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シフト・ワールド  作者: 火鈴あかり
第二章
7/20

- 07 - 『未知のウィルス』

 廊下を走り抜け、扉の開いてる教室を横目で見てみるが、どこにもいる気配がない。

 アイのヤツ、どこいったんだよ……この先は屋上しかねぇぞ……?

 だが、そこで屋上への通路が開いてることに気がついた。っつーと、あいつはここかッ!


「おい、アイ、どうし――」


 ピリピリと走るノイズ、強まる稲妻。通路の上には、扉を開けようとしているアイの姿。

 開かないことはわかってんのに、強引に開けようとしているその姿は、ホログラムとしては違和感しかなかった。……同時に、俺も階段を駆け上がり、屋上で何が起きてるのか確認する。


「おい、アイッ!」

「……わ、ワールド……どうして――」

「急に走り出したお前の方が『どうして』だよッ! なんだ、外で何か起きてんのかッ?!」


 アイをすり抜け、扉の窓から屋上の様子を覗き込むと、そこでは――


「……ッ!? おい、弓月じゃねぇか?! ……それに、あれは――」


 屋上では、昨日出会った黒髪の自称警察少女、弓月と、アイツの召喚したゴーレム。

 何かと戦ってるみたいだが、ここからじゃ見えない。空中からの攻撃に苦戦を強いられているみてぇだが――何と戦ってるんだ……?


「ワールド、ワールド、助太刀しないとっ!」


 様子のおかしいアイの言葉を聞き流し、何が起きているのか状況を考える。

 ……状況は不利。飛行アビリティのないゴーレムがサンドバックみてーな状態か。レーザーで反撃はしてるが、やられるのも時間の問題にしか見えねぇ、けど――


「ただのバトル、っつーわけじゃなさそうだな。っつーと、――いや、まずはこの扉か」


 ガチャガチャとノブを回すが、扉は開かない。……クソ、またロックか。

 とはいえゆっくり解除している暇はなさそうだ。なら、強硬手段しかねぇなッ!


「アイ、ちっとどいてろッ!」


 扉から一度距離を起き、助走をつけて体当たりをぶちかます。

 ……一回。……二回。……三か、ィッ?!


「いっでッ?!」

「……ッ!? 何者だ?! って、な――ケイ?! 何故ここに――」


 扉を強引に打ち破り、地面に打ち付けられた身体。

 昨日風音が強引に扉を開けてたし、できるとは思ってたけど――思った以上にこじ開けれねぇもんだな。……いや、こんなんじゃ開かねぇのが普通なんだけどさ。


「話は後だ、前見ろ、前ッ!」

「ッ! アイン、アース・プロテクトッ!」

「――――――ッ!!」


 空中から乱射される紫炎の弾幕を、巨大なゴーレムが張ったバリアが受け止める。

 爆煙のエフェクトが止んだ後、いままでこいつらが戦っていた相手をようやく目にした。


 ――それは、例えるならば――黒い花のようにさえ思える、異質なモンスターだった。


 ところどころテクスチャーにノイズが走る、黒いしなやかなフォルム。花びらが伸びる中心の紫の光は、瞳のようにも、口のようにも思える。いままで見たこともないような存在。


「なんだこのモンス……いや、もしかして――こいつ、ウィルスか?」

「……あぁ、そうだ。ここ周辺に強烈なノイズを撒き散らしている元凶だよ」


 最初から人に害なす目的で作られたプログラム。

 誰が撒き散らしたのかは知らねぇが、さっきのスピーカーのノイズは、コイツが――


「……世界を喰らう者……『EATERイーター』……ッ!!」

「……は?」


 そんな時、後ろからアイの声が聞こえてきた。

 いままで聞いたこともないような、怒り狂うような憎悪に満ちた声。一体どうし――


「あっ、おいッ!!」


 衝動に駆られるまま、飛び立つ少女。

 両手両足に光の輪を浮かべ、黒い花のウィルスに突撃するアイに、俺の声は届かない。


「おいッ! 帰ってこい、アイッ!!」

「――キュルルルルルル……」

「――はあッ!」


 放たれる紫炎の魔弾の乱射。

 標的目掛け放たれる攻撃に対し、アイは両手の光の輪を広げ、障壁を展開する。

 正面から受け止めたアイは、爆煙のエフェクトを突っ切って、特攻をかける――が、おいバカッ!


