待ち時間
月末30日〜二月二日まで修学旅行あるので投稿や執筆などが遅れます。
Twitterにその辺の情報をある程度載せるかもしれません。気になった方はそちらを参照してください。
あと、最後の方は視点変更あります。
追記:遅ればせながらブックマーク100件突破ありがとうございます!
「いやー、まさか待ちぼうけをくらう羽目になるとは・・・ま、そのおかげで街を散策出来るんだけどな。」
俺は今、冒険者ギルドへと向かうために街の中をのんびりと散策していた。
どうして街中にいるのかって?それはつい先ほど起こった出来事が原因だ。
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ー館にてー
セルディアスとリーシアに着いて行くと応接間に通されたのだが、そこでは問題が起こっていた。
「失礼します。お客様がお見えになられました。」
セルディアスが戸を叩き、扉を開けるとそこには
「うん、いつも言ってるけどね?アポ無しにいきなり来るのはやめてくれないかな?」
「緊急案件だったんだよ!?仕方ないじゃないか!」
「それでも今日は他に大事なお客様が来る予定だからその後にしてくれないかな?」
「なんだい!?ボクより大事な取引先があるっていうのかい!?」
「だから・・・」
言い争う二人の男性がいた。一人は赤髪高身長の男性で、もう一人はオレンジ色の髪の毛をもつ低身長の人だった。
さらに、低身長の男性が高身長の男性に飛びついて抗議していたのだ。
それを目撃した瞬間俺は、パタン、と静かに扉を閉じて
「お取り込み中の様ですので、外で少し時間を潰して参ります。私の方は後で構いませんので。」
苦笑しながらそう言った。
「も、申し訳御座いません。そうして頂けますと幸いに御座います。あの方は我々にとっても大事な取引先の方ですが故。」
「わかりました。」
申し訳なさそうにセルディアスがそう言った。
すると、リーシアがこう提案した。
「それでしたらシミズ様!わたくしの部屋でお話しをお聞かせ願えませんか?」
突然自分の部屋で話さないか、と言い出した。
「申し訳ありませんが知り合ったばかりの方の、それも女性の部屋にあがることはできません。」
流石に全く知らない人物の部屋に上がり込むのは、それも小学生高学年か中学生くらいの女の子の部屋にいきなり行くとかダメだろ。日本なら変態扱いされるわ。
それに、貴族の変なルールに引っかかると面倒だし。
貴族ってさ、暗黙の了解とか色々とめんどくさそうなイメージがあるじゃん?完全に偏見だが俺の中ではそうなので一応はタブーとかに触れない様にしたい。
君子危うきに近寄らず、ってね。
そう思い、それっぽい理由で断った。
「そうですか・・・それは残念です・・・」
本当に残念そうな顔をしたので流石に良心が痛んだため、もう一度謝ってからフォローを入れておく。
「申し訳ありません。ですが、親睦を深めた暁にはお邪魔させて頂きます。」
「それは本当ですか!?」
「はい。」
残念そうな表情から一転し、嬉しそうな笑顔を見せる彼女に俺は肯定する。
「では、その時を楽しみにしておりますね!」
「ほっほっほっ。」
輝かんばかりの笑顔でそう言ったリーシアと優しく笑うセルディアスに俺は
(あれ?なんかもう既になんらかのルールに触れちゃってない?気のせいだよね?・・・気にしないでおこう。うん、その時はその時だ。)
少しばかり貴族に対して戦々恐々とし、余計なことを言ってしまった気がしていた。
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そんなわけで中世ヨーロッパを彷彿とさせる街をまったりと歩いている。
パカパカ、ガラガラ、と馬車が通る音に、ガヤガヤと鼓膜を叩く店の呼び込みや人々の歩く音。
また、歩く人々の中には一目で冒険者とわかる服装や剣などを携えている人や明らかに人間ではない特徴を有した者もちらほらと見かける。
「まさに異世界!って感じだな。」
MAPを確認し、独り言を呟きながら歩いていると、それにシュティが反応する。
《主様、楽しそうですね。》
そりゃあ、異世界の街に来たんだ。色々と見て回らないとな。目的地は冒険者ギルドだが、その途中で道草を食っても問題ないだろう。
《左様ですか。主様がお喜びになられるのでしたらわたくしはどこまでも付き従います。》
おう、ありがとう。
シュティと脳内会話しながら歩いていると横から声をかけられた。
「そこのあんちゃん!うちの商品見ていかないか!安くしとくぜ!」
厳つい声で呼ばれたのでついそちらを向くと
「ふっ・・・!」
「どうしたあんちゃん!俺の顔になんかついてるか?」
俺の反応に疑問の声をあげるその人。
そこにはスキンヘッドに猫耳装備の厳ついおっちゃんが俺に向けて話しかけていた。しかも耳がぴこぴこ、と動いている。
いきなりあれは反則だろ!厳ついおっさんに猫耳て!猫耳て!ぷっ・・・
少しの間、笑いをこらえてそれが収まるとおっちゃんに聞き返す。
「すみません、頭についてるソレはなんですか?」
「ん?これか?これは俺の種族の特徴でな、獣人族の一種だよ。あんちゃん獣人族は初めてか?」
自身の耳を触りながらそう言うおっちゃん。
「はい、わたしの故郷では見かけなかったものでして・・・」
作り物ではない、という意味でだが。
俺がそう言うとおっちゃんは
「がはは!そうか!悪かったなあんちゃん!初めて見た獣人が俺みたいなおっさんでよ!」
豪快に笑いながらそう言った。
「いえいえ、見られただけでも充分ですから。」
「おう、そうかい。だがな、獣人族の女はべっぴん揃いだぜ?あんちゃんも男なら一見の価値ありだ!」
「それは是非とも拝見願いたいものです。」
笑いながらそう言うとおっちゃんも、がはは、と笑いながら
「おう!今度は綺麗な姉ちゃん見られるように祈っとくぜ!」
そんな事を口にした。
「ありがとうございます。それで、どんな商品が置いていますか?」
「おう!リーゴとかポワルとかあるぜ!他にはブドーブとか色々な!」
俺が聞くと、おっちゃんはそう言って商品棚を指差した。
