領主との対談
お久しぶりです。沖縄行ってきました。アグー豚やソーキそば美味しかったです。
はやく日常を書きたいので出来るだけはやく終わらせたいです。
「どうぞ、こちらで御座います。」
「はい、ありがとうございます。」
散歩から戻った俺は再び応接間へと通されたのだった。例のごとく、机には紅茶が用意されている。
勧められた席に座り、その対面に座っている人を見る。
うん、今度は赤髪の長身男性一人だ。
にこやかに笑っていて優しそうなのが見ただけでわかる。
正確には男性の隣にリーシアとその後方にセルディアスもいるが。
俺が少しほっ、としているとその男性から声をかけられた。
「ごめんね、待たせてしまったみたいで。」
柔和な笑みを浮かべながら言う男性に俺も笑顔で応える。
「いえいえ、問題ありません。」
「あはは、そう言ってくれると助かるよ。僕たちにとっても大切な事だったんだ。」
両者ともに和やかな雰囲気だったのだが、そこにリーシアが入ってきた。
「いえ、お父様?かれこれ数時間は待っていただきましたのよ?」
「あはは、それは悪いことしちゃったなぁ・・・」
頭に手を当て、笑いながら言う彼にリーシアが責め立てるように言う。
「そうです。もっとシミズ様に謝ってくださいませ。」
「あれ?リーシア、今日は僕に対するあたりが強くない?」
「・・気のせいです。」
リーシアがそっぽを向き、すねたような態度をとっている。
微笑ましい会話を繰り広げる男性とリーシアに笑いながら仲介する。
「まぁまぁ、リーシアさん。わたしは別に気にしてませんから。」
「シミズ様がそう仰られるなら・・・」
俺がそう言うとリーシアはおずおず、と引き下がり、ジッー、と俺の事を観察し始めた。うん、気になるけど気にしない。
とりあえずこの場はおさまったらしい。俺が安心していると赤髪の男性が口を開いた。
「さて、自己紹介がまだだったね。僕はルイス。ルイス・リンドブルム。この領地の領主さ、一応は王から辺境伯を拝命しているけれど気にしなくていいよ。他の二人のことはもう知ってるね?」
辺境伯ってどの辺りだろうか?けっこうお偉いさんなのか?
なんとなく疑問に思いながらも特に興味が湧かなかったので気にしないことにした。
「はい、リーシア・リンドブルムさんにセルディアスさんですね。」
「うん、そうだよ。」
このやりとりの間にリーシアの名前を出すとぱぁっ、と笑顔になった。なんだろう・・・ローナを彷彿とさせる。
オーケー、この領主の名前はわかった。こっちも名乗らないとな。
「タケシ・シミズと申します。よろしくお願いします。姓を持っていますが、貴族ではありません。」
聞かれる前に貴族ではないことを言っておく。
「うん、よろしくね。あと、別に敬語じゃなくてもいいよ?」
「ありがとうございます。ですが、癖のようなものですのでお気遣いなく。」
「うん、わかったよ。」
若干苦笑しながら頷くルイスはにこやかな表情に戻り、話を進める。
「じゃあ、まず僕が君をここに招いた理由を説明しようか。」
「はい、お願いします。」
「まず、事の発端は今から一ヶ月くらい前の事かな。かの森で今までに類を見ないくらいの強大な魔力反応が突然現れた事なんだけどね。」
あー、たぶん俺が転移してきた直後の事だな。そん時は魔力まき散らしながら歩いてたし。でも、ここって森からかなり離れてるよな?そんなやばかったの?
「あぁ、なるほど。」
まぁ、納得はできる。原因となった主犯格にも世界樹の精霊にも化け物認定されてるし・・・
「それともう一つあるんだ。」
「もう一つ?」
他に何かしただろうか?
「僕の娘が何者かに助けられてね。しかも、それが【深淵の森】の中に居るという話だ。さらには何件も同じ事が起きている。そして、僕はその人にお礼をしなければならない、そこで捜索隊を派遣した結果が君だ。」
「あはは、なるほど。」
俺は笑って誤魔化しているが、ぶっちゃけ権能の試験がてらにやってみただけなので完全にその副産物だったりする。
するとルイスは真剣な表情をして
「そこで君に問う。君はあの【深淵の狩人】かな?」
俺に聞いてきた。
「はい、間違いありません。」
そして、俺はそれを肯定する。
「そうなのか・・・それなら、お礼を言わないとね。この度は我が娘を救ってくれて本当にありがとう。そして、盗賊捕縛への助力に感謝する。」
「ありがとうございました。」
二人は頭を下げて感謝の言葉を口にした。
「リーシアさんに怪我がなくて幸いです。」
素直に受け取っておこう。たまたまとはいえ助けたことは事実だからな。まぁ、別に貴族と仲良くなりたいわけではないが。
「そこで君には何かお礼をしたいと思っているんだけど何がいいかな?」
ルイスは俺にお礼をしたいらしいが、生憎にも欲しいものは特にない。しかし、せっかくの好意だし、とりあえずは考えてみるか・・・欲しいとすればなんだろうか・・・あ、そうだ。この世界の宗教や神様についてくらいは知っておいた方がいいかもしれないな。
「では、大まかにで構いませんのでこの国における宗教などを教えていただければ、と。」
俺がそう言うと一度頷き、説明を始めた。
「うん、いいよ。この国の宗教は創神教といってね。創造神様が最も位が高くて、その下に最上位神様方がいらっしゃるんだ。最上位神様は、【信仰の女神様】、【希望の女神様】、【博愛の女神様】、の三柱だよ。そして最上位神様の下に上位神様がいて、それぞれが下位神様たちを統括しているんだ。」
「その方々は実在するんですか?」
「うん、実在するよ。君はおかしな事を聞くね。」
苦笑しながらそう言ったルイスに俺も苦笑いで返す。
