はにかみながら……
そうは言っても、思いを寄せる女の子の香りが漂う布団に埋もれて落ち着いて寝られるわけがない。それでも努めて冷静になろうと目をつむる翔太であったが……
「翔太ぁ…… ごめんね…… 私のために京都までついてきてくれたのに…… 私、踊りを覚えるのに夢中で翔太に寂しい思いをさせちゃったね」
「えっ?」
もう寝ていると思っていた詩織から突然声をかけられ、驚いた翔太はベッドの方に顔を向ける。窓から差し込む月明かりが詩織の横顔を照らしていた。
「でも…… 翔太も悪いんだからね! いくら可愛いイチカちゃんから誘われたからって、鼻の下伸ばしてついて行くなんてありえないんだから!」
「――っぐ、そ、そんな鼻の下を伸ばしたりなんか……」
していないと否定しようと思ったが、一華の豊かな胸に目を奪われてしまっていた自分の姿がフラッシュカードのように脳裏に浮かび上がり、翔太は口ごもる。
ここに戻るまでに一華に言われた『女はカンが鋭いから気をつけて』という忠告が胸に突き刺さる。
「で、イチカちゃんと何かあったの?」
詩織は体を翔太の方に向けて、尋問を始めた。
窓から差し込む月明かりが逆光となり詩織の顔がシルエットのように見える。
だから翔太には詩織の表情は分からないのだが、彼は思わず目を逸らし、
「べべべ、べつに何もないから…… 何もなかったから!」
苦し紛れの誤魔化しとしかとれない反応を示してしまった。
「もう一度聞くわ。何があったの?」
「キスしましょうってバスの中で言われて……」
「はぁー!? それでしちゃったの?」
「するわけないだろう! ちゃんと断ったし、あれはイチカの陰謀だ! 俺のファーストキスを奪ってお前に嫌がらせをしようと――」
「どうしてイチカちゃんが私に嫌がらせをする必要があるというのよ! はあー、男の子ってどうしてこうも鈍感なのかしら」
「いや、本当だって! その証拠に俺のファーストキスは担任の先生に奪われたと知ったらかなりガッカリしていたぞ?」
「――うっ! その事は記憶の隅に追いやって忘れていたのにまた思い出しちゃった…… もう、翔太には隙がありすぎるのよ! 女の子に誘われたらほいほいついて行ったり、キスしましょうと言われたらほいほいと――」
「だーかーらー、ほいほいとしていないだろう!?」
「したじゃない、先生と!」
「あれは不可抗力だろう? まあ、イチカさんの誘いに乗って遊びに出てしまったことは謝るよ…… ほんとうにごめん!」
翔太が布団の上に座り直し、頭を下げる。
その姿を見た詩織は冷静さを取り戻し、ベッドから身を起こして座り直す。
そして、諭すような口調で話し始める。
「翔太がもう他の女の子に手を出さないって約束してくれるなら……」
詩織はうつむき加減でくちびるに指を当て、
「いいよ、私とキスをしても……」
はにかみながらそう伝えた。