商品棚にはそのままの見た目のリンゴやナシ、ブドウが置いてあった。どれも新鮮なものらしく、みずみずしい物ばかりだ。
(林檎・・梨・・ぶどうか・・・二つは名称似てるなぁ・・・それにブドーブってオリーブみたいな響きだな。)
そんな事を考えながらブドウを手に取る。そのブドウを見てみると粒一つ一つが大きい。まるで巨峰だ。
「おっ!あんちゃん目の付け所が違うね!そいつは今朝入荷したばっかの品だ!ちなみに今すぐにでも皮ごと食えるぜ!」
少しうるさいくらいの声量で売り込みをするおっちゃんに苦笑しながらも頷く。
「なるほど・・・っていうか、ここにある商品全部新鮮ですよね?」
ついツッコんでしまった。
「おぉ・・すげぇなあんちゃん!そうだぜ!うちは新鮮なのがウリなんだ!」
しかし、返ってきたのは悪い反応ではなかったので一安心。
なんでわかったのか、という疑問についてはどう見たって新しい物しか売っていないからだ。
事故で死ぬまでの高校生活はずっと一人暮らしで自炊してたし、買い出しとかも自分でやってたからこういうのはわかるんだ。
自炊の仕方なんかは中学生時代に『あの人』に教わった。というか、一緒に練習した。『あの人』も料理が全く出来なくて俺と一緒に頑張って美味しい物が作れるようになったっけ・・・懐かしいな・・って感傷に浸っている場合ではない。
なんとなく懐かしい気分にさせられたので一つ買ってみることにした。
「おっちゃん、これ一つ。」
「あいよ!あんちゃんはこいつらのことよくわかってるからおまけだ!リーゴも持ってけ泥棒!」
「ありがとうございます。」
そう言ってリンゴを紙袋に二つ追加して入れてくれた。
紙袋とはいってもわら半紙のような物だ。質は低いが贅沢は言わない。むしろ、そのまま渡されなくて安心してるくらいだ。・・・流石に失礼か。
「ブドーブ一つで200Gだ!」
「・・・」
あっ・・・お金忘れてた・・・やばい、今さら『やっぱりいいです。』なんて言えねぇ!
そういえば、この国の通貨ってなんだ!?よく考えたら俺一文無しだよ!
すっかり忘れていたお金に関する事情に困惑していると
「ん?どうしたあんちゃん?まさか・・・」
怪しむようにそう言ったおっちゃんに俺は
「いやいや、ちゃんと払いますって。ちょっと待って下さいね・・・」
咄嗟にそう言って時間を稼いだがどうしたものか・・・はっ!シュティ!すまん!どうにかしてくれ!
《承知しました。》
情けなくもスキルにお願いすると手元に袋が出現し、その中を見るとお金が入っていた。
「えっと、200Gですね。」
しかし、銅貨やら銀貨やら金貨やらがごっちゃになっていて何を出せばいいのか全くわからない。
ごめん、シュティ!どれを出せばいいのかわからない!
《失礼しました。では、その小さめの銀のコインを二枚出して下さい。銀貨一枚につき100Gとなります。》
了解、ほんまにありがとう!
《有難き幸せ。》
シュティとそんなやりとりをして、猫耳のおっちゃんに銀貨二枚を差し出す。
「すみません、財布をどこにしまったか忘れてまして・・・」
「お、おう・・・まいど。」
「ありがとうございました。」
なぜかポカンとしているおっちゃんを不思議に思いながらその場を後にした。
「あのあんちゃん、アイテムボックス持ちか・・・いいもん見せてもらったな。」
店主の呟きは街の音でかき消され、俺の耳には届かなかった。
そして、俺は果物片手に再び街を歩き出していた。
「にしても、いい買い物したかな?これ美味いし。」
ブドウを一粒食べてみると種が入っておらず、食べやすい。皮ごと食べられるものなのでゴミも出ない。
それにしてもこの国の通貨って日本円に換算すると、どうなるんだ?
《はい、1G=1円の解釈で問題ありません。銅貨1円、大銅貨10円、銀貨100円、大銀貨1000円、金貨1万円、大金貨10万円、白金貨100万円、大白金貨1000万円の価値を持ちます。》
えぇ・・・マジで?じゃあ、ブドウ一房で200円なの?安いな・・・
《はい、日本と比べるとかなり安くなっているかと。》
ふーん・・・ん?シュティ、今なんて言った?
《日本と比べるとかなり安くなっているかと、と申しましたが。》
日本?俺、今まで故郷とは言っても日本とかシュティに言ったっけ?
《いえ、仰っておりません。勝手ながらわたくしが主様の記憶を学習し、より主様との会話を円滑に行うためのアップデートを行いました。》
マジで、そんな事してくれてたの?ありがとう。
《有難き幸せ。それと主様、以前仰っられた英語関する意味合いやニュアンス等の翻訳機能も御座いますのでこれからはさらに会話が円滑に進められると思います。》
英語まで!?シュティに頭が上がらない・・・!ほんまにありがとう。
《全ては主様が為。》
我ながらいいスキルを持ったもんだ。それに、最近はシュティのこの口調にも慣れてきた。
感動しながら歩いていると前方から聞き覚えのある声がした。
「あの戦空隊の虹、綺麗だったわね。」
「そうなのです!」
「おう、確かにな。」
「・・・ああ。」
「それにしても戦空隊ってあんな事できたのね。初めて見たわ。」
「・・・俺もだ。」
「そうなのです?」
「確かにな〜・・もしかしたらあの【深淵の狩人】がやったとか・・・なんてな!」
「あ、ありえるのです!」
モロに会ったことある人達だ。いも虫状態のあの人達の姿が脳裏にフラッシュバックする。
どうやら話に夢中なようでこちらには気づいていない。
「・・・」
なに食わぬ顔で横を早足で通り抜け、さっさと遠ざかろうとすると
「もしかしたらあの人が・・・って!待ってくださいなのです!そこの紙袋を抱えた人!」
声をかけられた。
「どうしたの?フィリア。」
「あの人!ほら!あの紙袋を抱えた人なのです!」
「おいおい、いきなりそんな指差したら失礼だろ。」
「・・・待て、見たことあるぞ。」
「は?そんなん・・っておい、あの服装に黒髪って・・・」
「たしかに・・言われて見ればそうね。」
そんな会話が背後から聞こえる。
(まずった!そういえば城壁前に冒険者がいるってことはあの時に俺を見た人が帰ってきてるってことじゃねぇか!)