やっぱり実在するのね。いや、魔法あるし、創造神にも会ってるからわかってたけどさ。でも、最上位神ってことは俺がかつてステータスを見た時に表示されていたあの最上位神の事か?単純に名称が同じなだけなのか?・・・まぁいい。
実在するとわかっていても聞かずにはいられなかった俺にルイスは話を続ける。
「それから創造神様は存在するけれどその姿を見た者はいないんだ。そもそもの話、神々のご尊顔を拝見することすら栄誉なんだ。王族ですら最上位神様方の御尊顔を拝見した人はいないよ。」
「なるほど。天使は存在しないんですか?」
ザックリとした説明を聞いたあとに気になったのが天使の有無だ。この世界に神様は実在するみたいだし、天使が居るかどうかも気になる。
「うん、天使様も居る・・というよりは下位神様たちの事だね。名前のない神様が下位神様たちだよ。」
あぁ、そういうことね。
「なら、ほかの上位神や最上位神の名前は知られているんですか?」
そんな事を聞いた俺に
「いやいや、そんな事は畏れ多くて出来ないよ。」
とんでもない、といった様子で苦笑しながらそう言った。
「そうなんですか?」
「うん。」
名前くらいは知っててもいいと思うんだけどな・・・まぁ、宗教とかは結構繊細な部分があるし仕方ないか。
たしか、前の世界でも神様の名前を口にすることすら憚られるものもあったはずだ。
そう納得した俺はルイスにお礼を言う。
「大まかにはわかりました。ありがとうございます。」
「お礼なんていいよ。」
優しく笑いながらそう言う彼は思い出したようにこう言った。
「ただね、一つおかしい事があるんだ。」
「おかしいこと、ですか?」
「うん、最上位神様方の事なんだけどね・・・一柱足りないんだ。」
「足りない?」
「そう、足りない。最上位神様たちはそれぞれ創神教の美徳を冠していらっしゃるんだけど、美徳は四つあるんだ。」
美徳か。前の世界では美徳は七つあったような気もするが、この世界では四つあるらしい。
「【信仰】【希望】【博愛】ともう一つはなんですか?」
「【正義】だよ。」
俺が聞くと、かつての世界でも聞いたことがあるような内容であった。
(こっちでも美徳はあるんだな。)
そんな事を考えながらルイスの話に耳を傾ける。
「でも、最上位神様は三柱しかいらっしゃらない。おかしいと思わないかい?」
確かにおかしいかもしれないな。
「おかしいですね。四つの美徳があるのにその内の三つしか神様がいないというのは奇妙な話です。」
「そうだろう?どうしてだろうね?」
「どうしてですかね・・・」
「・・・やっぱりわからないよね。」
何も知らない人間からの視点ならば何か別の事が見えてくるかもしれないと思ったのだろうか。悪いが俺は考えるフリしてなにも考えていないからな。
「そうですね。面白い話をありがとうございます。」
説明が終わり、俺が感謝の意を述べるとルイスは意外そうな顔でこう言った。
「うん、これくらいならお安い御用さ。それにしても欲しいものが情報とはね・・・ほかに欲しい物とかはないのかい?大抵の物なら揃えられるし、なんなら我が家が懇意にしている商会を紹介する事もできるよ?」
「ありがたい申し出ではありますが、ご遠慮させていただきます。」
「本当にいいのかい?その商会ってアン&レヴィ商会の事だけど。」
ルイスがなぜか食い下がりながら俺にそう言ったが、まずその前に俺の知らない固有名詞が出てきた。
アン&レヴィ商会とはなんぞや?なんかいきなり元の世界とかでありそうなネーミングになったぞ?Hey,シュティ!
《はい、主様。アン&レヴィ商会とは魔具などの家具から生活用品、はたまた食品や衣類に関して幅広く手にかけている業界最大手の超一流商会です。この世界において普及している魔具や様々な品は基本的にこの商会の製品だと思った方がいいほどです。》
お、おう、そりゃすげぇな。でもそれだけに残念だな・・・自分の魔力で交換できるから別に欲しい物とかはないんだよなぁ・・・それに、あんまりそういう団体とは関わりたくない。ボロが出て前の世界にあった製品とか下手に開発しちゃうとどうなるかわからないからな。世界が破滅しましたとか笑えない。
航空機に関してはちゃんと消滅させたから論外とする。
そう結論付けた俺は断りを入れる。
「結構です。」
「・・・・そうか。一つ聞きたいんだけど君に欲はないのかい?」
笑顔で断ると、ルイスはしばらく沈黙したあとに頷き、そう質問した。
俺にはその質問が不思議なものだった。だから、聞き返すようなニュアンスを込めて答えた。
「いえ、ありますよ?」
「え?あるのかい?」
「ええ、ありますけど・・・」
だめだ、二人とも混乱している。聞いてきたルイスはまた意外そうな顔をして聞き返してくるし、俺もなぜそんな事を聞くのか困っている。
「シミズ様!それはいったいどの様なものを欲しているのでしょうか!?」
そこにリーシアが会話に入ってきたのだが、元気である。非常に元気である。
「そうですね・・・変わることのない日常でしょうか?」
俺は笑ってそう答えた。
まぁ、欲しいのはとりあえずそれくらいかな。
「っ!そう、ですか。」
俺が答えると、なぜか一瞬だけおし黙った彼女。
「どうしたんだい?リーシア、顔色が悪いよ?」
すかさずルイスが心配の声をかけるが
「いえ、問題ありませんお父様。それよりもシミズ様、申し訳ありませんでした。」
問題ないと断り、俺に謝辞を述べた。
「え?どうして謝るのでしょうか?」
「自覚が・・おありではないのですね。」
悲しそうな顔をしてそう言ったリーシアにますます混乱しそうになるが、『まぁいいか。』と持ち前のテキトーさで気にしないことにした。
「よくわかりませんが気にしないで下さいね。」
「・・・はい。」
安心させるように笑いかけると、リーシアは悲痛な表情をする。なにか変な事をしてしまっただろうか?