「アイ、下がれッ!!」

「……っ!? ぐっ、あっ、あぁッ?!」


 ――俺の予測から指示を声にするが、間に合わない。

 爆煙を振り切ったアイへ、鞭のようにしなる黒い蔓が叩き込まれる。不意の一撃。

 怯んだ身体にさらに連続で叩き込まれ、轟音と共に屋上へと撃ち落とされる。


「アイ、大丈夫か、アイッ!!」

「く、ぅぅぅ……」


 返事があるあたりまだ無事みてぇだが……起き上がれないようだ。相当ダメージがあるな。


「あいつは……あいつだけは、倒さないと……ッ!!」

「おい、落ち着け、アイ。無理すんな」


 動けない身体を起こし、また立ち上がろうとするアイをなだめる。

 なんでコイツがここまで取り乱しているかはわかんねぇが――


「ケイ、その子を連れてここから逃げろ。ここにいても邪魔なだけだ」

「……ホログラムだからさわれないんスけど」

「……あ、ああ。……そうか、そうだったな」


 嫌味か、コイツ。わかってて言ってるんじゃねぇの?

 再び放たれる猛攻をゴーレムが受け止めている間、弓月に問いかける。


「なんか方法はねぇのか? こないだみたいにアイツにハッキングするとか――」

「いまやっている、が……期待できそうにないな。お前のデバイスみたいに、セキュリティのひとつも入っていなければ楽だったんだがな……」

「おい、昨日ノーガードだったのは初期メモリーのままだったってだけだかんなッ?! いまはちゃんと入ってるからなッ!?」


 昨日、あれだけあっさりハッキングされたのは、まぁそういうわけだ。

 ぶっちゃけ大事なデータも入ってないし、急ぐ必要もないだろ、っつーわけで不貞寝した結果。決して俺のセキュリティ意識がガバガバなわけじゃないことだけは伝えとく。


「あれだ、他の警察連中に伝えるとかは――」

「あのウィルスのせいで、ここ周辺で通信障害が起きている。現在ツヴァイが向かっているが、もう少し時間がかかるだろう」

「……クッソ、手詰まりか……」


 悔しいが、いまの俺にはなんもできねぇ。

 こういう時、パートナーがいればなんとかなったかもしれねぇのに……クソッ!


「……ケイ、悪いことは言わない。ここから早急に逃げろ」

「はぁッ?!」


 戸惑う俺に、弓月のヤツは有無を言わさず、自分の警察手帳を押し付ける。


「学校の者に避難勧告を伝え、早急にこの学校周辺から退避してほしい。これを見せれば、例えお前の指示だとしても従うはずだ」

「なんで俺が――」

「……私はこの場を離れられそうにない。悔しいが、お前しかいないんだ」


 俺の返事を聞かず、再び黒い花に向き直る弓月。

 勝ち目がないのは明らかなのに、それでも時間だけでも稼ごうとするアイツの背中を見て、俺は――さっきから内心思っていたことを、爆発させる。



「ざっけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」



「……!?」

「あぁッ!? なんでてめぇひとり残して俺が逃げなきゃいけねぇんだよッ?! しかもさっきからさらりと毒吐きやがって、てめぇなんかの指示に従うなんて死んでもゴメンだねッ!! ここにはアイも残ってんだぞッ!? 置いて俺一人で逃げるわけねぇだろうがッッ!!」


 ――もう限界だ。さっきからイライラして仕方ねぇんだよッ!!

 怒涛の怒声に返す言葉もなく、呆然とする弓月のヤツに警察手帳を投げ返し、今度はてめぇだとアイに指をさす。


「アイ、てめぇもだッ! 何勝手に突っ込んでやがるッ!! 勝手に暴走して迷惑かけて、おまけに何の成果も得られなかった? あんな突撃したらどうなんのか予想もつかない、指示も聞かないとか、ふざけてんのかッ?! そんなんでアイツをぶっ倒す気があんのか、あぁッ?!」

「ワール、ド……?」


 そして、何よりもだ。

 自分勝手なコイツらもだが、一番ムカつくのは――決まってんだろ。


「そして……てめぇだ、そこの黒いのッ!! よくも俺のゲームを妨害してくれたな……今日は倒せる直前だったんだぞ、お陰で連敗記録更新中だ、どうしてくれる?! 風音のヤツまで巻き込みやがって……てめぇだけは絶対に許さねぇッ! てめぇは俺がぶっ倒すッッッ!!」


 そんな怒りの言葉を聞いているかもわかんねぇ、この黒い花のウィルスだろうがッ!

