待ち伏せ
屋根の上での赤鬼との戦いは、あっけなく終わった。結界障壁で相手を封じ込め、あとは神器の扇によって封印するだけであった。
翔太は元の学ラン姿に戻り、旅館内の様子を外から観察している。土地神の力による変身は、その状態を維持するだけでも体力を消耗する術式なのだ。
「あとは白い魔物を退治して、イチカと京都駅で合流し、詩織のところへ戻るだけだ。よし、すべて順調だ!」
翔太は自らを発憤させるように、つぶやいた。
彼は詩織にかまってもらえないからと拗ねてしまい、イチカとともに遊びに来た。そのイチカにも騙されて独りぼっちになった結果、こうして魔物退治をしている。
見事魔物を退治し、武勇伝を詩織に話すことで褒めてもらえるのではないかと考えているのだ。
しばらくすると、
「きさまら何をやっている――――! 全員反省部屋に集合だ!」
という引率教師らしき男の怒鳴り声が露天風呂の方角から聞こえてきた。
翔太はそうっと様子を見に行くことにした。
中庭スペースから中をのぞき込むと、廊下をぞろぞろと連行されていく生徒たちが見えたが、陰陽師の男と自称黒魔術師の女はその中にはいなかった。
「白い魔物は陰陽師の男に使われていると言っていたな…… ここでヤツを待ち伏せしていれば……」
誰も通らない廊下の窓にへばりつくように中の様子を監視する翔太であった。
15分後――
浴衣姿の女が廊下の突き当たりから歩いてくるのが見えた。
白地にピンク色の花柄がプリントされた浴衣に、紺色の羽織を着ているその女は、あの自称黒魔術師の女である。湯上がり後のピンク色の肌が艶めかしい。
そのすぐ後ろに陰陽師の男の姿があった。
偶然にも翔太の読みは当たった。
近くには白い魔物がいるはずだ。翔太はそう確信した。
引き続き二人の様子を監視する。
二人は廊下の中央で立ち止まり、なにか会話をしている。
男が女の首の後ろに手を回し、二人は体を寄せ合った。
「ななな、な、何やっているんだあいつら。こここ、こんなところでキスすんのか-? するのかー?」
顔を赤面させながらも窓ガラスにぴったりとくっついて離れない翔太の姿は、端から見ると覗き魔そのものである。
「うっ…… し、しまった! 見つかってしまった」
二人と目が合い、翔太は思わずそう呟いたが、そもそも二人の情事を覗くのが目的ではないのだから結果オーライなのだ。