帰宅
作者「お待たせしました。ちょっと時間かかっちゃった☆許して☆」
隊長「ギルティ!」(っ・д・)≡⊃)3゜)∵
作者「デジャヴっ!?」
クレアとの会談を終え、満足するまでワイバーンと戯れた俺は昼頃に帰宅した。
「ただいまー」
「グル。」「ガウ!」
家に入る前に外で待機している二頭に声をかけると、どちらも立ち上がって出迎えてくれた。
フェルはブンブンと尻尾を振っている。
「いやー待たせてごめんなー」
俺は膝立ちの体勢になるとサティとフェルの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「グゥ・・」「ワフ・・・♪」
二頭をひたすら撫でまわしているとフェルがペロペロと頰を舐めてきた。
少しくすぐったいが可愛らしいものだ。
「うい奴め、ほれほれここか?ここがええんか?んー?」
「ワフゥ・・・」
俺がフェルを両手で撫でると、フェルがリラックスした様子で声を出す。
しかし、途中からフェルばかりに構っているのが気に食わなかったのかサティが俺の胴体に頭を擦りつけてきた。
「はは、わかったよサティ、お前さんもちゃんと撫でるから。」
そう言いながらサティの方に手をまわそうとすると
「グル・・・」
なんかめっちゃ睨まれた。
え?俺サティに嫌われるようなことしたっけ?まったく記憶にないんだけど・・・
「えっと・・・どうしてそんな睨んでるんだ?」
俺がサティに聞いてみるが、サティは何も言うことなく俺の体に頭を擦りつけてくる。
困惑した俺は戸惑いながらもそれを受け入れる。
「なぁ、フェル?サティなんか機嫌悪いんだが・・・」
俺がそう言いながらフェルの方へと振り返ると、フェルは俺の体の匂いを嗅いでいた。
「どうした?フェル?」
聞きながら手を伸ばすと
「ガウ。」
今度はフェルに手をかまれた。無論、甘噛みだが手首から先がすっぽりと口の中に収まってしまっている。
「グル・・・」「ガゥ・・・」
なぜかサティとフェルが非難するような視線を送ってくる。
あ、フェル。俺の手をモグモグするんじゃない!甘噛みだとわかっていても流石に怖いんだぜ?手を家族に食い千切られるとか笑えない。
《主様、たとえ手が千切れたとしてもこのシュティが全力をもってして治療致します。》
うん、ありがとう。でも、俺の手が千切れる前にフェルを止めてくれないかな?
《主様が悪いのでこればかりは・・・》
えぇ・・やっぱり俺が悪いの?
《はい。》
俺が何をしたっていうんだ。
《自身の胸に手を当てて聞いてみてくださいませ。》
わーお、シュティがなぜか辛辣だよ。お兄さん泣きそう。
《え、あ・・も、申し訳ありません!このシュティ、如何様にも罰を受けますので平に!平に御容赦を!》
なんか、ごめん。冗談だからね?真に受けないで?
《ああ・・主様のお優しき御言葉、この身に染み渡ります・・・》
君、スキルだよね?・・・うん、細かいことは気にしないでおこう。
それよりもだ。
「どうしてこうなった・・・」
いつのまにか俺の手を口から離し、フェルも俺に体を擦りつけ始めていて、二頭に左右からグリグリと挟まれることになってしまった。
「原因がわからん以上は好きにさせとくか。」
とりあえずは下手に刺激するとどうなるかわからないので黙ってジッとしている事にした。
ー数十分後ー
「やっと解放された・・・」
なぜか急に不機嫌になったサティとフェルになすがままにされ続け、やっと解放された俺は家に入った。そして洗面所で手を洗いながら思案する。
(なんであんな機嫌悪かったんだろうか・・・・?まぁ、いっか・・機嫌直ったし。)
細かいことは気にしない。結果良ければそれでよしだ。
「ただいまー」
「おかえりーおにーさん。」
リビングに入るとそこには箸の練習をしているラウが居た。なんというか、ラウが家に居ることに慣れてしまった。
