豪遊の代償
京都駅前でイチカと待ち合わせ中。しかし、待ち合わせ時間の夜8時を過ぎてもイチカは来ない。翔太が1分でも遅刻しようものなら、あのイチカのことだ。何を要求してくるか分からない。だから翔太は急ぎ足で旅館から駅へやってきたというのに……
このまま彼女が来なかったら、自力では白加美神社へ行くことはできない。住所も電話番号も知らない。携帯もスマホも持たない彼は、とたんに不安になる。
詩織は今頃心配しているだろうか。もしかしたら、勝手に遊びに出てしまった自分を怒っているかも知れない。日曜日の祭典に向けて神社で踊りの練習を頑張っている詩織を置いて、自分は現実から逃避して正義の味方気取りで魔物退治に勤しみ、成果は赤鬼1体を封じたのみ。その力も土地神から詩織を守るために授かったものだ。自分の力ではない。そんなことを考えているうちに、胸が苦しくなってくる。
ふと胸騒ぎがして、翔太は駅ビルの中に入っていく。しばらく歩いていると、人通りの少ないコインロッカーのあるスペースから若い男女が言い争いをしている声が聞こえてきた。
「連れが待っているんで……いえそんな……だますつもりなんて……」
聞き覚えのある声に、翔太はそろりそろりとのぞき込む。
やはり、若い女の声の主は一華だった。
相手の男は2人。共に20歳前後の青年である。
「ワイたちにあれだけ貢がせておいて、はいさようならはありえへんだろ? われもそのつもりで付いてきよったんやろ?」
ポケットに手を突っ込んでそう話す男は、金髪でつり目気味で目つきが鋭く、背中に虎の刺繍をあしらった不良がいかにも好みそうなジャンパーを羽織っている。
「イッちゃんはさ-、毎度遊び回っとるんやろ? 初めてじゃあるまいし、ワイたちとも遊んでくれや。なっ、悪いようにはしないからさっ!」
下品なことを言ったあごひげを伸ばした男は、アロハシャツにデニムのハーフパンツというラフな服装。長い髪を後ろにまとめ、垂れ目で嫌らしい目つきをしている。
「じゃあ、これ返しますから! これで終わりにしてください!」
そう言って、イチカは紙バッグを金髪虎ジャンパーの男に渡そうとする。
「はあ? これをワイたちに返してどないすんねん。女もんの服なんか着ねえよ。おちょくっとるんか、われぇ!?」
「そうや、金で返せ、金がねえのなら身体で払え―― って、なんだてめえは?」
アロハシャツの男の肩に手を乗せ、翔太が制止した。
突然現れた翔太の姿に、一華はくりっとした目をさらに見開いて驚いた。
「しょ、翔君!? どうしてここに?」
「どうしてって…… 待ち合わせ場所にいつまで経ってもイチカさんが来ないから迎えに来たんだけど…… この男たちがイチカさんの言っていた先輩なのか? 一緒に大阪に遊びに行ったという……」
「ちゃうんよ! 1っこ上の先輩と大阪で遊んでいたら、突然こん人たちが割り込んできて……」
「割り込んできよったとはしつれいやなぁ、イッちゃん。さんざんワイたちの金でぇ飲み食いしてさあ、おまけに可愛い洋服までおねだりしてきたやろ? それに見合う対価があってんおかしないやろ?」
「そ、そうなのかイチカさん。この人たちのお金で豪遊してきたの?」
「う、うん…… そやかて、先輩たちも買ってもらっていたし…… いいかなぁと思って……」
「……じゃあ、ちゃんとお礼を言わなくちゃだね。ほらっ」
と言って、翔太は一華に男2人に向かって頭を下げるように促す。
「う、うん…… お兄さんたち今日はどうもおおきに。このご恩は忘れまへん」
「と言うわけで、俺たちは帰りますんで……」
その場の流れで強引に立ち去ろうと一華の手をとる翔太だったが、
「はあー? おどれらふざけてんのか!? ただで帰すとでも思っているのか?」
「そうや、きっちりと落とし前をつけてもらおうやないか!」
当然のように男たちは激高した。
翔太はやれやれという表情で、
「こんな可愛い子にお礼を言われたのでお兄さんたちにとっては十分な対価なんじゃないの?」
と言うと、一華はその言葉に敏感に反応し、
「えっ? か、可愛い……!? うちが……?」
とあたふたし始めた。