俺は焦燥に駆られると同時に自分のバカさ加減に呆れる。
「・・・おい、あんた。悪いがこっちを向いてくれ。」
・・・どうしようか。絡まれるのが面倒だからといって、今ここで騒ぎを起こすわけにもいかないしな・・・よし、逃げるか。
そう思い立ち、全力で走って逃げる。
「えっ!?ちょ、速っ!?ちょっと待ちなさい!」
「待って下さいなのです!」
「追うぞ!」
「・・・ああ、間違いない。彼だ。」
四人が追いかけてくるが、全力で走る俺に追いつけるはずもない。人混みの中を自由自在に走り抜け、あっという間に四人を突き離し、見えなくなったので建物の陰に隠れる。
「・・・撒いたか。」
《その様です。》
「いやー、それにしても完全に忘れてたな。なんかいい案ないもんかね・・・」
こんなことになるなら最初から変装とかしとけば良かったな。
《それならば主様、認識阻害の魔法をかける事で別人と認識される様にする事が可能です。》
なるほど、いいなそれ。悪いがかけてくれるか?
《承知しました。》
シュティが承認し、俺に術をかけたのだが
「これほんとにかかってるのか?」
《問題ありません。正常に発動しました。他者からは茶髪に茶色目の一般的なこの世界の顔つきをした普通の青年に見えております。服装も一般的な物と認識されるはずです。》
なにも変わってないように感じるのだが・・・まぁ、ここはシュティを信じよう。
とにかく冒険者ギルドとやらに行ってみたい。冒険者として活動する気はないが、せっかくファンタジーな異世界に来たのだからそれくらいは見ておきたい、という好奇心からくる欲求だ。
そうしてまたのんびりと街を歩きながら冒険者ギルドの前までやってきた。果物はインベントリに収納しておいた。
「へぇー・・ここが冒険者ギルドねぇ。」
《その様です。》
二階建ての木造建築で表から見てもかなり大きい。体育館とかそれくらいの大きさはあるのではないだろうか。
掛かっている看板には大きく『冒険者ギルド・リンドブルム支部』と書かれているのだが、その文字は普通なら全く読めないような字体をしている。
イメージとしてはハングルにアラビア語を混ぜたような感じが一番近いだろうか。
翻訳スキルが無かったら絶望すること間違いなしである。
そうやって上を見上げたまま、ぼー、っと突っ立っていると正面から声をかけられる。
「お兄さん見ない顔っすねー。冒険者志望の人っすか?」
視線を下に向けると、そこにはこれまた美少女がいた。にひっ、と笑みを浮かべている。力の抜けた喋り方をする少女。
長い金髪に翡翠色の瞳を持ち、身長は150cmほどの小柄な少女。グレたような雰囲気で、どこか退廃的な魅力がある女の子だ。無気力な感じとも捉えることができるかな?あと、見た目と喋り方が合ってない。
ただし、なぜか少しだけ親近感が湧く。勘が囁いている『この子は同じだ。』と。なにが同じなのかは知らんが。
「えっと・・・」
しかし、俺はその女の子の装いに軽く引いていた。少し衝撃的だったので言葉が出てこない。
真っ黒なドレスに黒い長手袋、黒いスカートを履いているが黒いニーソックスのようなものを着用しているため、全身が真っ黒になっている。
所々に白い刺繍のようなものが入っているため、黒一色というわけではないが、それでも首から下の8〜9割が黒という異様な見た目をしている。暑くないのか?それ。
俺が黙っていると、それを肯定と受け取ったらしく
「やっぱりそーなんすね!それならウチが案内するっす!」
「えっ?ちょ・・・!」
そう言うやいなや俺の手を引き、扉を開け、ギルドの中へと入っていく彼女。彼女の善意に手を振り払うわけにもいかず、なされるがままにされる。
中に入るとそこにはたくさんの冒険者たちが会議をしたり、食事をとっていたり、酒を飲んでいたりと、騒がしくもそれが心地よく感じ、どこか憎めない印象を持たせる場所だった。
そして、さっそく彼女の案内が始まった。
「まずはここが食堂っす。ここは誰でも利用できる場所っす。美味い料理が安価で食べられてお兄さんみたいな新人冒険者は絶対と言っていいほどお世話になるっす。料理を頼みたい時はその辺りにいる店員に頼めばいいっす。」
入ってすぐの両サイドに沢山のテーブルやイスが並び、結構なスペースが食事エリアとなっていた。店員らしき人は結構まばらにテーブルの近くの壁際に立っていたり、料理を運んでいる。
「で、ここが依頼が貼り出されている掲示板っす。雑用から採取、討伐に捕獲とか色々あるあるっす。たまに緊急の依頼とか冒険者全体に通達される大規模依頼なんかもあるっすよ。」
『そういえば最近の大規模依頼なら【深淵の狩人】捜索依頼があったっすね。』と、付け加える彼女に
(あぁ、なるほど。)
と、一人納得する。
「で、あそこが依頼を受けたり、その報酬を受け取ったりするためのカウンターっす。窓口は五つあるっすけど真ん中が上位で右二つが下位の依頼用の窓口になってるっす。左二つは報酬を受け取るための窓口っすね。」
そう言って指差した先にはそれなりの人数の冒険者が並んでいて、流れ作業のように冒険者をさばく窓口の職員がいた。
「今はちょうど大規模依頼が終わって帰ってきた冒険者が並んでるっすね。」
「なるほど。」
「んー、冒険者として登録するならあそことは別のカウンターがあるっすけどそっちも今は大規模依頼用に解放されてるっすから今は使えないっすね・・・なら、もう知ってると思うっすけど冒険者ランクについて説明するっす!」
「あ、はい。お願いします。」
つい、彼女の勢いに気圧されてしまい、頷いてしまった。
「まず最初に冒険者ランクはF〜Sまであるっす。そのランクを示す証があって、ランクごとに受けられる依頼は上にいくほど豪華かつ危険な内容が盛りだくさんっす。討伐対象の魔獣のランクとはまた別っすけど、魔獣にもランクがあるっす。」
