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シフト・ワールド  作者: 火鈴あかり
第一章
2/20

- 02 - 『想定外のドッキリ』

 ――次の日。


「おっはよー、けーちゃん」

「きゅきゅう!」

「はぁぁ……おう、風音とエメか。……相変わらず元気だな」


 元気に声をかけてきた、風音。――と、もう一匹。風音のペット。

 緑と白の毛並みを持った、風音の肩に乗った犬のようなリスのような小動物は、ARによるホログラム、エメ。可愛らしい鳴き声をあげる姿に、苦笑いを返す。


「そっちはだいぶ元気ないみたいだけど……どしたの?」

「あぁ……昨日色々あってな……パソコンがぶっ壊れた」

「へー……って、えぇっ?! けーちゃん何やらかしたの!?」

「……聞かないでくれ、俺もわからんし説明できねぇから。あと、俺は何もやってねぇから」


 疑いの眼差しを向ける風音に、さらっと否定の言葉だけ告げておく。メールを開いて削除しただけで俺の責任になるんなら、もうなんもできねぇよ。


「…………あぁ、そうだ。風音、今日暇か?」

「今晩ラジオ放送があるけど、それまでは暇だよ? なに?」


 帰ってきた返事に、「そうか」と軽い返事を返す。ラジオ放送と言ってるが、仕事というわけじゃない。いわゆるコイツの個人放送ライブストリーミング。……そういや、先日スポンサーがついたとか言ってたし、趣味と言い切っていいのかはわからんが……まぁいいか。


「いや、ちょっとな。……説明しづらいから、今日の帰りにウチにこねぇか?」

「いいけど……さっきのパソコンの件となにか関係があるの?」

「詳しいことは後で説明するよ」


 あれからいろいろあったんだよ、マジで。

 ARデバイスのセットアップとか、必要なファイルのダウンロードだとか。いろいろやって一日潰れちまったし。ちなみに、宿題は早々に諦めた。



    ◆ ◆ ◆



 あれから数時間後。

 相変わらずの休み時間、携帯ゲームを手に持ち、いままでの鬱憤を晴らすように昨日倒せなかったモンスターと戦っていた。まさか学校に忘れてたお陰で無事だったなんてね、ホント何が起きるかわかんねぇな。

 今日の俺は絶好調。会心の一撃が弱点にクリーンヒット、部位破壊もスムーズにこなし、この調子ならベストタイムも狙える速さだ。コイツがタフいのは知ってるが、この調子なら休み時間中に討伐だっていけ――


「けーちゃん、けーちゃん」

「んだよ風音、いま調子いいんだよ。話なら後で――」

「きゅう!」

「って、おいエメ、画面見えなくすんのやめろ、ってこの音、やめ――ッ! ああ……」


 画面を隠すように現れたエメに、必死で抵抗するが――操作を手放した隙を敵が見逃してくれるはずもなく、致命的なタイミングで放たれた即死技を喰らい、ダウンするキャラクター。……おいエメ。めっちゃ調子よかったんだぞ、三分クッキングできる勢いだったんだぞ、クッソ。

