新技炸裂
意外なことに、魔物使いであるはずの女は腰を抜かしたように地べたに座り込み、震えている。
「……へ?」
女からの反撃に備えて神器の扇を手に構えていた翔太は、思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
その間に白い魔物は自称陰陽師の男を捕らえている結界障壁の上に乗り、爪でひっかき始める。
『これは面妖な。この結界はワシらの力ではどうにもならないぞ』
白い魔物は低い声でしゃべった。白猫姿に化けた魔物が人の言葉をしゃべるのは異様な光景である。
「お前でも壊せないのか? 何なんだこの見えない壁は」
『ワシらの力が陰のものとすると、あの小僧の力は陽。陰と陽は相容れぬ存在だ』
「魔物の力が陰ということか。ならば陽というのは……」
自称陰陽師の男と白い魔物の会話を聞いていた翔太はニヤリと笑い、
「だから先ほどから言っているだろう。俺は土地神の半身、悪霊退治を生業とする者、桜木翔太だ! 神聖なるこの神の力で白い獣、キサマも赤鬼と同じように成敗してやる!」
翔太は白い魔物に向けて神器の扇を振るう。
「カマイタチ――!」
白い魔物はその場から空中にジャンプ。
地面に『バシン』と衝撃波が到達し、小砂利が跳ね上がる。
間髪入れず、空中にいる白い魔物に向けて追撃の第二波を繰り出す。
『なめるな人間の小僧が――――!』
鋭い爪で衝撃波を逸らした白い魔物は、中庭の植木の幹を足場にして翔太に向かって突進する。魔物は自分の首にかぶりつこうとしている、そう予想した翔太は、
「させるかぁー、障壁形成――!」
神器の扇を開いて呪文を唱える。彼の目の前に形成されたバリヤーの壁に白い魔物がぶち当たる。
『バシィィィィィィ――――!』
白い魔物の身体には雷が落ちたような青白い電気が走る。
「うぉぉぉぉぉぉ――――っ!」
翔太は全身全霊を込めて妖気を吸い上げていく。【結界障壁】と【悪霊退散】のコラボレーションの新技である。
みるみるうちに白い魔物から生気が失われていくが、寸前のところで翔太の力も尽きてしまう。
「――――っく!」
翔太は術を解き、膝から崩れ落ちる。
同時に、白い魔物は魔物使いの女の位置へ下がっていく。
(くそっ、早く体力を回復しないとこのままではやらてしまう!)
翔太は焦っているが、白い魔物もふらふらになって、女の側に立っている。
白い魔物が『貴様ら人間との暮らしも悪くはなかったぞ』と、別れの言葉のようなことを言い始める。
女は「何でもするから、何をすればいい?」というようなことを魔物に言っている。
結界障壁に閉じこめている自称陰陽師の男が「相手は魔物だぞ!」と女に注意を促すが、女は聞く耳をもたないどころか、男に怒鳴り返している。
そして……
白い魔物は煙のような姿に変化し、消えていく。
魔物使いの女はゆっくりと立ち上がる。
2つの瞳が不気味に赤く光っていた。