まぁ、この辺りはラノベとかでよくある設定なので理解できる。
「とは言っても基本的にAまでいけばそれだけで並外れた化け物っすけどね。ほとんどがBかCで一生を終えるっす。Sは化け物の中の化け物っすね。」
「なるほど。」
相づちをうちながら話を聞いていたのだが、少しだけ気になったことがあった。
「そういえば、サーベルティーガーの特異個体とマンティコアならどっちが強いですか?」
前に俺がブチ切れる原因となった事件。あの時は数的有利性を持っていたマンティコアに軍配が上がっていた。
「お兄さん変なこと聞くっすね。というか特異個体自体がかなり珍しいっすから一概には言えないっす。でも、特異個体は基本的に元々の種族とは全く別物と考えた方がいいっすからどっちかっていうと特異個体っすかね。」
「それなら、普通のサーベルティーガーとマンティコアが一対一で戦ったらどうなります?」
「マンティコアっす。」
即答だった。
「どうしてです?」
「どうしても何もマンティコアは二等級でサーベルティーガーは四等級っすよ?どう考えたってマンティコアの方が強いっす。」
なるほど、それなら特異個体は最低でも二段階は危険度が上がるようだ。
それに、魔獣は等級で区別されているらしい。シュティ、魔獣の等級についてざっくり教えてくれ。
《承知しました。では簡単にご説明します。まず魔獣のランクは七段階式です。
そして、それらは以下の様になります。
《特級》・・厄災レベル(世界が滅びます)
国を挙げての総力戦・連合軍を組みます。
冒険者もS〜Bランクまでの全メンバーが強制緊急招集となります。
事例
始祖龍・上位龍(年長者)などです。
伝説的な存在が敵として相対します。
《一等級》・・大規模災害レベル (1つから複数の領地あるいは国が更地になります。)
場合によっては国から一部の部隊が派遣され、冒険者ギルドにて緊急クエストとして張り出されます。 (A〜Bランク、もしその場にいればSランクも参加します。)
事例
大規模スタンビート、 龍(下位龍・年若い成龍)
《二等級》・・災害レベル
Aランク冒険者がパーティーを組んで討伐可能レベルです。
事例
スタンビートやマンティコア、ドラゴン(ワイバーンを除く)などです。
《三等級》・・危険地帯
Aランク冒険者単体(状況がいい場合)かA〜Bランク冒険者パーティーで討伐可能レベルです。
事例
ワイバーン シーサーペントなどです。
《四等級》・・C〜Dランク冒険者パーティーで討伐可能レベルです。
事例
ミノタウロスやサーベルティーガーなどです。
《五等級》・・Dランク冒険者パーティーで討伐可能レベルです。
事例
オークやゴブリンなどです。
《六等級》・・人畜無害
事例
馬や牛などの家畜が暴れる程度です。》
なるほど、とりあえずわかった。それに龍とドラゴンの違いもわかった。龍は桁外れだな。
《はい、この世界においての龍は恐怖の象徴であり、絶対的な力の象徴です。》
俺が思っていた以上に危険なようだ。ちょっと興味湧いてきた。
《僭越ながら主様の方が実力は上かと。》
うん、反応に困るからからそういうのはやめてくれるかな?
《事実です。》
なんで引き下がってくれないのかな・・・まぁいいや。
シュティと会話をしていると少女が話しかけてくる。
「話を戻していいっすか?」
「あ、はい、ありがとうございました。」
俺がお礼を言うと少女は苦笑しながら言う。
「これくらい別にいいっすよ。で、それぞれのランクにはそれを証明するための証があるっす。」
なるほと免許証とか免状みたいなものか。
「証はFが木、Eがアイアン、Dがブロンズ、Cがシルバー、Bがゴールド、Aがミスリル、Sがオリハルコンになってるっす。」
へぇ、こっちも七段階式なのか。
「ま、Fは最初の研修までっすから実質Eが最下位になるっすね。討伐はDから解禁されるっす。それまでは薬草採取とか雑用とかしか回ってこないっすね。大雑把にはこんな感じっす。また、ランクが上がれば教えてあげるっすよ。」
ようはFが研修生、Eが実習生とかそんな感じか。
「ありがとうございます。とてもわかりやすかったです。」
「それはよかったっす。あとは・・・」
ようやく説明が終わったのか考え込む仕草をする彼女に、俺は冒険者になるつもりはないと切り出すチャンスだと思い、口を開くが・・・
「あの、とても言いづらいのですが・・・」
「じゃあ、次は登録の前にギルドマスターに挨拶するっすね!」
だめだ・・この子全く人の話を聞いてくれないよ・・・
「はい・・・」
「あ、もしかしてギルドマスターが怖いんすか?大丈夫っすよ、ちょっとアレっすけど基本は良い人っすから。」
違う、そうじゃない。
話を聞いてくれないことに気落ちする俺のそんな内心など露知らず、彼女は意気揚々とギルドマスターに会うために食堂へと向かった。ん?食堂?
「あの、食堂にギルドマスターがいるんですか?」
「いるっすよ。ほら、あそこっす。」
執務室とかにいる印象を持っていただけに疑問を呈した俺だったが、それは聞き間違いなどではなく、彼女は食堂の一角で酒を煽っている集団を指差した。
「うっぷ・・・マスター・・もう無理です。」「世界がまわる・・・」「おいどん、おいどんは・・うっ・・・」「くそ・・このジジイ・・・なんで・・こんなに強いんだ・・・」
「なんだ貴様ら!その程度か!ワシはまだまだイケるぞ!!」
そこには、むさ苦しい男たちが根をあげ、机に伏せているその中で一人だけガバガバと酒を煽る筋肉質なナイスガイがいた。
「マスター、新人連れてきたっすよ。」
そこに少女が声をかけると
「ん?・・・おう!そうか!よくやった!」
いや、明らかに一瞬だけ言葉の意味を理解できていなかったよね?絶対にできあがってるよね?