 てめぇのせいでどんだけ迷惑かけられたか知ってんのかッ?! つか現在進行系で迷惑かけられてんだよッ!!


 だが、いままで呆然と俺の怒声を聞いていた弓月のヤツが、問いかける。


「……し、しかし、お前のパートナーは――」


 データが破損し、今はいない。

 そう思っている弓月に、不敵な笑みをこぼし、言葉を紡ぐ。



「一匹残ってるぜ。……俺と同じで、最ッ高にムカついてる、翡翠の騎士様がなッ!!」



「けーちゃんっ」

「きゅうううッ!!」


 こんなジャストタイミングに現れた、風音とエメ。

 やっぱ最高だぜ、お前ら。わざわざ聞こえるように大声張り上げた甲斐あるってもんだ。


「風音、エメを借りるぞッ」

「うんっ」


 風音の返事と共に、当然のようにエメも俺に付き従い、戦闘態勢をとる。

 戦わせろ、と訴えかけるエメの眼差しに苦笑し、倒すべき敵を見上げる。


「久々のコンビだな。調子はどうだ、騎士様よ?」

「ぐるるるるるる」


 俺の問いかけに、唸り声を返すエメ。コイツも俺と同じで、相当ムカついてるな。

 護るべき風音おひめさまの放送を妨害され、しかもあんな目に遭わされたんだ。当然だよなぁ?


「ははっ、聞くまでもねぇよな。……アイツをぶっ倒すぞ、エメッ!!」

「きゅうッ!!」


 遊びは終わりだ、とも言わんばかりに、再び紫炎を灯らせる。

 ……さぁ、ぶっ飛ばしてやろうぜッ!


「エメ、スピード・スターで一気に突っ切れッ!!」

「きゅうッ!」


 舞い散る星のエフェクトを纏い、一気に空を駆けるエメ。

 体格差は歴然。あまりに小さな騎士様と黒い花の怪物との差は、笑えてくるほどだ。


「おい、ケイ、無茶だ! あんな小動物に倒せるわけがない!」

「はぁ? てめぇこそ、エメを舐めんじゃねぇッ!」


 静止の声を上げる弓月だが、そんなの無視だ無視。

 確かに見た目は可愛らしい小動物だけどな。ただ可愛いだけのペットじゃねぇんだよ。

 俺が信じ、見つめるエメは、あんな図体がデカいだけの雑魚に怯えやしねぇ。


「――キュルルルルルルルルル……」


 放たれる弾幕。迫り来る小さな流星に向けて放たれる紫炎。

 それを見ても速度を落とすどころかさらに加速するエメに、ニヤリと笑みを浮かべる。

 響き渡る爆音。屋上に降り注ぎ、爆発のエフェクトが目に刺さる。

 普通に考えりゃ、ただの小動物は避けきれず、落とされても不思議じゃねぇが――


「……なっ」

「……えっ?」


 俺と風音は当然のように見つめ、エメの実力を知らないアイと弓月は驚愕の声を漏らす。

 それも当然だ。なんせ――あの弾幕を、さも当然のように避けているんだからな。


「エメ、聞こえているなッ?! 十五秒で一度離脱、それまでは様子見でぶっ飛ばせッ!!」


 全てを軽々と避けきったエメに向けて、指示を叫ぶ。

 それを聞いたエメは余裕とばかりに、可愛いアイコンを送りつけて、再加速。一気にウィルスとの距離を詰める。


「……っ! あぶな――」


 だが、近づけば黒い蔓による迎撃。

 撃ち落とすように振るわれた蔓に、アイが思わず声を上げる――が、


「ははっ、あんな攻撃当たるわけねぇよなぁ!」


 びゅんびゅんと振るわれる蔓の鞭。だが、そんなの当たるどころか掠りもしない。

 見ている側からすれば、一瞬で広範囲を薙ぎ払う鞭。だが、エメは「ねぇどんな気持ち?」とばかりに嘲笑うように避け、攻撃の隙目掛け、体当たりをぶちかます。


「――キュル、ル、ルルル?!」

「……?!」


 揺らぐ巨体。その光景に、二人が思わず目を丸くする。

 ありえねぇ? いや、知ってんだろ、あいつの馬鹿力パワー。このすっげぇ重たそうなゴーレムを、()()()()()()()()()()()()()()()()んだからな。それよりも――


