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おかえりなさい


ちょっと思いつきでセリフの中で使用する句読点(?)の種類を変えてみました。




 先ほどシュティが早く家に帰った方が良いと進言してくれたのでさっさと帰ってきた俺は玄関の戸を開く。


 《主様、魔力秘匿はどうなさいますか?》


「あ、解除しといて。」


 《承知しました。》


 魔力秘匿と解除した魔力制限に関しては模擬戦の最後に弓を射た後にシュティが元に戻しておいてくれていたようだ。

 本当に気がきくスキルだ。ありがたい。


 結局のところ家に帰ってきたのは昼ごろになってしまった。昨日の朝に出発したので丸一日は家を空けたことになる。


「ただいまー」


「……。」


 しかし、誰の返事もない。虚しく俺の声が木霊する。


「サティー、フェルー?居ないのかー?」


 廊下を歩きながらリンビングへと向かう。

 あまりにも静かな空間に俺一人しかここに居ないのでは?と思うほどの静寂に思わずMAPを確認するが、俺以外の反応がない。


「おかしいな…ラウも来てないのかね。」


「……。」


 誰も返事をしないことに疑問を抱きながらもリンビングに入ると


「おかえりなさい。タケシ。」


 そこに俺を出迎える人物がいた。だが、それはラウではない。すかさずMAPを確認するとその人物の反応が表示される。

『どういうことだ?』そんな疑問を抱きながらも俺は前を見る。


 高い身長に最高のプロポーション

 ストレートの足元まで届く純白の長い髪

 透明感のある白い肌

 透き通った黄金の双眸

 黄金比の完璧に整った顔立ち

 たわわな双丘


 俺の目の前に立つ人間離れした美しさを持ったその人物とは・・・


「ローナ……?」


 その存在が信じられずに思わず聞いてしまった。


「うん!約束通り来たよ!タケシっ!」


「えっ、ちょ!?」


 俺の言葉に肯定の意を示すと、まるで親が迎えにした子どものようにはしゃいで抱きついてくるローナ。


 嬉しそうな声

 跳ねるように揺れ動く長髪

 布越しに伝わる温かい体温

 鼻腔をくすぐる甘い香り

 胸元で柔らかなナニカが形を変えている感触


 そのすべてがここにローナが存在していることを示している。


「うわぁぁぁん!会いたかったぁぁぁ!」


 俺自身も彼女が来てくれたことは本当に嬉しい限りなのだが・・・


「ローナ?」


「どうしたの?タケシ?」


「離れてくれないか?」


 抱きついてからそのままギューっと力を込められていて動けない。

 西洋文化ではハグは一般的なのだろうがご生憎様俺は東洋文化出身だ。正直言って違う意味でつらい。


「やだ!」


 俺の内心など露知らず、彼女は即座に却下する。


「やだって子どもじゃないんだから。」


 苦笑しつつも諭してみると


「いいもん!子どもでもいいもん!タケシに会えなかったぶんたくさん甘えたいんだから!」

 