「・・・シミズ様、一つよろしいでしょうか?」
ゆっくりと俺に確認をとってきた彼女。
「はい、いいですよ。」
「では、あなた様が望まない事を教えて頂けますでしょうか?」
俺が質問に答える姿勢を示すと彼女はそう聞いてきた。
俺が望まないことか・・・それは一つしかない。
「家族や友人を傷つけられることです。」
俺は笑みを浮かべながら答える。
「・・・っ、そう、ですか。ありがとうございます。」
またしても表情を歪める。
「はい、質問くらいならなんでも聞いてくださいね?」
俺としては普通の答えだと思うのだが、まぁ、気にしないでおこう。
「はい・・・」
それきり黙ってしまった彼女。それを見かねたのかルイスが話題を変える。
「正直に言ってあの森に人が住んでいるというのは未だに信じられないけどね。」
しかし、それは純粋にそう思っているようで、また苦笑しながらそう言った。
それに対して俺は普通に思ったことを口にする。
「そうですか?とても住みやすくていい場所ですよ?」
「・・・」「・・・」「ほっほっほ。」
ルイスとリーシアの二人は絶句し、セルディアスは愉快だと言わんばかりに笑っている。
そして、ルイスは少し慌てたようにこう言った。
「ほ、本気で言ってるのかい?あの森だよ?あの森は特別なんだから普通は住もうなんて考えは出てこないと思うんだけど・・・」
「あはは。」
俺は笑ってごまかしながら別の事に注意がいっていた。
また出たのだ、『あの森は特別』というワードが。ここまでくると流石に気になってきたな。前のクレアとの話でも『あの森は特別』というワードは出てきた。それと、『あの御方』というワードも。
とりあえずはそれについて言及してみよう。
「それはまぁ、あれです。物好きなのだと思って頂ければと・・・」
「あぁ・・うん、そうなんだ。」
微妙に引いてるように見えるが気にしない。
「それと一つよろしいですか?」
「えっと、何かな?」
「あの森が特別とは一体どういうことでしょうか?」
「うん?知らないのかい?」
クレアと同じ反応だ。
「かなりの辺境から来たものでして。ある程度は知っているのですが細かいことは知らないのです。」
ある程度はクレアとの話で聞いたが、その時はあまり興味が湧かなかったので気にしなかった。
「・・・うん、いいよ。説明しよう。」
謎の間があったが、ルイスは納得したように頷く。
「ありがとうございます。」
「まず、どの辺りまで知ってるのかな?」
ルイスが程度の度合いを知るために質問してくる。
「危険な森である事、歴史的惨劇があった場所、『あの御方』と言われる人物がいる事、の三つなのですが、危険な森であるという以外はあまり詳しく知りません。」
俺は知っている事を答える。
「危険を承知で住んでるんだね・・・じゃなくて、歴史的惨劇とその中心となった『あの御方』に関しては知らないんだね?」
「はい。」
「じゃあ、まず歴史的な事から話そうか。まず、かつて千年以上も昔に大戦があったことは知っているかい?」
「はい、魔族対全種族の全面戦争だったとうかがっております。」
「うん、その認識で間違いないよ。それで細かい事を省くと、その大戦の最終決戦の地があの森の中心に生えている世界樹の近くだったんだよ。」
?、あの森は近づくことすら危険なはずだが・・・?
そう思った俺は疑問をぶつけてみることにした。
「あの森は近づくのが難しかったのでは?どうしてわざわざそんな危険な場所を?」
すると、ルイスはこう答えた。
「君の疑問は当然だ。でも、あそこはね?昔は森なんてなかったんだ。ただの平原がひたすら続いていて、そのちょうど真ん中に世界樹は存在したんだ。」
なるほど、かつて世界樹の周りは平原だったと・・・確かにあの面積の平原ならば戦争のための陣営を敷くには充分だろう。
・・・ラウが人間嫌いな理由がなんとなくわかってしまった気がする。そりゃあ、自分の近くで戦争されたら嫌いにもなるわ。戦争とか自然破壊の代名詞だろ。
「そこで『あの御方』が現れた。」
「あの御方、ですか。」
「うん、そうなんだ。」
この人の『あの御方』という言葉のニュアンスには敬意や尊敬などが含まれているように感じる。そんな『あの御方』とは一体どんな人物なのだろうか?
「名前などは残っているんですか?」
俺が聞くと先ほどまでは少しゆるい雰囲気だったのだが、急に重い雰囲気を漂わせながらルイスは口を開いた。
「残っているよ。絶対に忘れてはいけない、後の世まで伝えるべき『英雄』の名。僕たち人族の救いの英雄であり、全種族間平和条約の締結者。大戦最大の功労者であり、被害者でもある。」
ここまで偉業の名があるとは驚きだ。失礼かもしれないが、これはワクワクするな。
「その名お伺いしても?」
俺が好奇心に駆られ、その名前を知るために質問する。
「世界樹が守護精霊にして大戦の終結者、大精霊アルラウネ様だよ。」
「・・・・っ!?」
しかし、出てきたのは驚きの名前だった。
おいおいおい!まじか!?聞き間違いじゃないよな!?シュティ!今この人なんて言った!?
《世界樹が守護精霊にして大戦の終結者、大精霊アルラウネ様、と。》
聞き間違えてなかった!嘘だろ?だってあのラウだぜ?俺に振り回されてるあの子が!?今ごろは箸の練習してるよ!?よく俺におちょくられてるよ!?
