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ラストチャンス

「――っく! ただの人間の女ではないと思ってはいたが…… お前自身が魔物だったのか……」


 立て膝をついた翔太が目を見開いたままそう呟くのを見て、女は薄ら笑いを浮かべる。

 女は翔太の動きを牽制するように睨みをきかせ、視線を結界に閉じ込めた男に向け、手を前へ突き出す。すると手のひらから衝撃波が飛び出し、男の体を結界ごと吹き飛ばした。

  

「ぐっ、はぁ……!」


 旅館の壁面に叩き付けられた男は、そのまま地面に倒れた。

 【カマイタチ】の術を遙かに超える威力を見せつけられ、翔太は動揺する。


「小僧にはワシの仲間を消した恨みがあるからな…… ただ喰うだけでは済まさない……」


 女は翔太ににじり寄りながら、そう告げる。その声は人のものではない。腹の底からわき出てくるような重低音。もはや空気の振動である。


「おい白虎、やり過ぎるな! 俺たち人間のルールに従え、相手を殺すな!」


 自称陰陽師の男は、魔物と化した女へ向かってそう言った。翔太に対する殺意を魔物から感じたのであろう。男は翔太の命を救おうとしている。


 しかし……


「ワシら魔物の領域まで侵しているのはお主ら人間の方だ。人間の決め事に従う()われはない!」


 魔物と化した女は、素足で地面を蹴り、すさまじい勢いで翔太に迫る。

 翔太は神器の扇を開いて防御の姿勢をとるが、形成された見えない壁はガラスが割れるように砕け散る。

 続いて女の手が翔太の首をめがけて伸びていく。


「――――っ」


 翔太は後ろにのけぞり女の手をかわそうとする。だが避けきれない。


 その時――


『シュルシュルシュル――』


 何枚もの白い紙切れが女の体に向かって鋭い軌道を描いて飛んでくる。

 女は翔太の胸をドンと突き飛ばして、3連続バク転で逃れる。

 女の激しいアクションで浴衣がビリッと破れる音がした。


 ストンと着地した女は、

「お主はこの女の身がどうなっても構わないというか? ワシが避けなかったら女は死んでいたぞ?」 と、自称陰陽師の男に向かって言った。


 九死に一生を得た翔太の足下には先ほどの白い紙切れが散乱している。一枚を拾い上げてみると、不思議な紋様と文字のような記号が書かれていた。翔太は頭が混乱し始める――


(状況から判断するに、あの男がこの紙切れを操ったというのか?

 封印する直前に赤鬼が言っていたことは嘘ではなかったのか?

 あの男は本物の陰陽師で、あの女は魔物使い……

 両方正解ということ?

 迂闊(うかつ)だったぜ! なぜ今まで気づかなかったんだ!

 くそ――!)

 

 ふと女と男の様子を見ると、2人とも翔太には目もくれずに話をしていた。

 今がチャンスとばかりに、翔太は神器の扇を振り上げ――


「悪霊退散――――!」


 最後の力を振り絞って叫んだ。扇からわき出る金色の粉が、つむじ風に乗って女に迫っていく。


「桜木翔太――――っ 空気を読みやがれ――――っ!」 


 突然男にフルネームで怒鳴られた翔太はビクッと身を縮めるが、その喉元(のどもと)には魔物使いの女の手がかかっていた。

 女は薄ら笑いを浮かべ、喉元を締め上げていく。


「――――っぐ!」


 翔太は女の細い腕を掴み抵抗するが、その力は女の筋力とは思えないほど強く逃れることはできなかった。


 やがて翔太の意識は薄れていった――


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