 頭を俺の胸にぐりぐりと押しつけて駄々をこねる見た目は完璧な美女。


 ちょっと待ってこの子前に会った時よりだいぶ幼児退行しちゃってるよ・・・


「はぁ…わかったからせめて両手ぐらいは使わせてくれ。」


 仕方なく諦めて別の方向へシフトチェンジすることに。


「むぅ……それくらいなら。」


「なんで悩むんだよ。」


 ローナの言動に苦笑しながらも自由になった両手で彼女を抱きしめ返す。


 彼女の髪は少しひんやりとしていながらもサラサラで手触りの良い感触が俺の手につたわってくる。


「俺も会いたかったぞ。けっこう遅かったな?一ヶ月以上経ってるし。」


 彼女は頭を少し離し、目を合わせてはにかみながらこう言った。


「えへへ、ちょっと色々とやる事があったから……でも、もう全部終わったから大丈夫だよ?」


「そうかい。それならいいんだ。」


「うん……。」


 俺はそれから数分間そのままの状態で彼女に拘束され続けた。


「……もういいだろ?立ちっぱなしっていうのもアレだし、聞きたいこともあるからさ。」


「うん……わかった。」


 名残惜しげに俺から離れるローナ。


 そして、ローナにソファへと座るように催促してから彼女の右隣りに座る。


「さて、まずは……そうだな。いつここに来たんだ?」


 少し考えてから彼女がこの家に来た時間を聞くことにした。


「昨日の夕方だよ。」


「そうか。」


 昨日の朝に出発したので入れ違いになったようだ。


「来た時にリビングに狼と虎がいなかったか?」


「この子たちのこと?」


 俺が聞くと彼女は何もないフローリングに向けて手をかざした。


「グウ。」「ガウッ!」「……。」


 すると、何もなかったはずの場所からサティ、フェル、ラウが現れた。


「そうそう、こいつら。」


 立ち上がってサティとフェルを撫でにいく。


「待たせたな。ただいま。」


「グル。」「クゥーン……。」


 サティは相変わらずの様子だが、フェルは甘えるような声を出しながら尻尾をブンブン振っている。


「あぁ、癒される……。」


 膝をついて二頭の頭をわしゃわしゃと撫でながらラウにも話しかける。


「ただいま、ラウ。」


「お、お帰りなさい……お兄さん。」


「おう。」


 なぜかラウが少しよそよそしい。目も合わせてくれないし、いつものようなうち解けた口調でもない。


「ラウ、なんかあったのか?」


「っ、ううん別に何もなかったよ?」


「そうか。」


 嘘だな。……まぁ今はいいか、あとで少し聞いてみよう。


「とりあえずラウも座ろうぜ。」


「うん、わかった。」


 ラウは頷いてソファの方へいく。


「サティ、フェルも来るか?」


「グル。」「ガウッ!」


「いい返事だな。」


 自然とこぼれる笑み。やはり動物はいつ見ても可愛らしいものだ。


 ラウは俺とローナの反対側に座ってフェルが俺の足元に、サティが右隣りに寝そべる。


「さて、もう既に知ってるかもしれんが紹介しようか。この人はローナ。今日から俺の家で一緒に住むことになる友人だ。」


「よろしくお願いします。」


 俺が紹介するとローナは丁寧に頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします。」


「……グル。」「……ガウ。」


 あれ?なんか空気がおかしいぞ?


 ラウは遠慮気味にしてるし、サティとフェルはムスッとしていて納得してないような雰囲気だ。

 まぁ、それはおいおい解決するとしてローナにも説明しなきゃな。


「ローナにも紹介しよう。

 この銀色の狼がフェルでこっちの赤い虎がサティだ。俺がこっちに来てから家族になった子たちだ。」


「そうだったのね。よろしくね、フェルちゃん、サティちゃん。」


「「………。」」


 あ、こいつら無視しよったぞ。人見知りでもしてんのか?


「こら、サティ、フェル。挨拶くらいしとけよ?」


「グル。」「……ガウ。」


 サティは早かったがフェルはまだ少し抵抗があるようだ。でもまぁ、挨拶できただけでも充分に賢いだろう。


「挨拶できてえらいぞ。」


 そう言いながら二頭の頭を順番に撫でた。


「それで向かい側にいるのが隣人で友人のアルラウネ。愛称はラウだ。ローナなら知ってるかもしれんがそこにある世界樹の精霊だ。」


「よろしくね、ラウちゃん。」


「よろしくお願い致します。」


 ローナが微笑みながら挨拶すると緊張した面持ちでラウもそれに応えた。


「それでローナに一つ聞きたいことがあるんだがいいか?」


 俺の中にはさっそく疑問がいくつか生まれていた。


「どうしたの?」


「なんでローナがラウ達を隠してたんだ?」


 そう、先ほどローナにサティ達がいなかったかを聞いた時にまるで彼女がラウ達の姿を消していたように見えたのだ。MAPに彼女の反応がなかった事も気がかりだ。


「ああ、それはね?わたしがここに来た時にこの子たちみんな居たんだけどタケシの友達だって信じてくれなかったの。あ、でもラウちゃんはちゃんと説明したら信じてくれたよ?


 だから、タケシをわたし一人で迎えるからそれを側で見てたらわかってくれるんじゃないかなって。」


 なるほど、そういう事か。だからといって一人で出迎える必要はなかったと思うが・・・まぁ、いいか。


「そういえば言ってなかったな。ラウ、ローナ、すまん。」


「ううん。わかってもらえたからいいの。」


「わたしも別にいいですよ。」


 嬉しそうに笑うローナとぎこちなく笑うラウに俺は礼を言う。


「ありがとう。」


 正確には最初は言わなかったんだけど、途中から言い出すタイミングがなかった。というか忘れてた。


 それにしてもラウがいつもの口調じゃない事にすごく違和感を感じる。


「ラウ。」


「な、何ですか?」


 彼女はぎこちない笑みを浮かべて丁寧な口調でこたえる。錆びついたブリキの人形のように動きもどこかぎこちない。


「俺がなにか怒らせるような事をしたなら謝る。だから、いつもの口調で話してくれないか?」


「別にわたしはいつも通りですよ?」


 説得を試みるも見事に失敗した。よほど俺がローナの事を言わなかったのに怒っているのだろうか?


