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復旧作業と秘密の儀式

 白加美神社の祭典を翌日に控えた土曜の朝。

 いつもは静かな境内には多くの人が訪れている。

 しかし彼らは祭典の準備どころではなく、復旧作業に大あらわ。


「吉田さん、朝早うからおおきに。父に代わりお礼を申し上げます」

「いやいや、ワシらはこんな時にぐらいしか役に立てないからね。それにしてもひどい有様だね。竜巻にでも遭ったんだろうか……」


 工務店のはっぴを着た男性が見上げる先には、本堂側の縁側部分が丸ごと吹き飛ばされた一華の自宅があった。

 8人の男衆は、一華の相談を受けて駆けつけてくれた神社の氏子である。本来は午後から予定されていた祭典の準備を取りやめ、建物の補修作業に当たっていた。


「あはは……そうかも知れませんね。なにしろあっという間の出来事で……」


 一華は魔物の話題を避けてあやふやに返答する。言っても信じてもらえる自信がなかった。


「お父さんとお母さんの具合はどうなんだい? 救急車で運ばれたそうじゃないか」

「はい、せやけど2人とも2週間ほどで退院できる見込みです。神様のご加護のお陰と感謝しています」


 そう言いながら、胸に手を当てて微笑む一華。

 親への一方的な反抗から茶髪に染め、出会う人すべてにつんつんしていた昨夜までの彼女とは同一人物には見えないほどの変わりようである。


「そうかー、お父さんは上空に舞い上がってから地面に叩き付けられたんだろう? お母さんも飛んで来た建物の破片が肩やお腹に刺さったそうじゃないか! それでただの怪我で済んだのは確かに神様のお陰ということだね」

「はい、これからも吉田さん、ごひいきによろしく頼みます!」


 そう言ってぺこりと頭を下げ、一華は自宅の中に入っていく。


 一華の部屋と両親の寝室はそれほどの被害はなかったものの、客室代わりに使用している部屋は吹き飛ばされた建物の破片や調度品などで散乱している。工務店の吉田氏が竜巻と推測したのも肯ける惨状である。


「イチカちゃん、大丈夫よ。部屋の片付けはおばちゃんたちがやっておくからイチカちゃんは休んでいなさい」


 吉田さんの奥さんが声をかけてきた。建物の中の片付けは、婦人会の人たちが手伝っている。夕べからほとんど寝ていない一華を気遣ってくれているようだ。


「おばさまありがとう! でもうちは大丈夫だから……徹夜は慣れているんですよ。それより……かんにんなっ! 昨日までの準備を無駄にしてもうて……」

「子供が気にすることじゃないよ! 祭典の行事なんてまた日を改めてやればいいんだから!」


 吉田氏の妻は婦人会のリーダーとして、神社の手伝いや一華のことを何かと気にかけてくれる頼りがいのある人だ。

 深夜、救急車で運ばれた両親が手当を終え、一般病室に移されるのを見届けてから着替えなどを取りに帰った一華を、神社の入り口で待ち構えていてくれたのが吉田さん夫婦だった。

 その後、一華が病院に荷物を届け、再び神社へ戻ってきたころには、すでに多くの人を集めて復旧作業を始めていてくれた。


「ところでイチカちゃん、旦那が本殿の屋根がはがれ落ちて送電線も切れていると話していたけれど……あんたがそばに近づくなと言ったからそのままにしてあるらしいじゃないか。本殿で何かあったのかい?」


「あっ、はい……ちょっと秘密の儀式を中で……あはは……」


 一華は笑いでごまかしながら父の骨董品コレクションを棚に戻し始めた―― 

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