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もうすぐ夏休み!

 一連の騒動から落ち着きを取り戻した翔太と詩織は英単語テストの続きをし、試験時間が終了した――と言うよりも、詩織のギブアップ宣言で強制終了となった。


「うーん……できる女は嫌われると言うけどね……神崎さん、あなたできなさすぎじゃない? もう夏休みの補習は確定路線ね!」

「がぁーん!」

「……『がぁーん』って口で言う子は初めて見たわ。おいそこの変態、今の反応のどこが可愛いのよ!」


 大橋先生は詩織のそばではしゃいでいる土地神に八つ当たりをする。

 詩織本人には土地神姿が見えていない。


「それに比べて桜木君は無駄に頭良いわね……少し神崎さんに分けてあげれば?」

「む、無駄にって……先生、俺に厳しすぎでは?」

「先生はね、生徒の皆に公平に愛情をもって接しているの。そして……アナタにあげる分の愛は、この間の一件で底をついたの! だからもうあげられません!」

「先生-、私への愛はぁー?」

「アンタには憎悪と嫉妬しか残っていませんね! 私の夏休み休暇を返して!」

「びぇぇぇ――!」


 うそ泣きと本泣きが複雑に絡み合う混沌とした詩織の様子を見る男2人――翔太と土地神は、かける言葉もなくその場に立ち尽くしていた。

 翔太は心の中で思った。


 ――女の嫉妬は怖い―― 

 

 彼が真の男となり、それを包み込む度量を身につけるにはまだ相当の経験が必要である。いや、それは永遠に無理なことかも知れない。なぜなら、何百年と生き、数多の経験を積んでいるはずの土地神ですら、泣いている詩織の周りをおろおろと困り顔で動き回っているだけなのだから――


「あっ、そうだ。翔太ぁー、土地神様はまだ近くにいらっしゃるの?」

 泣いていた詩織がふと思い出したように尋ねた。

「ああ、いらっしゃるぞ。ほら、そこに……」

 指で土地神のいる場所を示してやる。

 すると詩織はイスから立ち上がり、


「神様、先日は鈴を貸していただきありがとうございました。とても助かりました。あと……翔太を返してくださりありがとうございました!」


 言い終わりにぺこりと頭を下げ、ニコッと笑った。

 土地神と、その背後からその様子を見た翔太は共に頬を赤らめたまま固まる。

 明るい窓の外の景色を背にした詩織の笑顔は光り輝いて見えた。


 数秒後――


『うほぉぉぉー、我が巫女は天使か、いや、天女かぁぁぁー! 少年、やはりお前にはやらぬ。私がもらい受けることにする!』

「はあー? 俺は神様の半身なんだから俺が詩織をもらってもいいだろう!」

「ななな、なに、何を言ってるのぉぉぉー? わわわ、わた、私をもらうって、どどと、どういう――」

「ち、ちが――! 今のはお前に言った訳じゃ……」


 再び大騒動になりはじめた3人を呆れたように一瞥し、大橋先生は教室を出て行く。ドアの前でふと思い出したように声をかける――


「隣村の中学校でね、何か事件があったらしいのよ。校舎が使い物にならなくなるほどレベルのね……一応訊いておくけど……あなた達、何か関わっていない?」

「えっ、隣村の中学校? 俺たち、この村を出ることは滅多にないし……なぁ?」

「うん……行ったこともありませんよ?」


「そう、それなら良いんだけど……夏休み中にそこの生徒達、ウチの中学校に補習授業を受けにくるらしいのよね……授業ができなかった分を夏休み中に補充するんだって。喜びなさい神崎さん。その人達と一緒に補習授業を受けられるわよ。新しい友達、できると良いわね!」

    

 詩織の補習授業はもう決まったらしい――


 再び泣き崩れる詩織を取り囲んで男2人が慌てている。


 来週から夏休み。

 校庭のアブラゼミが元気よく鳴いていた。


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