 満足気な笑みを浮かべる目の前の小動物を睨みつける。とはいえ、エメはホログラムに過ぎず、怒ったところで意味がない。こういうとこホログラムってずりーよな。


「……で、なんだよ風音、宿題ならやってねーぞ」

「あはは……そこまで堂々と言い切るのはどうかと思うけど……」


 ファイルがねーもん。どーしよーもねーじゃん。

 苦笑いを浮かべた風音は、改めて話の続きを口にしようとしたところ――横から別の人物が声をかける。


「……キミがケイ、だろうか?」

「それ、本名じゃなくてあだ名……まぁいいや。で、なんだお前は?」


 艶やかな黒髪、整った見た目の少女。いかにも清純派な印象を受ける彼女。

 少なくとも、俺の記憶にはない。クラスにこんな女子はいなかったはずだが。首を傾げる俺に対し、彼女は改めて自己紹介をしてくれた。


「私の名は弓月零奈ゆづきれいな。二組の者だ。キミと話すのは初めてだな」

「二組の? ……で、わざわざ俺に何の用だ?」


 面倒事は勘弁してほしいんだが。

 ただでさえ昨日の一件で面倒なことが山積みになってんだから。

 先程の妨害による苛立ちもあるものの、じーっと見つめる俺に弓月は顔を赤らめ言葉を紡ぐ。


「……そ、その……今日の放課後、キミに話があるんだ……」

「………………は?」


 思わず言葉を失い、聞き返す。なにこの唐突なギャルゲ展開。

 いやフラグも立ててないのに告白とか、もはやギャルゲですらねーじゃん。


「……今は時間がない、また後で呼びに来る。……話を聞いてくれると嬉しい」

「………………お、おう」


 しどろもどろに言葉を告げ、去っていった弓月に、どう返したものか言葉に詰まる。

 というか、隣でニヤニヤしている風音が超ウザいんですが。


「……んだよ」

「あれー? なんか思った以上に冷めてるね? もっと可愛い反応期待してたのに」

「お前の顔見て冷静になったわ」

「……ぇ?」


 反応というか目が覚めたよ。どうせドッキリか罰ゲームかなんかだろ。

 まぁいいや。面倒だが、あいつの面目のためにも騙されたフリくらいはしてやろうか。万にひとつ、ガチの可能性もあるしな。……いや、万にひとつもねーけど。つか、なんで風音こいつは顔赤くしてるんですかね?



    ◆ ◆ ◆



 ――キーン、コーン、カーン、コーン。


「はい、それじゃあ今日はここまで。みんな、寄り道せずに帰るんだゾ?」


 ホームルームを終え、各々が帰宅準備を進める。

 俺もいつものように帰り支度をはじめ、渡されたファイルを保存する。……いや、知ってたよ。ファイル破損は仕方ないとして、宿題を改めて提出しろって言われるのはさ。あわよくば免除にならねぇかな、とは思ったけどさ。


「よっし。んじゃ、帰るか風音……って、そうだった」


 忘れてた。……弓月、だっけ? が、話があるんだっけか。

 隣で首を傾げる風音に、改めて声をかける。


「あぁ、ちっと弓月に会ってくる。んな時間かかんねーと思うから、玄関で待っててくれ」

「あ、うん、わかった。……ねぇけーちゃん、弓月さんの告白、受け――」

「――ねーよ。お前じゃねーんだから。どうせ別の話かドッキリだろ、ったく」


 なんだかんだ、風音こいつはクラスの男子からモテてるしな。ちなみに、俺は女子から声をかけられた経験なんかほとんどない。……まぁそんなもんだよな、現実。

 苦笑いを浮かべる風音に手を振って、クラスを後にした。確か二組、だったか? 歩き出そうとしたその時、後ろから声をかけられた。


「……すまない、ケイ。ホームルームが遅れてしまい……待たせたか?」

「ああ、別に待ってねぇよ。……で、話ってなんだ?」

「……ここでは……そうだな、屋上にいかないか?」

「ん、わーった」


 ――あれ、これガチなヤツ? ……いや、ねーよな?

 手の込んだドッキリだな、と思いながら、彼女の後に続き、屋上へと向かった。



    ◆ ◆ ◆



 学校の屋上。

 学校によって様々だが、ウチの学校では憩いの場として、雨の日以外は解放されている。

 つっても、まぁ……休み時間の時はまだしも、放課後の今は人はいない。フェンスから校庭を見下ろしてみれば、部活動の準備をしている姿が見える。


「……で、話ってなん――」


 ――ピーッ!


 改めて振り返――ろうとした、その時だった。電子音が屋上に響き割ったのは。

 なんだ、この音? 少なくとも俺じゃないはずだが――って、ことは。


「ふふっ……ここまで無警戒についてきてもらえるとは、話が早くて助かるな」

「おいおい、なんなんだよ――どういうことだ? 告白のシチュエーションにしちゃ、愛が重てぇじゃねぇか」


 屋上の扉の前に立ったままの、黒髪の少女。先程とは雰囲気を変え、目の前に立ちはだかる同級生に、警戒心を高め虚勢を張る。

 先程の電子音は、ここからじゃ見えにくいが――ロックがオンになっている。扉に鍵をかけやがったのか、こいつ……ッ?!


「教室で暴れらると面倒だからな。男子をおびき寄せるにはこの方法が手っ取り早いと聞いた。……ここまでスムーズに行くとは、私も予想外だったが」


 いや、知ってたよ、どーせ告白じゃねーってことはな。

 まぁ……知ってたけどな、なんだよこのシチュエーション。ドッキリから飛躍しすぎじゃね? さすがの俺もこうなるとは予想できなかったわ。


「……なんなんだ、お前は」


 少なくとも、ただの学生じゃない。

 俺の問いかけに対し、彼女はポケットから取り出した証を見せつけた。


「――ウェーブポリス特殊情報刑事課、弓月零奈。答えろ。お前は昨日、何をやらかした?」


 ……警察? 聞いたことのない名称に、訝しげな顔を浮かべる。

 つか、なんでこんな女の子が警察やってんだよ。とかいうツッコミは、この際後だ。……こいつ、昨日起きた超常現象を知ってるのか? つか、なんでこんな早くに――


「その様子だと、心当たりがあるようだな」

「………………」


 あるよ。あるに決まってんだろ。

 だが、言葉が出てこない俺に痺れを切らし、先に彼女の方が声を上げる。


「あくまで沈黙を貫くつもりか。なら――」


 ――なんだ?