「あの、この方がギルドマスターですか?冒険者の間違いではなくて?」
「残念っすけどこれがウチらのギルドマスターっすよ。」
失礼を承知で俺が聞くと、やれやれ、といった様子で肩をすくめながら肯定する彼女。
「すまんな!ワシがギルドマスターだ!」
そう言って豪快に笑い、再び酒を煽るナイスガイ。
「はあ・・・」
呆気にとられる俺にギルドマスターは
「で、お前さんは冒険者志望か?歓迎するぞ!ワシの名はヴィルヘルム!よろしくな!」
でかい声でそう言ったが
「よろしくお願いします。あの、歓迎していただいているだけに非常に言いづらいのですが・・違います。」
とにかく否定する。
俺がようやく冒険者になるつもりはないと切り出すと
「なんだ!?違うのか!がはは!それは失礼!嬢ちゃん、違うってよ!」
「え、そうなんすか?あと、嬢ちゃんっていうのやめて欲しいっす。」
二人とも少し驚いた顔で聞き返してきた。
「申し訳ありません。言おうと思ったのですが中々タイミングが掴めず・・・」
「あぁー、ウチが強引に中に引っ張り入れたっすからねぇ・・悪いことしたっすね、お兄さん。」
そうやって謝る彼女にヴィルヘルムは注意する。
「がはは!そんなことしたのか嬢ちゃん!だめじゃないか!」
「だって、ギルドの前でぼーっ、と立ってたら誰だってそう思うっすよ!」
「確かにな!!がはは!!」
確かに、俺にもこうなった責任があったのは否定できない。
せっかくここまで案内してもらったので、冒険者にはならないが何かお礼をしなければ。
「ややこしいことしてすみません。」
「うっ・・素直に謝られるとなにも言えないっす・・・」
少女とそんなやりとりをしているとヴィルヘルムが横やりを入れてくる。
「にしても兄ちゃん丁寧だな!」
「そうですか?」
「おう!どこぞの貴族か!?」
ここでも丁寧なことを指摘され、貴族かどうか疑われる。
「そうなんすか?」
ヴィルヘルムと目をキラキラさせながら聞いてくる少女に笑いながら否定する。
「違います。」
「そうかそうか!なら、よっぽどいい両親に恵まれたんだな!」
「はい、それはもうとても良い両親に育てて頂きました。」
すぐに俺は肯定する。
確かにいい両親だったよ。本当に、本当にな・・・そして、『あの人』も・・・
笑みを浮かべながら肯定する俺にヴィルヘルムは
「がはは!そうだろうよ!感謝してけよ!」
「はい。」
「・・・」
そう言った。
あぁ、感謝している。感謝しきれないくらい感謝しているとも。
両親に伝えることが出来なかったとはいえ、母は最後まで俺のことを安心させるように笑ってくれていた。父は即死だったが、いつも優しくて、大きな背中を俺に見せてくれていて俺の憧れだった・・・理不尽な世界でたった二人の大切な、大切な俺の両親・・・さて、思い出に思いを馳せるのはおしまいだ。
そんな事を考え、黙っている少女にお礼と謝罪をかねてこう提案する。
「あの、お手をわずらわせた謝罪と案内していただいたお礼をかねて食事でも奢らせてください。」
時間もちょうど昼をまわった頃だ。
「お!気前がいいな!兄ちゃん!」
あんたには言ってない。
そう提案すると彼女は
「・・え?別にいいっすよ。むしろウチが迷惑かけたっすのに。」
少し驚いてから辞退しようとした。
しかし、せっかくでここまでやってくれたのだ、お礼くらいはしないとな。
そう思い、とりあえずゴリ押しする。
「いえ、お金は持っているのでお気になさらず。」
「・・・後悔しても知らないっすよ?」
遠慮気味に聞いてくる彼女。
「しませんよ。」
そんな彼女に俺は笑いながらそう言う。
「言ったっすね?言質はとったっすよ?」
「はい。」
二度聞いてきたので肯定する。
「兄ちゃん!仕事なら斡旋するぜ!」
「あはは、ありがとうございます。」
ヴィルヘルムが冗談を飛ばしてきたので『大げさだなぁ。』と、思いながらそう言った。
こんな小さな少女の食べる量など知れているだろう、この時の俺はそう思い、軽い気持ちで言っていた。
そう、思っていた。
「はぐはぐ、ゴク、もぐ・・・」
「あはは、いい食べっぷりですね。」
俺はただ笑っていた。
「はぐはぐ、んっ、そうすか?」
「はい。見ていて気持ちがいいほどです。」
「それは、もぐ、ありがとっす、はぐ・・・」
俺は今、にこやかに彼女の食事風景を眺めている。
テーブルいっぱいに積まれた皿に囲まれながら・・・
え?なに、この子?めちゃくちゃ食べるんですけど!?『メニュー全部二人前お願いしますっす。』とか言ってたよ!?メニュー全部とか初めて聞いたわ!店員さんも全く動じずに『はい。』とだけ言って下がったし!もしかしてその手の常連なの?この子怖い!この世界怖いんですけど!?そりゃあ、仕事の斡旋も提案されるわ!
