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シフト・ワールド  作者: 火鈴あかり
第二章
6/20

- 06 - 『事件発生』

『――みなさーん、こんにちはっ! 放送部の新道ですっ! 明日からはゴールデンウィーク。みなさんはどう過ごすか、予定は決まりましたか? 本日の放送では、このゴールデンウィークの間遊びに行くならもってこいのオススメのスポットをご紹介しますっ!』


 んな他愛もない会話をしていると、スピーカーから聞き慣れた声が響き渡る。

 思わず声の方向に目を向けるアイに対し、俺は相変わらずゲームに専念。どうせゴールディンウィークっつってもどっかに出かける予定はない。復旧作業がなくても、中古で買った一昔前の名作レゲーを、自宅でたっぷり堪能する予定だったからな。


「ワールド、いまよろしいですか?」

「~~~~~ッッ、大ッ変よろしくなくなったッ!! で、なんだよッ」


 重い一撃を喰らい瀕死状態。だが、相手が怒り状態で回復する隙がなく、必死に回避に徹しながらアイに聞き返す。


「今更ですけど、風音とワールドはどういう関係なのでしょうか?」

「親友、っつーか幼馴染? 昔からの腐れ縁だ、よッ」

「そうだったんですね。とても親しい関係に思えたので、てっきり付き合っているのかと」

「はぁ!? ――ってはぁッ!?」


 アイの言葉に反応した直後、不意の一撃によってノックアウト。


「……訂正します。お二人の関係が恋人のように見えたのですが」

 拠点に乱暴に投げ出されるキャラクター。……アイ、その追撃はいらねぇよ。

「はぁぁ……ねぇわ」

「それは私の発言が、でしょうか? それともゲームの方が、でしょうか?」

「……どっちもだよ」


 確かにお互い気遣いする必要もないくらい信頼できる間柄なのは否定はしねぇが、そこに恋愛感情なんてないし、考えもしねぇよ。

 ため息と共に、強化アイテムで態勢を整え直し、再び先程戦っていたエリアへと移動する。このペースだと時間よりも、油断してクエスト失敗の方が怖ぇな。……とはいえ、いかない選択肢はないんだが――っと。


「お、寝てんじゃん」


 無防備にも、エリアで休息を取っているモンスターを見つめ、しめしめと忍び寄る。

 さっきは迂闊にも死んじまったが、もうそこまで追い詰めていたらしい。武器を構え、すやすやと寝息を立てるモンスターに向け、渾身の一撃を叩き――


『――……ゴー……ザザ、ークという……で、……ザ……園では、ザザザ――』


「……あ?」

「……ッ!! ワール、」


 こもうとした、その時。流れる放送にノイズが混じり、何事かと顔を上げた――瞬間。



 ――キィィィィィィィィィィィン!!



「っぅぅぅぅッ?!」


 つんざくような耳障りな音色に、顔をしかめ、目を見開く。

 あまりに強烈な音にゲーム機の操作を放棄し、耳に手を当てる。んだ、何事だ、これはッ!?


「ワールド! 大丈夫ですか、ワールド!」

「見りゃあわかるだろッ?! 大丈夫じゃねぇに決まってんだろッ!」


 動揺し問いかけるアイに対し、気合で声を張り上げる。

 なんだ、スピーカーの故障かッ?! それとも風音のヤツが何かやらかしたのかッ?!

 顔をゆがめながら、歯を食いしばり、必死に耐える。このままだと、耳がおかしくなっちまう。どうにかしねぇと――ッ!!


「ぐぅぅッ……アイ、学校のブレーカーを落としてくれッ!」

「ブレー、カー、ですか?」


 その場で慌てふためくだけのアイに向かって、現状打開の方法を叫ぶ。


「一階にブレーカー室があんだよッ!! 学校の電源落とせば、この音も止むはずだッ!!」

「で、でも、扉のロックが――」


 あぁそうだ。扉にはロックがかかっており、操作するにもパスワードはわからない。

 ブレーカー自体はホログラムでもパネル操作できるが、ロックのかかった扉は抜けられない。……でも、その点に関しては問題ないはずだ。


「くぅぅ……! 大丈夫だ、行けばわかるッ! 頼む、さっさと行ってきてくれッ!」

「……アクセプト。もうすこしだけ辛抱を」


 そんな俺の言葉に半信半疑ながら従い、俺が這って開けた扉から駆け出してゆく。

 俺の予想が正しければ、パスワードを知っているアイツが向かっているはずだ。頼む、なんとかなってくれ……ッ!!