俺が混乱しているとルイスが真剣な面持ちで話しかけてくる。
「何か、知ってる顔だね?」
「いえ何も。」
なるべくすまし顔で答えるが、恐らく意味はないだろう。しかし、ルイスはにこやかな表情を浮かべて
「それは残念だね。でも、もし教えてくれる気になったら話してくれないかな?」
素直に引き下がる代わりにそう提案してきた。
「考えさせて頂きます。」
とりあえず保留にしておいた。この話はラウからも聞くことになるだろうが、それは前にも言った通り本人から打ち明けてくれるのを待つ。
当事者から話を聞くには話してくれるのを待つほかないが、ラウの存在自体を知らせてしまうとどうなるかわからないからな。
しかし、せっかくだから第三者視点からの話も聞いておこう。
それにしても、そうなるとラウは千歳を超えてるんだな・・・あの見た目でか。ラウが人間嫌いな理由もわかってしまうかもしれないが、そこは真実かどうか定かではないのでまた別だと思いたい。
「それでラ・・じゃなかった、その精霊には何があったんですか?」
危うくいつものように愛称で呼ぶところだった。さっそくボロが出た。
ルイスはあえてそれを見逃してくれたようだ。
「そうだね・・・まずはアルラウネ様は大戦を終わらせた張本人だという事をわかっていてほしい。そして、全種族の長や王たちを説得して回り、全種族間の和平、恒久的平和及び不可侵の条約を締結させたんだ。」
「すごいですね。」
「うん、本当に凄い方だよ。」
そんな事してたのかラウ・・・だからといって別にあの扱いを変える気はないが。いつものように笑って過ごせるならそれでいい。
俺が失礼な決心を固めているとルイスは話を進める。
「さらに、あの世界樹の近くは全種族の代表が話し合う場として提供されたんだ。定期的に行われる会議などで使うためさ。そして、その世界樹は平和の象徴とされ、アルラウネ様はみんなが崇める平和の使者となった。」
「・・・」
俺は黙って聞いていたのだが、今のところラウが人を嫌いになる理由が見つからない。
「でもね、それから少ししてから惨劇は起きた。」
悲しげな雰囲気を漂わせながら言うルイスに問う。
「何があったんでしょうか・・・?」
ルイスは一度紅茶を飲んでからこう答えた。
「アルラウネ様が人族の代表団を一人残らず殺してしまったんだ。それも突然ね。」
「はっ?」
俺は思わず変な声が出てしまった。あのラウが人を殺した?しかもそれなりの数を?
「どういうことですか?」
俺が食い気味に聞くとルイスは苦笑しながらこう答えた。
「うん、君が聞きたいことはわかるよ。これはね?ちゃんとした理由があったんだ。」
「え、あ、はい。」
理由があるなら聞いておこう。
「僕たち、人族が原因なんだ。」
「人が、ですか?」
「うん、僕たち人族のだ。」
そう言ってルイスはまた紅茶を飲み、口を開く。
「これは人族の弱さが招いた結果だ。
かつて、『リューゲ』という名の龍族の始祖が居たんだ。それは史上最悪の龍と言われていてね?それは人族の心の隙間につけ込み、その当時の人族の代表たちを利用してせっかくアルラウネ様が終わらせてくださった戦争を再び起こそうとしたんだ。リューゲは平和になった世の中がつまらなくて気に入らなかったんだ。」
ほぉ・・・なるほど。
「どうして人族が利用されたのか、という事については世界樹と関わりがあるんだ。」
「世界樹と?どうしてです?」
どうしたら世界樹と人族が利用されたことに繋がるのだろうか。
「それは世界樹の果実【ヒルフェ】だよ。どんな病も完治し、たとえ身体的欠損であったとしても完全に治療してしまうというまさに神の果実というのに相応しいものさ。」
あぁ、なんか前に世界樹を鑑定した時にそんなこと書いてあったな。
「そしてリューゲは自分が力を貸せば人族がヒルフェを独占出来るとそそのかし、力を貸す代わりに他の種族を滅ぼそうと提案したんだ。」
過激だなおい。それにしても独占ね?
「独占?その言い方では平等に分け与えられているように聞こえますが・・・」
俺が聞くとルイスは頷く。
「その通りだよ。アルラウネ様は平和条約を締結する条件に全種族に対してヒルフェを定期的に与えると約束したんだ。」
そういうことか・・・
「それで人族だけの物にしよう、とリューゲがそそのかしたんですね。」
「うん、そうだよ。そして、それがアルラウネ様が知り、危険視された結果として殺された。代表団が殺された当時の人々は怒りに震え、あろう事かアルラウネ様に向けて討伐隊を差し向けたんだ。まあ、その時は理由を知らなかったから突然人族だけが殺されたという事実しかなかったのに加え、人族だけが見放されたなんて噂もあったらしい・・・言いたくはないけど仕方なかったのかもしれないね。」
「・・・」
なんとも人間らしいじゃないか。
「そして、その討伐隊が向かった先で見たのが今の【深淵の森】さ。それはいつのまにか現れていて討伐隊の行く手を阻んだとされている。それからは森に阻まれながら数年かけて進んで行くと、そこにまたリューゲが現れた。」
数年間もラウに向けて討伐隊が派遣されたのか・・・それで俺が捜索隊を討伐隊と誤認し、穏便にすませようとした時に『人間が諦める事はない。』と言ったのか。
「そこで・・リューゲは全てを明らかにした。人族を利用した事や、アルラウネ様が代表団を殺した本当の理由・・・なにより、自身の目的を。」
俺はただ黙って話を聞く。
「嘲笑をもって上位龍たちを引き連れてきたリューゲは人族との戦争を開始した。アルラウネ様の下へ行くためにかなり無茶をしでかしていた討伐隊にそれはもはや恐怖でしかなかった。
でも、それよりも士気を下げたのは、人族に衝撃を与えたのは、アルラウネ様が自ら濡れ衣を着てまで我々人族をかばって下さっていたことだよ。本当はアルラウネ様は人族の代表団を殺してはいなかったんだ。むしろ逆だった。」
「逆とは?」
「偽装工作さ。影武者を使って他の種族によって人族が殺されたとアルラウネ様に訴える為に用意されていたものだよ。それを逆にアルラウネ様が利用し、人族を守った上で自ら悪役となられたんだ。」
なるほど、ラウが人族を嫌う理由にある程度の予想はついた。
「それで、龍の方はどうなったんですか?」
「全種族間平和条約に基づく規定による連合部隊を構成、祖龍を除く上位龍の殲滅に成功したよ。」
「なるほど。」
「でも、リューゲだけは格が違いすぎた。」
「・・・」
「祖龍はあまりにも強く、強靭で、絶大な力と魔力を誇っていたという。かの【七魔公爵】でさえ苦戦していたようだよ。」
【七魔公爵】か、この人は知っているのだろうか?あとで聞いてみよう。今はラウの話が気になる。
「でもね、リューゲに苦戦している中で龍族なのに連合部隊に味方する龍が現れたんだ。しかも、上位龍のね。」
「先ほど上位龍は殲滅したと聞きましたが?」
「殲滅した後に出てきたんだよ。いきなり姿を現して、敵の増援かと思ったら祖龍に攻撃を始め、その後の封印にも力を貸したと言われているよ。」
・・・祖龍という名前からして龍の頂点か親のような存在の筈なのに逆らう龍が居たとは。いや、それよりもなぜ他の上位龍が居なくなったタイミングで・・平和的な龍だったのだろうか。それならば逆にもっと早くに加勢するか。
まぁ、伝説は都合のいい方向に書き換えられたり、言い伝えられてるうちに伝言ゲーム式に内容が違ったりするからな。ある程度は仕方ないか。
「なるほど、では祖龍はその後封印されたんですね?」
「うん、詳しい場所は知らないけど、今もどこかに封印されているらしいよ。」
この人が本当に知らないかどうかは別としても、むやみに公開しないのはいい事だろうな。
「そして、その一連の事件の後、人族は森へと出かけるようになったんだ。どうしてもアルラウネ様に謝罪と感謝を伝えたかったんだ。でも、あの事件以来はアルラウネ様の姿を見た者も、世界樹へ行って戻ってきた者もいない。それからいつしかあの森は【深淵の森】と呼ばれるようになっていった。」
「そうですか。」
ラウが人間を嫌う理由か・・・そんな事があれば嫌うのも無理もないだろう。
そして、今になってわかる『嫌いではない。』『おにーさんは特別。』の言葉の重さ。
ラウは俺の事をどう思っているのだろうか?あの言葉を信じるなら嫌われていない事は確かだが・・・って俺がこんな事考えるのもなんかムズムズするからやめだ。めんどくせぇ。
それよりも七魔公爵ってなんだ?