「遅かったねー」
「ん?そうか?」
「うん、もうちょっとはやく帰ってくると思ってたから。」
「そりゃ悪いことしたな。」
「別に帰ってきたからいいよー」
「そうか。」
母親のようなことを言うラウに少し苦笑する。発言しながらも箸の手を止めないラウに気になったことを聞いてみる。
「そういえばラウはいつから箸の練習してたんだ?」
「んー・・・4時間くらい前かな?」
結構朝早くに家に来ていたらしい。いつものことだが・・・てか四時間も箸の練習していたのか、相変わらず凄い集中力だな。
「ラウ、それなら休憩にしないか?」
「ほんとっ!?」
「お、おう。ちょっと他にも聞きたいことがあるしな。」
バッ、と勢いよくこちらを向いたラウに驚きながらも肯定する。
「わかった、なら休憩しよっ!」
「なんか食べたいものとかあるか?」
「甘いもの!」
「了解。」
即答である。その反応速度には驚きを禁じえないが、俺もちょうど甘いものが食べたかったところだ。
「んじゃ、今回はこれだ。」
「・・・なにこれ?」
「チョコレートケーキだが?」
「真っ黒だよ?」
そりゃあチョコだからな。黒いさ。
チョコレート生地にチョコをコーティングし、さらにチョコの生クリームが挟まれてあるチョコ尽くしのケーキだ。
チョコ好きによるチョコ好きのためのチョコレートケーキである。
あかん、チョコに対してゲシュタルト崩壊しそう。
「まぁ、食ってみろって。」
「苦いのは嫌だよ?最初のコーヒーみたいなのは嫌だよ?」
あぁ、なるほど。いつもみたいに飛びつかないと思ったらブラックコーヒーが軽いトラウマになってたのか。可愛いな、おい。
「大丈夫だってちゃんと甘いから。」
「・・・嘘ついちゃダメだよ?」
「オニイサン、ウソ、ツカナイ。」
「絶対嘘だよね!?片言だもん!片言だもん!」
なんで二回言ったんだ・・・まぁいい。
嘘はつかない約束だからなそれは絶対だ。
「はは、冗談だって。いいからほら、一口食べてみろ。」
「うぅ・・おにーさんのこと信じるよ?」
「おう。」
俺が笑いながら言うとラウは恐る恐るフォークをケーキに近づけていく。
「苦くない・・・これは苦くない・・・」
ピーマンが嫌いな子が必死になってピーマンを食べようとしている感じになった。
すごく微笑ましいが、それは甘いものです。
そして、やっと一口食べる。
「あむ・・・」
「どうだ?」
俺が聞くとラウはとろけたような顔になり一言。
「美味しい・・・」
「だろ?俺は嘘つかないよ。」
「うん、疑ってごめんなさい・・・」
素直に謝ってきたラウに対してほんの少し罪悪が芽生える。
「なに、気にするな。わざと疑われるような態度とったし。」
「おにーさんってけっこうイジワルだよね。」
「うん、自分でも性格悪いって思ってる。」
「自覚あるぶん余計にタチが悪いよおにーさん・・・」
「知ってる。」
ふざけながらこういった会話をするのは好きだ。自分が振り回している立場の場合限定だけどな。
「あ、そうそう。ラウに聞きたいことがあったんだ。」
「ん、なぁに?おにーさん。」
ケーキと一緒に用意したコーヒーをすすっていたラウがカップをテープに置きながら反応する。
「この森って深淵の森とかいう名前がついてるんだな。」
「へぇー、そうなんだ。」
「あれ、知らなかったのか?」
意外だな、自分の森なのにその名前を知らないとは。
「だって人間がつけた名前なんてどうでもいいもん。」
「そっか。」
ラウの人間嫌いが原因だった・・・そんなに嫌いか。
まぁ、今はそれよりも聞きたいことがある。 ラウが人間嫌いな理由は本人が話してくれるまで聞かないことにしよう。
自分が善意で下手に慰めようとすればそれは逆効果にしかならないだろうからな。
自分にとっての善意が他者にとっての善意であるとは限らないという事だ。
例を挙げるならお節介がわかりやすいか?
