が笑ったことで彼女は少し恥ずかしくなったらしく、少し顔を赤くして呟いた。




 ーしばらく歩いてー



 俺はフェル、金髪少女と共に森の《外層》と呼ばれる場所のかなり端まで歩いてきていた。

 場所はMAPではかなり東の方に来ているため、このまま行けば街へと歩いて行くことも可能だ。……かなり時間はかかるだろうけど。


 今さらだが、もともと俺は森の《中層》と《外層》の間くらいでフェルと一緒に狩りという名目の運動をするつもりだった。狩った獲物は冒険者ギルド、あるいはルイスさんへの手土産にでも、と考えていたのだ。


 しかし、記念すべき獲物第1号と鬼ごっこをしていらうちに、いつのまにか《外層》の外側まで来てしまっていたようだ。


「それでお兄さんはこんな森で何をしてたんすか?ここは深淵の森っすよ?知らないわけないっすよね?」


 前を先導して歩いている彼女がくるり、と俺たちに向き直って聞いてきた。


 おいおい、後ろ向きに歩くと危ないぞ?……って、なんで見えてないはずの木を避けれるんだよ……


 どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。彼女はするりするりと背後の木を避けながら器用に歩いている。


「それはまぁ……狩りだよ、狩り。」


 特に誤魔化すことでもないので正直に返答する。


「そうっすか。それならお兄さんは冒険者ランクはどの辺りっすか?かなり強いみたいだしゴールドとかっすか?」


「いや、俺は冒険者じゃないけど?」


 感心したような面持ちで聞いてくる彼女に対して俺も普通に答える。


「またまたぁ〜そんな見え透いた嘘なんてついてもムダっすよ?フェンリルなんて珍しいものまで連れてるっすのに。」


 が、しかし、なぜか疑われる事に。なぜだ。

 ……それとフェルの事をフェンリルだと認識したあたり警戒が必要だな。


「……。」


 返答に困り、黙り込む俺をにやにやとどこか腹立たしい笑みを浮かべる彼女。


 変な憶測を立てられると面倒な事になりかねないから、冒険者なら聞いたことがあるであろう俺の恥ずかしい通り名を名乗るか。


「どうしたんすか?お兄さん?何か言えない事情でもあるんすか?ん?ん?」


 まるで親戚のおっちゃんが酔ったままからんでくるかのような態度の少女。おちょくられてるような気がしてならない。


 ……やべぇ、すっげぇ腹立つ。そのほっぺをムニムニしてやろうか。


「深淵の狩人、と言えばわかるか?」

 

 彼女の頬をひっぱりたい衝動を抑えながら口を開くと


「え、まじっすか……?」


 流石に驚いたらしく、彼女は立ち止まって口をあんぐりと開けたまま固まる。


 こらこら、美少女がそんな顔しちゃいけません……というかそんなに驚くことか?


「あぁ、そうだけど。それがどうかしたか?」


 なんとなく不思議に思いながら聞き返すと


「いやいやいやいや!そりゃ驚くっすよ!?なんでそんな有名な人がジャイアントGから逃げ惑ってたんすか!?」


 少女は片手を左右に激しく振りながらそう言った。


 なんだ、そんな事か。


「そりぁ、虫が嫌いだから。特にGはダメだ。キモい、キモすぎる。」


「……。」


 俺が表情を歪めながら吐き捨てるように言うと、少女はうつむいて沈黙する。


「ん?どうした?」


「……くっ…….」


 そして、彼女が黙ったままぷるぷると震えはじめたかと思えば


「……くっ!……ぷっ…あははは!虫が嫌いって!あははは!あの深淵の狩人が!?あははははは!傑作も傑作っすよ!あはははははは!!」


 腹を抱えて笑いはじめた。


「あははは!騎士団と冒険者たちを壊滅させた人が!虫嫌い!……ふっ、ぷっ!あはははは!!」


 人差し指を俺に向けながらそう言った彼女。


「……。」


 どうやらツボに入ったらしく、目尻に涙をためてずっと笑っている。あと人を指差すんじゃない。



「あはははは!!あはっ、あははははは!」


 それにしても、これが抱腹絶倒というやつか……何がそんなに面白いのかがよくわからん……つーか笑いすぎじゃね?


