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鏡の中のドッペルゲンガー

作者: 篠川 霖雨
掲載日:2017/07/29

ある遊園地が閉園した。その遊園地は地元の人々が行く小さな遊園地だ。しかしネット上ではとても有名な遊園地だった。そう、幽霊がでる遊園地と。



蒸し暑い夏の夜、私は友人に誘われて閉園した遊園地の門の前にいた。待ち合わせしている場所は街頭が一つあるだけで辺りは暗い闇に包まれている。街灯がチカチカと点滅しなんだか不安な気持ちになってくる。

すると遠くの方からおーいと声が聞こえて来た。目を凝らしよく見てみると、手を振りながら走ってくる友人の姿が見え少し安堵した。


「お待たせー!!ごめんごめん、道が混んでてさ」


「大丈夫、私もさっき着いたところだから。……それより、本当に入っていいの?ここって閉園してるんでしょ?」


「いいのいいの!!ほら早く行こうよ!!」


そういい、友人は私の手を引き遊園地の中へ入っていく。この時、私は気付くべきだった。なぜ、遊園地の門が開いていたのか、そして私の手を引く友人が不気味に笑っていた事を。


私達が遊園地の中へ入ると園内を歩き始めた。辺りが暗く持ってきた懐中電灯で周りを照らしてみると、あちこちから草木が生えだいぶ寂れていた。この遊園地も運営していた時はきっと華やかで賑わっていたであろう。しかしその華やかだった面影は無く、今では幽霊が出ると噂が流れる程になってしまっていた。

友人に手を引かれついて行くと一つの大きな建物の前で友人の足が止まった。友人を見てみるとスッとその大きな建物を指さした。その建物の看板には「ミラーハウス」と書かれていた。


「……ミラーハウスがどうしたの?」


「ここに入ってみない?」


「え!?流石に入るのはダメなんじゃ……」


「いいから!!いいから!!」


そういい友人はまた私を強引にミラーハウスへと入れた。

中は当然真っ暗で頼りになるのは手に持っている懐中電灯だけだ。懐中電灯の明かりを頼りにしながら恐る恐る歩いていく。中は所々鏡が割れていたりするが、外と比べてまだ綺麗な形で残っていた。ふと鏡の中の自分に目がいく。鏡の中に少し頼りない自分が映り、私は小さな溜め息を吐いた。私は鏡に手を触れ鏡に映る自分を見つめる。

正直私は「つまらない人間」だと思う。何をやっても普通で、先生や親から見たら優等生の良い子ちゃんだけど、私にとって「優等生の役」は息が詰まる生き方だった。でも私は自分からは悪い子にもなれない中途半端な人間で、ここへ来たのも少しでも自分が変われたらと思ったからだ。すると突然の何処からか女性の笑い声が聞こえてきた。辺りを懐中電灯で照らしても人の姿はなかった。

私はそこである違和感を感じた。もう一度辺りを見渡してみると友人が居なくなっていた。


「ど、どこにいるの!?ねぇ!!」


叫んでみるが、返事がなくいつの間にか笑い声も聞こえなくなっていた。ミラーハウスから出ようと来た道を戻るがなぜか戻れなくなっていた。同じ場所をグルグルと回っている様な感じで、何を試しても駄目だった。仕方なく奥へ進んでいくと少し開けた場所に出た。その中でも一際他の鏡と違う大きな鏡に目がいった。触ってみると何か不気味な雰囲気を感じすぐに手を引いた。


「なんだろう、この鏡……」


鏡の中の私を不安そうに見つめていると、突然鏡の中の私が笑った。私は驚き後ろへ後退ろうとすると鏡の中から手が伸び私の左手を掴んだ。反射的に手を引っ込めようとするがとてつもない力でびくともしなかった。なんとか離れようと必死にもがくが、力が強くむしろグイッと腕を引かれ引き寄せられてしまった。


「は、離してっ!!」


「……離す訳無いじゃない。折角来てくれたんだから」


「あ、貴女何なの!?」


私の姿をした私は不敵に笑い、私を鏡に押し込んでこう言った。


「これからは私が貴方になるの!!」


嬉々揚々と笑顔で私の目の前から去っていく私を鏡の中から見送る事しかできなかった。なぜなら私は「私」じゃなくなっていた。鏡写る私は黒い影のような姿でそこから一歩も歩けなかった。まるで足が太股から先がない感覚で、手を動かそうとするが伸びてくるはずの手は何処にも見当たらない。


「……、………!?……!!」


声を発したはずなのにその音が聞こえてこない。声さえ私は無くしたらしい。するとコツコツと誰かの足音が聞こえてきた。音をする方に視線を向けるとそこには一緒にここへ来た友人が立っていた。


「やっほー!!気分はどう?」


「……!!………、……?」


「色々聞きたい事はあると思うけど、簡潔に言うね?」


友人はこの状況では不気味に思える笑顔でこう言った。


「貴女は、存在を奪われてしまいました〜!!」


私は今言われた言葉が理解出来なかった。

存在が奪われる?どういうこと?私は、どうなったの?