「七魔公爵とは?」
「あぁ、それはね。公爵を名乗る上位の魔族の事でね。文字通り七人いて、それぞれが強力な力を持った存在だよ。」
それは知っている。
「それは今も存在しているんですか?」
「さて、それはどうだろうね?」
あ、多分だけどこの人知ってるな。言わないのは何か事情でもあるのか、単純にさっきの仕返しかのどっちかか?
「そうですか。では、名前などは?」
「名前はわからないけど七魔公爵の冠する罪はわかるよ。」
なんとなく察しがついた。まぁ、七魔公爵って時点でアレだしな。ともかく聞いておこうか、彼が話してくれればだが。
「罪とは?」
「【暴食】【嫉妬】【強欲】【怠惰】【傲慢】【憤怒】【色欲】の七つさ。」
「なるほど。」
やっぱり七大罪じゃねぇか。美徳は四つなのに大罪は七つなんだな・・・まぁ、ある程度の話は聞けたな。
「では、わたしに聞きたいことはありますか?」
話してもらってばっかりだと借りを作ったみたいでなんか嫌だからな。
「うん、あるよ。捜索隊を派遣して少しした時のことさ。」
さて、何を聞いてくるのだろうか。
「なんでしょうか?」
「マンティコア、と言えばわかるかな?」
ああ、あのクソッタレどもの事か。そういえばちょっとした警告と脅しがてらに魔法でぐちゃぐちゃにしたマンティコアを送りつけたな。俺がブチ切れした時のアレだ。
「あれは君がやったのかい?」
「まぁ、そうですね。」
ルイスの問いに平然と答える。
「そうか・・・もし、もしもだ。」
真剣な表情でこちらを見据えるルイス。
「もし?」
「もしも、僕たちが君の逆鱗に触れたとすれば謝罪しよう。」
?、何を言ってるんだこの人は?確かに俺はキレてはいたが、それはマンティコアのせいであってこの人たちのせいではない。
「いえ、あなた方が原因ではないので気にしなくて大丈夫ですよ。」
「それは良かったよ・・・」
ホッ、とした様子で息を吐くルイスに俺は疑問符を浮かべるが、相手の杞憂だったのなら気にすることもないだろう。というか、そろそろ帰りたいし。
「では、時間も頃合いですのでそろそろ。」
夕暮れ時になったので俺が帰ろうと立ち上がると
「あぁ、それなら心配いらないよ。せっかく娘の命の恩人を招いたんだ。我が家に泊まっていってくれないかい?もてなしもなく帰してしまっては貴族の名折れさ。」
なんとも断りづらい殺し文句で引き止められた。
だが断る。
「いえいえ、お気遣いには感謝しますがわたしにも家族が居ますので・・・」
苦笑いを浮かべながらこちらも応戦する。
「え?でも一緒に住んでるのはペットなんだよね?」
「ええ、まぁ。一応は余分にご飯を置いてきていますが。」
もしもこの人たちが友好的ではなかった時のためにだが。
「君ほどの強者が飼っている魔獣なんだ。一晩くらい大丈夫さ。」
待て、俺がいつ魔獣だと言った?