お兄さん、一体どうしたらそんなに食べられるのか不思議でたまりません。
内心は戦慄していた。
こんな小さな子が食べる量ではない。もう既に三十人前は越えている。テーブルも二つ確保しているが、一つは机も椅子も皿が積まれていっぱいになっている。
「いいぞー!嬢ちゃん!いい食いっぷりだ!がはは!!」
「いつものことながらすげえな。」「ああ、どうやったらあんなに食えるんだ。」「なんで太らないのかしら・・・羨ましいわ。」「財布にされたあいつがかわいそうだな。」「確かに。」
ヴィルヘルムがでかい声でまくしたて、ギャラリーもそこそこいる。
しかし、そんな事など一切気に留めず掃除機のような勢いで食べる彼女にもはや笑うしかない。
シュティ、お金足りるかな?ちょっと心配になってきた。
《問題ありません。最悪の場合は大金貨もご用意しております。》
うん、ありがとう。本当にシュティには頭があがらない。
《滅相も御座いません。》
はは、シュティらしい。
そんな脳内会話をしながら俺は食べ終わった料理の皿を片付け、灰皿を出す。
あと、ここの料理はそれなりに美味しかった。
「あ、すみません。ヴィルヘルムさん、ここって喫煙オッケーですか?」
「ああ!いいぞ!」
「ありがとうございます。」
了承を得たのでタバコを取り出し、火をつける。
「・・・ふぅ・・」
葉が紫煙を出しながら静かに燃え、いまだに食事を続ける彼女を見守りながら煙を吐き出す。
「はぐはぐ、はぐっ、もぐ・・・」
にしてもよく食うな・・・ていうか、もはやそれは味してんのか?
なんとなく気になったので聞いてみることにした。
「味、します?」
「もぐっ、にゅ?んぐっ、しないっすね。」
「あ、そうですか。」
「はいっす。はむっ、もぐもぐ・・」
味はしないらしい。それならもっとゆっくり食べればいいのに・・・
「それなら、もう少しゆっくり食べられては?」
俺が提案すると彼女は一度食事の手を止め
「・・・どっちにしろ同じっすよ。最終的には食べるんすから。」
自嘲的に笑いながらそう言った。
極論だな。まぁ、間違ってはいないかもしれないが・・・
「・・・・そうですか・・ふぅ。」
食べ方は各々の自由なのでそれ以上は口出しするつもりはないが、それでいいのか、と少し思った。
そうして俺はタバコを燻らせながら、のんびりと彼女の食事を眺めていた。
「そういえば、あなたは冒険者なんですか?」
「もぐっ、そうっすよ、んぐっ、ウチはCランクっす、もぐはぐ・・でも、今日は、もぐっ、友達を待ってるっす、はぐはぐ・・」
「そうですか。」
ちょっとした雑談を交わしつつ、やがて食事が終わり、最終的に俺たちの机を含めた四つの机が皿で満たされた。
「いやー食べたっす。ありがとうございますお兄さん。」
「いえいえ、いいもの見させて頂きました。」
お礼には俺も素直に答える。
「そうっすよ?お兄さんこんな美少女と食事が出来て、しかも美少女を眺め放題なんて光栄に思って欲しいっすよ。」
ひにっ、と笑いながら調子の良いことを言う彼女に俺は
「そうですね。こんなに可愛らしい方とならぜひ、またご一緒させていただきたいものです。」
笑いながらそう言った。確かに可愛いのは認める。
すると、彼女は
「えっ・・・」
「?、どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでもないっす・・・」
突然萎縮してしまった。まさか食べ過ぎたのか?
「大丈夫ですか?」
流石にこの量は無理があったのだろうか?心配になったので聞いてみたのだが
「えっと、あのー、思ってた反応と違ったっていうか、なんていうんすかね・・・その、ありがとうございますっす。」
別に食べ過ぎとかそんなんではないらしい。
というか、ツッコミを入れた方が良かったか?
「あはは、すみません。冗談の類でしたか?」
「いえ、そういう訳ではなくてっすね・・・怒らないんすか?ウチ、結構食べたっすよ?」
なんだ、そんなことか。金なら問題ない、だって俺の魔力と交換するだけだし。
「なんだそんな事ですか。あはは、怒りませんよ。なんで奢ると言ったのにそんな情けないことをする必要があるんですか?」
「は、はいっす・・・そんな事って言える量じゃないっすけど。」
最後に小さな声で呟いたようだが、聞こえなかった。
あ、もしかして食べた量のことを気にしてるのだろうか?
「まぁ、確かに食べる量は少しばかり多いかもしれませんが気にする事ありませんよ。」
一応はフォローをいれておく。
「いや、流石にウチのは多過ぎっす。」
いや、自覚あるんかい。
「そうですか・・・あ、そうだ。」
「?、どうしたっすか?」
話が終わらなさそうなので話題を別の方へと持っていくことにした。
「これをどうぞ。」
「・・なんすかこれ。」
俺が出したのはアイスだ。
甘いものを食べれば少しは気がまぎれるんじゃないかというチャチな考えである。
「美味しいですよ?ほら。」
「よくわからないっすけど折角なんでいただきますっす。」
自分用に出したアイスを一口先に食べて見せてから食べられることを証明する。
そして、彼女はアイスをスプーンで一口すくい、食べる。
「・・・っ!!お、美味しいっす!それに甘いっす!なんすかこれ!それにちゃんと味がするっす!」
「そうでしょう?」
食べ物なんだから味がするのは当たり前だ。まぁ、初めて見るのかもしれないし、無理もないか。
それに、どうやらお気に召したようだ。
「あむっ、ん・・・」
夢中になって食べている。食事中に変わることのなかった表情が、初めて笑顔に変わった。ちょっとだけドキッとしたのは内緒だ。
笑顔の女の子ってすごくグッとくるよね。
ふと、周りを見渡すと、野次馬たちがざわついてるのに気がついた。
「おい、あれ見ろ。なんだあれ。」「そんなにうまいのか?」「そうかもしれんぞ、あの嬢ちゃんがうまいって言ったの多分初めてだ。」「まじかよ。そんなにうまいのか。」
野次馬たちがアイスを見ながら話していた。俺がアイスを左右に動かすと、野次馬たちの目も左右に動く。
(ぷっ・・・そんなに気になるか。まぁ、魔力と交換するだけだし別にいいか。)
そう思い、他の人たちにも配ることにした。俺は笑みを浮かべながら立ち上がり、野次馬の方へ歩みを進める。
「皆さん、これ、食べたいですか?」
アイス片手に質問してみた。
すると、コクコク、と頷く野次馬たち。しかし、視線はアイスに注がれたままだ。
それを見た俺は笑いながら
「さぁ、どうぞ。」
空いている机に沢山のアイスを出現させた。
「おお!ありがとな!坊主!」「ありがたい!」「がはは!俺も一つ貰うぜ!」「ありがとう!」
冒険者たちが一斉にアイスに群がったため、現場は一瞬で年明け初のバーゲンセールのような状態になった。あと、シレッとヴィルヘルムが混じってたのにも笑った。
「皆さん、一人につき一個ですよ?ルールを守れない方は金輪際、二度として食べさせません。」
「「「「おうっ!(わかったわ!)」」」」
騎士団のように声を揃えて返事をする冒険者たち。
ふふ、そういう欲望に忠実なの、嫌いじゃないぜ?