「ねぇ、タケシ。ラウちゃんの普段の口調ってどんなの?」


 若干凹んでいるとローナがそう聞いてきた。


「もっと砕けた感じのフレンドリーな口調だ。」


「そうなんだ……ねぇ、ラウちゃん。」


「はっ、如何様(いかよう)で御座いましょう。」


 はっ・・・?


「えっ?ラウどうしたんだ?」


「あっ、いや……えっと……その……。」


 ローナが話しかけた途端にラウがいきなりソファから立ち上がって(ひざまず)き、超丁寧口調になった。

 その事に驚いていると彼女は俺の方を見てなにかを言いたげに困っている。


「ラウ、正直に話してくれ。どうしてそんな口調なんだ?」


「えっと……それは……。」


「ラウちゃん?」


「っ!はっ。」


「ごめんなさい。やっぱりなんでもないわ。」


「はっ。」


 俺が問いただしてもだだ気まずそうに話そうとしない。

 ローナが話しかけると体をビクッとさせて(こうべ)を垂れる。

 まったく話が進まない。


「話したくないなら別にいい。俺だって無理強いはしたくないんだ。すまなかった。」


 残念に思いながらも俺は謝った。せめてもう一度くらいは謝罪くらいはしておかなければならない。


「違うよ!そうじゃないの!って、ええと……そうじゃないんです。」


 だが、ラウは即座に否定する。その際に口調も一度は元に戻ったのだが、また丁寧な口調で言い直した。


 まったくもって訳がわからん……?なんでチラチラとローナの方を見てるんだ?


「あの……お兄さん。少し…二人で話せませんか?」


 ラウは自然と上目遣いとなった状態でそう言った。


「ああ、わかった。」


 俺もかなり戸惑っていたので、彼女の口調がいつもと違うことの理由がわかるのならば、と了承する。


「ローナ、少し席を外すな。」


 立ち上がりながらローナに確認を取る。


「うん、でも早く戻ってきてね?」


 微笑みながら言った彼女はまるで女神のような美しさだった。……そういえばこの人本物だったわ。


「おう。サティとフェルもここで待っててくれよ。」


「グル。」「クゥン……。」


 サティは素っ気なく返事をしたが、フェルは悲しそうに返事をする。あかん、めっちゃかわいい。


「失礼します。」


 ラウが頭を下げてから俺についてくる。


 思いのほかすんなりと了承してくれたローナ達に感謝しつつ、ラウとリビングを出て応接間に入る。


「さて、ここには俺とラウしかいない。腹割って話そう。」


 応接間に入って席につくと同時に俺はラウに対してそう言った。席は俺とラウが対面になるように座っている。


  「はい、わかりました。」


(……口調は変わらず、か。さて、何を聞こうかね。)


 俺が何から聞こうか迷っているとラウから話を持ちかけてくる。


「お兄さん。」


「ん?なんだ?」


「あなたはあの方が誰か知っているのですか?」


 質問してくるラウの表情はいつになく真剣そのものだ。その深緑色の瞳で真っ直ぐに俺の目を見据えている。


「ローナのことか?」


「はい。」


 ローナの事だとわかってはいるが一応確認を取っておく。


「知っている。」


「そうですか。……それはどこまで知っていますか?」


 彼女の瞳に鋭さが増した。そう、それはまるで『嘘は許さない。』そう言いたげな目をしている。


「どこまで、と言われると少し曖昧だが、大雑把に言うと彼女が創造神である事、俺をこっちに送ってくれた事、ずっと独りだった事、あとは俺と友達になった事くらいかな。あ、それと俺に魔力とスキルをくれた事だ。」


