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シフト・ワールド  作者: 火鈴あかり
第三章
9/20

- 09 - 『仮定:別世界の存在』

「……で、なんでお前までついてくんだよ」


 あれから飯を食いに、ゲーセンを出た俺達だったが、おまけもついてきた。

 無視するように早足で歩いていたんだが、一向に諦める気配がない。しぶしぶ振り返った俺に、弓月は声を張り上げる。


「だから、お前に話があると言っているだろう!」

「十中八九どころか十割面倒事だろ。悪いが他をあたってくれ」


 それだけ言って踵を返すが、逃さないと駆け足で前に回り込む。


「すこしは人の話を聞けッ!」


 ……さっきのぬいぐるみを抱えたままな。本気で怒ってるみたいだけど、ぬいぐるみのせいで子供の駄々にしか見えん。


「大声で叫ぶな恥ずかしい」

「……けーちゃん、すこしは話聞いてあげてもいいんじゃない?」

「しょうがねぇなぁ」

「はぁ……はぁ……どうしてここまで捻くれてるんだ、お前は」

「ホントですね」


 おいそこの。本人を前にして陰口とかいい身分だなオイ。


「悪気はないの。ただお店までの間を繋ぐために、わざと無視してただけだから」


 そう言って指差すのは、風音がオススメする新しいカフェ。ちょうど着いたのか。って、


「……コミュ障なのか?」

「好き勝手言ってんじゃねーよお前ら!」


 というか風音、絶対話を切り出すタイミング見計らってただろッ?!

 乗せられた俺も俺だけど。クッソ、ハメやがったな、この野郎ッ?!


「まぁまぁ。立ち話もなんだし、続きはお店に入ってからにしよ?」


 というわけで風音に背中を押され、店内へと足を踏み入れた。



    ◆ ◆ ◆



 小洒落た雰囲気の店内は、まだ昼前ということで人はぼちぼち。

 席に座って電子メニューを眺めてみたが、正直メニューを見てもどれがいいのかわからないので、素直に風音オススメのランチセットを頼むことにした。


「で、話ってなんだよ?」


 注文を終えて席につくと、観念して俺から弓月に質問する。

 俺が思っているより、面倒な事じゃなければいいんだが。


「その前に、ひとつ質問していいか?」

「俺が答えられることなら。先に言っとくが、アイのことはあれから進展ねーからな」


 強いて言えば、昨日のウィルスにアイが極端な反応を見せた理由だが……別に掘り返すことでもないだろ。

 すると、弓月は気まずそうな表情を浮かべ、覚悟を決めたように問いかけた。


「……ケイ。お前は何者だ?」

「は? 俺は俺だけど。んだよ」

「いや、そういう意味ではなく。……お前は一体何者だと聞いている?」

「極々普通の高校二年生。趣味はゲームとプログラミング、あとARモデリング。人並みに漫画やラノベも嗜む程度の、どこにでもいる一般人だが。他に何かあるのか?」


 これ以上ない普通のプロフィール。……いやプログラミングとモデリングをかじってるのは普通の高校生に分類されるかは微妙だが。それをつらつらと述べた俺に、弓月は異を唱える。



「――何故そこに、お前の名が含まれない?」



 その弓月の異議に、一瞬場が凍りついたような気がした。

 それは弓月も同じく感じてるようで、気まずそうにしてながらも、質問の続きを語る。


「誰もお前の本名を知らない。生徒が知らないだけならまだしも、学校側も、戸籍上もだ。お前の存在は証明していながら、お前の名前だけは隠蔽されている。いかんせん、妙としか言いようがなくてな」

「……そういえば私も、ワールドの名前を知りません」


 ちらりと一同の目線が俺から風音に向く。

 だが、風音はただ笑うだけで、口を開くことはなかった。それで十分答えになってるけど。


「で、その質問の意図はなんだ?」

「……いや、すまない。前々から気になっただけだ。いかんせん、妙な話だと思ってな」

「なら答える必要はねーな。んじゃ本題と行こうぜ」

「そうか、わかった」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 気になります、その話!」


 あっさりと引き下がった弓月とは別に、食い入るように割り込んできたのはアイだ。

 相変わらず空気を読まねぇな。……いや、今回はそっちのが正しい反応だと思うけど。


「あのなぁ、アイ。いまの話の流れを読めよ」

「え? だ、だって……おかしくないですか?」

()()()()()()()()()()()()()()()、以上。名前なんてわかりゃあそれでいいだろ」

「……理由、ですか?」


 納得してないアイはさておき、弓月はそれで納得したようだ。さして重要な話でもないしな。

 どちらかといえば重要なのはこれからの話だ。


「で、本題はなんだよ?」

「ひとつケイの見解を聞きたいが……ケイは異世界というものを信じるだろうか?」

「俺が前に読んだラノベのタイトルで見たな。あんな世界は俺としちゃごめんだが」


 主人公が死に戻りするやつな。可愛らしいヒロインとのラブコメは魅力的だが、それ以上に何回も主人公が殺されてた世界。……あんな世界に転移するのは、俺はノーサンキューと言いたい。