《主様、魔獣=動物で御座います。》
あぁ・・・なるほどね。わかった、ありがとう。
《光栄の極み。》
「それに他に住んでる人もいないなら大丈夫だと思うけど?」
なんかやたらとグイグイくるなこの人。
「いいのでしょうか?こんな怪しい人間をいきなり家に泊めるなど。」
俺だったら絶対にいやだね。
「大丈夫、君は僕たちにとって恩人であって決して敵ではないからね。」
その自信はどこからくるんだ?流石の俺もびっくりしてるよ。
それに、帰してくれる気はないらしい・・・諦めるか。
「そうですか、ならお言葉に甘えて。」
「うん、よかった。君は何も欲しがらないし、まともにお礼らしいお礼もできてないからね。せめて夕食くらいはご馳走するよ。うちのシェフは腕利きだから期待していいよ?」
「あはは、それは楽しみですね。」
「うん、そうしてくれると嬉しいな。セル爺、彼を案内してくれるかな。」
「承りました。」
ルイスがセルディアスに案内を命じ、それに老爺はたった一言反応する。
「シミズ様、どうぞこちらへ。」
「あ、はい。」
俺はセルディアスに席を立つことをうながされ、部屋から出ようとしたのだが
「そういえば最後に。」
聞きたいことがあった。
「なんだい?」
俺は彼の方へ向き直り、見据える。
「この領地の領主、ルイス・リンドブルムさんに問います。」
「・・・なにかな。」
「貴方はわたしの敵ですか?それとも味方ですか?」
「それは・・・」
彼は少し迷う仕草をみせるが
「わからない、かな。」
すぐにそう答えた。
「どうしてです?」
訳を説明してもらうためにさらに質問する。ルイスはそれに対して不快感を示すことなく笑顔で答える。
「さっきも言った通り僕たちにとって君は恩人だ。でも、君にとっての僕たちはどうなのかはまだ確定していない。それに自分から恩人に『あなたの敵だ。』と言うのは愚者の答えだね。でも、だからといって『味方だ。』と答えても君は不信感を募らせるだろう。だから、わからないんだ。僕たちのこれからの行動でそれが決まるんじゃないかな。最終的に決めるのは君なんだから。」
「・・・」
「どうかな?」
パーフェクトだ、ルイスさん。
「わたしのご無礼をお許し下さい。」
そう言って俺は頭を下げた。
「いやいや、そんな無礼なんて事はないよ。」
しかし、ルイスは柔和な笑顔を浮かべながら許してくれた。
「ありがとうございます。」
「うん。あ、そうだ。」
今度はルイスが聞きたいことを思い出したようだった。
「?、どうかされましたか?」
「うん、もし君が誰かを敵と認識するのはどういった行動が条件かな?」
なんだ、そんなことか。
「わたしの家族や友人を傷つけることのみがその条件となります。」
「じゃあ、もし僕が故意に君の家族を傷つけたとしたら?」
『コロス。』
頭の中にノイズがはしる
頭にこびりつく声、粘着質で不気味な声、アノコエ。
「・・・」
「ひっ・・・」
ごく自然に割り込んできたその思考に俺は一切の忌避感を覚えることなく、ただ微笑みを浮かべたまま彼の顔を見ているだけだった。
ただ、リーシアだけがビクッ、と体をはねさせて声を詰まらせる。
「愚問、だったね。」
先程と違う雰囲気でにこやかな表情を浮かべる彼はそう言った。
「ええ、そうですね。」
俺はそれを肯定するが、その根性は嫌いではない。
「ふふ、今度こそ最後です。わたしの事はシミズとお呼びください。」
彼らの事はしばらく様子を見よう。
「・・・いいのかい?」
「はい、いつまでも呼び方が『君』ではいささか限界があるかと。」
「!、うん、わかったよ。」
俺の隠した言葉の意味を受け取ったらしく、ルイスとリーシアは明るい表情を見せた。
「リーシア、よかったね。」
「はい、お父様。」
謎の親子間でのやり取りはイマイチわからなかったが、それを機に俺は応接間を後にした。
「お待たせしてすみません、セルディアスさん。」
どうやらずっと表で待っていてくれたようだ。
「いえ、わたくしは執事で御座います。申されずともその程度の事、苦にもなりませんな。」
しかし、セルディアスは笑いながら言う。これが大人の余裕というやつだろうか。
「あはは、ありがとうございます。」
「ふふ、おかしな方だ。執事などの使用人に礼を言うなど。まるで・・・」
そのまま歩き出した俺たちは話を続ける。
「まるで?」
「いえ、なんでも御座いません。」
聞き返すとなぜか言うのをやめてしまった。
「気になりますね。教えて頂けませんか?」
こうなると気になるのが人の性というものだろう。
「聞かれたのならば言わねばなりませんな。領主様、つまりルイス様と似ているのですよ。」
「あっさり言うんですね。」
笑いながら言うとセルディアスもまた笑いながら言った。
「事実ですからな。」
そんな雑談を交わしながら俺は館の中を歩いていくのだった。
「わたくしの事はどうぞセル爺とお呼び下さい。」
「いいんですか?」
「はい。」
「では、そうさせていただきます。」
「ええ、是非とも。」
その時なんとなく窓から外を見ると黒い鳥がこちらを見つめている事に気がついた。
「ん・・・カラス?」
八咫烏のように見えるが、まさかこの世界には八咫烏が存在するのだろうか。そんな風に考えながら見つめ返していると、飛んでいってしまった。
「どうかされましたか?」
「いえ、何も。」
「左様で御座いますか。」
俺は足が止まっていたことに気がつき、再び館内を歩き出した。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ー応接間ー
ここに一組の親子がいる。
先ほどまで対話してした青年は既に部屋から退出しており、二人はその青年について話していた。
「リーシア、どう思った?」
優しそうな男性が娘に彼の事を聞く。
「どう、とはどの様な意味ででしょうか?」
それに対して曖昧な質問の意味を娘は問う。
「リーシアの思った事を言ってくれればいいよ。」
しかし、核心についての答えは得られなかった。
「そうですね・・・まず、わたくしが見たシミズ様の『心』についてお話しします。」
娘は彼を思い出しながら語り出す。
「心、か。リーシアの言う魔力の本質だね?」
「はい、その通りです。また、一言でシミズ様の心を表すとするならば『異常』です。」
男性が頷き、確認を取ると娘もそれを肯定する。
「・・・続けて。」