そんな冒険者たちの姿を眺めていると
「お兄さん!おかわりもらえるっすか!?」
「どうぞ。ただし、もう一つだけですよ?食べすぎるとお腹壊しますから。」
少女におかわりを要求された。彼女には世話になったのでもう一つくらいならいいだろうし、一つでは足りないだろうからな。
「ぐぬぬ、抗議したいところっすけど我慢するっす・・・」
「あはは、正しい判断かと。」
少し悔しそうにアイスを食べる彼女に、俺は別の物を渡すことにした。
「そんな物分かりの良い方にはプレゼントです。内緒ですよ?」
小声で彼女の手元に黄○糖の詰まった袋を置く。
これは単純に俺の好物の一つなのだが、素朴な甘さがなんとも言えない飴だ。無論、良い意味でだ。
「あ、ありがとうございますっす。いいんすか?」
「いいんですよ。お世話になったお礼とご一緒できたお礼も兼ねてますので。」
「そうっすか。ならいただくっす。」
「ええ、是非ともそうしてください。」
そうこうしていると、シュティが俺に声をかけてくる。
《主様、そろそろお時間かと。》
ん?もうそんな時間か・・・面白かったな。そんじゃ、そろそろお暇しますか。
「それでは、わたしはこれで。」
「〜〜〜っ!!」
あ、多分アイスを一気に食べて頭痛くなってるな。さっきの聞いてなかったと思うけど、まぁ、いいか。
「すみません、お会計をお願いします。」
「・・へっ!?あ、はい・・」
ウェイトレスをしていたお姉さんに声をかけると、アイスの方に気を取られていたようで俺が声をかけると驚いた様子で反応した。
「じゅ、18万2,000Gになります・・・」
ドン引きした様子で金額を読み上げるウェイトレスのお姉さん。
18万か・・・飯代で18万てどこのぐ○ナイだよ・・・
くだらない事を考えながら一枚で10万円の価値を持つ大金貨とやらを二つ取り出して渡す。
「う、うそ・・・ほんとに払っちゃうなんて・・・」
さらに引いた様子で俺を見る彼女。
流石に酷くない?いや、気にしないけどさ。
「あはは、お釣りは結構ですので他の皆さんにお酒でも振舞ってあげて下さい。あと、ギルドの職員やウェイトレスさんの分はこちらに出しておきますね。」
「え?よ、よろしいのですか?」
「はい、それでは。」
驚くウェイトレスさんに笑いながら肯定し、職員さんたちの分は別のテーブルに出しておいた。
「ま、またのお越しをお待ちしております!」
「はい。こちらこそありがとうございました。」
俺はなんとなくブルジョワの気分を味わいながら外に出る。
さて、行きますか。
「シュティ、領主の屋敷の近くまで転移してくれ。同時に認識阻害も解除だ。」
《承知しました。》
そうして、俺は冒険者ギルドから屋敷の近くまで転移したのだった。
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ーギルド内ー
「うっ・・頭が痛いっす・・・ちょっとお兄さん!聞いてないっ・・す・・・?」
ウチは頭の痛みをこらえながらその原因となったお兄さんに抗議するために頭をあげたっす。
でも、そこにお兄さんの姿はなかったっす。
「あれ?お兄さんはどこいったっすか?」
ウチがキョロキョロと辺りを見回しているとギルドの職員から声をかけられたっす。
「あの方は帰られましたよ。」
「え、そんな!?ちょっと待ってくださいっす!お兄さん!」
ウチは慌てて外に飛び出し、さっきのお兄さんを探したっす。
でも、やっぱり外にもお兄さんの姿はなくて、ギルドの屋根に登って探してみたっすけど結局見つからなかったっす。
またギルドの中に戻ると、そこはお祭り騒ぎになってたっす。
「なんでこんなことなってんすか?」
「先ほどのお客様が余った代金でお酒を振る舞ってくださったんですよ。」
「マジっすか・・・」
職員に聞いてみるとまたもやお兄さんが原因だったっす。どんだけ人を驚かせるのが得意なんすかねあの人。
「それよりあんな一瞬でどこ行ったんすかね・・・あ・・」
ウチは無意識のうちに手に持っていたあのお兄さんから貰った小さな袋に気がついたっす。
「そういえばこれ、中には何が入ってるんすかね・・・っと、これまた変なのが入ってるっすね。」
その袋には小さな黄色いクリスタルが沢山詰まっていたっす。わりと綺麗っすね。
「沢山あるってことは食べられるんすね。」
ウチはそれを手に持って眺めてから特に疑うこともなく、それを口にぽいっ、と投げ入れたっす。
「あ・・これもおいしいっす・・・」
さっきの冷たいやつとは別のまったりとした甘みが口の中に広がって、なんとも言えない甘い香りが鼻をくすぐるっす。
食べ物が美味しいってこんな感じなんすね。
「こっちはすぐになくならないっすね。不思議っす。」
そんな感想を抱きながらさっきのお兄さんのことが頭に浮かんだっす。
特にこれといった特徴のない茶髪に茶色い目をした普通のお兄さんだったっすけど、なぜか惹かれるものがあったって言えばいいんすかね?とにかく不思議なお兄さんだったっす。
あと、あの笑い方ウチは結構好きっすね。優しさの中にどこか陰があったっす。特にマスターが親について言ってた時なんかがそうだったっす。
そして、魔力も大したことなかったはずなのにアイテムボックスを使えるみたいっすし、冒険者にならないというのは正解かもしれないっすね。あの実力じゃ完全に荷物係確定っすよ。
アイテムボックスのスキルは貴重なものっすからね。それに、お兄さんのスキルの容量もまたかなりのものみたいっすし。
ただ、ギルドメンバーに配れるだけの食べ物を保管できるって事は他にも色々と持ってるはずっす。
もし、またお兄さんに会ったら次はもっと沢山の食べ物を貰うっす!
