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黒龍退治

 神器の扇を一振りすると、小柄な翔太と詩織の体はふわりと上昇する。

 二振りすると、ぐんと勢いを付けて更に上昇。

 高いところが苦手な詩織はギュッと翔太に抱きつく。

 しかし、今の翔太にはそれを意識する余裕はない。


 龍はヘビのように長い身体を八の字を描くように空中を泳いでいる。

 その姿は一華の両親を襲った時とはうって変わって、久しぶりの自由の身を満喫しているように見える。

 しかし相手は所詮、凶暴な魔物である――


 黒龍の背中に乗り込もうと神器の扇で微調整している翔太らをちらと横目で見た龍は、突然に頭の向きを変える。


 ワニのような大きな口をくわっと開けて、翔太らを飲み込もうとする。

 その寸前に、扇を一振りした翔太は詩織を抱え込み急上昇。

 そのまま空中で棒高跳びをするような体勢で身体をひねり、龍の頭上後方にある角を鷲づかみにした。


「よし、うまく乗れたな! 詩織はこの角につかまっていろ!」

「うん、じゃあ今から祝詞の儀を始めるから、翔太は龍の注意を惹きつけて!」

「よしきた!」


 黒装束姿の翔太は、軽々と龍の角から鼻先へとぴょんぴょんと飛び移る。

 それを見送った詩織は胸元から鈴を取り出す。

 この鈴は翔太を通じて土地神から今回の旅行のために借りた物。

 金色の棒に八角形の金具の角に8個の鈴がつり下げられている。

 詩織がこの神器を使うことで悪霊や魔物を鎮めることができるという。


 神器の鈴を左手に持ち、腕を伸ばして『シャン……』と鈴を鳴らす。

 そして祝詞を上げる――


 詩織がいる角の下には龍の耳があるため、祝詞の詠唱がよく聞こえるはずだ。

 祝詞は魔物本人に聴かせることで効果が発動する。


 一方、神器の扇を構え龍の鼻先に立っている翔太は、ボーリングの玉ほどの大きさの2つの目とにらめっこをしていた。

 詩織の祝詞が始まると、龍の縦長の瞳は徐々に狭まっていき、動きも鈍くなる。

 魔物にとっては詩織の祝詞は一種の催眠効果があるようだ。


「よし、うまくいっているぞ! このまま眠ってくれれば退治も楽だ」


 翔太が良くないフラグを立てた。

 翔太のその言葉に反応したかどうかは定かではないが……

 龍は突然目を見開き、


『キェ――――!』


 けたたましい鳴き声を上げて暴れ出す。


「きゃあー!」


 大きく首を振った龍の頭から詩織が振り落とされる。


「くそっ――」


 翔太は慌てて詩織に追いつくために神器の扇を振り、垂直落下する。

 地表すれすれで詩織を抱き留め、神器の扇を思いきって振ると、ふわっと身体が浮かんで軟着陸に成功。

 2人が上空を見上げると、龍は寝るのを拒みだだをこねる赤子のように上空でもだえている。

 祝詞の詠唱を再開する詩織が、鈴を『シャン』と鳴らす。

 それを待っていたかのようなタイミングで、黒龍が地上の2人を目がけて突進してくる。

 神社の本殿の屋根と同じ高さぐらいに黒龍が迫った瞬間、翔太は扇を振って高くジャンプし、龍の鼻先を足場に更に高くジャンプ。龍の背中をトトト……と駆け上がる。

 黒龍は意表を突かれたというように大きな目で彼を追い、頭を持ち上げて上昇する。


 そのころ、翔太は龍のはるか上空に達していた。

 閉じた扇子を顔の前に構え、


「我は下賀美神社土地神の半身、桜木翔太。この地に住まう八百万神よ、我に力を貸し与えたまえ――」


 呪文を唱えると、扇子の先端から深紅の炎が吹き出してくる。

 翔太は地球に引っ張られて自由落下する勢いを利用して、黒龍の首元に向かって斬り込む。

 龍は上から来る殺気を察知して口を開けて応戦しようとするが、


「やぁぁぁぁぁぁー!」


 翔太が振りかぶる神器の扇は深紅の光の剣となり、黒龍の首を切断する。


 龍の頭は詩織の間近に、そして体は本殿をかするように壮大な地響きと粉塵を巻き上げて落下した。


 詩織の隣にストンと着地する翔太。

 詩織の祝詞の詠唱が終わるのを待ちながら、翔太は息を整えている。


 そして――


 詩織は鈴を、翔太は扇を頭上に振りかぶり、


「悪霊退散――――!」


 2人は声を合わせて叫んだ。

 すると、神器の扇から出る金粉のような光が出現し、黒龍の体を包み込んでいく。

 やがて、扇の先端にすうっと吸い込まれていく。


 京都駅や修学旅行生の宿泊先で、翔太が単独で試した【悪霊退散】とは比較にならないほどの威力である。

 翔太は隣にいる詩織の顔を見つめ、改めて彼女の巫女としての力に感服する。


 一方、詩織はフーッと息を上に向けて吐くと、パッツン前髪がふわりと踊る。

 彼女は巫女の仕事がうまくいったときに、よくこれをやる。

 ふと、翔太の視線を感じて、

 

「えっ? な、な、なに?」


「えっ? あ、い、いや…… 別に……」


 2人は顔を赤くして目を逸らした。 


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