黙って話を聞く姿勢をとる男性に、こくり、と一度頷いてから娘は再び語り出す。
「〈本質の大きさ〉は〈心や器の大きさ〉、《本質を構成する層》が《心の壁》となります。その『最深部』にはその人の本当の望み、考え、願望などの『本心』が存在します。
そして、あの方の心は基本的に三つの層で構成されています。
まず一つ目は『無関心』
二つ目は『異常なまでの優しさ』
三つ目は『停滞したナニカ』です。
このうち初めの二つがとても大きく、三つ目がとても小さいんです。
一つ目の層は『無関心』。これがシミズ様に欲がない原因なのではないでしょうか。あの方にとってほとんどの事象や物は無価値に等しいのです。対象が人においてもそれは同じだと思います。
この層の構成は警戒心などの相手との心の距離などがわかるのですが、あの方の場合は最初の『無関心』さえ通り過ぎてしまえばあの『異常なまでの優しさ』へと触れることが出来ます。いえ、出来てしまうんです。あまりにも簡単に・・・そして、最も大きい層がこの二番目です。ですが、優しく温かい心地良い部分でもあります。
これらは常に動き、変動しながら相手に対する印象によって姿を変えるのです。
ですが・・・三番目の・・すなわち最深部の本心となる部分は動きがないのです。まるで時間が止まっているかの様に・・・灰色で全く動かなかった。」
「動きがない?」
常に動きがあるというのに動きがないことに疑念を抱いた男性はつい聞き返してしまう。
「はい、でも一度だけ・・いえ、二度だけ動きました。ですが・・・それは良くないものでした。」
「それはいつかな?」
『知っておかなければならない。』なんとなくそんな思いに駆られた男性は問う。
「わたくしがシミズ様はなにをお望みですかとお聞きした時と、お父様が最後にシミズ様のご家族に手を出したらどうなるかおうかがいした時のことです。」
「どうなったんだい?」
「一度目は全体的に薄暗い灰色に染まりました。最深部がほんの少しだけ身じろぎをするように動きましたが、すぐにまた動きがなくなってしまいました。なによりも、心の底から湧き出た感情が一瞬で灰色に引き戻されたんです。」
「二度目は?」
「突然、真っ黒に染ったんです。それまで動かなかった本心となる部分が膨張しながら黒く染まり、他の二層さえも飲み込んでいって心が暗闇の様になり、何も見えなくなりました。心が殺意一色に染ったのです。
それを見ていると、こちらまでそれに引き込まれてしまいそうで、とても、とても恐ろしかったです。優しさとはかけ離れた・・・まるで人格が入れ替わったような、あまりにも極端な心。それが『異常』なのです。」
その光景がよほど恐ろしかったのだろう、娘は思い出した様に両腕を抱き、震えている。
「無理はしなくていいよ。」
男性が心配の声をかけながら肩を抱き寄せるが娘は話を続ける。
「ですが、最後にわたくしは見ました。シミズ様の本心にある感情を。暗い深闇の奥底にある、わずかに見えた文字通り本当の『心』。」
「・・・・」
男性も興味が湧いたのかとめる事はしない。ただ黙って娘の話に耳を傾ける。
「それは・・・苦しみ、悲しみ、怒り、絶望、自責、諦めなどの自己嫌悪と負の感情が混ざり合って渦巻いていました。」
娘は男性の目を見て悲痛な表情を浮かべながら訴える。
「お父様!あの方を救う手立てはないのでしょうか?わたくしは恩人のあの様な姿など見てはいられません!」
「リーシア・・・・」
男性もまた悲しげな表情を見せる。
「それは偽善だよ。」
しかし、男性は無情にもそれを切り捨てた。
「っ!なぜ・・ですか・・・?」
娘は父たる男性に問う。
「あくまでもそれはリーシア、君の自己満足に過ぎない。リーシアは彼の心を見たのだろう?なら、彼にとってのリーシア自身の今の立ち位置も理解しているんじゃないかい?」
「それはっ・・・そう、ですが、納得できません。」
うな垂れる娘を見て悲痛な表情を浮かべる男性。
「ごめんね、僕だってこんな事は言いたくないんだけど・・・無駄だよ。今のリーシアじゃ役不足だ。」
「・・・・」
「でも、それはリーシアの優しさでもある。誰かの為に、何かの為になにかを成し遂げたい、あるいは成し遂げてあげたいと思うのはリーシアの良いところだ。」
『だからね。』そう言ってから男性は娘の頭を撫でる。
「これからリーシアが頑張って彼と仲良くなればいいんだよ?なにも今すぐに彼と会えなくなるわけじゃないんだ。少しずつでいいからね、少しずつ距離を縮めていけばいいんだよ。そして彼の心に近づくんだ、彼がリーシアに話してくれる距離まで。
せっかく僕の娘が初めて気に入った子なんだから。僕も応援してるよ。」
「お、お父様!?それはっ・・・!」
急激に顔を赤くして取り乱す娘に男性は優しく微笑みながら
「ほら、昔からずっと『お父様以上に優しくて強い方でないと結婚いたしません!』って言ってたじゃないか。僕もそれを尊重して今まで見合いもさせずに過ごしてきたんだ。本当は13歳ならもう婚約しててもいい年なんだよ?だから、しっかり彼の心を掴んでね。」
そう言った。
すると、娘はあたふたしながら早口になる。
「そ、それは確かに言いましたけどっ!まさかお父様より優しくて強い方が本当に居るとは思いませんでした!それよりも!どうしてお父様は自身よりシミズ様の方がお強いと?」
「それはね、魔力が上手く測れなかったからなんだ。隠してたんだろうけどそれが完璧過ぎて逆に変だった。あとは経験則かな。」
「経験則、ですか?」
「うん、また今度、模擬戦申し込んでみようかな?」
笑いながらのんきな事を言う男性に娘も興味を示す。
「本来なら止めるべきことなのでしょうけれど見てみたいです。」
「彼の本気を引き出せるといいなぁ・・・」
「お父様にここまで言わせるとは流石です、シミズ様。」
目を輝かせて感心する娘に男性は
「そうかな?」
柔和な表情で聞く。
「お父様はもっと実力者であることを自負するべきです。」
「えぇー、いいよ。」
「どうしてお父様が王国最強の剣士なのか時々不思議に思います。」
「うーん、どうしてだろうね?それよりも、シミズ君も仲良くしてくれる気があるみたいだし、彼の事をしっかりとおもてなししなくちゃね。リーシアも頑張って仲良くなってね?大事なお婿さん候補だから。」
「で、ですから!おと、お父様!?」