ま、自分がそうして欲しくなかったことが一番の理由だが・・・自分がされて嫌なことは他人にしてはいけない。
よく聞く言葉だが、事実それは実に的を射ているだろう。
「じゃあ、ここから本題なんだが・・いいか?」
「いいよー、おにーさんのことは嫌いじゃないからね。」
「ありがとな。」
「うん。」
なんかこう・・明らかに例外にされると変に気恥ずかしいものがある。
「聞きたいのは名前の由来となったことなんだが、深層と呼ばれる場所からは森の中は真っ暗らしんだけど、この森って薄暗い程度でそんなに暗くないよな?」
「あぁー・・・たぶんアレのことだね。」
「あれ?」
どうやら心当たりがあるらしい。フォークを置いて一度コーヒーをすすると、ラウが口を開いた。
「この森はね?真円状に一部分だけ背の高い木をたくさん生やして光が届かないようにしてるの。それで、後は魔法を使って侵入者を排除できるように罠を仕掛けてるんだー」
「なるほど、ちなみにどれくらいの長さだ?」
排除、という言葉にはつっこまないぞ。
「んー・・たしか世界樹から50km離れた場所から40km地点までの10kmの間かな?」
「割と長いな。」
「まぁ、人間が来ないようにしてるからねー」
「お、おう。」
笑顔で答えるラウに闇を感じる。笑顔なのになぜかちょっと怖い。
しかし、再びケーキを食べ始めたラウは純粋な笑顔にもどる。うん、ラウはそうでなくては。
「聞きたかったのはそれだけだ。」
「もういいの?」
「おう。」
「・・・おにーさんってなんかずるいよね。」
「何がだ?」
「なんでもない。」
ラウはいきなりどうしたんだ?やばい、心当たりがなさすぎる・・・まぁいいか、別に。
「さて、と今日はサティとラウを洗ってやらないとな。」
俺がそう言い、食べ終わったケーキとカップを消滅させながら立ち上がるとラウが反応する。
「そんなことするの?」
「おう、流石に家に入れてあげないとかわいそうだろ。」
「え!?あの子たち家に入れるの!?」
「え、入れるけど?」
「あぶないよ!?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「なにを根拠に言ってるの?おにーさん・・・」
「んー・・勘?」
「一番ダメなやつだよおにーさん!」
ふははは!そうかもしれないが私を止めることは出来んのだよ!なにをしようと無駄だ!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!」
「・・・おにーさん大丈夫?」
「すまん、急にそんな冷静にならないでくれ。」
「今のは流石にちょっと・・・」
「すまん、ほんとすまん。」
俺のおふざけが過ぎたせいで、ラウに本気で引かれてしまった。
いや、まぁ当然だよな。
そりゃあ、伝わらないよなジ○ジ○ネタとかは。WRYYYYYY!!!とか叫ばなくてよかった・・・うん、何も知らない第三者視点からしたらただのやばい奴だ。
「んじぁ、ちょっと外でサティ達洗ってくるから用事があれば来てくれ。」
「うん、わかったけどおにーさんその服で作業するの?」
「あ、忘れてた。」
「おにーさんってちょっと抜けてるよね。」
「ぐっ・・・恥ずかしい限りだ。」
「あはは、おにーさんにさっそく仕返しができた。」
外出用の服を着ていたことをすっかり失念していた。いつもジャージなので、その感覚でサティ達の洗浄に向かおうとしていたのだ。
「ありがとな、ラウ。」
「うんうん、素直なのはいい事だよ?おにーさん。」
「そりゃどうも・・っと。」
とりあえず服を脱いでジャージに着替え用とすると
「え?ちょっとおにーさん!?ここで着替えるの!?」
慌てた様子でラウが俺に聞いてきた。
「なんだ?男の裸を見るのが恥ずかしいのか?」
俺がにやにやしながら聞き返すと
「わ、悪い!?精霊でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!?おにーさん!?」
なんともまぁ可愛らしい反応が返ってきた。
顔を真っ赤にして右往左往している。
「ズボンはともかくシャツは脱がないぞ?」
「そっちの方がもっと変質者っぼいよ!?」
「それは・・まぁ、確かに。」
「でしょ!?」
結構な正論を叩きつけられ、これ以上おちょくると俺に被害が出そうなのでやめておこうか。
「わかったよ、廊下で着替えるさ。」
「う、うん・・・」
いまだに顔を赤くしているラウに苦笑しながらリビングを後にした。
そんなこんなでジャージに着替え、また外に出た俺はサティとフェルを見つけ、話しかける。
「おまえらー!家に!入りたいかー!」
「・・・・」「・・・ガウ?」
サティは冷めた目で『何言ってんだこいつ。』
フェルは尻尾振りながら『なになにー?』
みたいな感じの反応だった。
(くっ・・・!ラウに引かれたからってこの子達に反応を求めてどうするんだ俺!)