 俺自身もラウに嘘はつきたくないし、つかない約束の件もあるので正直に話す。


「っ……そうですか、わかりました。」


「おう。」


 しかし、それはあまり好ましい答えではなかったようだ。彼女はうつむき、膝の上においた両手にギュッと力をいれている。


「ではもう一つ。」


「どうした?」


 顔を上げた彼女は先ほどよりもずっと真剣に聞いてきた。


「お兄さんは『嘘』をついていませんよね?」


 その問いはおそらく彼女の『過去(トラウマ)』ゆえのモノ。


「ああ。忘れてないさ。」


 彼女の瞳を見つめ返し、ふざける事なく真剣に答える。


「本当ですか?」


「本当だ。」


「信じてもいいんですか?」


「ああ。」


「あなた『は』嘘つきじゃありませんか?」


「違う。」


 途中から身を乗り出し、執拗なまでに聞いてくる彼女の様子はまるで・・・


「なら、あなたは……なぜっあなたは…………」


 身を乗り出さんばかりに聞いてきたラウは下を向き、取り憑かれたように続ける。


 少し前から明らかに思考が別のところへシフトしている。仕方ないな、少し雑だが話を戻すか。


「ラウ。」


「……なんですか。」


「君の過去を聞いた。」


「っ!!」


 今、明らかに動揺した。……なるほど、やはりこの様子だとあまり触れないほうがいいな。


「君が嘘を嫌う理由もある程度の検討はつく。だから……」


「違います!今はそんな事は関係ありません!わたしが聞きたいのはそんな事じゃない!」


 バンっと机を叩きながらラウはまた顔を上げて俺の方を見ながら訴えてくる。


「……なら、聞きたい事ははっきりと聞いてくれ。俺は君じゃない。君の考えは君しか知らないんだ。」


 よし、これでいい。


「それは……」


「……」


 俺はただ黙って待つ。


「どうして……」


「……」


 彼女は口元を震わせながらゆっくりと俺に問う。


「どうしてあなたは……わたし達の主と『同格』なんですか………」


 そう言いながら座り込んでうなだれた彼女は両の手で顔を覆って泣きはじめてしまった。


「ちょっと待て、どういう事だ?」


 俺は突然の事に訳がわからなくなってしまった。とにかく詳しい話を聞くために彼女の隣へ席を移す。


「……ぐすっ、何も知らないのですか?」


 彼女の言っている『知っている事。』とはなんだ?


「ああ、その前にとりあえずこれを使え。」


「あ、ありがとう……ございます……」


 とりあえずハンカチを取り出して彼女に渡す。気になる事はあるが彼女の方が今は心配だ。


「……ぐすっ………」


 俺は静かに彼女の背中をさすりながら考える。


(ラウの言う知っている事の意味……俺がローナと同格……?)


 彼女が泣き止むまでは自分でその事について考えていると


「……っ!まさか。」


 とある事を思い出した。


「?……どうかされましたか?」


 赤く腫らした目元を隠すこともせずにこちらを向くラウ。


「一つ、思い出した事がある。」


「なんですか?」


 おそらくだが彼女の言う『知っている事。』とはこれの事ではないだろうか。

 それは・・・


「『魂の人外化』だ。」


「たま、しいのじんがいか……?」


 初めてこの言葉を聞いたのだろうか?彼女はイマイチ要領を得ていない様子だ。


「ああ、魂の人外化だ。こっちに来る前にちょっとしたトラブルで俺にローナの魔力が大量に送り込まれたんだ。」


 ある程度噛み砕いて説明する。ローナの尊厳は守らせてもらうけどな。


「そんなっ!それじゃあお兄さんは!」


 ラウはなにかを察した様子で悲痛な表情を浮かべる。


「ああ、普通なら魂ごと吹き飛ぶらしい。だが、なぜか俺はそれに順応してしまったんだ。」


「それじゃあ、お兄さんの魔力は……?」


「お察しの通りに元々はローナの魔力だ。それと俺の変化した魂が上手いこと重なりあって今の俺がいる。」


 皮肉なものだ。日常の『変化』に苛まれた俺が、今度はその『変化』のおかげで今ここにいられるのだから。


「そういう事なんですね……ならばあなたはわたし達の主の友にしてもう一人の主。」


「待て、なにをっ!?」


 納得したらしいラウは俺の横で跪き、頭を垂れてさらに付け加える。


「これまでの度重なるご無礼、どうかお許し下さいませ。」


「………。」


 俺はラウの突然の行動にまたしてもついていけなかった。




作者「甘ったるい日常を書くつもりでした。」


隊長「ならば、どうしてああなった?」


作者「それは次回で判明します。」


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