怪しい木箱
一華は翔太が寝るはずだった布団の上に寝転がっていた。
この部屋で寝るのは何年振りだろうか。
実母が死んでその葬儀前後、親戚一同でごろ寝をした時以来か……
一華は天井を見ながら回想していた。
新しい母が家に来て自分とはそりが合わずに反抗した。
髪を染めて、地元の不良グループとも付き合った。
しかしあと一歩のところまで行って、いつも躊躇ってしまう。
死んだ母の悲しむ顔が脳裏に浮かんで来てしまうのだ。
「中途半端やわぁー、うち……」
額に腕を乗せて、天井をぼんやりと見つめる。
よい子にも悪い子にもなり切れない。
一華はそんな自分が心底嫌いである。
ゆっくりと目をつぶりながら、翔太たちのことを考える。
「あの2人、今頃何をやってんのやろう。もしかしてすごいエッチなことをしとったりして…… ううん、それはないわ。あの2人のことや今頃はおとなしゅう寝てんやろう……」
一華はぱっと目を開けて、上体を起こす。
「も、もしかしてうち、取り返しのつかへんことをしてもうた? 詩織ちゃんはともかく翔君のことはまだ良く知らへんのに…… 彼、詩織ちゃんを襲うとったらどないしよう!」
2人を引き裂くようなことをしてしまった罪滅ぼしにと、いたずら半分で翔太と詩織を2人だけにして閉じ込めてしまったものの、今更ながらに自身のしでかしたことの危うさに気がついた。
『ガタン!』
ちょうどそのとき、父のコレクションである骨董品が収納された戸棚の中から音が聞こえてきた。
「ね、ねずみ? それともゴキブリやろうか?」
一華にとってはどちらでも同じこと。どちらも大の苦手である。
もし、自分が寝ている間に寄ってこられたら失神する。
それならは今確かめるしかない!
一華はそろりそろりと近づいていく。
『ガタン!』
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
一華は腰を抜かすように尻餅をついた。
異音は戸棚の中からではない。
戸棚の脇に置かれている比較的新しい木箱からしているようだ。
高さ40センチ、幅・奥行き共に30センチぐらいの木箱に紺色の編み紐で十字に縛られたうえに、お札が貼り付けてある。
「き、気持ち悪いから外へ置いとこう……」
一華は顔をそらしながら編み紐の左右を両手でつまみ、廊下へ運ぶ。
ふすまを開けて木箱を置こうとしたとき――
『ガタン!』
異音と共に編み紐を持つ手に振動が伝わり、思わず手を離してしまった。