すこし虚しい思いをしながらもサティ達に説明する。
「いやな、今日はお前らの体を洗ってやろうと思ってな。そしたら家にも入っていいし、外で野ざらしになることもないからさ。」
「・・!」「ガウ!ガウ!」
俺が説明すると、それをちゃんと理解したようで、サティは声にこそ出さなかったがそわそわしてるし、フェルは尻尾を振りながら俺の周りを駆け回っている。
「素直だなぁ、いい事だ。さぁ、どっちから洗うかだが・・・」
「ガウ!ガウガウ!」
お、おう・・・『はい!はいはい!』っていう幻聴が聞こえそうなほど元気よくフェルが返事をする。
「サティ、こいつが先でもいいか?」
「グル。」
俺がフェルを指差してながら聞くと、『別にいい。』そんな感じで了承したように唸ったサティは地面に寝そべった。
相変わらずクールだな、サティは。
「おっけ、サンキュなサティ。」
「・・グル。」
俺はそんな事を考えながら一言声をかけ、ひと撫でしてからフェルの方に移った。
「どうだー?気持ちいいか?フェル?」
「ワフッ!」
フェルを洗浄する前に一つやる事があるので今はそれをしている。
それはブラッシングだ。
毛並みを綺麗にして毛のもつれなどを取り除いておかないとシャンプーを使用するときに妨げになるからだ。
使用するのは純度100%猪の毛が使われたちょっと硬めのブラシとスリッカーブラシと呼ばれる二種類だ。毛並みを整えるのには別のを使う。
現在のフェルの毛並みは汚れなどですこし硬くなってしまっているため、これらを使う。
まず、スリッカーブラシで毛のもつれや毛玉などをとり、獣毛ブラシでホコリなどを取り除く。
フェルは犬でいう長毛種のように長い毛をしているのでスリッカーブラシでのんびりとブラッシングしていく。
他にも色々と用途やブラシがあるのだが、今はこの二つにしておいた。
もちろんブラシは魔力で交換した。
「おおう・・やっぱ汚れてんな。森で暮らしてんだから当然か。」
「ガウ?」
「今から綺麗にしてやるよって事だよ。」
「ガウ!」
「やりたくてやってんだ気にするな。」
「ガウ♪」
本当にかわいいな。・・それにしてもまさか異世界に来て狼をブラッシングしているとは人生なにがあるかわからないものだな。
ブラッシングしながらそんな事を考える。
俺が動物好きなのは、昔にとある人が猫を一匹飼っていたからだ。その猫が傷心していた俺に懐いてくれて、さらに癒してくれた事が一番の理由だ。俺が死ぬすこし前に死んでしまったが・・・
しかし、その事がきっかけで動物の事が好きになった。
「よし、こんなもんかね。さぁフェル、洗浄開始だ。」
「ガウッ!」
外に備え付けてあるホースからぬるいお湯を出し、フェルに足元からかけていく。
ちなみにこのホースはなぜかシャワーと同じように温度を調節できる仕様になっていて何気に便利な一品となっている。
「キャンッ!?」
「あ、ごめん。冷たかったか?」
まだ冷たいままだったのかお湯をかけた瞬間、フェルが驚きながら飛び退いた。
お湯を手にかけるが、温かいので単純に驚いただけか。
「ごめんごめん、大丈夫だからおいでフェル。」
「クゥン・・」
とぼとぼ、と歩み寄ってくるフェルに苦笑する。
ものすごい速さで飛び退いたもんな。すごい瞬発力だと思う。
「ほら、かけるぞ?」
「ガウ・・」
今度は一声かけてからお湯を浴びせる。
「クゥン・・クゥ・・」
「お、気持ちいいのか?」
「ガウ・・・」
リラックスしたように鳴き始めたので一安心だ。まさか水が苦手なのかと疑ったが、そんなことはなかった。
全身を充分に濡らしたので今度はシャンプーを取り出しフェルの身体の後ろから洗い始める。
今回使うシャンプーは獣医も認める高殺菌消臭効果のあるノル◯サンシャンプーだ。
さらに低刺激な上にコンディショニング効果もあるのでリンスの手間いらずである。
これも魔力で交換した。
「んじゃあ、後ろから洗うぞー」
「ガウ・・」
余韻に浸っているのかすこしテキトーな返事だったが、了承は得た。
お尻から後ろ足、背中、胸、前足、という順番で指の腹を使い、マッサージをするように洗ってやるとかなり喜んだ。尻尾も触っても全く怒らなかったのでよほど機嫌がいいらしい。
「あとは顔だな。」
泡まみれになりながら全身を洗い、残るは顔だけとなった。
「フェル、目を閉じててくれ。」
「ガウ。」
フェルに目を閉じてもらい、目の下の涙やけや目と目の間、あごの下、唇の周りに汚れがたまっているので指先で丁寧に洗う。
目にシャンプーが入らないように細心の注意を払いながら。
その他もしっかりと洗う。
「クゥン・・・」
フェルが気持ちよさそうに鳴くが、今は動かないでくれ・・・あ、シュティさんや。
《なんでしょうか。》
耳や目に水が入らないようにできたりしない?
