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閑話【会談後】

書きたくなったので書きました

 


 ー指揮所ー



 あの青年が出て行ったあと、私は一人で先ほどの事を考えていた。


 私に課された任務は【深淵の狩人】を探し出し、街に来てくれるように交渉すること。


 そして、その任務を私は果たした。そう、私は任務を果たしたの。なのにこんなにも気分が優れないのはなぜなのかしら。


「多分、彼の所為ね。あんな顔されたら気になっちゃうじゃない・・・」


 私は静かにそう呟く。

 私はあの森に潜む【深淵の狩人】の正体が『あの御方』ではないかと少しだけ期待していたわ。


 でも、それは不思議な青年だった。

 優しそうな笑顔を見せるどこにでもいそうな普通の青年。リーシア様からは直接『森にいらっしゃる方はとても優しい方です。』と、聞いていたけどそれは本当で、彼はとても優しい青年だった。別にリーシア様を疑っていたわけじゃないわよ?

 そして、彼は私の知る限りどの人物よりも強大な力を持っていた。


 奇妙な鳥達を引き連れ、圧倒的な戦力を持ってして私たちを劣勢に追い込んだ彼。


 私たちに奇襲をかけ、指揮官の私を殺すチャンスがあったのにも関わらずわざわざ私を助けてくれた変な人。だって、私たちの事を討伐隊だと思ってたのよ?それに、彼は単独で動いていてどこかの組織に所属しているわけでもなかった。


 こういった場合は指揮官を捕まえればすぐに殺してしまうのが定石よ。そうする事で相手の士気を下げ、さらに事を有利に進められる。

 でも、彼は私に傷をつけるどころか守ってくれた。本当に変な人ね。


 それに、私の部隊や冒険者側にも死者は出ていなかったわ。

 完全な素人というわけじゃなさそうだけどそれに通じるプロというわけでもなさそうだったからそんな彼に惨敗したのは少し悔しいわね。


 あと、私の愛騎のワイバーンにもすぐに触れても問題なかった・・・あれは少しショックだったわね。あの子、かなり頑固で自分が認めた人にしか触らせないのだけれど・・・


 私が触っても問題なくなるまでにどれだけ時間がかかったのか彼は知らないでしょうね。


 それほどまでに彼は強い。ここにいる全員が束になっても絶対に勝てないくらいには・・・兄さんや領主様がタッグを組んでやっとまともに戦えるんじゃないかしら。


 私が冗談で彼を挑発した時、彼は本気で魔力を解放した。


 あの時は生きた心地がしなかったわ。もし彼が殺そうと思えば簡単に私たちは全滅していたでしょうね。文字通り一瞬で。

 あんなにも力があるのなら冒険者でも王国の騎士団でも充分すぎるほどにやっていけるはずよ。でも、彼は平穏に暮らすことを望んでいた。それもあの【深淵の森】で。


 変な人だったけどだからこそ私は彼のことが気になっていた。

 初めて会った時はまさかあんな形で、しかも抱えられるなんて思っていなかったし、自分が奇襲をかけた相手の心配をする人がいるなんて信じられなかったわ。


 でも、それがすごく嬉しかったの。

 私が初めて感じた死の恐怖、あれは本当に恐ろしいものだった。恥ずかしい事だけれど頭が真っ白になって心の底から死に対する拒絶の言葉を放った。今ならわかるわ、あれが本当の恐怖なのだと。


 その時に現れたのがタケシ・シミズと後に名乗ったあの青年。


『大丈夫ですか?お怪我はありませんか?』


 初めて感じた死の恐怖、彼が私を助けてくれたことで訪れた安堵する感情と恥ずかしさや嬉しさが入り混じったなんともいえない感情。二十数年生きてきたけどこんな気持ちは初めてよ。

 誰かをかっこいいなんて思ったのも・・・恥ずかしいからやめましょ。


 少しの間しか話せなかったけど彼のことは事細かく覚えている。

 最後まで丁寧で礼儀を忘れない良い子だったけどそれ以上に印象的なのは彼の表情。


 基本的に優しそうな笑顔だったけど、それはどこか感情が抜けているような笑顔だったわ。


 言い表すとしたら・・・そう、あれはまるで『笑うしかない・笑うことしかできない』、そんな笑い方だった。

 でも、それが自然な笑顔として表情に出ていたから彼には何かがあると私の勘が囁いていた。


 そして、それが確信に変わる場面があった。


 それは私が『どうして私たちを殺さなかったのか。』という事について聞いた時だった。


『クレアさん、あなたが死ねば悲しむ方はいらっしゃいますか?あなたの死を望まぬ人がたった一人でもいらっしゃいますか?』


 そう私に聞いてきた時、彼から笑みが消えた。

 あまりに真剣な表情で私に聞いてくるからそれが少しおかしくて何を聞くんだと言わんばかりの答えを返してしまったの。


 彼は変わらず笑顔を浮かべてその答えに満足したようだったけれど、その時の彼の表情が忘れられない。


 すごく、すごく悲しい笑みだったわ。

 羨ましさと安堵、そして哀しみが溢れかえったような、そんな表情。


 そこで私は自分の失態に気がついた。

 彼はおそらく何らかの原因で家族を失っている。それであんな事を聞いてきたのだと思うわ。


『・・・そうですか。ならば、それはものすごく幸せだという事です。そして、自身の常識が他者にとっての常識ではないという事。その事をどうか忘れないでください。』


 彼が優しい笑顔にもどり、放った一言が私の心を抉った。

 私が当たり前だと思っている事でも他の人にとってはそうじゃない事を思い知らされた。


 彼の優しさは多分、他人を自分と同じ境遇にあわせたくないが為のもの。


 それがその過去を乗り切ったからこそのものなのか、あるいはまだ過去に囚われたままなのかはわからないけれど、私は彼のことが気になっている要因の一つがそれだと思っている。


『彼の事を知りたい。』そんな想いが私の頭の中を駆け巡る。


 だって、彼は本当に心の底から笑うことも出来ていたんだもの。


 私がワイバーンに乗せて街に行くと提案した時や最後に『ワイバーンをまた撫でていいか。』と聞いてきた時の笑顔。


 彼はおそらく全て無意識にやっているのだろうけれど、私に二回だけ見せたあの笑顔はとても可愛くて愛くるしかったわ。

 あれこそ本来の彼の笑顔なんじゃないかしら?


「ふふ、あんな風に笑うこともできるのね。」


 私はあの笑顔を思い出して思わず頰を緩ませる。


 目がキラキラしてて、純粋に楽しみだと伝わってくる無邪気で明るい笑顔。

 子どもみたいでとっても可愛らしい笑顔。


 優しさを感じる笑顔もいいけどそれはどこか不自然で、途中で見せた哀しい笑顔はあまり見たくない表情だった。


 もっとたくさんの事を聞きたかったけれどあんな顔をされてはそれもできないわ。また会えるのだし、その時を楽しみにしましょう。


 願わくば彼という人物を知ることができればいいのだけど。


「さて、と領主様に報告しなきゃね。」


 そして、私はベッドの下に置いてあった通信魔具を起動させる。


「・・・こちら臨時特別戦空隊指揮官、クレア・エルメスです。領主様にご報告があります––––」


 領主様に先ほど起こった事や出会った青年について直接報告したのだった。





作者「なお、これは予約投稿です。」


隊長「うん、で?」



コメントにて御指摘頂きました脱字を修正いたしました。

(2018/1/2 18:45)

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