「おい弓月、アイツはバリアとかヒールとか、それっぽい行動は見られたか?」

「あ、いや……それらの行動は見ていないが……あの感じ、自然回復リジェネ体力吸収ドレインのアビリティを所持しているはずだ」

「おっけ。エメ、リジェネとドレイン、どっちに見える?」


 ローカル通信を通じて、マイク越しに伝えた俺の言葉に、ハートのアイコンが送られてくる。なるほど、リジェネか。


「なら問題ねぇな。次の一撃でぶっ飛ばすぞッ!」


 俺の言葉に同意するように、グッドサインのスタンプ。可愛いヤツだぜ。

 蔓をかわし、一度距離を離したところに、再び浮かび上がる紫炎の弾幕。……きたか。そろそろだと思ってたよ。クールタイム的にな。


 だが、普通なら脅威の弾幕だろうが、エメにとっちゃ足止めにもならねぇ。攻撃の準備に合わせ、エメも次の一撃へと準備を備える。

 風を纏い、星と輝き、怒りの丈を力と変える。ブースト全開、最大火力でぶっ飛ばすッ!!


「エメッ! シューティングッ・タックルッッッ!!」

「きゅううううううううううううううううううううううううううッッッ!!」


 紫炎が放たれる、それと同時。

 可愛らしい鳴き声と共に、全速力の流星が――全てを置き去りに、落ちた。


「――キュ、ル、ル、ルルル、ル、ルルルルル、ルルルッ?!」


 決着は一瞬。

 紫炎の弾幕が動き始めるよりも先に、空を駆ける流星が、一撃で急所を穿ち、突き抜けた。

 奇怪な悲鳴と共に、崩壊し、崩れ落ちる。まるで焼き焦げる草花のように、煙を上げて。

 不気味さを感じる散り際を眺め、全てが消え去った後、やっとこ息を漏らした。


「きゅうっ!」

「おう、おつかれさん。さっすがエメ、楽勝じゃん」

「きゅううっ」

「けーちゃん、エメ! はぁ、よかっ、たたっ?!」

「あっ、おい」


 俺達に駆け寄ろうとして、転びかけた風音。とっさに身体を受け止める。


「なにやってんだよ、まったく。無理すんなよな」

「あはは、へーきへーき。いつまでもぐったりしてらんないし」

「そうか。……アイ、そろそろ動けるか?」

「……あ、はい。……まだすこし痛みますけど……問題ありません」

「話は色々あるけどな、無茶してんじゃねぇよ」

「……申し訳、ありません」


 ふらふらと立ち上がり、痛々しい様子でこちらに寄ってくるアイ。

 なんであんなに取り乱したのか聞こうと思ったけど、まぁそれは後でにすっか。


「とりあえず……まずは保健室だな。ほら、おぶってやるから」

「私は大丈夫だよ? それにおんぶとか、誰かに見られたら恥ずかしいし……」

「歩けんなら別にいいけどな。大丈夫でも一応見てもらえよ。……そういや、今日の授業はどうなんのかね? できればもう帰って寝たいんだが」

「あはは、そうだね。授業なしになるといいね」


 まぁ、なんてことはない。

 終わってみればいつもの日常だ。先程までの戦闘の痕跡もない屋上を後に、歩き出す。


「ケイ!」

「ん? なんだよ」


 声をかけられ、振り返る。その場に立ったままの弓月。

 上手く言葉にできないのか、口をぱくぱくさせていたが、改めて想いを言葉にする。


「その……すまない、助かった。ありがとう」

「おう」


 別にお前に感謝されたくてやったわけでもねぇからな。

 軽く返事を返し、それ以上は何も言わず、この場を立ち去った。



    ◆ ◆ ◆



 んなわけで、保健室の先生に「異常なし」のお墨付きをもらい、保健室を後にする。

 ちなみに、残った授業はチャラになったらしい。もう生徒達は帰宅して、代わりに警察の人が慌ただしく歩き回っている。


「ま、これで一件落着か。後は警察に任せて、俺ら一般人はさっさと退散するとしますか」