《魔力で膜を張ることによって可能です。》
マジで!?それをフェルにやってくれ。
《承知しました。》
「よし、洗い流すからもう少し目を閉じててくれ。顔に水をかけるぞ。あと、ちょっと魔法かけるけどびっくりしないでくれよ。」
「ガゥ・・・」
耳や目にお湯が入らないように魔力で膜を張り、お湯を頭からかけて洗剤を流していく。
「よし、お次はっと・・・」
全て流し終えたら、今度はバスタオルで水気を拭き取る。
「シュティ、こんな魔法って使える?」
《可能です。》
「さすがシュティさん!そこにしびれる!あこがれるぅー!」
《主様、治療魔法も使用可能ですが。》
「俺は正常だけど?」
そして、風の魔法を使って温風を360度全ての方向から当たるようにして乾燥させていき、やっとの事でフェルの洗浄が終わった。
「うし、最後にもう一回ブラッシングすれば完了だ。」
「ガウッ!?ガウ!?」
『ほんとに!?もう一回やってくれるの?』なんか、そんな風にしか聞こえない。
「おう、やるからはよ来い。」
「ガウッ!」
コームと呼ばれるまた別のブラシを取り出し、毛並みを綺麗に整えていく。
あぁっ!この長い毛が抵抗なくきれいにすけるのは快感だ・・・
やがて銀の綺麗な毛並みが艶やかに、より美しく映えるようになり
「終わったー!」
「ガウ!」
作業が完了した。
「あ、こらフェル、嬉しいのはわかるがそんなになめるなって・・あははっ・・くすぐったい・・」
作業が終わり、俺が座ったと同時にフェルが俺の顔をなめ始めた。
それを制止すると
「クゥ?」
「ほ、ほら、サティも洗わなきゃいけないから・・・」
うるうると目を潤ませてこちらを見てくる。謎の罪悪感が芽生えてくるが、サティを二時間も待たせてあるのだ。さすがにこれ以上の時間を待たせるわけにはいかない。
「ほら、先に家に入ってていいから。な?リビングでのんびりしてこい。」
「クゥン・・・」
そんな残念そうな顔してもダメです。
「ダメ、今度はサティの番です。」
「・・ワフ・・・」
リビングの戸を開けて家の中に入るように催促すると、非常に残念そうに中に入っていった。なんかごめん、でもサティもちゃんと洗ってやらないとかわいそうだし。
断腸の思いで俺はフェルからの要求を却下した。
「・・・さて、ほら、サティおいで。」
「グル。」
サティを呼ぶとゆっくりと大きく尻尾を振りながら近づいてきた。だいぶ放置してしまったが機嫌は良いらしい。
「うーん、サティってお湯とかかけていいのか?猫ってめちゃくちゃ水嫌いだよなぁ・・・」
「グル。」
「ん?いいのか?」
「グル。」
「わかった。ならフェルと同じ要領でやるぞ?」
「グル。」
「んー、了解。じゃあ、ブラッシングからやるか・・・ほい、こっち来てくれ。」
のそのそと歩みよってくるサティに
(お湯でもいいんだな・・・)
俺はくだらない事を考えていた。
「うーっし、じゃあ始めるぞー」
「グル。」
「はは、そう急かすなって。」
『早く。』と催促するように目と声で訴えてくるサティに苦笑しながらもブラッシングを開始した。
「どうだ?これで大丈夫か?」
「グゥ・・・」
現在、寝そべってブラッシングを受けているサティはいつもよりリラックスしたような声をあげて反応する。
「それは重畳。」
全長5mもあるサティはブラッシングするだけでも一苦労だ。フェルも3mくらいだったけど・・・
それはともかく一時間ほどかけてようやくブラッシングが終わり、洗浄の工程に入る。
「よし、お湯かけるぞー」
「グル。」
サティにお湯を浴びせるが、特に暴れたりすることはなかった。一安心。
どうなることかと、実は内心ドキドキしていたのだ。
「よし、洗剤だな。何ℓ使うんだろ・・・」
今回サティにはゾ◯ックのシャンプーを使用する。
これは猫用シャンプーの大事な三要素を備えている。
それは『低刺激・体臭を落とす・香りが少ない』というものでこれならばサティに使っても問題ないのではないだろうか。
「いくぞー」
「グル。」
お湯に洗剤を溶かせてからドバッ、と全身にかける。耳や目には既に魔力で膜を張ってあるので遠慮はいらない。
洗浄に関してだが、手で洗うにはサティは大きすぎるので大きなブラシを使って洗うことにした。
毛の長さに関しては、フェルが長毛種ならサティは短毛種だな。
「お加減はいかがですかー?ってね。」
「グゥ・・・」
俺が話しかけると、サティは尻尾をゆらゆらと大きく揺らしながらリラックスしている様子で返事を返した。
「そうかそうか、それは嬉しいねぇ。」
「♪」
おお・・尻尾を俺の胴体に絡ませてきた。ほんとに機嫌が良いらしい。
「てか、泡がすごいことになってるな・・・洗剤入れすぎたか?」
「グル?」
「いや、気にしなさんな。別に問題ないから。」
「グゥ・・・」
泡がたち過ぎて羊みたいになったサティ。
しかし、ブラシを使っているとはいえ重労働だなぁ、これは・・・あっ・・・
「ブラシが・・折れた・・だと・・?」
それは左前脚を洗っていた時のことだった。突如としてブラシが真っ二つに折れた・・・というよりも綺麗な断面をしているので正確には斬られてしまった。
なんでだ?・・・あぁ、そういうことか。
「すっかり忘れてた。サティはサーベルティーガーだったな。」
いつも接している時はブレード部分が見えないので完全に忘れていたのだが、サティの両前脚にはブレードが側面に沿うようにして生えている。
こんな触れただけで木製のブラシが斬れるって怖すぎるわ!
