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シフト・ワールド  作者: 火鈴あかり
第三章
8/20

- 08 - 『休日のお出かけ』

 ――翌日。

 今日から待ちに待ったゴールデンウィークだ。つっても、やることが変わるわけでもないが。

 起きてから適当に飯をすませ、それからずっとパソコンの前で復旧作業。とはいえ進捗状況は悪い。そもそも警察はもちろん、その手の専門職ハッカーですら手を焼くプロテクトだ。多少プログラミングに自信があるとはいえ、ただの一般人に過ぎない俺が一昼夜で復旧できるような代物じゃない。


「はぁぁ……この調子で来週の日曜に間に合うのかね……」

「……? 来週の日曜日に何かあるのでしょうか?」


 ふとネットサーフィンを楽しむアイが、こちらに問いかける。

 ああちなみに。俺の心配はただの杞憂で、無事にアイは帰ってきたよ。……まぁ、事情聴取を受けたらしく、帰りはちょっと遅くなってたが。


「あぁ、ちょっとしたお祭りがな」

「祭り?」


 俺の軽い説明を受け、なおも首をかしげるアイ。

 詳しい説明をしようとしたところで、テロンとメッセージのポップアップが浮かび上がる。


【Wiz】けーちゃん、十時半集合だけど……忘れてない?


「ワールド、そのメッセージは――」

「風音からだな。……あぁ、そうか。もうこんな時間なのか」


 時間的には十時。まだ余裕がある。……まぁ、熱中してたら一時間とかあっという間だしな、念のためにメッセージを送ってきたのか。

 そんな風音のメッセージに、軽く返信を送り返す。


【Kei】忘れてねーよ。そっちも遅れんなよ。


 ……っと、これでいいか。ま、息抜きにはちょうどいいタイミングだしな。


「さーて。んじゃ、そろそろ出かける準備するとしますかぁ」

「外出ですか?」

「あぁ、風音とちょっと遊びにな」


 アイの問いかけに軽く返答を返し、出かける支度を始め――


「つまりデートですか?」

「はぁッ?!」


 突拍子もないアイの言葉に、素頓狂な言葉と共に振り返る。


「定義上は、『親しい男女が約束を取り決め、外へ出かけること』――らしいのですが」

「その情報源ソースは」

「先程ネットで見ました」


 おいィ先生ッ?! 無垢な少女アイに何吹き込んでやがるッ?!

 定義上はそうかもしれねぇが、その親しい男女の定義、十中八九恋仲のことだからな!?


 頭を抱える俺に、首を傾げる天然娘。……どう説明したもんかね、これ。


「アイ、勘違いするな。俺がこれから向かうのは、断じてデートじゃねぇ」


 はい? と声を漏らすアイに、俺はビシッと指をつきつけ、俺は大袈裟にもこう言った。


「――()()()




    ◆ ◆ ◆



 さて、季節は春。ゴールデンウィークだ。

 言っちゃえばただの連休に過ぎないんだが、名前がつけば一種のお祭りだ。ゴールデンウィークならではのキャンペーンがあちこちで行われており、街は人で賑わっていた。

 だが、そんなことは些細なことだ。風音と遊びに出かける時、最初にやることは決まっている。もはや恒例行事と言ってもいいそれは、紛れもなく戦いだった。


「……ワールド。これがワールドの言っていた戦争、ですか」


 横で見守る観客達も息をのむ戦い。誰も俺達を止められない。

 汗をかき、らしくもなく熱くなっている。負けられない戦いが、そこにはあった。


 激しい猛攻、渾身の一撃。読めるはずがない、不規則な動き。だが、それすらも風音の防御を抜けることができない。――攻撃が、通せない。


 互いによく知っている者同士、幾度と繰り返したこの戦い。手の内は全部知っている。

 それは風音も同じ。速攻も奇襲も強襲も風音には通用しない。必要なのは駆け引きと、その先にあるチャンスを掴むための手。天運。


 何度攻撃を繰り返しただろうか。気がつけば、残された時間はごくわずか。

 ここまでなのか。そんな時にやってきた最大のチャンス。見通せる。あの鉄壁の守護をやぶるルートが。だから俺は迷わず、手元に構えた弾丸を、ただ一直線に――射抜くッ!!


「いっけええぇぇぇぇッ!!」


 わずかな隙を通すように、ウィークポイント目掛け放たれた弾丸。

 それは壁で跳弾し、跳弾し、意識を撹乱させ背中を抜ける。鉄壁の守りを抜ける一撃。人間である以上目で追ってしまう、だからこそ反応が間に合わない――急所を突いた一撃ッ!


「――なッ」


 だと、いうのに。アイツは――ッ!