「ふふ、じゃあ僕は色々と指示出さなきゃだから行くね。彼と話したかったらセル爺に言いなさい、彼のいる部屋まで案内してくれるよ。」
「は、はい・・・」
「頑張ってねー」
そうして親子の会話は終わりを迎え、しばらくの間娘は赤くなった顔を冷やすためにその部屋に残っているのだった。
「お、お父様はいじわるです・・・」
初めて異性に惹かれるという事を体験しながら。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
ーとあるどこかの世界ー
そこに四人の女性が居た。
真っ白な空間に存在する四人の女はそれぞれが美しい容貌をしており、全員が女神である。
黒髪で長髪の気だるそうな目つきをした隻眼の女神が口を開く。
「主様ー行ってらっしゃーい。」
それにピンク髪のおっとりとした印象の女神も続く。
「行ってらっしゃいませ〜」
最後に残った薄い柴色の髪を持つ女神は規律然とした口調で見送りの言葉を送る。
「我らが主よ、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
三人の女神に見送られる白髪の女神は
「はい、色々と迷惑をかけましたね。」
その美貌に笑みを浮かべながら労いの言葉をかける。
「ほんとに大変でしたねー」
「いえいえ〜我々も主のお役にたてて光栄です〜」
「勿体無き御言葉。」
三者三様の反応を示す女神たち。
「そうですね、やっとあの人の下へゆく事が出来ます。」
頰を緩ませながら白髪の女神はそう言った。
「あいかわらずお熱ですねー」
「うふふ〜」
「あぁ・・・!わたしも早く我らが主の想い人にお会いしたいです!」
柴髪の女神がうっとりとしたように言った。
それが誰のことかはこの女神たちの中では明白のようだ。
「またまたー、そのうち会いに行くくせにー」
黒髪の女神が柴髪の女神に気の抜けた口調で茶化す。
「それはそうですが、楽しみにするのは自由ではありませんか。」
それに対して柴髪の女神はスッパリと切り捨てる。
「そうね〜、わたしも早く会いたいわ〜」
ピンク髪の女神はマイペースである。
「あの人は渡しません。」
そんな三人の女神にムッ、とした様子で白髪の女神が口をはさむ。
「わかってますよー」
「はい〜」
「承知しております。我々はただあの方を尊敬の念を抱いているだけで御座います。」
「そうですか、では、そろそろ。」
白髪の女神がそう言った矢先、かつてとある人物を転生させる時に使用したものと同じ魔法陣が浮かび上がった。
それを見た三人の女神は跪き、頭を垂れ、祈る姿勢をとる。
「「「我らが主に、我らが救世主に光あれ。」」」
声を揃えて祝詞を唱える女神たちに見送られながら白髪の女神、創造神ことローナは転移していった。
「タケシ、今行くね。」
その小さな呟きは三人の女神には聞こえなかった。
ローナが転移した後、残った三人はゆっくりと立ち上がった。
「ローナ様、変わったねー・・・」
しばらくの沈黙のあとに口を開いたのは黒髪の女神。
「そうね〜」
「そうですね。」
それに他の二人も同意する。
「あの子もすごいよねー、あのローナ様のことを友達だってさー」
「そうね〜」
「そうですね。」
少し前にローナが出会った青年の事もまた彼女たちは尊敬していた。
「私達はなんにも出来なかったのにね。」
「「・・・」」
他の女神が沈黙する中、黒髪の女神は一人言葉をもらす。
「でも、あの子のおかげでローナ様が笑うようになったし、あたしたちもローナ様との接し方の勉強になったよねー」
「そうね〜」
「そうですね。」
その後、またしても沈黙が辺りを支配する。
「・・・」
「・・・」
「あははー・・なんか変な空気にしちゃったねー」
少し暗い雰囲気にしてしまったことに気まずくなったのかおどけた様に言う黒髪の女神。
「いえいえ〜そんな事ないですよ〜?」
「あなたが気にすることはありません。」
「そー?ありがとねー」
気の抜けたような口調で笑いながら言う黒髪の女神に二人の女神も安堵する。
「さー、それじゃあ崇拝するローナ様と我らが救世主様に会いに行くためにー、もうひと頑張りだねー」
「頑張りましょうね〜」
黒髪の女神がそう言うとピンク髪の女神はおっとりとした口調で同意するが
「そうですね。ですが、あなたが頑張ると言って頑張った試しがありませんが?」
どうやら前科持ちらしい。
「あらあら〜ちょっと休憩してるだけよ〜?」
「あははー、もうそれ最初に言ってから何兆億目ー?」
「失礼ね〜、まだ9986億年しか経ってないわよ〜?」
黒髪の女神が聞くと聞いているだけでめまいがしそうな膨大な単位が出てきた。
「充分過ぎます。天地創造何回分だと思っているんですか。」
さすが神という存在なだけはある。例えが壮大である。
「1000億回分くらいかしら〜?」
「違います。約1426億5714万2857回分です。」
「あら〜おしいわね〜」
「どこがですか。はやく仕事をして下さい。あの世界以外の直轄地を全て部下たちに押し付けるのですから多少の苦労は覚悟して下さい。あの方に会いたくはないのですか?」
ごく自然にブラックな事を言ってのけた柴髪の女神にピンク髪の女神は何かに触発されたかの様に
「わたし頑張ってくるわ〜」
すぐにその場から姿を消した。
「あははー、あの子に会いたいがために仕事を頑張るとは健気だねー」
「はぁ・・・いつもそうならとても助かるのですが・・・」
「そだねー」
「さて、わたくしも仕事を片付けて参ります。」
「うん、じゃーあたしもそうしようかなー」
残った二人の女神もまたその場から姿を消したのだった。
「あ、そーそー。最後にあの子の様子見ていこーっと。」
黒髪の女神が一度戻り、何かを見る。
「あ、ヤバ・・・」
見た光景に少し思案する。
「んー・・まさかあの子が家に居ないとはねー・・まー、頑張ってねー、みんなの救世主サマ?」
黒髪の女神はいたずらっぽい笑みを浮かべながら再びその場から姿を消した。
作者「シリアスという名目の説明回。」
隊長「遅いぞ貴様、そしてやっとあいつが出るのか?」
作者「はい、皆さまお待たせしました。もう少ししたら登場です。」
隊長「それにはやく終わらせる=1話にまとめるという事ではないだろう。普通ならテンポアップするとかあるだろ。」
作者「俺にそんな技量あると思う?」
隊長「ふっ・・・」
作者「鼻で笑われた・・・」