サティはいつも気を遣って収納しててくれたんだな。
「ありがとな、サティ。」
「グル?」
「なに、気にするな。」
『なにが?』みたいな顔をされたが、気にしない。なんとなく、こういう小さい気遣いに気がついた時はひどく嬉しいものなのだ。
たとえ伝わっていなくとも他者を思いやる心を持つという事は大切な事であり、難しい事でもある。
それが自然に出来ているサティはやはり、優しい子なのだろう。
俺は気分良く一時間ほどかけて全身を洗い終えたのだが、尻尾だけは触ってもいいのかわからなかったので触れないようにしておいた。
しかし、どうせなら尻尾も洗っておきたいので聞いてみることに。
「あ、サティさんや。尻尾はどうする?」
「・・グル。」
サティが尻尾をこちらに向ける。
すこし考える間があったが触っても良いらしい。
「尻尾はブラシじゃ洗いにくいから手でいくか。」
力を入れ過ぎないように優しく手で洗っていく。
「・・・」
なんか尻尾触り始めてからサティかずっと無言なんですけど・・・もしかして本当は嫌だったのか?それならあまり長い時間触らない方がいいかもしれないな。
そう思い、洗うスピードを上げる。
「悪いな、もうちょいだから我慢してくれ。」
「・・グル・・・」
やがて尻尾も洗い終わり、あとはお湯で流すだけとなった。
「そいじゃ流すぞ。」
「グル。」
全身に満遍なくついた泡をお湯で洗い流し、バスタオルで拭き取っていく。
「これでよし。あとはドライヤーで乾かしてブラッシングするだけだな。」
フェルの時と同様に全身を包み込む温風でサティを乾かしていく。
「おーけー、乾いたぞ。」
「グル。」
俺がサティにそう言った直後のことだった。
ぼっ、とガスコンロに火がついたような音がサティから聞こえてきた。
「・・・え?」
そして、俺はその光景にしばし唖然とせざる得なかった。
なぜかと言うと、それはサティが全身を炎に包まれていたからだ。
その炎はサティを大きく包み込んでいたが、前脚から出したブレード部分など身体の様々なところに収束していった。
え?なにそれ?大丈夫なの?ねぇ、めっちゃ熱そうだけど大丈夫なの?
俺が混乱していると
《主様、お忘れですか?あれはあのサーベルティーガーが特異個体たる由縁です。》
シュティが話しかけてきた。
え?そんなんあったっけ・・・・あ、あったな。確かあれは固有スキル《焔装》だったか?
《その通りで御座います。》
でも、なんで急にスキルなんて使ったんだ?
《恐らくは体温調節の為かと。》
ああ、なるほど。身体に体温調節機能が無いぶんスキルで代用しているのか。
確かに良い方法だろうな。
《主様、あれは一歩間違えると自らの身を焼くだけです。》
マジで?
《マジで御座います。》
シュティの話し方がなんか凄いことになっている気がするが、それよりも下手したら自分の身を焼くことになるスキルってどうなの・・・?
《あれはあの個体の優れた魔力操作の精密さからくるものと思われます。》
流石、森の覇者の称号を持つだけはあるな。
《ちなみに主様もやろうと思えばやる事は可能ですが。》
やらねぇよ!そんなパフォーマンスしたくねぇよ!あんなことしたら肺が焦げるだけだろ!