 バシッ! という音と共に、俺の弾丸を直に受け止めた。……受け止めやがった。



 俺の全力を込めたスマッシュを、その手に握り締めたマレットで。



 同時に尽きる時間。盤上に展開された空気が抜け、試合終了の合図が鳴り響いた。


「ふふ、ザンネンだったね」

「くっそおぉぉぉぉぉッ!!」


 最終的なスコアは八対九。

 俺と風音の()()()()()()()()()、俺の負けという結果で幕を閉じた。


「……確かにすごい試合でしたけど……なんですか、これは」

「見りゃわかるだろ。エアホッケーだよ」


 風音と会った後、毎回最初にくるのがここ、地元のゲームセンターだ。

 小学何年だったかの時に遊びにきたのが最初。俺がレゲー好きってことを知って、風音が教えてくれたんだっけか。……何故か最初に選んだ筐体が、このエアホッケーだった気がする。

 いつからだったか、出かける時には昼飯を賭けてこのエアホッケーをプレイするのが恒例になっていた。当然やるからには誰だろうが手加減はしねぇ。昼飯もかかってりゃ尚更だ。……まぁそう言いながら負けたんですけどね。めっちゃ悔しい。


 ……だが、もちろん負けたままじゃ終わらねぇ。むしろ、これからが本当の戦いだ。勝って上機嫌な風音は、ふふんと鼻を鳴らし、俺に問いかけた。


「それじゃ、次は何のゲームをする?」



    ◆ ◆ ◆



 んなわけで。

 あれからどれだけ遊んだだろうか。気付けば結構な時間が経っていた。


 俺達の戦争バトルは激戦も激戦。一位と二位を争う壮絶なカーチェイスの末に俺が逃げ切れば、音ゲーでパーフェクトを決められスコアで完敗し、陣取りゲーム(MOBA)では同じチームなのに貢献度で争う始末。ちなみに試合には勝ったが、貢献度では風音に負けた。ちくしょう。


「はぁぁ……風音、そろそろ昼飯にしねぇか?」

「えー、あたしはまだまだいけるよ? お昼にはちょっと早いし」


 まだまだ元気な風音だが、悪ぃ、俺はもうギブだ。ゲームとはいえ、毎回毎回全力でってりゃ疲れも溜まる。……一番の原因は最初のエアホッケーだとは思うが。

 疲れた顔を浮かべる俺に苦笑すると、「ウソウソ、冗談だって」と立ち上がった。


「この前できたカフェなんだけど、ランチがおいしくてオススメなの。今日はそこにしない?」

「なんでもいいが。でも、お前よくいろんな店知ってるよな」

「ラジオでも放送でも、話題は大事だもの。オススメスポットならまず食を抑えるのは基本中のキホンってね」


 そういうとこ、ホント情報早いよな。……いや、勉強熱心なのか?

 たまに付き合わされることもあるが、新しい店の情報とかどこで仕入れてるのやら。

 まぁ、わざわざ風音がピックアップするくらいだ。どんな飯が食えるのか楽しみだ……って、あれは――


「くっ……これは本当に取れるようになっているのか……!?」

「………………こんなとこで何してんだ、弓月」

「……はぅっ?! な、なんだ、お前達か」


 クレーンゲームんとこに見覚えのある人影が、と思ったら弓月じゃねぇか。

 変な声を漏らし、顔を真っ赤にして取り繕う。挨拶がてらに声をかけただけだったんだが。


「あ、弓月さん。奇遇だね、なにしてたの?」

「い、いや、これはたまたま立ち寄っただけ――」

「かわいいですね、このうさぎのぬいぐるみ。……『デビット&ラビット』? ですか」


 ……おい、天然娘。すこしは空気を読んでほしいんだが。

 クレーンゲームの景品は、ちょい悪ぶってる可愛いうさぎのぬいぐるみだ。『アクマでウサギ。』とかいう、結局どっちなのかよくわからないキャッチコピーがついている。


「………………」

「いや、その、そんな目で見るな。気になっただけで、別に欲しかったわけでは――」


 ふむ。状況からするに、このぬいぐるみ目当てでプレイしていたが、落とせてねぇ、と。そんなところか。強がってはいるものの、欲しいのが透けて見える。


「ま、たまにはクレーンゲームも悪かねーか」

「……おい、何を――」

「なーにキョドってんだよ。別に俺がやっても構わねぇだろ」


 と、財布から百円玉を取り出し、筐体に投入する。ま、たまにはな。

 見た感じ、配置は良好。難しいどころが簡単に見える。おおむね首から胴体にかけて挟み込み、持ち上げようとしたんだろうが――こういう時の正攻法は、


「……あっ」


 俺の狙い通り、アームの動きによって態勢を崩し、転がり落ちるぬいぐるみ。それがふたつ。こういうのは持ち上げるんじゃなくて、ずらして落とすのが正攻法なんだよ。

 景品を受け取った俺は、ひとつを手に、もうひとつを弓月に差し出した。


「ほら。欲しかったんだろ」

「あ……い、いいのか?」

「ふたつあっても場所取るだけだしな」


 おずおずとぬいぐるみ受け取ると、小さな声で何かをつぶやいていた。何言ってたか聞こえなかったが、まぁなんとなく予想はできる。


「……けーちゃん、素直じゃないなぁ。そのぬいぐるみどうするの?」

「いや、なんか勘違いしてね? 最初から俺が欲しかっただけだし」

「あれ、そうなの? ちょっと意外かも」

「……ま、モデリングの参考にな」


 二個目を狙ったのは確かだけど。……どっちかといえば、いまも興味深そうに視線を向けているこの天然娘の方が理由だと言っておく。



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