「んー?まだ混乱してるのかな?じゃあ、詳しく言うと、貴女は体、声、存在を奪われて精神だけがそこに残った。このままだと貴女、死んじゃうよ?」


死ぬ、という言葉を聞いて私は我に返った。

死ぬ?私が死んじゃう?なんで?私はただ、ただ変わりたかっただけなのに。

恐らく友人は私が茫然としている事を察したらしく友人は不敵に笑いながら私に声を掛ける。


「あは、あはははは!!もうわかるよね!?貴女はさっきの奴の様に誰かに成り代わらないとそこから出られない!!」


友人はただただ楽しそうに笑いながら、その場でくるくると回り私に問いかける。


「ねぇ?どうする?もう、つまらない自分にはなりたくないよねぇ?」


その言葉を聞いた瞬間、私の中の「何か」が切れた。もうつまらない人間と言われるのはうんざりだ。私は変わる、例え誰と成り代わっても私は変わりたい。

私は笑った。口元を歪ませて声は出ないけど狂ったように笑った。友人もそれに気を良くしたのか、満悦な笑みを浮かべた。



「ねぇーやめようよぉー」


「いいじゃん確かめてみようぜ!!」


1組のカップルが閉園した遊園地に足を踏み入れた。好奇心に負けてやってくる馬鹿な人達。そんな好奇心旺盛な人達をミラーハウスへ招き入れるのは簡単だった。恐る恐る中へと踏み入れたら最後、ここまでおいで。さぁ、私の元へおいで。

カップルは私がいる少し開けた場所に来た。やはり一際目立つこの鏡が気になったのか女の方が鏡に手を触れた瞬間、私が存在し始める。女と同じ体、声、存在になり始める。私は女の手首を勢いよく掴んだ。女は驚いた様で声も出せず、私がやられた様に鏡の中へ引きずり込んだ。


「いった、な、なに、ここ……?」


「はじめまして、「私」。そしてさようなら」


「え、私がい……!?……!!……………!!」


私は女が理解する前に鏡を出た。辺りを見渡すと近くに居たはずの彼は居なくなっていた。私は自分の体が、存在がある事に狂喜した。もう、これで私はつまらない自分じゃない。もう私は「自分」とは別の「誰か」になった。私は笑顔を浮かべていた。


「これから私は「私」になる。貴女はそこで「誰か」になってもらう。まぁせいぜい死なないように頑張ってね」


そう言うと鏡の中からふざけるなと聞こえてきた気がした。私は笑顔で手を振りその場から離れた。外へ出るとそこには先程私といた彼が待っていた。心配そうに彼が近付き肩を掴まれた。


「おい、どこに行ってたんだ。心配したんだぞ」


「ごめんなさい、ミラーハウスの中で迷っちゃって」


「……お前、なんか、雰囲気変わった?なんかあったのか?」


「いつも通りよ、さっ早くこんな所から帰りましょ?」


「あ、おう」


私は彼の手を引き急ぎ足でその場から離れた。

その様子を木の影から見ていた、不敵に笑う友人に気が付かずに。


友人はわざとらしくコツコツとミラーハウスに入り先程の開けた場所へたどり着いた。その鏡の中には影の様なものが友人を見つめていた。友人は口角を吊り上げ高らかに喋り出す。


「ご機嫌麗しゅう、貴女様」


影は自分に話しかけられていることに気がつくとゆらゆらと揺れ始める。ここから出してなど言っているのであろう。友人はまたも声高らかに話す。


「簡潔に申しますと貴女様は存在を奪われてしまいました。混乱しているのもわかりますが、」


友人はただ淡々と相手の反応を面白がるように無邪気な笑顔で告げる。


「貴女様はこのままでは死にます。貴方様は体、声、存在を奪われ、消滅します」


鏡の中の影が大きく揺れた。混乱、恐怖、絶望したのだろう、影は震え始めた。友人がそれを見て笑った。

ああ、人間と言うのはなんて愚かしく、醜く、そして美しいのだろうか。


「そうならない為には、もうどうしたらいいのかおわかりですよね?ならば私も微力ながらお手伝いさせていただきます。ああ、申し遅れました私、ロピエと申します。どうぞお見知りおきを」


ロピエが深々とお辞儀をし、笑顔で顔を上げた。鏡の中の影は大きく揺れ、そして燃え上がったように揺らめき始めた。ロピエはそれを見て口角を再び吊り上げた。

さぁ、今宵も不思議な不思議な物語を紡ぎましょう。

お読み頂きありがとうございました。

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