5メートルの間合い
陰陽師の男、続いて自称黒魔術師の女がスリッパを履いたまま中庭スペースに出てくる。その二人と翔太との距離は5メートル。一蹴りで攻撃可能な間合いに入る距離である。
「あの白い魔物はどうした? どこかに隠しているのか?」
翔太は単刀直入に訊いた。
すると、陰陽師の男は首をかしげながら答える。
「白い魔物…… 白虎のことか? お前、ただの白猫に見えていたんじゃないのか?」
「見た目はただの猫だったけど、あれだけの妖気を俺が見逃すはずはないだろう。俺は物心ついた頃から悪霊の姿を見て育ってきたんだ。ただ、伏見稲荷大社の境内ではこの神器の扇の力が結界に邪魔されて戦いたくなかったんでね…… 見逃してやったんだ」
「それで、我々をずっと追跡してきたのか。ストーカーみたいに……」
「お、俺はストーカーじゃない! ほら、この『修学旅行のしおり』が現場に落ちていたんだ。ここに記載されている地図を頼りに来たんだよ。長谷川智恵子って書いてあるが、これ、あの破廉恥女の名前か?」
翔太は話しに夢中になり、5メートルの間合いを無視して陰陽師の男の間近まで歩み寄りしおりの裏を見せた。
「ああ、それは確かにあの破廉恥女、Eカップの胸をもつ女の名前だ!」
「はぁ? 庸平、どうして智恵子の胸のサイズを知っているの? み、み、見たの? お風呂で覗いていたの? ももも、もしや私のも見た……?」
自称黒魔術師の女が、浴衣の襟を手でかばい、後ずさりしながら男に言った。
「見てねーから!」
「智恵子のは見て私のは見ないってのー!?」
「おい! 話の観点がおかしな方向にズレっぱなしで収拾がつかないぞ! まずは落ち着こう」
「わ、わかった…… 深呼吸するからちょっと待ってて……」
自称黒魔術師の女は深呼吸をする。
「落ち着いた?」
「う、うん……」
「では結論から言う。俺はどちらも見ていない。そもそも男女を隔てる壁が高くて覗けるものではなかった。分かったか?」
「う、うん…… 分かったような、分からないような…… じゃあ白猫を使って覗いたのは庸平の指図じゃなかったのね?」
「白虎がそんな協力するわけないだろ。頼むなら赤鬼にするよ。奴ならカメラとかも扱えそうだし…… って、おい、例えばの話だ。絶対に俺はそんなことしないからな!」
二人の痴話げんかのようなものを見せつけられていた翔太がしびれを切らす。
「おいお前ら、俺を無視するんじゃない! いまの話に出ていた赤鬼って、あのちっこい魔物か? 奴なら俺がすでに成敗してやったぞ。この神器の扇でな!」
神器の扇を手に持ち、得意げにニヤリと笑う翔太であった。