《左様ですか。》
おう。あ、サティの炎が消えたな。
《では、私は失礼します。》
おう、ありがとな。
《いえ、私にそのような言葉は不要です。》
毎度毎度うるせぇよ。黙って感謝されてろバカ。
《も、申し訳ありません。》
本当に申し訳なさそうに謝るシュティに俺は伝わっていないであろう本意を説明する。
わかればそれでいい。だが、別に謝ってほしいわけじゃないんだ。
感謝は伝えられる時に伝えないといけない、それだけは覚えていてくれ。
どれだけ感謝したくてもそれが伝えられなくなった時にはもう手遅れなんだ。
絶対に後悔するぞ。絶対にだ、いいな?
《・・はい。その御言葉しかと心に刻みました。》
スキルに心があるというもの不思議なものだが。
《あの・・・主様。》
ん?どうした?
《ありがとうございます。》
おう、どういたしまして。
《それでは、失礼致します。》
おう。
さて、とサティのブラッシングが終わってないからな。もう既に二時間もかかっているし、もう一踏ん張りといこうか。
「サティ、最後の仕上げだ。」
「グル。」
サティが俺の側で座り込み、スタンバイ完了だ。
「さて、始めるか。」
俺がブラシを手にブラッシングを開始する。
サティの毛は綺麗な真紅だ。艶の出ている深い赤色でいい色をしている。
手触りはサラサラとしていて、撫でると手が滑るようだ。
フェルは滑らかでありながらもふもふとしていて髪を梳くような感じで癖になるが、これはこれで癖になる。
ブラシは頭は顔から首の方向にかけてゆっくりかけていく。
猫もブラッシングする時は毛が絡まっていないか注意していないとダメだ。
もし、毛が絡まっている場所をブラシで梳いてしまうとめちゃくちゃ怒る。
サティは虎だけど虎をブラッシングとかしたことないから猫と同じ要領でやる。
「どうだ?気持ちいいか?」
「グゥ・・・」
どうやらお気に召したらしい。
ブラッシングが嫌いだったらどうなるかわからなかったが、好きならこれからもたまにやってあげようか。
・・・よく考えたら洗う前にもブラッシングしてたわ。その時点でわかってるじゃないか、アホか俺は。
背中部分は骨に当てないように注意しつつ、首から尻尾の方向に向けてゆっくりブラシを進めていく。
「♪」
「サティ、嬉しいのはわかるが尻尾を絡ませられると動けないから・・・ごめんな。」
またしてもサティが尻尾を俺に絡ませてきた。今度は腰に巻きつけてきたので、まるでどこぞの戦闘民族みたいな絵面になっている。
「・・・」
サティが無言で尻尾を解いた。あ、尻尾がだらんと下にさがった。
「あれ、拗ねた?」
「・・・」
ちょっとご機嫌ななめのご様子。
「これが終わったらリビングでのんびりできるからさ、な?」
「・・・」
尻尾に動きなし、と。
「えーと、ほら!これが終わったらまた撫でるからさ!だから、えっと・・・な?」
「・・・」
今度は尻尾が垂直に立った。よし!
本人は無言を貫いて抗議してるつもりかもしれないが、尻尾は正直である。嬉しいらしい。
俺はなんだか嬉しいような、おかしいような気分になりながらもブラッシングを続けた。
ー1時間後ー
「やっと終わった・・・」
「グル。」
いやー疲れた・・・楽しかったけど・・・
「よし、じゃあリビングに戻るか。サティはこっちから入ってくれ。」
「グル。」
リビングの戸を開け、サティに催促するとすぐに中に入っていった。
「もう日も暮れる頃か・・まぁ、5時間くらいかかったしな。」
楽しい時間とは過ぎるのが早いもので気がつけばもう日が沈み始めていた。
「俺も一回着替えないとな。」
玄関から家に戻り、洗面所で手を洗う。そこから別のジャージに着替え、リビングに入った。
「ガウッ!」
「おおう、フェルか。待たせたな。」
「ガウガウ!ガウ!」
くるくると回りながら体を使って喜びを表現するフェルに顔がほころぶ。
が、しかし、その前にラウに声をかける。
「ちょっと待ってなー、ラウー大丈夫かー?」
「だ、だいじょうぶ・・・」
いや、まったく大丈夫に見えないんですが。
ラウは40帖もあるリビングの隅っこの方に三角座りで待機していた。
俺はフェルの頭を撫でながら聞くと
「なんでそんな隅にいるんだ?」
「だ、だっておにーさんが急にその子をリビングに入れるから!」
そう言ってフェルを指差した。
「フェル、お前ラウになんかしたか?」
「ガウ?」
「別になんもしてないみたいだな。」
「なんでそれで会話が成立するの!?それと、別になにもされてないよ!」
ラウがつっこんできた。いまだに隅で座っているが・・・
「じゃあ、なんでだ?」
「いや、普通はいきなりそんな狼さんが入ってきたら怖いよ!?」
えぇ・・そんな理由?