    ◆ ◆ ◆



 あれから数時間――とも思える数分間。

 突如として、学校全体の電気が消え、同時にスピーカーの音が止まった。


「……はぁ……はぁ……なんとかなったみてぇだな……」


 恐らく、アイとアイツが上手いことやってくれたのだろう。やっとこ落ち着いた学校に、俺含め、教室の生徒達が安堵する。

 まぁ、強硬手段なんだけどな。……学校でパソコンを使っていたヤツには悪いが、今回は必要な犠牲だと思って諦めてくれ。


「……って、くそっ……今日もまたクエスト失敗かよ……」


 俺も軽微ながら犠牲を受けた。数十分の激闘が無駄に終わったしな。

 クエストに失敗し、街へ戻っていたゲームを眺め、ため息をつく。……先日から妨害を受け続けてんだが。なんでしょうかね、呪われてるんですかね。……はぁ、まじはぁ。


「っと、それよりも! 風音は大丈夫だろうな!?」


 嘆いたところで時間は帰ってこない。

 そんなことよりも、風音が無事かどうかの方が心配だ。放送室でダイレクトに聞いてたんだ。嫌な予感が脳裏をよぎる。衝動に駆られるままに、急いで教室を飛び出した。



    ◆ ◆ ◆



「――っと、アイ! それにエメも! 助かったぜ!」

「はい。この子のお陰です」

「きゅう!」


 階段が見えてきたタイミングで遭遇した一人と一匹に、言葉をかわす。

 エメがブレーカー室に向かっている、っつー予想は当たってたらしい。コイツのことだから、放送室でどうにもできないと気付いたら、そっちに向かうと思っていたが。


「でもこの子、パネルの操作はできないんですね。扉の前で立ち往生してました」

「……エメとはバージョンが違うから、最新バージョンのパネルにゃ対応してねぇんだよ」


 いままでは問題なかったんだが、こないだセキュリティ強化の一環で最新のものにバージョンアップされたからな。過去の一件でパスワードは覚えてたが、開けられなかったのか。


「きゅぅぅ……」

「悪ぃ悪ぃ、わかってんよ。暇ができたらバージョンアップしてやっから。それよりも、風音は大丈夫なのか? またアイツ、なんかやらかしたのか?」

「きゅううッ!!」

「……その反応じゃ、風音は関係ねーみてぇだな。……んだよ、一体何が――って……」


 エメに事情を聞きながら、階段を駆け上がる。

 電気が消えた三階の様子を階段から見上げ、思わず言葉を失った。


「これ……あん時の超常現象か……?」


 三階の天井をバチバチと走る稲妻。明らかに異常な現象は、先日のアイが現れた時の現象とよく似ている。強いて言うなら、俺の部屋だけだった時と違い、規模が違いすぎることだ。


「……映像は乱れてねぇし、バグる様子もねぇが……とにかく、放送室に急ぐぞ!」

「きゅうッ!!」


 クッソ、今度は一体何が起きてんだよッ!?

 とりあえず、ここは危険だ。風音のヤツを連れて、下に避難しねぇと――


「おい、アイ、急がねぇと置いてくぞッ!?」

「えっ? あ、は、はい、いま行きますっ!」


 ……なんだ? アイのヤツ、なんか気にしてるみてぇだが――いや、話は後で構わねぇよな。

 部屋に引き篭もってるのか、既に避難したかわかんねぇが、人気のない三階を走り抜け、放送室へと向かった。



    ◆ ◆ ◆



「おい、風音ッ! 無事かッ!?」


 勢いよく扉を開け、暗い放送室に叫ぶ。

 真っ先に目に入ったのは、部屋の惨状よりも、地面に倒れたままの生徒。姿はハッキリとは見えないものの、こんな場所にいるヤツなんか一人しかいねぇ!


「おい、しっかりしろ、風音ッ! 俺がわかるかッ!?」

「……ぅ、ぅぅ……けー、ちゃん……?」

「はぁ……無事みてぇだな、心配かけやがって……」


 とりあえず、一安心、か。……滅茶苦茶あせったぞ、この野郎。

 いまも天井でバチバチいってる稲妻を一瞥し、風音を抱きかかえ、立ち上がる。

 ……軽いな。……とか言えないあたり、俺の筋力のなさに泣けてはくるが。


「……ぅ、ぅぅ……まだ耳がキンキンする…………」

「とりあえず、こっから避難すっぞ。何が起きるかわかんねぇしな」


 この現象も気になるけど、風音を安全なとこに移動させるのが先だ。

 先行するエメに次いで、俺も階段へと急いで向かう。


「この嫌な感じ……身に覚えが……」

「……? おい、アイ。さっきから様子がおかしいけど、大丈夫か?」


 なんだ? 俺の問いかけも耳に届いてないようで、ただ後ろでぶつぶつ何かをつぶやくアイに、首を傾げる。まるで何かに怯えるみたいな――そんな、


「……ッ! ……もし、かして……この、感覚……ッ!!」

「あっ、おい! どこに行くんだよッ!?」


 だが、急に意味深な言葉を残し、廊下を一気に駆け出した。

 ……もしかして? 何か知っているのか、アイツ? それに、急にどこに――


「…………追い……かけよ……、けーちゃ……っ」

「おい、風音、無理すんなって」


 荒い呼吸を繰り返しながら、俺に向かって話しかける風音。

 明らかに無理をしてるが、それでも何かに駆られるように、俺に訴えかける。


「何か……嫌な、感じがするの……この感じ…………」

「それは、お前の勘か?」

「……う、ん……ただの、勘……」


 いつもの調子で、苦しげに微笑む風音を見て、仕方ねぇな、と、風音を降ろす。

 ……こいつのただの戯言だったら、んなもん無視して避難するんだけどな。


 風音こいつの勘が尋常じゃないことは、俺が一番知っている。昨日、俺のピンチに駆けつけたみたいにな。そんな風音こいつが「嫌な予感がする」っつーのは、危険だろうが無視できねぇな。


「風音はここで待ってろ。エメ、風音を頼む。俺はアイを追いかける」

「きゅうっ」

「……気を、つけてね……けーちゃん……」

「お前も、動けるようになったら下に避難しろよ」


 それだけ伝えて、俺はアイの向かった方向へ走り出す。

 ……ま、何事もない……なんてことは、ねぇんだろうけどな。今更止まれっかよ。



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