 首を傾げる俺の耳から、ピー、という電子音が聞こえると同時、画面に見慣れぬ赤い文字が表示される。これって、セキュリティの面の警告――


「……は?」

「無理矢理にでも答えてもらう」


 その宣言と同時、目の前に大きなシルエットが形作られる。

 あまりに巨大な体躯を描く、人とは別のフォルム。武骨で金属的な外殻に、蛍光ラインが走る。両足、両手、そして光の玉と言っていい瞳。その姿はまさしく――ゴーレム。


 ――ッ?! このモンスター、ゲームの……ッ!


 ARゲーム、シフト・ワールドのモンスターと同類。つっても、しょせんホログラム――


「――――――!!」


 ……あ、これヤバいヤツじゃね?

 そんな予感が俺の身体を突き動かし、ゴーレムの振り下ろした拳を跳んで避けた。


 服を掠め、ビリビリとした静電気のような痛みが頭にチラつく。シフト・ワールドの、視界が揺らぐダメージエフェクトとかとは別の、もっとちゃんとした痛み。つか何よりも、こんなデカいモンスターにぶん殴られる恐怖に身を震わせる。


「……おい、何しやがったッ?!」

「軽いハッキング、犯罪者対策のための新技術だ。安心しろ、当たったところで直接痛みを訴えるだけだ。死にはしない」

「……ッ、ざけんなよッ?! っぁっと?!」


 人の身なりに暴れるゴーレムの攻撃から必死に逃げ延びる。体育2の残念な身体能力の底力と、ゲーム5の俺の超人じみた反射神経と判断能力、舐めんじゃねぇぞ!?

 その巨体、広いとは言えない屋上、動きは鈍いしうまく動けないらしい。ならばと設置された天井つきの椅子とテーブルを活かし、回り込み、必死に屋上から降りる階段まで走る。あいつの巨体だ、屋上からは降りてこれまい――


「……あッ!」


 扉に手をかけ、ガチャガチャと無慈悲に鳴り響くノブの音。

 ポップアップとして表示されているのは、"LOCK"という赤い文字。そうでした、ロックされてるんでしたねぇッ?!


「うぉっと!?」


 耳に響き渡る音にとっさに身をかがめた刹那、先程まで俺の図体があった場所を撃ち抜くレーザー。あいつ目からレーザーまで撃ちやがる、勘弁してくれよ!?


 追討ちをかけられる前に逃げるが、この屋上からの逃げ道なんて、この階段しかない。それをわかっているからか、弓月は戦闘をゴーレムに任せ、俺とはちゃっかり距離を離している。扉の前から移動してると思ったらそういうことかよッ!?

 的確にレーザーで俺の道を遮りながら、徐々に俺を追い詰めるゴーレム。正直に言うけどな、俺、運動神経はいい方じゃないんだからな。マラソンとか途中で音を上げるタイプなんだからな?!


「はぁ……はぁ……」

「そろそろ諦めて素直に吐いたらどうだ?」


 後ろはフェンス、前にはゴーレム。見事に角に追い詰められ、万事休す。

 俺のホログラムのデータが使えたら、戦って返り討ちにもできただろうに、俺の最強のパートナー達はデータ破損で現在自宅に安置中だ。ここで奇跡的にモンスター召喚、とかいう希望もありゃしない。

 ジリジリと後ずさりをし、フェンスに背をつける。……クソッ、ここまでか――


 ――ドンッ!


「エメ、シューティング・タックル!」

「きゅきゅう!!」

「……なッ?!」


 そんな諦めかけたその時、救世主登場。

 強引にタックルで扉を突き破った風音。その命令で、ゴーレムに全力タックルをかますエメ。予想外の方向からの攻撃に、ゴーレムは動けず直撃し、その態勢を崩す。


「風音、ナイスタイミング! 説明は後だ、逃げるぞッ!」

「う、うんっ」


 九死に一生を得た俺は即座に立ち上がり、地面に倒れていた風音の手を引いて、全力でこの屋上から逃げ出した。



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