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また会ったな!

 豊かな自然に囲まれた山ノ神村に本格的な夏が到来した。

 学校は夏休みに入り、小さな子供達は虫取り網と虫籠を手に農道を駆け回る。

 田んぼには稲の緑が風に揺れ、夏の日差しを和らげてくれる。

 そんな田んぼ道を歩く1人の少女がいた。

 彼女は制服に身を包み、通学用カバンをぷらぷらと振りながら歩いていた。

「おや、下賀美の巫女様、今日はどちらまで?」

 田んぼの様子を見に来ていたお爺さんが声をかけた。

「村田さんおはようございます、今年の稲の調子はどうですか?」

「お陰様で順調に育っております。今日は部活ですか? 頑張ってね!」

「あ、はい! ありがとうございます」

 作り笑顔の詩織が通り過ぎる。

 そう、今日から夏休みの補習が始まるのである。


 T字路の『止まれ』の標識にもたれ掛かり、空を見上げる少年と出会う。

 彼も制服を着用している。

 一瞬、表情を和らげた詩織だが、そのまま素通りする。

「な……なんで素通り!?」

「翔太は来なくていいって言ったじゃん! 補習対象者は私だけなんだからぁー!」

「俺、花壇の水やりを鈴子部長から頼まれているからさ」

「そんなの部外の翔太がやらなくても私がやるからいいじゃないのぉー!」

「俺も入部したから!」

「えっ!?」

 早歩きで歩いていた詩織の足が止まる。

「3年生の部長も事実上もう部活動は引退だろ? だから人数が減っちゃうからって、前々から誘われてしたのは知っていただろ?」

「うん。でも園芸部なんか女の集まりだろうって、翔太断っていたじゃない……」

「考え直したんだよ。俺も結構楽しいしさ、園芸部……」

「……そう……なんだ。園芸部へようこそ、翔太!」

 カバンを後ろ手に持って、ニッコリと笑う詩織。

 急に機嫌が良くなった詩織に戸惑う翔太。

 2人の夏休みはまだ始まったばかりである――

  


 中学校の正門で女が待ち構えていた。

「あれ? 大橋先生、詩織を捕まえに来たんですかぁ?」

「えっ、ほ、本当に? 私を?」

「違うわよ! 神崎さんは逃げたりする子じゃないでしょう? 私を鬼か何かだとでも思っているの?」

 大橋先生は邪神の半身。鬼よりも怖い女である。

「私はあなたに用事があるのよ!」

「お、俺に?」

「そうよ、先生についてきなさい。あ、神崎さんは図書室へ行きなさい」

「図書室……ですか?」

「そう、教室は例の中学校の生徒が使っているから、あなたは図書室で補習を受けることになったわ」


 そう言い残して、大橋先生は翔太を連れて校舎へ入る。

 途中、大橋先生からは何やら大変なことが起きている、そのことだけが伝えられる。

 階段を上がって3階、その突き当たりが音楽室である。

 吹奏楽部が夏のコンクールへ向けて合奏練習中。

 その部屋の手前の音楽準備室のドアを開けた。

 

「よう、少年。また会ったな!」

「うわぁぁぁぁぁー!」


 甲高い聞き覚えのある声に、翔太は驚いて尻餅をついた。

 声の主は体長30センチメートル程のミニサイズの赤鬼だった。

 赤鬼は入口付近に積んである楽器ケースの上からぴょんと飛び降り、ずん、ずんと床に尻をつけた翔太に歩み寄る。

「お、お前……(あるじ)の元へ帰ったんじゃなかったのか? そ、それに京都で会った時みたいにまた小さくなっているし……どど、どういうこと?」

「ああ、帰ったとも帰ったとも。ちゃんと帰ったぞ主の元に……そしてまた来たのだ。主と共になっ!」

 赤鬼はそう言いながら、翔太の目の前で親指を立てるポーズをとった。

 片目をつむってウインクもしたかったようだが、それは失敗していた。


 敵対心の欠片も見せない赤鬼を見てホッと胸をなで下ろし、翔太は立ち上がる。

 すると今度は、準備室内の楽器の山に埋もれるように、イスに座っている男と目が合った。


「よう、まさかこんなところでまた会うとは思わなかったぞ!」

「あ――――っ! お前は陰陽師のと、と、とよ――なんだっけ?」

「豊田庸平だ! お前がまさかこんなに近所に住んでいたとな。びっくりだよ!」

「もしかして、中学校の校舎が破壊されてウチの学校へ来ることになったというのは、お前の学校のことなのか?」

「そうだ。もしかしなくても、状況的に見ても分かるだろう? あと、校舎が破壊したのはそこにいる赤鬼と2匹の龍だからな」

「この赤鬼はそんなに凶暴なのか!?」

「いやいや、赤鬼は凶暴じゃないさ。でも俺の仲間が黒魔術で召喚したものだから、力の制御が出来なかったらしいぞ。なあ?」

「フハハハハハ、その通り。いやあ参った参った」


 赤鬼は腹を抱えて大笑いしている。すこぶる上機嫌のようだ。


 その時翔太は京都の旅館での戦いを回想していた。

 寸前のところで助けられたとはいえ、黒魔術の女に殺されかけていた。

 やはり黒魔術の女は危険だ。


「あの女は、黒魔術の女はどこにいる?」

「坂本佳乃のことか? 先に図書室へ行ったはずだが――」


 ――詩織も図書室へ向かっている――


 翔太は踵を返して図書室へ向かおうとするが、大橋先生に腕を掴まれる。


「これから話をするんだから、行っちゃ駄目でしょ、お・ば・か・さ・ん!」


 邪神の筋力は翔太のそれを遙かに上回っている。

 翔太を腕を掴んだ大橋先生はニヤリと笑った。


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