一華の策略
風呂から上がると、翔太に割り当てられた畳の部屋には布団が敷いてあった。
部屋には大小様々な器や皿が棚に所狭しと飾られている。おそらく骨董品集めは一華の父の趣味なのだろう。
部屋の隅には比較的新しい木箱が置かれている。紺色の編み紐で十字に縛られたうえに、お札が貼り付けてあるのが目に付くが、秘蔵コレクションでも入れているのだろうか?
翔太は布団の上にごろんと横になり、天井を見上げる。相当古い建物らしく、ベニヤ板を打ち付けられた天井の所々に雨漏りの補修跡がある。それらをぼうっと眺めているうちに、次第に瞼が重くなり、眠りについていく――
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「翔君、起きている? もう寝ちゃったかな?」
一華の声と引き戸を叩く音で目を覚ます。
時計を見ると夜中の12時を過ぎたところである。
「いま起きたよ……」
翔太が眠そうな声で答えると、ピンク色の花柄のパジャマを着た一華が入ってくる。
「詩織ちゃんが翔君に話したいことがあるんだって」
「こんな時間に? なんだろう……」
「さあ、それは本人に直接聞いてみてよ。こっちよ!」
不思議に思いながらも、翔太は一華についていく。
昔ながらの日本家屋の造りをした一華の自宅兼社務所は、廊下が長い。
いくつもの和室を隔てて、その奥に一華の部屋がある。
「ここ、うちの親の寝室。音を立てないで通過するよ!」
「う、うん…… わかった……」
2人は足音を消して歩くが、木製の床はギシギシと音がなるため気を遣う。
とくにやましいことをしているわけではないのに、翔太は冷や汗をかきながら進む。
「はい、ここがうちらの部屋。さあ、入って!」
「う、うん…… わかった……」
一華に促されて先に部屋に入るが、部屋は真っ暗である。
詩織が自分に話があるからと来たのに、この状況は少し変だと思ったが、時すでに遅し。一華の策略にまんまと引っ掛かった翔太は……
『ガタッ』という音とともに、閉じ込められてしまっていた。
「な、何やっているんだ一華さん? ドアが開かないんだけどー!」
翔太がいくらドアを引こうとしても、廊下側からつっかえ棒か何をされてしまった引き戸はびくともしなかった。
「うちの親たちが起きてきちゃうでしょう、大きな音を立てないの! じゃあね、翔君。詩織ちゃんと朝まで仲良くしなさい!」
そう言い残して、一華の足音はしだいに遠く離れて行った。