表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/96

暗闇の中の2人

 時刻は11時を過ぎたころ、戸を閉め切った状態の薄暗い本殿の中では、汗びっしょりの翔太と詩織が向かい合っている。


「翔太ぁー、もう私……限界なんだけど……」

「ま、まだダメだぞ。もう少し……あと少しだけ……開いてみろ!」

「あっ、だめ……なんかへんな感じが……ああっ!」


 詩織は顔をゆがめて苦しそうに声を上げる。

 それを見た翔太は、彼女をいたわるように優しく声をかける。


「よし今度は少し進めたな。じゃあ休憩しよう。ゆっくり閉めろ!」

「う、うん。なんかごめん……私がもっと頑張らないといけないのに……」


 そう言いながら、詩織は壺のフタを閉めた。

 この壺の中には昨夜退治した黒龍とは別の魔物が封印されている。

 朝方、病院から戻ってきた一華に、父親からの伝言を聞いたのだ。


 早朝から多くの人が駆けつけていたこの境内で、人目を忍んで封印の儀式を行える唯一の場所が、この本殿だった。7月の太陽の光が降り注ぐ中、全ての戸を閉めた本殿はまさにサウナ状態である。


「暑いから……上……脱いじゃおう……かな?」

「ななな、な、何しているんだ詩織!? 暑さで頭がやられたか?」


 自称戦闘服である巫女装束の袖を外して両肩をむき出しにする詩織。

 キャミソールの白い下着が丸見えになる。

 肩や首筋の白くて柔らかそうな肌から玉のような汗がにじみ出ている。


「頭がやられたって……なにそれ? それにしても、もっとこう……ぱばって魔物を封印する方法はないのかしら? 妖気が身体にまとわりついてくる感じがして気持ち悪いのよ……」


 詩織は後ろに垂れ下がった巫女服の上着部分を使ってぱたぱた扇ぎながら言う。


「ぱぱって……そんな具合に退治できたらイチカのオジさんやオバさんが病院に運ばれることもなかっただろう? 今の俺らには少しずつすき間から漏れる妖気をこの神器の扇に移し替える方法が一番安心で確実な手段なんだよ!」


 そう言いながら神器の扇をピシッと詩織に向けた。

 翔太に正論を吐かれた詩織は少し機嫌が斜めになり、何やらぶつぶつ言っていたが翔太はそれは敢えて無視をした。この蒸し暑さの中では誰でも機嫌が悪くなるというものだ。

 一通りの文句を吐いた詩織は気を持ち直し、儀式にもどる。

 両膝をついて前のめりになり、両手で壺のフタをつかむ。


「じゃあ、開けるよ?」

「よ、よし、来い!」


 詩織の対面で翔太も前のめりになり、神器の扇を壺の間近で構える。

 ふと、先ほどまで不満を吐いていた詩織がどんな表情でこの儀式に臨んでいるかが気になって、翔太はちらっと視線を上げる。

 眉間にしわを寄せる詩織の額から流れる汗が、ふっくらとした頬を通り、あごの先から滴となってぽたりと落ちた。

 すると汗で重くなったキャミソールの下着の胸元から胸の谷間が見えそうで見えなくて……翔太の気持ちはその部分に集中し始める。

 翔太は生唾をゴクリと飲み込む。

 詩織の耳がぴくりと反応する。

 10数秒間の沈黙の後、半開きの詩織の柔らかそうな唇から……


「翔太ぁー、今ヘンなことを考えているでしょう……儀式に集中しないと……あとで……コロスから!」


 これまで聞いたこともないような低い声が発せられる。

 我に返った翔太は、理不尽だなと思いながらも、暑さも忘れて魔物を封印する儀式を続けるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

↑↑ランキングに参加中。クリックお願いします↑↑

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