「いやそうではなく。現象として、私達が住む世界と異なる世界の存在を信じるか?」

「なら異世界っつーなよ。別世界にしろ」

「……あの、ワールド。それ意味的に違うのですか?」

「現代存在する異世界っつー単語には異世界ファンタジーの省略形の意味しかねーんだよ。現実の話なら別世界の名称の方が正しい」


 横から風音に「ただのへりくつだと思うなぁ」と声が投げ込まれるが、ここは譲れん。異世界でネット検索してみろ。九十五割異世界ファンタジーの話だから。マジで。


「で、別世界だっけか。結論から言えば知らねーよ、んなの。風音は?」

「んー……あったらいいなー、とは思うけど……それがどうしたの?」


 突飛な質問に首を傾げる風音に、弓月はその意味不明な質問を踏まえた上で、続きを語った。



「そこにいるホログラムの正体が、別の世界から現れた存在だったとしたら?」



「……えっ?」

「……私が?」

「ああそうだ、風音。エメのアップデートしたいんだが、ちっと借りれるか?」

「あ、うん。わかった」

「おいッ!! 話を聞いていたのかッ?!」


 弓月の突飛な発言に無反応でタブレットPCを取り出した俺は、軽くいなすように話を続けながら、アップデートの準備を始める。


「うるせぇ聞いてるよ。で、それがどうしたんだよ?」

「……驚かないのか?」

「いや別に。ま、可能性としては十分ありえるかもな」

「いやけーちゃん、そこは驚くところだと思うけど」


 ぶっちゃけ驚いたのはアイの登場シーンの方だけどな。ホログラムとしていろいろ怪しいし、あれを考えたら、まぁ仮定としては十分考えられるだろうな。


「で、大層な前振りはもういいか? 俺からしたら気になるのはそっから先の話だけど。……あー、面倒だから聞きたくねーなぁ」

「そこから先?」

「お待たせしました、ご注文のランチセットです」

「お、待ってました」


 と、ここで注文していたランチセットが到着。

 サンドイッチにサラダ、ベーコンエッグ、コーヒーのセットだ。すこし軽い気もするが、こんがり焼けたベーコンエッグに、フレッシュな野菜のシーザーサラダは、確かに美味しそうだ。

 話の続きは食べながらに、ということになった。



    ◆ ◆ ◆



「で、さっきのが本題じゃないの?」

「いんや。アイが別世界の住民と仮定して、問題はどうしてアイがこっちの世界にきたか、だ」

「………………私が」


 そう。アイがあんなボロボロの状態でこっちにきた理由。……いや、一応説明したとはいえ、風音も弓月もその時の様子は見ていないから、わからないのも当然だとは思うけど。


「その話の前に、いくつか説明しなければいけないことがある」


 と、弓月は先の話に入る前に、いくつか事前知識として説明を挟む。


「まず、私の所属と、その目的についてだ」

「あー、なんだっけ? ウェーブポリス――」

「――特殊情報刑事課だ。当初はお前と彼女のことも怪しんでいたが……性格は置いといて、お前達は信頼できる人物だと判断した」

「おい」


 俺のツッコミを無視して、弓月は話を続ける。おい、性格って。


「だから、お前達には伝えておきたいと思った。……私達の所属する特殊情報刑事課は、未知の世界から現れる脅威に対抗するためのチームだ。……昨日のウィルスのような、な」

「……それって本当の話なの?」

「本当も何も……風音、お前自分の目で見たろ」

「確かに見たけどさ……だって現実味がないもん」


 普通のウィルスは、精々データに危害を加える程度。現実世界に影響は起こせない。……まぁ昨日のスピーカーみたいに、マシンを乗っ取った上で、悪意ある攻撃を仕掛ける可能性はあるが。

 広範囲における通信障害や停電まではわかるが、現実世界に発生した稲妻までは原理を解説できないしな。それも未知のウィルスなら理解……はできずとも、飲み込める程度にはなる。


「このARネットワーク構築以後、詳細不明の経路から未知のデータが現れるようになった。そのデータはARネットワークに対応していながら、存在が完全に独立していた。データを保存するための保存領域を必要とせず、例えるならば幽霊のような存在だったんだ」

「保存領域を必要としない? おい、嘘だろ? どっかにサーバーがあるんじゃ――」

「ない。……いや、正確には確認できていない、か。現状有力な説としては、ARネットワークと互換性のある、別次元の生命体……という説が有力だ」

「……? けーちゃんも弓月さんも、どういうことなの? よくわからないんだけど……」


 ありえるのか、そんな話? と、考え込む俺に、横から置いてけぼりを喰らった風音が問いかける。ああ、そりゃそうだよな。


「どんなホログラムでも、基本的に自分のメモリーチップにデータが保存されてるだろ。……それが言っちゃえばホログラムの現実世界における実体。それがなけりゃ、そもそも存在することができないはずなんだよ」


 そう言いながら、風音から預かったメモリーチップを見せつける。

 これが言っちゃえば風音のデータが入った保存領域で、エメを始めとした風音の所有するホログラムの実体。これがなければ、そもそもエメは表に出てこれないし、これが壊されるというのは、そのままエメが死ぬのと同意義だ。……自我があるホログラムは、自分自身で勝手にバックアップを取ってるみたいで、そのまま死ぬことはないけどな。


「え? でもアイちゃんはそこにいるよね?」

「はい」

「だーから驚いてんだよ」


 にわかには信じがたい話だが、実物が目の前にいるしな。

 それは納得した。とはいえ、どこかのサーバーにデータがあるものだと思っていたが……。まぁ世の中の偉大な学者は『見えないと始まらない。見ようとしないと始まらない』とか言ってた気がするし。そもそもアイが別次元の生命体という説を否定する材料もないしな。


「で、調査の関係でアイの存在を知って俺達に接触、そんなとこか。なるほどね」


 おおむね状況は察した。どうせ俺達が元凶に近い存在だと警戒してたんだろうな。

 起動したタブレットPCでアップデートの準備を進める間、俺は弓月に聞いてみる。


「そんな大事な話、俺達にしていいのか? 世間に知れたらひと波乱起きるぜ?」

「最初に言っただろう。性格はともかく、信頼できる人物だと」


 そこ強調するなよ。コイツのことだからどうせ悪気はないんだろうけど。



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