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エピローグ

 魔物騒ぎに明け暮れた全校登校日の夕方――


 この日も午後から豊田庸平と坂本佳乃、そして銀髪の少女に変化(へんげ)した庸平の式神・白蛇が詩織の家に遊びに来ていた。

 翔太にしてみれば彼らは鼻持ちならない連中ではあるが、今日に関しては正直、この3人がいてくれてホッとしていた。学校であれほど抱きしめ合った2人が、個室で2人っきりになるとどうなるか分かったものではない。


「それにしても……気持ちよさそうに寝ているね、詩織ちゃん……」

 佳乃が頬杖をつきながら、にっこりと笑った。

「俺らがいない間に学校でそれだけの大立ち回りをしたとなると、そりゃ疲れもするだろう……」

 庸平がぬれせんをかじりながら呟いた。

「その菓子を(わらわ)にも下され。(あるじ)様の食べるものは妾も食べてみたいのじゃ……」

 銀髪の少女は庸平の一挙手一投足のチェックに予断がなかった。

 ぬれせんを受け取った少女は両手で大事そうに持って、ぱくっとかぶりつきながら、

「米粉を練って火を通してまた水で戻したような……これは面妖な……うん、しかし慣れれば美味じゃ! それにしてもそのような魔物たちなんぞ、主様にかかれば一網打尽。それに比べれば下加美の土地神の力も大したことはないのぉ、うふふふふふふふふ――うぎゃッ!」

 主である庸平に頭を叩かれた。


 全校登校日の今日は、隣村から来た彼らの補習授業は無く、こうして4人で午後から勉強会を行っていたのだが、程なくして詩織が寝てしまった。

 巫女ではなくなった途端に気が緩んでいた詩織に降りかかった不幸は、翔太の登場で大団円を迎えた。しかも今回は詩織自らも戦い、学校の仲間たちも加わって、現世に甦るジャンヌダルクの如く活躍したのである。疲れて寝てしまうのも無理はない。


「ところで翔太君、しばらく顔を見せてくれなかったけど……やっぱり私たちが嫌だから……なのかな……?」

 佳乃が恐る恐るという感じで翔太に尋ねた。

「そ、それは……何というか……俺の誤解というか……」

「お前の誤解!?」

 庸平が口を挟んできた。

「は、はあ……」

 翔太は口を濁した。

 それ以上は恥ずかしくて言えないのだ。



 魔物騒ぎの後片付けの中、土地神に話を聞いたところ――


 下加美の巫女は一子相伝の力ではあるが、母娘がともに巫女の力を有していることは何の支障もないこと。そもそも一度身につけた巫女の力は生涯なくなることはなく、詩織は今でも巫女である――と。

 その話を翔太から又聞きしていた詩織も『がーん』という台詞とともに驚いていた。

 翔太はこれまで同様に土地神の半身として詩織を守る立場を継続し、詩織は母とともに下加美神社の巫女として村のために働くことになる。


 これまでとの違いを敢えて見つけるならば――


「あら、詩織ったらお友達の前で、はしたない格好を見せて……」

 詩織の母が村人の相談役を終えて、10畳間へ入ってきた。

 詩織の半開きの口からよだれが垂れかかっていた。

 母は娘の顔をのぞき込みながら――

「ねえ翔太君、詩織を部屋に運んでもらえるかしら?」

「ええっ!? 俺がですか?」

「そういうのは男の子のお仕事でしょう? あっ、でもあまり部屋で長居しちゃダメよ。ちょっとだけなら私は許すけど……主人が発狂しちゃうかもだから……ね!?」

 翔太の口元をちょんと人差し指で押して、ウインクした。

「は、はいっ、じゃあ、すぐ戻ってきますので!」

 翔太は顔を真っ赤にして詩織を抱えて出て行った。


 詩織の母は、銀髪の少女の隣に座って、まるで旧知の仲のようにおしゃべりを始める。この二人は先日の件以降、親子のように親しくなっていた。年齢的には完全に立場が逆転しているのだが――


 8月も残りわずかとなり、下加美神社の境内にはアブラゼミの声に混じりツクツクボウシが鳴き始めていた。


 翔太がどたどた足音をさせて10畳間へ戻ってきた。

 本当にすぐに戻ってきた。

「あ……翔太君、世話をかけたわね……」

 呆気にとられながらも詩織の母が声をかける。

「いいえ、これは男の仕事ですから!」

 翔太は意味が分かっているのかいないのか。

 いや、完璧に分かっていないのだろう。

 銀髪の少女はにんまりとして、庸平の顔を見る。

「ん!? どうした白蛇?」

「いや、この少年、主様にそっくりじゃなぁと思ってな」

「お前、それ絶対悪口だろう! どういう意味だ――!」

 庸平が怒って立ち上がると、銀髪の少女姿の白蛇は脱兎の如く縁側を飛び越え、境内に逃げていった。 


最後まで読んでいただきありがとうございました。

これにてこの物語は完結となります……が、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、登場人物達の活躍はまだまだ続きます。


 じつはこの『ど田舎の神者人』は拙著『最弱の陰陽師』のスピンオフ作品となっています。これまで明言を避けてきたのは、この物語を単体でも楽しんで頂きたいという作者の思いがあったからです。


 では、また別の作品でお会いできる日を楽しみにお待ちしています。


 2017年9月吉日 作者しるす


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