《全知全能》
ワレ翌週ヨリテスト期間ニ突入セリ
ー翌日ー
朝の観察が終わり、ラウが箸の練習をしているのを眺めていると
「おにーさん!結構動かせる様になったよ!」
「え、早くね?」
「頑張ったもん!」
ラウ・・・すげぇなおい・・・・
確かに昨日は箸で金平糖を掴むのでさえ苦労していたのに、今はそれなりに安定して掴む事が出来るようになっている。
まだゆっくりと動かしているだけだが一朝一夕で達成されるのは少し癪なのでもう少し苦労してくれ。
うん、俺って結構性格悪いな。
しかし、彼女の努力には感服する。
何が彼女を突き動かしているのかはわからないが、かなり頑張っている事だけはわかる。
このままいけば近いうちに金平糖から大豆に変えても良さそうだな。もう少し練習してもらうけどな。
「もうちょい頑張ったらまたケーキ出してやるよ。」
「ほんと!?」
「ああ、但しもうちょい頑張ったらな?」
「わかった!」
まさかスイーツが食べたいが為にやたらと上達スピードが早いのか?
女の子って甘いもの好きだもんな・・・一つ謎が解けたな。
しかし、俺はそれとは別に気になることがあった。
サティとフェルの事だ。
今は昼下がりの時間帯なのだが、今日もサティとフェルは来なかった。
出会ってから数週間の間欠かさず午前中には来ていたのに急に来なくなるのは些か不可解だ。
これは余談だが、少し前にマップにマーキング出来る事が判明してたのであの二頭にはマークを付けてある、なので一応いつでも何処にいるか確認できる。
「もし夕方になっても来なかったら探してみるか・・・・」
少し嫌な予感がしつつも俺は討伐隊への対応を考えることにした。
俺は一旦外に出て庭で日向ぼっこしながら考える。
魔力で出したベットに寝っ転がりながら
「まずは、俺がどういう姿勢で対応するかだな。」
案は二つある。
一つ目
こちらが下手に出て敵意が無いことをアピールしつつ交渉へと持ち込む。
二つ目
圧倒有利な状態を作り出してから強気に交渉へと持ち込む。
「今回は二つ目の案が良いかな。」
だが、俺はすぐに二つ目の案を採用する事にした。
理由としは
・こちらが弱気であれば向こうが調子付いてしまう事。
・弱気に出れば不利な条件を提示される可能性が高い事。
・相手が一切の交渉の余地が無かった場合、即座に戦闘になる可能性が高い事。
などが挙げられる。
こちらに有利な条件を出させるには相手を劣勢の状態からスタートさせるしかない。
例え交渉の余地が無くとも交渉せざるを得ない状況にしてしまえばいい。
交渉は言葉の戦争であり俺の生死がかかっている。
無論死ぬつもりは一切ないが。
そこで必要になるのが
「即座にその場を離れる事が出来る移動手段と相手を数で圧倒的に押すための何かだな。」
俺には翼があるので飛行して逃げる事は可能だ。
しかし、野営地では数多くのテントが張られている。
交渉の際はテントの中となるだろう。
そこで翼を広げて脱出するのは少し難しのではないか
ならば、屋外や室内問わず無条件かつ即座にその場を離れる手段が必要不可欠と判断した。
「とは言ってもそんな事が可能なのは瞬間移動とかそんなんだろう・・・いや、出来そうだな。」
剣と魔法のファンタジー世界だ。
瞬間移動くらいあるだろう。
そう思い自分のスキルを使って検証する事にした。
「スキル発動。」
俺は声に出してスキル《全知全能》を発動させる。
《スキルの発動を確認》
独特な機械音声の様な声が頭の中に響いた。
「そういえば、この声って中性的な声をしてるな。」
ふと、すごくどうでもいい事を今更考えたが今は瞬間移動の検証だ。
「瞬間移動。」
とりあえず声に出してみた。
すると、あの声が反応する。
《座標指定を要請。MAP或いは目視にて座標指定を行なって下さい。》
そりゃそうか・・・何処に行くか指定されてないのに飛ばせる訳ないよな・・・ってそうじゃなくて!瞬間移動出来るんかい!
《可能です。》
ああ、うん。ご丁寧にどうも・・・・・喋った!?
正確には前々から喋っていたがあくまでも音声案内の様な感じで会話が成立する様なものではなかったはずだ。
《はい、私は貴方様専用のスキルとして創られました。よって、貴方様の希望全てを叶える事こそ私の定めであり存在意義です。》
えぇ・・・何か怖いんだけど・・・いや、有難いし使えるものは使わせて貰うけどさ。
《至極光栄の至り。》
忠臣みたいなのが出来ちゃったよ。
ていうか、何で突然喋り始めたの?
《それは当然、貴方様と会話がした・・・失礼しました。貴方様との会話が必要と判断した為、機能を更新しました。》
今、会話したかったからとか言いかけたよね?