そんな密かな決意をしていると大規模依頼から帰ってきたパーティーがまた一組戻ってきたっす。
「くそー!逃げられた!」
「残念です・・・」
「足速すぎるのよ!もう!」
「・・・これだけ探して見つからないならもう街には居ないかもしれん。」
なにやらどんよりした雰囲気っす。
そこにギルドマスターが話しかけに行ったっす。
「がはは!どうしたお前ら!陰気臭いぞ!」
すると、メンバーの一人が反応したっす。あれはガインすね。
「あ、マスター・・聞いてくれよ!街にあの人が居たんだ!」
「あの人って誰だ!がはは!」
相変わらず暑苦しい笑い声をあげながら聞き返すマスターにガインが驚きの言葉を発したっす。
「あの【深淵の狩人】ですよ!」
「なに?」
あ、マスターが暑苦しい笑いをピタリ、とやめて真顔になったっすね。それに、ウチも気になるっす。
「説明してもらおうか。」
マスターがガインに説明を求めるとそれにガインも素直に答えるっす。
「はい、二時間くらい前に俺たちは宿に向かっていたんですが、その途中で【深淵の狩人】らしき人物とすれ違ったんです。」
「それで?」
「フィリアがそれに気づいてその人物を呼び止めたんですが・・その、確認を取ろうとしたら逃げられてしまいまして・・・」
「逃げられた?」
あの二人から逃げるとは相当っすね。
「はい、それはもう異常なくらい足が速かったんです。それに、特徴的なあの黒い服装は確かに【深淵の狩人】のものです。」
「なるほど、ならお前らはその人物をあの【深淵の狩人】と断定出来るんだな?」
「はい。」「そうです。」「ええ。」「・・ああ。」
「わかった。他に特徴は?」
「えっと・・確か、黒髪で丁寧な口調でした。」
「黒髪?珍しいな。それに丁寧な口調か・・・」
「はい、黒髪でこの辺りでは見ない黒い服装をしていたので見間違える事はないでしょう。」
「そうか。」
それで説明は終わり、マスターも納得した様子で黙り込んだっす。
それにしても、黒髪に黒い服装の丁寧口調っすか・・・さっきのお兄さん丁寧口調だけは当てはまるっす・・・いや、まさかっすね。【深淵の狩人】かあんな脆弱な魔力してるわけないっす。
そう結論付けてウチはもう一つこの黄色いクリスタルを口に投げ込んだっす。
「ねぇ、なに食べるの?ボクにもちょうだい!」
その時、後ろから声をかけられたっす。聞き覚えのある、というかよく知ってる声っす。
「なんだ、アンっすか。これは不思議なお兄さんに貰ったっす。」
アンはこいつの名前っすよ。相変わらず元気っすねー。
「なんだとはなにさ!・・それにしても不思議なお兄さん?へぇ、君が人に感想を持つなんて珍しいね!」
「それだけじゃないっすよ?」
「どうしたんだい?」
「ふっふっふ・・・それはっすね?」
聞き返してくるアンにウチはもったいぶりながら
「なんだよー、気になるじゃないか。」
食べることを勧めたっす。
「食べてみるとわかるっすよ。」
一つ渡してアンに食べさせるっす。
「教えてくれないんだね・・・あ、美味しい・・初めて食べる味だね。」
「そうっすよね?美味しいっす。」
「うん・・・・え?今なんて言った?」
「美味しいっす。」
聞き返してきたアンに答えるっす。
「まさか・・・?」
「そのまさかっす。」
驚いた表情でまた聞き返してきたので肯定するっす。
「っ・・・!そ、それは本当かい!?それなら大ニュースだよ!」
ふふふ、予想通りの反応っすね!確かに、これはウチにとっても大ニュースっすけど。
「それで、そのお兄さんはどこにいるんだい!?」
慌ただしい様子で聞いてくるアンにウチは残念な報告をするっす。
「居なくなったっす。気がついたらもう居なかったすね。」
「・・そう、なんだ。」
「なに落ち込んでるんすか。ウチとアンで探せばいいんすよ!」
でも、さすがに落ち込むとは思ってなかったっすね。
「・・うん、そうだね。よし!ボクの持てる力を全て使って必ず見つけ出すと約束するよ!」
とりあえずは気を持ち直したらしいっすけど気合い入りすぎっす。
「いや、別にそこまでしなくてもいいっすよ・・・?またここに来るかもしれないっすし、気長に待つっすよ。」
「そうかもしれないけど探すと決めたら探すよ!」
「あ、うん、もう好きにしたらいいっす。」
「うん!」
変なところで強情な友だちに内心は感謝しているっす。
「あ、そういえばもう一つ別のやつがあるっすよ?」
「まだあるのかい!?それも気になるよ!」
そう言ってまだテーブルの上にある冷たいアレを指差すとすぐに取りに行ったっす。
「一気に食べることをオススメするっす。」
「そうかい?それならそうするよ。」
ふふふ、アンには悪いっすけどウチと同じ目にあってもらうっすよ。
「〜〜〜っ!?」
「あはは!引っかかったっすね!」
「嘘ついたの!?酷いじゃないか!」
見事にウチと同じ目にあったアンがウチに抗議してきたっすね。
「でも、美味しいっすよね?」
「うん・・・」
でも、美味しいことは素直に認めたっすね。
そんな素直な友だちをからかいながらウチはまたあのお兄さんに会えることを密かに願っているっす。
「はぁ・・・やっぱり美味しいっすねー。」
ウチはまた一つクリスタルを口に投げ入れながら小さく呟いたっす。
「あ、そういえばあのお兄さんの名前聞いてなかったっす・・・」
今さらお兄さんの名前を知らなかったことに気づきながら。
作者「どうしてこうなった。」
隊長「話がまた進まんな。」
作者「この話だけは絶対に入れたかったですからね。思ったより長くなりましたが・・・」