「あはは……ひぃ、もうダメっす……お腹よじれる……」


 どうやらやっと笑いが収まってきたご様子。どうでもいいけどお腹って言い方がなんか可愛いな。


「それで?聞きたいことはそれだけか?」


 話が進まないので仕方なく聞くと


「ふっ……!い、いやっ、まだあるっ…す……」


 まだあるらしい。


「……どうぞ。」


 こいつ今俺の顔を見てまた笑いそうになったな?……まぁ、いいや。


「……っ、ちょっとだけっ…!ちょっとだけ待って下さいっす……」


 彼女は今にも笑いそうなのを堪えながらそう言った。


 ……どんだけ笑えば気が済むんだ。


「いいぞ。……さーん、にー、いーち、はい、待ったー」


「いや早くないっすか!?」


 それを見て、なんかちょっとだけイラッとしたので少し意地悪をしてみると、見事なツッコミが返ってきた。


「ははは、でもほら、笑いが引っ込んだだろ?」


「あ、確かに……でも、性格悪くないっすか?ちょっとウチの知り合いを彷彿とさせるっすよ。」


 彼女は口元に手を当てて納得したように呟くと、なかなか失礼な事を言ってのけた。


「性格が悪くとは失礼な。イタズラ心を忘れないだけだ。」


 俺がキッパリと切り捨てると


「ウチの知り合いも似たような事を言うっすよ……まさか深淵の狩人も同類だったとは……」


 げんなりした様子で肩を落とした。


 あ、目が虚ろだ。どうやら俺と同じタイプの人が居るらしい。

 ぜひ会ってみたいものだ。


「絶対に会っちゃダメっすからね!」


 すると、俺の考えを読んだかのようにカットインしてきた。


「それは残念。」


 俺は肩をすくめて言った。


「はぁ……まぁ、それはそうとしてっす。お兄さん、これ一つ食べるっすか?」


 そう言って彼女が取り出したのは以前に俺があげた飴の詰まった袋。

 これは知らないフリをした方がいいな。


「なんだそれ?」


「甘い食べ物っすね。ウチの大好物っすよ。」


 にひひ、と今日一番の笑顔で言った彼女。


 ほぅ…そこまで気に入ってくれるとはな。また今度あげようかな?もちろんスキルを使って別人になりすましての話だが。


「貰ってもいいのか?大好物なんだろ?」


「別にいいっすよ。これ自体貰い物っすから。」


 俺が聞くとひらひらと手を揺らしながらそう答えた。


「そうか、ならお言葉に甘えて……甘いな……これは誰に貰ったんだ?」


 彼女から一粒受け取って口に放り込む。

 自分であげた物を貰うというのはなんだか妙な気分だ。それに質問も白々しい。


「わからないっす。」


「わからない?」


 彼女の答えに俺が首をひねると


「ああ、言い方が悪かったっすね。正確には名前がわからないっす。見た目は普通のお兄さんだったんすけど、どこか惹かれるものがあったっていうか……不思議な人だったんすよ。あと、ご飯おごってくれて妙に丁寧で優しい人だったっすね。」


 詳しく説明してくれた。


「なるほど。」


 ……変装してたとはいえ、自分の評価を直接聞くのってなんか恥ずかしいな。


「はー……あのお兄さんにまた会いたいっすねー……」


 吐息と共にそう言葉をもらした彼女。


 ん?これは……?


「どうしてだ?」


 なんとなく落ち着かないのは気のせいだと思いたい。


「またこれ欲しいんすよ。それにこんな美味しい物を持ってるなら他にも何か持ってるはずっす!今度会ったらそれも食べさせてもらうっす!

 あ、ちゃんとお金は払うっすよ?」


 俺が問うと、なにやら意気込んだ様子で彼女はそう答えた。


「ああ、なるほど。」


 デスヨネー……うん、知ってた。別に残念とか思ってないよ?


 ただでさえ、クミさんのこと忘れられてないのにローナとラウの二人(どっちかと言うと二柱?)と事実婚状態なんだ。これ以上は望むべくもない。

 ていうか、これ以上を望んだらマジもんの神罰下るわ。


 それに、今の日常を守りたいしな……あ、そういえば。


「ところで君、名前は?」


 前も聞くのを忘れていたので一応は聞いておこう。


「急になんすか?やっぱ、美少女なウチに惚れちゃったっすか?」


 俺の質問に対して彼女は、またにやにやと笑みを浮かべて言った。


「……。」


 待て、どうしてそうなる。


「いやまぁ、確かに仕方ないっすよ?でもダメっすからね。ウチに触れると心が溶けちゃうっすから。」


 その断り文句はなんだ?新しいな。


「いや、普通に聞いただけなんだが?」


 とりあえず勘違いされるのもなんか(しゃく)にさわるので否定しておく。


 どういう思考回路してたら『名前聞く=惚れた』になるんだよ……意味わかんねぇよ……


「なんすか、つれないっすねー……そんなんじゃ女の子にモテないっすよ?」


 俺が彼女の思考に頭を悩ませていると、彼女はぶー、と頰を膨らませて不満を呈した。


 そんなこと言われてもなぁ……どうしろと言うんだ。


「ま、それはそれとしてお兄さんなんでフェンリルなんて連れてるんすか?」


 頭を抱えていると彼女は首を傾げて聞いてきた。しかし、視線は俺の横にいるフェルに注がれている。


「拾った。」


「……♪」


「……?………もう一回いいっすか?」


 それに対して俺はフェルを撫でながら平然と答えるが、彼女は理解できていないようだ。


「だから、拾った。」


「……へ?拾った……?フェンリルを……?いや、意味わからないっす……そもそもなんでこんなとこにフェンリルが……?」


 二度答えても目を丸くしたままの彼女。


「そうか、なら理解しなくていいぞ。」


「クゥ……♪」


 フェルのアゴを撫でてやりながらそう言うと


「あ、はいっす。」


 彼女の瞳から光が消えた。


 あ、俺その目知ってる。最初はラウもそんな目してた。


 どうやら彼女も考える事をやめたようだ。ラウと同じく賢い判断だ。


 さて……これからどうしようか……まぁ、とりあえず少しの間は話し相手をして帰るか。


 俺は諦めの色が混じった瞳の少女を横目にこれからの予定を考えていた。






作者「いや、本当に久しぶりに投稿しましたね。」


隊長「逃げたと思われたかもしれないな。」


作者「それはまぁ……仕方ないね。とりあえずこれからどうしようかな。」


隊長「知らん。大まかな予定は組んであるんだろう?」


作者「それがこれね……思いつきなんですよ。」


隊長「やはり考えなしのバカか。」


作者「Exactly!」



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― 新着の感想 ―
[一言] Gだけは無理だなぁ(笑)飛ぶし(笑)
2019/11/27 20:22 退会済み
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