《言ってません。》
いいや、言ったね。
《言ってません。》
ああ、うん・・・じゃあそれでいいよ・・・・
何故か頑なに認めようとしないスキルに俺はすぐに諦めた。
「そういえば、話せるんならスキル《全知全能》ってのは長いし名前付けないとなぁ・・・」
《それは誠でございますか!》
なんかめっちゃ食いついてるんですけど。
「そりゃ、スキルって言うのじゃなんかあれだし。」
《是非!お願い致します!》
「お、おう。」
なんか人間くさいなぁ・・・このスキル。
《私は畏れ多くも貴方様専用のスキルです。野蛮な人間と一緒というのは不服です。》
・・・そういうのが人間くさいんだけど。
それに、お前も人間嫌いか。
まぁ、いいや。
とりあえず名前考えないと・・・よし、決めた。
「お前の名前はシュティな。」
《有難う御座います。その名、賜りました。》
えらく丁寧だな
そんな嬉しかったのか?
《勿論で御座います!それと、ひとつ宜しいでしょうか?》
ん?何だ?
《私の名前の由来をお伺いしても?》
ああ、別にそれくらい教えるさ。
いつも世話になってるんだから寧ろこっちが感謝しなくちゃいけないのに。
《そんな!恐れ多いです!私は貴方様の望む全てを叶える事が喜びです。》
そっかぁ・・感情も持ってるのかぁ・・・うん、もうどうにでもなれ。
名前の由来はドイツ語で『声』という意味のシュティメが由来だ。
あ、俺の世界にあった国の一つの言葉な 。
《なるほど。》
女の子っぽい名前は嫌か?かっこいい名前が良いなら別のを考えるけど?
《いえ!この名前が良いです!》
お、おう。
即答された。
しかし、突然スキルが喋るって本当にあるんだな。
《それよりも貴方様。》
「すまん、貴方様ってなんかむず痒いからやめてくれ。」
《承知致しました。では、主様とお呼びさせて頂きます。》
「ええ・・名前でいいよ。」
《畏れ多くて出来ません。》
うん、もう好きにしたら?
《はい、有難う御座います。》
「それで?どうした?」
《はい、瞬間移動の事です。》
ああ、そうだっな。完全に忘れてたよ。
「えっと、基本的はどうすればいい?」
《目視にて座標指定或いはマップで座標指定が可能です。》
「オーケー。」
《おーけー、とは?》
「了解って事だ。」
《承知致しました。》
うっし、んじゃあやってみますか。
俺はとりあえず翼を広げて目視で空に向けて座標指定を行う。
二次元的、つまり平面的な座標指定のみが可能なのか
三次元的、つまり空間的な座標指定が可能なのか
どちらなのかを検証する為だ。
「高度指定1万ft(約3,000m)直上。」
《了承》
すると俺の視界が曲がり、気が付けば空中にいた。
「おぉ・・・これは凄いな・・・瞬間移動って便利だ。でもなぁ・・・」
《如何なされました?まさか・・・!私に何か御不満でも!?もしそうであれば何なりとお申し付け下さい!》
「いや、そうじゃなくて・・・瞬間移動って何か名称が長いな・・・と。それに、ちょっと恥ずかしいし。」
《それでしたら転移と改称されるのは如何でしょうか?》
「そうだな、それがいい。よし、次からは呼称を変えて転移にしよう」
《承知しました。》
そんな訳で転移が使用できる事が判明した。
後は数で圧倒的する為の手段だが、これにはちょっと思い付いている事があるのでそれの確認をしたいと思う。
どんな事かは本番までの秘密だ。
ー数時間後ー
「よし、こんなものかな。」
《お疲れ様です。主様》
「おう、ありがとなシュティ。」
《勿体無き御言葉。》
「何か慣れないなぁ・・それ。」
《御容赦下さいませ。》
俺は苦笑しながらシュティに話しかけるとシュティは相変わらずの口調で答える。
「まぁ、その内慣れるか・・・そういえばサティ達来なかったな。」
《そうですね。》
「ちょっと様子見てみるか。」
移動と有利な状況を作る為の手段の検証を終えた俺は、未だに来ていないサティとフェルの様子を見てみることにした。
俺はマップを広げてサティ達の反応を探す。
「お、あった・・・ん?何だこれ?」
だが、そこをよく見てみると何時もとは違い二頭の反応の周りに8つの反応があった。
それを見た瞬間、俺に直感が警報を鳴らした。
マズイ!何かはわからないが今あの二頭に関わらなければ必ず後悔する!
そんな思いが俺の中から生まれ、俺はただ黙って千里眼を使う。
「・・・・・・・・・あ"?」
俺は自分でも驚く程に
低く鋭い声が
無意識に口から溢れ出た。
千里眼を発動し
そこに映し出されたのは
血塗れになって倒れ、踏みつけられたフェルと
全身傷だらけになりながらも
倒れる事なく猛攻を受け続けるサティの姿だった。
ちょっと短めですが投稿しました
明日から1週間ほど投稿はしないと思います
御容赦を
誤字を修正しました(2017/12/1 10:35)