「大丈夫だってこいつら賢いから。」
「ほんとに?」
「ほんとほんと、前にも言ったろ。」
「うん、そうだけど・・・」
「じゃあ大丈夫だ。ほらフェル、挨拶してきな。」
「ワフッ!」
『はーい!』そう言ったかのようにフェルはラウに近づいていく。
「えっ!?ちょっとまって!ほんとにまって!?おにーさん!ねぇ!おにーさんってば!」
「仲良くしろよー」
「ガウッ!」
「無責任だよ!?おにーさん!」
フェルが元気よく返事をしてラウが泣きそうな顔で叫ぶ。
俺しーらないっと、サティは寝そべってこっちを見ているな。
「サティも待たせたな。」
「グル。」
『別に。』そう言ったかのように顔を背けながら鳴くが、尻尾がピンと垂直に立っている。
わかりやすいですよ?サティさん?
「かわいいなぁ、おい。」
そう言いながら寝そべっているサティに俺が上半身を預けるようにしてさらに寝っ転がる。
「あぁー・・・サラサラで気持ちいいー・・・ずっとこうしていたい。」
サティが尻尾を俺に絡ませてくるが、今は特に問題ないので放置しておく。
「ラウー、そっちはどうだー?」
俺が寝転がったまま聞くと
「あははっ、くすぐったいよ・・・ちょっと・・・あははっ・・・」
まぁ、楽しそうなので問題ないだろう。
しかし、俺はサティという枕にフェルという布団が欲しいのだ!
「フェルー?こっちさおいでー」
「ガウッ!」
声をかけるやいなや、すぐにフェルがこっちにきた。
「おお、いい子だ。ほれほれ。」
「クゥン・・・」
俺の腹に頭を乗せてこちらを見るフェル。
これだけでも癒される。だが、足りない。
「一緒に寝ようぜ。」
俺の横をぽんぽん、とたたきながらフェルに言うとすぐに隣に寝そべった。
「いい子だ。サティ、悪いけどちょっと間ここに居ていいか?」
「グル。」
相変わらず俺に尻尾を絡ませたまま肯定するサティ。
「ありがとな。」
「・・・グル。」
「だから、なんでそれで会話が成立してるのおにーさん・・・」
俺がサティ達と戯れているとラウがこっちによってきた。
「どうだった?」
「どうだった?っておにーさんそれ聞く?」
フェルに顔をなめられたらしいラウがすこし呆れたように聞き返してきた。
「いや、まぁ、一応な。」
「うん、嫌いじゃないかな。こういうのは。」
微笑みながらそう言うラウ。
「そうか、それは良かった。ラウも一緒に寝るか?」
「うーん、今日はいいや。帰るね。」
「了解。あ、顔洗うならそこの台所かリビング出て左の洗面所使っていいぞ。なんなら風呂入ってもいいけど。」
「ありがと、じゃあお風呂使わせてもらうね。」
多分びっくりするぞ。風呂広すぎるから。
「おう。あ、着替えとか大丈夫か?」
いつも白いワンピース着てるからそれなら俺も魔力で交換すればいいだけだが・・・
「大丈夫だよ。これ魔法で出してるから。」
「ならいいか・・あ、風呂場は洗面所の奥な。」
「わかった。」
あぁ、今日一日疲れたなぁ・・・早朝に捜索隊野営地襲撃して指揮官との話し合いで街に行くことが決まって、サティとフェルを洗って・・・
「これからよろしくな。サティ、フェル。」
「グル。」「ガウ。」
そうして俺の長い一日が終わった。
「おにーさんっ!?お風呂広すぎるよ!?」
「知ってる。」
風呂場を見たラウの予想通りの反応を楽しみながら。
作者「部屋の広さなどに関しては《権能》の回に加筆しております。」
隊長「部屋の位置とか考えてるのか?」
作者「家の設定のために間取り図を自作したよ。工業高校生ならではだねっ!」
隊長「いや、関係ないと思うが?」
作者「ひどい!?あ、要望があれば活動報告かどっかに載せるかもしれないです。汚い絵になってもいいならですが。」
???「ねぇ、それより私の出番まだ?」
作者「ローナさん・・・なんで貴女がここに・・?」
ローナ「だって、あなたが全然タケシに会わせてくれないんだもんっ!」
隊長「ここに居る時点で察しろ。」
ローナ「・・・」ブワッ
作者「泣いちゃった!?」