 こういう時は、面倒事に巻き込まれる前にさっさと帰るに限る。

 玄関へ向かう間、風音がふと俺の肩に乗ったミニサイズのアイに話しかけた。


「ねぇ、アイちゃん。さっきはどうしたの? すごく取り乱してたみたいだったけど……」

「……そういやお前、あのウィルスのこと、何か知ってるみたいだったよな。何か思い出したのか?」


 そんな俺達の質問に、気まずそうにうつむくアイ。

 しばしの沈黙を置いて、アイは静かにその口を開いた。


「………………思い出した、とは、違うのですけど……」

「ん?」

「……あの屋上で見たモンスターに、よく似たモンスターを、夢で見たんです」

「夢?」

「それって、こないだ言ってた夢のことか?」


 俺の問いかけに、静かにうなずく。


「ピリピリと肌に感じる、あのノイズ。そして、全てを喰らい尽くすような、黒い巨大な影と、紫の炎。夢の状況と全く同じでした。あのまま放っておいたら、ワールド達はもちろん、世界を崩壊させる……そんな災厄に違いない。……そう、思ったんです」


 言葉の隅々から感じ取れる、憎悪と恐怖。

 どんな夢を見たのか俺は知らねぇけど……その感情は本物だ。だけどな、


「ただのウィルスだろ? 世界を崩壊させる、なんて言い過ぎだろ。それに、あいつらは俺らが倒したんだ。もう問題ないだろ?」

「……そう、ですね……」


 まぁ、もしコピーがばら撒かれたら、ちっと脅威――かもしれねぇな。

 とはいえ、シフト・ワールドをベースにしたホログラム・ウィルスだ。プロテクトの面からも複製はできないだろうし、もしプロテクトを解除してコピーしたとしたら、対策も非常に簡単になる。あんなウィルスで世界が崩壊するなら、とっくに世界は滅んでるよ。


「だいじょーぶ。いざとなったら、エメとけーちゃんがなんとかしてくれるしねっ」

「きゅうっ」

「……ありがとう、ございます」


 俺達の言葉を聞いても、まだ不安は拭いきれないみてぇだが……それはアイ自身の問題か。とりあえず、一旦風音と別れ、靴を履き替える。


「……あの黒い花ウィルスが……黒い影の正体、だったのでしょうか……?」

「ん? なんか言ったか?」

「いえ、なんでもありませんよ」


 ……そうか、まぁなんでもないんなら別にいいけど。

 さて、今日は疲れたな。さっさと帰ってゆっくり休むとすっか。って――


「って、やべッ! ブレーカー落としたの俺だって先生に伝えんの忘れてたッ!」


 あー、そういや伝えなきゃなぁ、とは思ってたんだが。……めんどくせぇなぁ。最悪、このまま事情聴取で帰宅が夕方になるパターンじゃん。行きたくねぇ。


「ワールド、その件は私が担任の方に伝えてきます。自宅の座標は覚えているので、私のことは気にせず、先にお帰り下さい」

「ん、マジか。やー助かるわ。んじゃ、頼んだぜ」

「アクセプト」


 というわけで、アイの背中を見送り、俺は風音と共に帰宅することにする。無事帰ってこれるのか、ちっとばかし心配だが。


「お待たせー……って、あれっ? アイちゃんは?」

「ちょっとアイツに伝言をな。そしたら一人で帰れるから、俺は先に帰ってろってさ」

「んー、そっか。それじゃあ仕方ないね」


 俺の言葉に納得すると、横に並んで昼過ぎの学校を後にする。


「……あ、そうだ。けーちゃん、明日って暇ある?」

「復旧作業があるけど、基本暇だが。……なんだ?」


 俺の返事を聞き、どこか顔を綻ばせると、風音は俺の前まで駆け出し、太陽のような笑顔で俺に問いかけた。



「――せっかくだし……暇なら明日、二人で遊びにいかない、かな?」




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